ポケモン「絵描き」の旅【未完】   作:yourphone

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タオス~限界を越えて~

ブールが立っていた。しかし他の者は人間ポケモン敵味方関係無く『咆哮』の影響で行動不能に陥っていた。

今、この場で意識があるのはグレーキュレムとブールの二匹のみ。

 

ドブ(タオス)

 

………ブールに意識があるのならば、だが。

 

ドブ(オトス)

 

ブールが(まと)う雰囲気はいつもの物とは違い、重く、きつく、何か覚悟が決まった者のみが纏えるものだ。

 

と、ブールが跳ぶ。ドーブルが本来跳べる高さを大幅に越え、家の一つや二つを軽く潰せるグレーキュレムの足に飛び乗る。

 

 

「「「 バリバリュウゥゥゥ……!」」」

 

 

グレーキュレムが反応する。始めて、自らの意思で、技を使う。

 

『神鳴る現在』グレーキュレムの表面から無数の雷を放つ技だ。

一発一発が重く、当たれば確実に倒れるといっても良いほどの熱量を持つ。その分、当たりにくいのだが……

 

「ブッッッッ!?」

 

触れている相手に対しては確実に当てることが出来る。

ブールの体内をすさまじい威力を持った電撃が駆け巡り、弾かれ仰け反り倒れ伏す。

グレーキュレムの足の上から落ちなかったのは偶然としか言いようが無いだろう。

 

そして、ブールが再び動くことはなかっ「ドブ」

 

……ブールが、起き上がる。その目からは涙が流れている。

 

ドロッとした血の涙が。

 

『全技のPPが0、かつ相手の攻撃により戦闘不能。二つの条件を達成しました』

 

『……これより、ブラッディモードを開始します』

 

 

 

世界が紅く染まる。

 

 

 

 

話は変わるが、ブールの今まで使ってきたインク。これはどうなっているのか。『へんしん』を始め、ブールの行動の全てに関わってくるインク。

 

答えは、『蒸発して消えている』

 

例えば、『へんしん』を溶いた後のインクはほんのわずかの間だけ地面に残り、すぐに消えている。

でなければブールが逐一インクを処理しなくてはいけなくなってしまう。

 

さて、先程インクは『消えている』と言ったが皆様は質量保存の法則を知っているだろうか。

読んで字のごとく『質量は形が変わっても無くなったり、増えたりしない』というものだ。モンスターボールには何故か適用されていない法則だが、最低限ブールのインクには適用される。

 

つまり蒸発して、空気中を漂っているのだ。

 

もう一つ。ブールのインクとは何か。

ブールの……いや、ドーブルたちの尻尾のインクは何で出来ているのか。

ポケモン図鑑を見ていただこう。なんとドーブルたちの体液なのだ。

では体液とは何を指すのか。少し辞書から引用させてもらう。

 

(たいえき【体液】〔名〕動物の体内で、細胞外にあって流動する液体の総称。脊椎(せきつい)動物では、血液・リンパ液・組織液など。)

 

成る程。

 

そして、ドーブルは『スケッチ』した技を自在にコントロール出来る。

これはイコールで()()()()()()()()()()ということだ。

 

長々と説明していたが、要するに

 

「ドブッ」

 

ブールの目から出た血が、意思を持って動き出す。

空気中を漂うインクが、血の色となりブールの力となる。

 

『これがブラッディモード。代償は肉体と知識の損耗』

 

血色の霧が拳となり、グレーキュレムを殴る。

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

その拳の大きさ、グレーキュレムの顔とほぼ同等。

顔面を殴る。引き、殴る。延々と殴る。

とはいえグレーキュレムも黙ってやられるだけではない。

 

「「「キュルリアァァァア!」」」

 

『二重の炎雷』グレーキュレムの頭上に電撃を纏う巨大な炎を産み出し、相手に叩き付ける技。グレーキュレムの技の中ではかなり使いやすい命中率と比較的穏やかな威力を持つ。

()()()とはいえ、理解可能というだけであって、その威力は『はかいこうせん』や『ギガインパクト』のそれを上回る。

 

拳は、あっさりと打ち砕かれる。『二重の炎雷』は途中でその軌道を変え、ブールの元に。

 

