恐らく、顔に骨だけじゃなく皮膚があったら青ざめていたであろう驚愕の事実をようやく実感して受け止めながらモモンガは考える。
本当に漫画などにあるようにゲームに取り込まれたのだろうか? それとも鈴木悟の思考・記憶がこちらにコピーされて顕現し、アバターとして自分が今ここに存在しているのだろうか?
(まあ どちらでも良いんだけどな……)
と半分自暴自棄に、半分諦観して胃の深い所から溜め息を吐き出す。胃はすでに無いが。
仮に前者だとしても気にする身ではない。両親はすでに亡く、兄弟も恋人も居ない。今の仕事も苦しいだけで公私ともに苦行の様な人生だ。趣味は、このDMMORPG「ユグドラシル」だけだ。取り込まれて何が困ると云うのか?不幸中の幸いというか、不幸であったが故に鈴木悟が消えて悲しむ人は居ない。むしろ謳歌しようではないか、唯一の趣味であり愛した世界を。
後者だとしたら……それこそ何も気にする必要はなくなる。リアルの俺はリアルの俺で、明日の仕事の為に眠りについている事だろう。ならばコギト・エルゴ・スムでは無いが、「我思う故に我在り」私という存在がここに存在するのであるから私は私として生きれば良い。例え電子の塊であったしても。そういえば今も人気のフニャコフニャ夫先生の「ドラ○もん」にあったコピーロボットのアイデンティティ的な話があったな‥‥フニャコフニャ夫先生と言えば「オシシ仮面」の続きが少し気になるが、まあ現実世界に未練は無いと言える。まさかオシシ仮面が燃やされるとはなあ……。
「あぁ はふぅ」
悩ましげな声に気づいて顔を上げると、切なげに身悶え続けるサキュバスが居た。
というか、考えてる間ずっとアルベドの胸を揉んでた!
つまり俺は今、
「ここは仮想世界では無い、現実世界だ!」とか言ってた!
「コギト・エルゴ・スム、「我思う故に我在り」だ」とか言ってた!
なにこれ恥ずかしい。デカルト先生に謝れ。
すると、再び緑色のオーラみたいな物が体中から立ち上りだした。
ああ……有難う。少し落ち着いてきた……良かった。精神作用無効化があって良かった。このままだと大抵、恥ずかしすぎて可及的速やかに死んでた 「業務上過失恥死」だね うん なんだ?うまく言ったつもりか? 死ねば良いのに。まあ アンデッドだからもう死んでるが。
「くふん ももんがさまぁ……」
……そこには、まだ部下のオッパイを揉み続けている
なんだこの右手は……呪われているのだろうか? アンデッドだしな……アンデッド関係ないが。
モモンガは相当な名残惜しさを感じつつ、そこから魔法でも出すのか?というほど気合を入れて手を「ハァッ!」と広げる。
ふるん という音をたてたかの様に一瞬の波打ちと共に元の美しい形に戻るアルベドの左胸。いやあえてココは「左乳房」と呼びたい。
わきわきわき と手のひらをグーパーグーパーさせて問題がない事を確認した様な顔で誤魔化して、震えながら俯くアルベドに「たびたびすまないな……アルベド」と声をかける
するとアルベドは力なくペタリと座り込んだかと思うと 両腕で体を抱きしめながらビクンビクンッと体を震わせだした。
……あー なんだ 20世紀にあった薄い本の名作家クリムゾン先生の本で見たことあるな。この光景。 うん 確か「く、くやしいっ!こんなので!」だったかな……
明らかに悦んでるけどな このサキュバス。
ちなみに冷静に観察しているみたいに見えるけど、今 俺の体中から緑の光がキラキラに出まくってるからね うん
・・・・・・・・・・・
とりあえず、これは夢でもゲームの世界でも無いとして、気になる点はいくつもある。
1.俺と同じようにサービス終了までプレイしていたプレイヤーも同じ様に取り込まれているのか
2.そのプレイヤー達と、悪名高い『アインズ・ウール・ゴウン』の自分は友好関係を築けるだろうか
3.彼らと敵対した場合、魔法職であるユグドラシル時代と同じように魔法が使えるのか
4.自我が目覚めたっぽいナザリックのNPCはギルドマスターである自分に従ってくれるのか
5.この世界の状況……は、取り敢えずセバスが調べてくれている
アルベドはゲームの終了間際にイタズラ心で行った設定の改変によるものか、
さて 何故か、ビクンビクンしてた守護者統括が収まった頃合いを見て優しく話しかける。
「では、アルベドよ。そろそろ大丈夫か?」
「ハァハァ はい いつでもモモンガ様を迎え入れる準備は出来ております」
そう言いながらアルベドは顔を赤らめて服を自然にはだけさせようとする。
……サキュバスだからだよな? こいつがこんなにエロいのは……ですよね?
