Fate/Resident Evil 型月ハザード 作:あ^〜心がゆらゆらするんじゃ^~
□主人公視点
アレから数時間経ち、日は完全に落ちた。
こんなに吸血鬼を探しても現れるのは食屍鬼ばかり。親の影も見当たらない。もう、この街には居ないのかもしれない。コレだけ大規模に食い荒らしておいて臆病者とはどういう事だろう。
歩きながらもう何匹目かも分からない死人を切り捨てる。食屍鬼など何匹居ても敵では無いがコレだけの量だと流石に辟易してくる。
『何処に行くの? そーし』
『……』
頭の上から話し掛けられる。お姫様は今僕に肩車されていた。辺りに瓦礫などが散乱する街は、その小さな足では歩きづらいらしく、何度かつまづいていたので肩車をして移動する事にしたのだ。こんな見た目だが普通の成人男性より遥かに力があるのだ。少女を肩車するくらいなんてことは無い。
何処に行くかと聞かれても目的地など無い。吸血鬼を探していたのだが、見つからないしそろそろ本格的に脱出を目指してもいいかもしれない。
『そーし、なに……あれ』
返事を考えていると、アンジェラが頭をぺしぺしと叩き呼びかける。アンジェラが指差す先には八匹の黒い犬が。
ぐるるるる、と唸りいまにも飛びかかってきそうだ。
『しっかりつかまって……て』
『うん』
返事を返すとアンジェラはしっかりと頭にしがみつく。
……うん。確かに僕がつかまってと言ったんだけどね。目をふさがれてしまったら前が見えないよ、お嬢様。
畜生相手に全力は許さないという事だろうか。イージモードが許されるのは小学生までですもんね、分かります。
よかろう、ならば期待に応え無くてはなるまい。心眼A(偽)は伊達では無いのだということを、見せなくてはこの身体にも失礼というもの。
僕は静かに神経を研ぎ澄ます。視覚以外の感覚が澄み渡っていく。
「戦場に事の善悪なし……ただひたすらに斬るのみ」
正眼に刀を構える。そして、殺気を送る。
次の瞬間、空気が揺れた。そこに在るのを感じ、ただ刀を通す。心を静かに、……凪いだ水面のように。
歩を進めながら、二つ、三つ、……七つ。そして、八つ!
最後に突いて、引き抜きながら振り上げ血を飛ばす。他に気配は無くちゃんと片付けられたようだ。
しかし、どうにも普通の犬では無かった気がする。……ハッ! まさか、ネロ教授……なわけないか。彼の眷族ならもっと苦労していたハズ。たぶん、様子がおかしかったのも気の所為だろう。
『終わった……カハッ!』
『そーし!?』
刀を収めながら告げる。と同時に血を吐いてしまった。
この身体にとって吐血はデフォルトだが初めて見たらびっくりするだろう。慌てて僕から降りるとオロオロしながらアンジェラはのぞき込む。
『大丈夫』
『でも!』
手の甲で血を拭うと安心させるように笑みを作り目を見ながらアンジェラの頭を撫で再度『大丈夫』と繰り返した。
若干涙目に成りながらも頷いたアンジェラを再び肩車しようとしたが、流石に吐血した人におぶられるのは抵抗があるようで、歩く事になった。
『そーし、辛くない?』
『だいじょ……ん?』
ぺぇぃんふぁる とか何か分からないが、とにかく心配されていたようなので、大丈夫だと返事をしようとすると、今度は続けざまに銃声が鳴り響く。どうやら教会から音がしたようだ。
突然の事にアンジェラの手の握る力が強くなる。安心させようと握り返して、僕は教会の窓から中をのぞき込んだ。
教会の中にはまだ数人の生存者が居て、何かと戦っている。もっと目を凝らすと四足で壁や天井にしがみつきながら中を縦横無尽に駆け巡るクリーチャーがいた。食屍鬼にはあの様な動きは無理な為たぶんこの街にやってきた魔術師が使役する眷族か何かかも知れない。
中の生存者達は撃ち落とそうと必死に拳銃を発砲するが、流石に拳銃だけでは一般人にアレはツラいだろう。……そう思った矢先に、パリンッ! と音を立ててステンドグラスを突き破りバイクが教会の中に突っ込んできた。バイクから女性が飛び降りると、バイクがそのまま中にいたクリーチャーに突撃し、跳ね上がったバイクに銃弾を撃ち込みクリーチャー諸共爆殺する。
あの身体能力は僕の目から見ても普通じゃない。
――まさか、埋葬機関!?
