こんばんわ、私はレナです。夜なのでヒソヒソ声でナレーションしています。
………なんで夜に私がナレーションしているのかと言うと、まぁお察しの通りメイコさんの無茶ぶりのせいです。
「ちょっとレナ。あたしが毎日のように無茶ぶりを言っているみたいに言わないでよね」
「いや、どの口が言ってるんですか?」
「よく喋るこの口よ」
「あ、はい」
頭の上でメイコさんが喋る。
メイコさんを相手にするには、言葉を受け流す必要があるとこの一週間で学びました。
……話を戻します。ブールさんは寝てて、他のポケモンたちもモンスターボールの中で寝ています。
そして、私たちは今、カゴメシティのポケモンセンターを抜け出して南、サザナミタウンへと向かっています。
……ジョーイストップを無視して、です。ちなみにブールさんは寝ています。
「はいナレーションお疲れさま。しっかし、大丈夫かしらね。恐らくマリンチューブなんて出来てないでしょうし、そもそもセイガイハシティのジムが公認されているかどうかも分からないのよねぇ」
「そ、それなのに抜け出して大丈夫だったんですか?」
「まぁ二番が大丈夫って言ってるし。何がどう大丈夫なのかは教えてくれないけどね」
そ、それは大丈夫って言えないのでは?
「さて、今は夜だけど意外と明るいわね。どうしてだか分かる?」
「誤魔化さないでくださいよ……単純に月が明るいからですね。海が月の光を反射してるんです」
「ふーん。あたしは羽毛があるけど、あんたは寒いんじゃないの、レナ?」
「……実は少し…いや、けっこう寒いです」
「でしょうねー。だから最愛のブールに抱きついてるのよねー」
「っ!? そ、そうです寒いからです」
メイコさん、突然そういうことでからかおうとしないで欲しいんですけど……。
「んーで、真面目な話していい?」
「……なんですか?」
「あんた、本当にエリートトレーナー?」
ズバリと心をぶったぎってきた。
「あーいや、別にそれが悪いとか言うつもりは無いわよ? 全然。全く。レナはレナだし」
「……な、なんで、そう思ったんですか?」
声が震える。寒さのせいじゃない。
だって、寒いんだったら、こんなに嫌な汗はでない。
「だってあんた、ツインテールじゃない」
「……」
やっぱりそこですか。そりゃあ気付きますよね。
「エリートトレーナーって案外少ないのね。お陰でカゴメシティで滞在するまで全然気付かなかったもの。でも流石はカゴメシティ、本物のエリートトレーナーも利用するのよね」
「………そうですね」
「ツインテールが似合ってるから尚更ね。ゲームでも大体そんな髪形だった覚えがあったし」
ゲーム……前世の話。私にはよく分からない。でも、ブールさん、メイコさん、ブラックさんの三人には通じてるから、つまらない事だけど、少し疎外感。
なんて関係無い事を考えてしまうほど動揺してます。
「いやぁ、まさかエリートトレーナーの正式な髪形が―――」
止めて、言わないで。
そんなささやかな願いも、メイコさんの前では無意味なもので。
「ツイン
言われた。それがばれちゃったらおしまい。全部。
さよなら、ブールさん。私の大好きな……あいたっ!
「はいナレーション変わりなさーい」
~○~○~○~○~○~
はい、ナレーション変わってメイコよ。
「ちょっとレナ、ブールを海に投げ捨てようとしないでよ」
「で、でも、でも……」
怒った親を目の前にした子供みたいに震えてる。あちゃあ、そんなつもり無かったのにねぇ。
「落ち着きなさいって。別にあんたがエリートトレーナーだろうがコスプレイヤーだろうが気にしないっての」
「その、でも」
「だー! やかましい! なんか理由があるなら言ってみんさい!」
喝を入れる。ブール起きてないわよね? ……よし。
周囲の様子を確認。砂浜を歩いているから野生のポケモンが襲ってくる事はない。そんで、夜に出歩く馬鹿はあたしらぐらい。
「……」
「周りに誰も居ないわよ。まぁ、言いたくないなら……後で二番から教えて貰うだけなんだけど」
「え、聞かないという選択肢じゃないんですかそこ」
「え!?」
ブールの鋭い突っ込みが入る。ってかいつの間に起きてたのこいつ。
「ブ~~~ル! あんたは寝てなさい!」
「ふぎゃっ」
首筋の後ろに手刀(ただし羽)を叩き込む。これでよし。
「女の秘密を嗅ぎ回ろうとするボンクラは沈んだわ」
「あ、はい」
レナ、それはそれほど便利な言葉じゃ無いから。今は良いけど。
「さて、理由を吐いてもらおうじゃぁないの?」
「………」
「だから、別に誰かに言いふらしたりしないし、どんな理由であれ相当なものじゃない限りお別れなんてしないわよ」
そう言ってあげると、レナはうつむく。
「ちょっと、あんたの頭に乗ってるんだから急に動かれると危ないんだけど」
「え、あ、すみません。……その、言わないと駄目です、か……?」