「いや 今はそういう事をしている時ではない」と告げるとアルベドは「はっ 申し訳ありません!」と一瞬にして出来る女モードに変わる。
良かった。もう少し強引にしつこく迫られていたら危なかった……恐らく体を許していただろう……無いけど。
むしろモモンガが妊娠させられそうなほど邪悪で獲物を狙うような目をしていたアルベドが正気に戻った所で行動に移るとしよう。 まずはナザリックの階層守護者達の様子だが……集めてしまった後に集団で反乱されたら目も当てられない。しかし自分が設定を歪めてしまったアルベドの忠誠度(?)は大丈夫みたいだ。他の色々は駄目かも知れないが、ここは戦術の基本である「各個撃破」の名の通り、アルベドと2人で各階層守護者の所に赴き、彼らの状態の確認とナザリックの様子を調査するとしようか。なんだろう……なんか、俺、姑息なヒモみたいだな……。
「アルベドは気づかないか? 今、ナザリックで起こっている違和感に」
「違和感……でございますか? そういえば先ほどまでは至高の御方に話しかけて頂いた時にしか反応が出来ませんでした。何か……「そういうもの」として受け入れておりましたが、そういう「
「ほう?「
「はい 今なら自由に話したい事を話せます モモンガ様モモンガ様モモンガ様モモンガ様!」
「ハハハハ」
そうか 自我と自由を得たと云うことか タブラさん あなたの娘さんは生き生きとしてますよ。
「モモンガ様ももんが様ももんがさまももんがさまももんがさまももんがさまももんがさまあ」
「……」
「ももんがさまももんがさまももんがさまあなさまももんがさまだーりんさまももんがさまあるべどとももんがはいいふうふももんがさまももんがさまん」
「まてっ 今 何か途中で挟んでなかったか!?」
と焦って突っ込むと、アルベドは頬をふくらませてプイッと横を向いた。
むう カワイイ
「まあ 自発的に行動できる様になったというのは大きなポイントだな。どうやら大きな変異がユグドラシル、もしくはこのナザリックに起こった気がするのだ。それでその調査として各階層の様子と守護者の様子をアルベドと2人で見に回ろうと思う」
「まあ!? それでしたら守護者各自を御身の前に馳せ参じさせますので、各々から各階層の様子を伺えばよろしいかと。ですので、どうぞモモンガ様はお待ちになられて下さいませ!」
……いや、それだと最悪多人数との戦いになるかも知れないという恐怖は拭えない。そして「怖い」などと支配者に相応しくない理由を言えるわけも無い。もちろん自分が彼らの支配者であると素直に認めてもらえれば大丈夫だとは思うのだが、リスクは回避しておきたいところだ。 恐怖心とはそうそうキレイに払拭出来る物ではない。アンデッド化により恐慌状態を、かなり抑えられているのがせめてもの救いと言える。
「そうだな……では第六階層に2人で行くとしよう。少し試したい事もある」
「ハッ 解りました。ちなみにモモンガ様。試したい事とは何でしょうか? 差し支えなければお教え下さい」
「うむ コレの性能を試してみたいのだ」
とモモンガはゲーム終了間際に左手に握ったままのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げる。
第六階層は広いので魔法などを試すのに都合が良い。ただあそこにはエルフの双子が居たハズだ。最悪2対2の戦闘になるとしても、この我がギルドの総力を注ぎ込んだアイテムが有ると無いとでは随分違う。
「至高の御方により創造されたナザリックの誇るギルドアイテム、『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』で御座いますね。解りました。確かに広い第六階層は、試運転には最適かと思われます」
「うむ ではリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移しよう。アルベド、こちらへ」
「はい!」心なしかアルベドが、必要以上にしなだれかかるように抱きついてくる。
いや 刺激が強いのですが……。
「では第六階層へ行くぞ」と宣言しリングに「念」の様なモノを込めるとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが起動して一瞬にして思い描いた第六階層へとワープする事が出来た。良かった。アイテムもどうやらユグドラシルと同じように使えることが解り、宝物庫にある豊富なアイテムが有効活用出来そうな事に、ほっと胸をなで下ろしていたのも束の間、眼前に広がる第六階層の広大な世界に目を奪われ圧倒される。
「ふう……よし、行くぞ」
モモンガは気を引き締めると、唯一の頼みの綱である
ゆっくりしていきやがれ様、kubiwatuki様 誤字脱字修正有り難う御座います