有り得ない話では無い。異端排出を旨とする彼らならば、コレだけ騒いだ吸血鬼の気配を見逃す筈が無い。彼女が埋葬機関ならばクリーチャーを駆逐しているのにも説明がつく。
魔術協会と聖堂教会は犬猿の仲だ。あんな不気味なものを使役する魔術師は見逃せないだろう。それも聖堂教会の中でも好戦的な埋葬機関ならば尚更だ。鉢合わせに成れば殺し合いになるだろう。
くわばらくわばら。君子危うきに近寄らず、だ。巻き込まれる前に退散しよう。
そう判断し僕はアンジェラを抱え、縮地を駆使して離脱した。
□
――ナンダアレハ。
思わずカタコトになってしまう程の物体が、目の前のあった。
魔術師と埋葬機関の戦いから避難した後、脱出方法を探しながら街を散策していると僕達は出会ってしまった。恐ろしいアイツに。
今や廃墟となったビルの影から恐る恐る再度ターゲットを覗く。やはり見間違いでは無い。もう一度言おう。
――ナンダアレハ!?
二メートルを超す巨体に機関銃とロケットランチャーを装備したソレは明らかに過剰戦力だろう。
『そーし。……アレは何?』
『分からない』
新手のバーサーカーかと思ったがどうにも現代技術のにほいがする。まさか、奴が人造人間か!? 製作者からマッドサイエンティストを感じ、ある人物を思い浮かべた。
その名もほうき少女マジカルアンバーだ。平行世界を自在に行き来し遠野家地下王国を支配する狂気のマッドサイエンティストたる彼女ならば人造人間の制作も片手間で可能だろう。もし、彼女がいるのならば、この街の惨状も彼女が? 彼女が居るとしたら今この街で起こっているのはタタリ……。そうと決め付けるのは早計だ。彼女は混沌は好むが無益な殺生は好まない。もう少し、様子を見よう。悪戯好きの彼女ならば背後から神出鬼没に現れいきなり会話に入ってくるハズだ。
そう思い、じっと人造人間を見ていると奴に何かが飛んできた。辺りに、額に穴の空いた死体が散乱している所を見るにどうやら狙撃手がいるらしい。
どうするのかと思った矢先、人造人間はおもむろにロケットランチャーを持ち上げると躊躇なくぶっぱなした。人造人間の直線上にある建物の屋上に設置された看板に当たると大きな音と共に爆散した。どうやら看板の裏に狙撃手が居たらしい。
そこで、終わること無く人造人間は機関銃を構える。流石にやり過ぎだろうと思った僕は止める事にした。
『待ってて』
『ソーシ?』
人造人間が機関銃を回した瞬間懐に飛び込み一刀のもと根元から切断する。振り上げた刀を翻し袈裟斬りする。人造人間は僕の姿を見たまま反応せずに、刀を身に受ける。しかし、思ったよりも筋肉の壁は厚く心に届かなかった。
「速く、……鋭くっ!」
ならば、真っ直ぐに心臓を貰うだけだ。そう思い平正眼に構え止めを刺……。そうと思ったが人造人間は身を反転し退散しようとする。
相手がこれ以上何もするつもりが無いなら、止めを刺す意味も無い。無用に人造人間を壊してしまって製作者の恨みを買う必要も無いだろう。そう思い見逃した。
『ありがとう、サムライガール』
『凄いな、あんな化け物をそんな剣で追い払っちまうなんて。日本にはお前みたいなサムライがたくさんいるのか?』
『ハハハ、そんなワケ無いだろう。彼女のようなソルジャーがうじゃうじゃ居たら今頃インペリアルジャパンが復活してサムライが世界の頂点に君臨しているハズさ。……いないよな?』
『……』
人造人間が攻撃していた建物の中から警官らしき格好をした男性たちが出てきて、私に話し掛ける。
しかし、そんなにいっぺんに話し掛けられても何を言っているか分からない。いや、一人だけでも良く分からない。
歓迎されていることは分かるが何を言ってるか分からないので返事のしようも無い。
『しかし、日本人は寡黙と聞いていたが噂以上に静かだな。その綺麗な顔も合わせて人形と間違えてしまいそうだ』