「ブッッッッ!」

 

焼かれる。外を炎で中身を電撃で。焼かれ、焼かれ、焼かれる。

ようやく『二重の炎雷』が消え―――

 

その焼かれた場所から、血が噴き出す。

 

ドブ(オトス)

 

噴き出た血の一滴一滴がブールの知識と体力の塊であり、経験値であり、武器である。

 

血がグレーキュレムに貼り付く。べったりと。

それはグレーキュレムへと刺さる。硬い皮膚も覆う氷もあっさりと突き刺す。

 

「「「 キュルリアァァァア!?」」」

 

ここまでして、ようやくグレーキュレムにダメージが入った。

 

――チリッ

 

途端、ブールが燃え上がる。

 

『燃え尽きる未来』数ターン後に相手が燃え出す。『みらいよち』と『もやしつくす』が混ざったような技で、必中。

ただし一体しか対象にできないので、メイコが行なったように火種を他の物に移せば一切問題は無い。無い、が。

問題はその火種が何処に出来ているのかは直前まで分からないということ。

 

そして、今のブールにはその様な分析が出来るような状態ではなかった。

 

「ド……ブッ……!」

 

燃える燃える燃える。技名通りに燃やし尽くす。

普通ならばそれで終わりだろう。

 

「……ドブ」

 

しかし、ブールの全身から噴き出た血が炎を消す。もはやドーブルらしいクリーム色の毛皮は見えず、全身が紅く染められている。吹き出る血は留まるところを知らない。

 

ドブ(タオス)

 

ブラッディモードのブール相手に攻撃は不毛。与えれば与えただけのダメージが血となり反撃してくる。

 

殴る。蹴る。斬る。撃つ。射る。叩く。潰し、押し付け、刺し、(えぐ)り、絞め、そして殴る。

 

技ではない。ただの暴力だ。

 

「「「キュルァァァア! バリバリュウゥゥゥ!ギグュェアァァァァ!」」」

 

グレーキュレムは『二重の炎雷』や『神鳴る現在』で血を吹き飛ばすが、それでもすぐに集まり攻撃を……暴力をふるう。

流れ弾の雷がブールに当たり、更に血が噴き出る。

 

「「「 キュルキュルキュル―――」」」

 

『咆哮』相手を二・三ターンの間怯ませる。音の技なので『みがわり』では防げない。特性『ぼうおん』ならば怯みが一ターンに減る。

ただ、発動までに時間がかかるので……

 

ドブ(タオス)

「「「 ―――ッ!? 」」」

 

簡単に止められる。単純に下からアッパーをかますだけ、それだけ。……まぁ、普通ならそれが難しいのだが。

 

「――――くはっ、はぁっ、はぁっ、何が…………ブール!?」

 

メイコの意識が戻る。

紅い視界に驚き、グレーキュレムの声に上を見てブールを見て驚く。

 

「ブーーーール!」

 

返事はない。

 

「「「 キュルリアァァァア!!! バリバリュウゥゥゥ!!!! 」」」

「うわっ」

 

『神鳴る現在』がメイコの近くに落ちてくる。

 

「な、何がどうなってんのよ……ブラック、ブラック! うぐぅ……身体中が痛い……」

 

何時ものように飛べず、這いずるように移動するメイコ。どうにかこうにかブラックの元へ。

 

「ブラック! 起きなさい、ブラーック!」

「……うるせぇ。起きてはいるさ」

「だったら何で寝っ転がってんのよ」

「いや、そのだな。上の激闘に巻き込まれかねないからな」

「は~ぁ?」

 

メイコは改めて上を見る。しっかりと。

 

「……ん。どうにもブールが暴走してる感じね」

「それだけじゃねぇ、周りも紅くて分かりにくいが……あいつ、血まみれだ」

「…………」

「それと、この紅いのはインクだ。ダイイングメッセージごっこが出来る」

「なら、あたしはあんたが悪いって書いてあげるわよ」

「おい」

 

こんな状況でのんびりお喋り出来る二人は肝が座っているのか? 肝が座っていない訳では無いだろう。

だが、答えは『否』。むしろ肝を潰している。有り体に言えば恐怖している。

 