「別に?」
「でも言わなかったら――」
「二番に聞くだけよ」
「ですよね……だったら、自分で言います」
レナがブールを抱き直し、止まっていた足を動かし始める。
砂を踏む音が静かに響く。
「私はまだエリートトレーナーじゃありません。正確にはエリートトレーナー見習い……です。ですけど…ですから、エリートトレーナーを名乗るのは駄目なんです」
「ふーん。でもんなの気にしてるのいないでしょ?」
「…そうですかね……エリートトレーナーはあらゆるトレーナーの憧れの的なんです。だから私もエリートトレーナーを目指していたんです」
「へーぇ」
「ただ、短パンこぞうやじゅくがえりとは違ってエリートトレーナーとなるには厳しい審査があるんです」
「ほーぅ」
「……本当にちゃんと聞いてます?」
「はーん」
「メイコさーん?」
勿論起きてるわよ。やっぱこのネタは鉄板よね。
「つーことはその審査とやらに?」
「落ちました」
「あらどんまい。んーで、心の傷をえぐって良いなら、理由を聞きたいんだけど」
「えぇ。髪です」
「……ん? あ?」
あまりにもあっさりと言われたから、上手く聞き取れなかった。えぇ、まさかそんな理由で落とされる訳無いわよね。
「悪いけどもう一回良いかしら?」
「髪です。髪が半端だと言われました」
聞き取れなかった訳でも聞き間違えた訳でもなかったわ。
「………少し落ち着こうかしら。それ…髪の長さ以外の審査は何があったの?」
「えぇと……ポケモンについての知識、手持ちポケモンの実力、ポケモンバトルの腕前、ブリーダー能力、身体能力、スリーサイズ――」
「スリーサイズゥ!?」
おっと、大声で(気絶させた)ブールが起きるところだった。危ない危ない。
「はい。私も不思議に思ってましたけど、まぁ範囲内でしたから気にしてませんでした……よく考えたらそこで気付けたかもしれませんでしたけど」
「…なに、つまり、厳しいのは審査だけじゃなくて」
「エリートトレーナーとしての姿格好まで決められていたんですよ。…専門の学校行ってたんですけどね……聞き流していたのか、教えて貰ってなかったのか……まぁ、きっと、思い込みか勘違いしてたんですよ。アハハ……馬鹿みたいですよね」
自虐的に笑うレナは、それはもう枯れ木のように折れそうで。
「それで、私と違って合格した同級生の顔を見ていられなくて、故郷から逃げ出して。でもやっぱりトレーナーの私がこんなのだから負け続けて。それでホドモエシティであの子たちと会って、ブールさんの事を教えてもらって。最初は、別に興味が無かったんですけど……ってこれは前に話しましたね」
「そーね。会ってすぐ、だったかしら? いやぁ、懐かしいわね」
あれからどんだけの時間がたったのか――ってなに、せいぜい三ヶ月程度なの? まじで? 計算間違ってない?
「……まとめると。私は現在軽犯罪者で、無職で……嘘つきです。……こんなのに。こんなのに好きなんて言われて、挙げ句には着いてこられて、ブールさんも迷惑してますよねきっと」
「…そうかしらねぇ?」
「グレーキュレムとのときだって、勝手に着いていったのにすぐに凍らされて何も出来なくて」
「あー、そうだったかしら」
「……。慰めはいらないですよ、メイコさん」
んなこと言われても。別に慰めてないし。
「はぁいブール、起きてる?」
……ふむ、まだ寝てるわね。
「しっかし、髪ねぇ……まぁツインロールにするには短かったってわけね。だったらその場で切ればいいのに」
「小さい頃からずっと伸ばしてきた自慢の髪です。切るなんて――」
「ふーん。……青いのは地毛?」
「はい。エリートトレーナーを目指したのはそれもあります。『生まれつきエリートトレーナーになる運命なんだー』って子供の頃は思ってましたよ」
ここまで聞いて確信したわ。
こりゃ、あたしじゃ如何ともしがたいわね。あたしがどれだけ慰めても同情しても怒っても、レナの救いにはなり得ないわ。
と、なると。やっぱブールがばっさり切ってくれることを願うわ。
んで……あたしが今言えるのは、と考えたら。
「ま、軽犯罪者だろうと無職だろうと嘘つきだろうと。ここまで一緒に旅してたんだから今更見捨てたりしないわよ。……まあ、あんたが離れたいって言うんなら止めないけどね」
「…………」
「その判断をするのはあんたしか居ないわ。なんであろうと、あたしは受け入れちゃうからね」
そりゃあ旅の仲間は多い方が楽しい。けど、あたしとブールは転生者。気ままな二人旅が元々のスタイル。
「受け入れるん、ですか? 私を?」
「受け入れてるでしょ?」
「……」
「ふわぁ、眠い。頑張ってサザナミタウンまで歩いてね?」
「……、え?」
スパッと寝た。
3878文字です。
なんか重いようなそうでもないような、そんな変な感じになっちゃいました。