鈴木悟分30%増量中   作:官兵衛

22 / 57
第四章二編 敬愛と信頼と

 

 

 

 

 

 

 セバス・チャンは今現在、王都「リ・エスティーゼ」の豪奢な2階建ての屋敷を丸々借りて『漆黒』の拠点としており、その一室にて、この男には珍しく脂汗を額に浮かばせながら苦悩している。

 そして首の周りにも汗が浮き出たのであろう、やはりいつもの彼には珍しく煩わしそうに乱暴にハンカチで汗を拭う。

 何度も何度も思考の堂々巡りをしているのか、いつもなら『優雅』さを感じさせる雰囲気を身にまとっているのに、今はその影も無い。

 机の上に至高の御方より授かった連絡用のスクロールを広げて、答えの出ない難問に椅子に座ったまま苦しみ続けている。

 

 

 セバスは冒険者稼業も満喫していたが、主人より「自分らしく、たっちさんの子供らしくあれば良い」とお墨付きを頂いてから生き生きと人助けに精を出していた。小さな物から大きな物まで、ナーベラルに「やり過ぎです」と咎められる程の働きで「ミスリル級冒険者の『漆黒』は弱きに優しい素晴らしいチームだ」との評判も得ており、主人の狙い通りに事を運べているのと、自分の生き甲斐を満たしている現状は、口には出さないが「生まれてきた中で一番幸せぇ!」と14歳メダリストスイマーの様な気持ちで一杯であった。

 

 目の前に倒れる老婆があれば助け起こして荷物を運び 遠くで虐められる子供があれば駆けつけて助け小遣いをあげる。

 強盗退治も数件こなしており、エ・ランテルに居た頃は、エ・ランテル市長パナソレイから表彰までされた。

 そして、主人よりの命令で、一旦冒険者稼業を休止して、王都で珍しいマジックアイテムやスクロールを買い付けて、ミスリル冒険者として各種の情報収集を始めた。

やはり王都でもやる事は一緒である。暴漢に襲われる青年が居れば助け、道に悩む少年が居ればアドバイスを送り、教えを請われれば教える。一度やり過ぎて少年騎士を一人殺しかけた事があるが充実した毎日だった。

 

 スクロール店や図書館、道具屋筋などを散歩しながら通うことが日課に成ったそんなある日、それは起こった。

 路地裏を歩いていると、ズタボロの袋に入れられて捨てられた女性を拾ってしまったのだ。

 文句を付けてきた相手を追い払うも、今度は地下組織『八本指』の者と思われる人物を連れてくる。それに対して女性の料金を支払い一度は追い払う。

しかし今度は宿屋内に押し入ってきた結果、ユリやナーベラルなどの絶世の美女軍団を見られてしまったのだ。

 下衆共は「アイツはもう要らないから、そいつらを寄越せ」と息巻いてきた。

 2人は完全に殺すモードになっていたが、宿屋で殺人事件などを犯してはモモンガ様の計画に狂いが出ると押しとどめた。

 とりあえずは追い払いソリュシャンに女性の治療を指示すると、ナザリックのための治療スクロールを人間に使用する事を拒まれる。

 ソリュシャンとナーベラルは「とにかく一度、女性の事と八本指の件をモモンガ様に報告すべき」という意見であった。

 ユリも同じ意見ではあったがセバスの気持ちはわかるので中立で居てくれた。

 セバスは、このままでは娘が死んでしまうので助けてあげて下さいとソリュシャンに命令に近いお願いをして、娘の治療に当たらせた。

 

 セバスが苦しんでいる理由は2つある

 

1.「困っている人が居れば助けるのは当たり前」という自分と創造主たっち・みー様の信念による行動により、主人とナザリックに迷惑を掛けつつあること。

 

2.人間の命は虫より軽いのがナザリックの方々であり、この女性を助ける理由は何もなく、指示を仰ぐ事で「見捨てる命令」が出ることへの懸念。

 

 出来れば自分の裁量内で終わらせたかった。

 その浅はかな考えのせいで、女性を拾って治療してから2日経っており、余計に今更報告しづらく為ってしまっている

 なによりも 酷い境遇で生きながらえてきた上に全身の骨を折られ、歯も殆ど残って居なかった程の不幸に見舞われた「この娘」を見捨てなければならない事態になるのが辛い……。

 

 しかし、あの慈悲深い至高の御方ならば、この状況に手を差し伸べてくれるのではないだろうか?

 

 今まで、この世界に来てからの主の言動や行動を思い返してみる。

 

 不肖なる私の中に たっち・みー様が居ると嬉しそうに仰って下さったのは誰だ?

 

 何の縁もゆかりもない村を卑劣な者どもから救われたのは誰だ?

 

 気持ちの良い若者たちの無残な死に、とりみだし、怒り、仇を討たれたのは誰だ?

 

 この世界に来てから、仕える者の喜びを与えて下さり、我々を信頼して下さる慈悲深き御方は誰だ?

 

 セバスはそっと目を閉じると深呼吸をする

 

 現況を伝え、自分の思いと謝罪を誠心誠意伝えるのだ。

 

 そしてメッセージを送る。

 

 

 

『モモンガ様。お手間を取らせて申し訳ありません。少し長くなるのですが聞いて頂きたい話が御座います。』と――――

 

 

 

 

 

 

 

 







自分で書いておいてアレですが、「14歳メダリストスイマーのセバス」という文章を読むたびに、「チョー気持ち良い!」と叫びながらプールの水面を叩く60歳のガタイの良い白髪の老人が頭に浮かぶようになりました。助けてください。



 
 
 


モーリェ様 ゆっくりしていきやがれ様 誤字の修正有り難う御座います

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。