「「「 バリバリュウゥゥゥ!?」」」

 

「ブール……」

「どうした、実は恋い焦がれてたとかか?」

「馬鹿なの? 死ぬの? 死んだあとなら冗談も聞いてあげるわ」

「死んだら喋れねーっての」

「……恋愛の好きではないけど、弟とかよく遊ぶ近所の子供ぐらいには気に入ってるわよ」

「そうかい」

 

いつ終わるとも知れない戦いを、二人は見守るしかなかった。

 

 

「「「 キュルキュルキュル――― 」」」

 

「…………ドブドブ(タオス)

 

何度目になるかも分からないグレーキュレムの雄叫び。

ブールは『咆哮』を止めるため、インクを総動員し殴り付ける。

 

「「「 ―――ッ 」」」

 

巨大なインクの拳によるアッパーを受け、グレーキュレムが仰け反る。

 

そして

 

グレーキュレムが()()()()

 

「「「 ………………!!! 」」」

 

胸元のキュレムの口が開き、未だに足の上に居るブールに向けて冷たい風を送る。

 

『凍り付く過去』最大二体までを凍らせる。この氷状態はアイテムでは治せない。

出も速く、確実に相手を仕留められる必殺技のようなもの。弱点としては、胸元のキュレムの顔はゆっくりとしか動けないうえにその口内は急所というところか。

 

だが、ブールは一匹だ。しかも先程跳び上がった時から動こうとしていない。……いや、動けない。

全身が動かせないのだ。

当然だろう、ただでさえ『ひんし』なのだ。それを無理矢理動かし、更に攻撃され、体液……血も何処から出てきたと尋ねたいほど失っている。

 

結果、ブールは足元から凍り付く。

レナのように、氷像と成り果てる。

 

「「「 キュルキュルキュル………キュルリアァァァア! 」」」

 

グレーキュレムが勝利の雄叫びを上げる。

 

そして足を振り、ブールを落とす。

 

ゴ ト ッ と。鈍い音を立ててブールが地に落ちる。

 

「…おいおい、ブール。これで終わりとか言わないよな……?」

「ブール……ブラック。あたしをあそこまで運んで」

「……んなことしても意味ねぇじゃ「いいから」………分かった。どうなっても後悔するなよ」

 

ブラックが立ち上がり、メイコを掴み、投げる。

そしてすぐに倒れる。けっしてグレーキュレムに睨まれたとかグレーキュレムが怖いからとか、そういう理由ではない。

ブラックもまた、ギリギリの状態だったのだ。

グレーキュレムは……いや、ゲーチスはトレーナーとポケモンの区別なく攻撃させた。ブラックは転生者の一人とはいえ肉体は単なる人間だ。ポケモンではない。

そういう意味では、一番根性があったとも言える。

 

「………そういやダークトリニティが居ねぇな。ゲーチスも」

 

そこまで言い、意識が飛んだ。

 

 

「ちっ、荒っぽいのよ……あんたは……」

 

メイコはブールのすぐ近くまで投げられた。が、少し届いていなかった。

 

「これじゃ、グレーキュレムに睨まれるじゃない」

 

這いずる。とにかくブールに近付く必要があった。

今、グレーキュレムを倒せるのはブールしか居ない。メイコはそう考えたし、それは事実なのだ。

 

「「「 キュルリアァァァア……」」」

 

そして、メイコはまだブールがやられていないと()()()()()()

 

「よし……ようやっと……届いた」

 

メイコがブールに、ブールを覆う氷に触れた時。

 

――チリッ

 

『燃え尽きる未来』の発動する音。

 

しかし、

 

「ここまで、計画通り、ね」

 

メイコが燃え上がる。だが、メイコは気にせずブールを抱き締める。

 

「~~~~~ッ!」

 

熱いだろう。辛いだろう。いくら彼女と言えど、一介のペラップなのだ。伝説のポケモンの攻撃を何度も受けられるような耐久は無い。

だが、耐える。全てはグレーキュレムを倒すために。

 

「……ドブ」

 

『燃え尽きる未来』の炎で、ブールの氷が溶ける。

同時に炎が消える。残ったのは、血に染まるブールと灰のようになったメイコ。

 