『確かに、人形みたいに美人だ。化け物もお嬢さんのような美人が強いなんて思いもしないだろう。こんな事になってもお嬢さんみたいに強い人が居るなら心強い。そうだ、お嬢さんは何か知っているかい?』
最早、僕にはただの音にしか感じない。もう、素直に話してしまおう。英語が分からない時は確か……。
『分からない』
『そうか、わからないか。仕方あるまい。世界はどうなっちまったんだろうな。……お嬢さんはこれからどうする?』
分からないと言った筈なのに、気にせず話を続ける男性。僕の下手な英語では伝わらなかったらしい。もういい、ここは大人しく立ち去ろう。胃がキリキリしてまた血を吐きそうだ。
『人を待たせてる。戻る』
『そうか。……残念だが仕方が無い。縁があったらまた会おう。じゃあな』
グッバイと清々しい笑みを見せて建物の中に戻っていく男性達。ふぅ、と安堵のため息を吐き、アンジェラの元に向かう。
「あっ」
アンジェラといえば、彼らにアンジェラを預ければ良かったのでは無いだろうか。警察なら断らないハズだ。しかし、せっかく彼らと別れられたのに今から戻ってまた会話? をする気力も沸かない。
はぁ、と今度は自分の間抜けさに落胆のため息を吐いた。
『おかえりそーし! やっぱりソーシとても強いのね。気が付いたら、一瞬でアイツの武器を斬ってしまって。剣で鉄の塊を斬ってしまうなんて流石ね、そーし。でも、身体は大丈夫? つらくない?』
『うん』
いつも通り、アンジェラの言葉を適当に受け流しつつ、彼女の身体をヒョイっと持ち上げ肩車をした。
さて、いくら待っても人造人間の製作者はやってこない。日も完全に落ちてしまったしそろそろ急がなくてはならない。人造人間は放っておこう。
トゥルルルル、トゥルルルル……。
いきなり鳴り響く電話の音に不覚にも肩を跳ねてしまった。幸い、アンジェラには見られていないが音に反応したのはバレたろう。恥ずかしい思いをさせられた事に少し憤りを覚えつつ、何事かと思い音の方を見るとちょうど脇にあった公衆電話から音が鳴っていた。
どうせ偶然だろうと内心ビビりながら鷹を括り無視して歩を進めると、今度は行く先々で次々と電話が鳴り始めた。
どんなホラーだ。
出たが最後。僕の寿命が後七日と宣告されるんじゃ無かろうな。そう、内心戦々恐々としていると、じーっとアンジェラが僕を見詰めていた。幽霊にビビっている心が見透かされているようで、なんだかいたたまれない。
わかった、出れば良いのだろう! と覚悟を決めて受話器をとる。
「はい」
『良かった、出てくれて』
予想と違って、聞こえてきたのはおじさんの声。そしてやはり英語だ。勿論七日間の宣告はされ無かった。
『私の名前はアッシュフォード。君にお願いがあるんだ。そこに居る少女は私の娘なんだ。今、迎えを向かわせて居る。彼らと共にだっ……、プープー』
アッシュフォードとやらが何かを急いだ様子で伝えようとしていたが途中で切れてしまった。娘とかなんとか言っていたがたぶん間違い電話だろう。
『何だったの?』
『分からない』
もし、出会う事があったならグーぱんだ。慈悲はない。
・埋葬機関―聖堂教会の中でも選りすぐりのマヂキチが集められたエリート集団。作中で登場するのは埋葬機関ではなく映画版バイオハザードの主人公であるアリス。
・ほうき少女マジカルアンバー―フードを被り全てが謎に包まれた女性。謎の薬品や植物をこよなく愛し日々怪しげな実験をする。遠野家地下王国を実質牛耳り地球征服を企む。しかし本作の地下王国を牛耳り地球征服を企むのは彼女ではなくアンブレラ社。
・インペリアルジャパン―大日本帝国。SAMOURAIやSHINOBI蔓延る魔境。独自の文化と世界を形成し一歩未来を生きるHENTAIの聖地でもある。……のは何処か違う平行世界の話。
・『分かりません』―主人公は I don't understand English.(私は英語が分かりません)を間違えてEnglishを抜かし、 I don't understand.(私は分かりません)と答えてしまった。