すやすやと
眠るドーブル
棒立ちで
ジ――――――――ッ
「Zzz……」
「ちょん」
軽く触れると、色々着けているブールの体がぐらぁっと後ろに傾き――
「ドブッ!?」
「おはよう。暗いけど朝よ」
と、いうわけで珍しく優しくブールを起こしたわ。
「えっと、『優しく』?」
「そこなツインテールなにか文句でも?」
「い、いえ」
「ドブ……イテテ、おはようございますブールです。んーっそっか、ここネジ山の中か。洞窟は嫌だね。なんていうか、空気が重い。おかげでどうにも体が重いよ」
あ、ブール寝惚けてるわ。こいつ寝惚けてると心の声駄々漏れなのよねー。
「あの~、重いのは空気じゃなくて――」
「へい、そこなツインテール。何か言ったかしら?」
「…………いえ、その、ナンデモナイデス」
「よろしい。ほらブール、さっさと起きる!」バシィ!
「あいたっ!」
結局はたいて無理矢理起こすしかないのね。
~○~○~○~○~○~
ブールだよ。今日もまたネジ山でハッサンの特訓。
……なんか、俺を見るハッサンとレナさんの眼が生暖かいというかなんと言うか、ちょっと気になる。
「ハッサン、『とっしん』!」
「バゥッ!」
「フリッ!?」
なんとか無視して通算三体目のフリージオ(昨日からの合計だよ)を倒した。
「んー、フリージオはやっぱりそうそう出てこないんですねー」
「そりゃそうでしょ」
まったく、ゲームでもなかなか出てこなくって捕まえるのが面倒だったんだからね。
「それならなんで捕まえ無いんですかブールさん」
レナさんが聞いてくる。まだ少し恥ずかしいから敢えて顔を見ずに答える。
「……んっとねぇ。ほら、僕ってドーブルじゃん? だけど『へんしん』してポケモントレーナーとしてポケモンたちを捕まえて、バトルさせるわけだ」
「そうですね」
「それってつまり、種族の違うポケモンに命令してるわけなんだよ。そして少なくとも、ドーブルっていう種族は強い方じゃ無い」
「……そうなんですか?」
「そうなの。僕とお父さんは例外だよ。ね、メイコさん」
「そうね。ついでに言うとあたしも例外よ。ここまで流暢に喋れるうえに賢いペラップは世界どこを探してもあたしだけよ」
「あ、あはは……そうですね」
だって中身人間だしね。例外になるのは当然……だよね?
「しっかし、あまいみつ投げてもポケモンどもが寄ってこなくなっちゃったわね」
「そうだね、メイコさん」
「ん、あれ? はぐらかされた……?」
「どうしたのレナさん?」
「むむむ……」
レナさんは腕を組んで唸ってる。どうしたんだろ。
「あー、ついに視界内に居るポケモンがブールとハッサンしか居なくなったわね。こりゃさっさとネジ山抜けた方が良いかしら」
「そっか。ハッサン、進化出来なかったね」
「バゥ……」
「ハッサンのせいじゃ無いけどね」
「んじゃ、ブール。二番に出口の場所聞いてちょうだい」
「はーい。…………あ」
スマホを取りだした、んだけど。
「どしたん?」
「なんか、通信がなんたら~~って出てます」
「なんと。いやまぁ、そりゃ、山の中だし、分かるけどねぇ」
「?」
えぇとつまり?
「山の中だから二番の通信をスマホで確認出来ないのよ」
「うそっ!?」
それはきつくない? っていうか、それって
「迷子?」
「――――ブール、ここでさよならね。らしくないけど、今までありがとう」
「メイコさん……そんな……ここで、こんな形で終わるだなんて…………」
「え、あれ? ちょっとぼぉっとしてただけなのに何ですかこの雰囲気」
話を聞いてなかったレナさんの肩に手をのせる。……背、高いね。
「レナさん……僕たちの冒険に付いてきたせいでこんなところで…………うぅ」
「え」
「レナ、悪かったわね」
「は、はい?」
メイコさんがレナさんの肩にとまる。
「……」
「メイコさんが無言なのが一番不安になるんですけど――――」
「……」
「え、何ですかその目は……な、なんか事情を教えてもらえずに捨てられるポケモンを見るような悲しい目は……」
「……レナ」
「はい」
「…………」
メイコさんはレナさんをじっと見たあと、俺の方に飛んでくる。
「駄目よ、ブール。あたしには、あたしには耐えられないわ!」
「……分かったよ、僕が説明する」
レナさんの方を向く。あぁ、体が重い。やりたくない事をやるときは、やっぱり物理的に重くなるんだね。体って。
「レナさん」
「えぇと……?」
「僕たちは、遭難しました。助かる見込みは無いです」
「――――え」
「こんな暗いところで僕たちはその一生を終えるんだ…………うぅ……」
「で、でも!」
レナさんがあるものを指差す。
「あそこに縄ばしごがありますけど……?」
「…………」「…………」
メイコさんと顔を見合わせる。
「ちっ、これだからエリートは」
「は、はいぃ?」
「ノリが悪いよレナさん」
「……」
つまんないの。
そりゃ、だってメイコさんはあなぬけのなわ出せるし俺は『あなをほる』使えば良いし、脱出の方法はいくらでもあるしね。
「ふん、ブール。中々の演技だったわ。褒めてつかわそう」
「ははー、ありがたきしあわせー」
地面に膝をつき、両腕を伸ばしてひれ伏す。
「でも、実はちょっと焦ったでしょ?」
「ドブッ!? ま、まっさかぁ」
「…………あぁ、はい。なんか察しました。要するに遊んでたんですね」
「オフコース」
レナさんは大きく溜め息を吐く。
メイコさんはその周りをバサバサと飛び回る。
「ほら、縄ばしごさっさと登るわよ」
「じゃあ、僕が一番最初で良いですか?」
「…………ブール、いくらなんでもそろそろそれ脱いだら?」
「え?」
それ? なんだろう。
――――――あ、きょうせいギプスパワー(以下略
「……まさか、忘れてた?」
「だって寝てる間に外してくれてると」
「ブールさん……ほ、ほら! 修行ですよ修行! 外すの手伝います!」
「あ、うん――――」
………………。強くなったってことでいいや。うん。
2336文字です。
雑談回でしたー。
次回か次々回にジム戦……になればいいなー。