「ぐ……はぁ…………ブール、起きるのが、お、そ……」

 

そこでメイコの限界が来た。動かなくなったメイコを見下ろし、ブールは

 

「………ドブ。ドブブ」

 

何かを喋り、

 

「……ドブ(タオス)

 

駆ける。一歩踏み出すだけで血が噴き出る。身体の限界が来ている。いや、とっくに越えている。動くだけでダメージを受ける程に。

 

ドブ(タオス)

 

それでも走る。だが……遠い。遠すぎる。このままではインクが届かない。

だから、走る。

 

「「「 キュルリアァァァア!」」」

 

『二重の炎雷』が迫る。それでも走る。インクが届くまで、残り十メートル。

 

「ドブ」

 

九メートル

 

 

 

八メートル

 

 

 

七メートル

 

 

六メートル

 

 

五メートル

 

四メートル

 

 

三メートル

 

 

二メートル

 

 

一メートル

 

 

 

…………ゼロ。

 

「「「 キュルリアァァァア!」」」

 

タッチの差で届かなかった。インクを動かした瞬間、『二重の炎雷』がブールを包んだ。

 

うつぶせに倒れたブール。遂に血も枯れたのか、血は噴き出ていない。

 

世界が紅から白に戻る。

 

「「「 ………… 」」」

 

しかし、グレーキュレムはブールから眼をそらさない。

グレーキュレムは体感していた。この相手は厄介な相手だと。

諦めない。やられても立ち上がる。何度倒しても倒そうとした分だけやりかえしてくる。

故にこの敵だけはなんとしてでも倒しきる必要がある。そう判断した。

 

「「「 …………! 」」」

 

ブールの体が、かすかに動いた。

 

「「「 キュルキュルキュル――― 」」」

 

やはりだ。だが、次はない。

敵を仕留める為に、選んだ技は『二重の炎雷』。

 

『神鳴る現在』では当たらない可能性がある。『凍り付く過去』は凍らせはするもののダメージ自体は一切ない。『燃え尽きる未来』は発動までに時間がかかる。『咆哮』は言わずもがな。

 

「「「 キュルリアァァァア! 」」」

 

『二重の炎雷』がブールに当たる。何の妨害も無く、当たる。

グレーキュレムをして、拍子抜けな最後だった。

 

さて、ではこれから何をするべきか。

 

グレーキュレムの知能は高い。自らの実力を知り、自らの能力を知り、それを使って何をするべきか。

取り敢えずは他の伝説のポケモンたちに会ってみるのが良いか、と判断したとき。

 

「なんでヒメリのみが落ちていたのかとか……」

 

有り得ない声を聞く。

 

「それでどうしてインクが戻ったのかとか……」

 

確実に倒した。絶対に倒した!

 

「ここは何処で相手はなんなのかとか……」

 

仕方無いならばもう一度倒すだけだ。

 

「「「 キュルリアァァァァァァァァア!」」」

 

「………それはもうどうでも良いかな。インクの色は―――」

 

『二重の炎雷』が、再びブールを襲い、包み込む。

 

「ドブゥゥゥゥゥゥッ!」

 

やっと、今度こそ、倒した。

 

「『道連れ』」

 

ベタッ

 

「「「 !? 」」」

 

黒い手が、グレーキュレムの氷を掴む。

 

 ベタッベタッ

 

「「「キュルッキュルリアァァァア!」」」

 

黒い手は次から次へと現れる。

 

  ベタベタベタッ

 

「「「 ギュルアァァァア!? 」」」

 

そして、遂に、グレーキュレムが落ちる。

 

「バリバリュウゥゥゥ!」

「キュラアァァァァァ!」

 

氷は全て黒い手に呑み込まれる。後に残ったのは、解放されたゼクロムとレシラム。

 

「レナさん、勝てなかったけど、負けなかったよ―――」

 

ブールが、今度こそ動かなくなった。

 




5795文字です。
理論は完璧。現実化は不可能ですな、ブラッディモード。
あ、ちょっ、☆0つける前に言い訳を……聞いて……駄目? 前回も聞いた?

…………そうですか。

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