機動戦士ガンダム00 ~切り拓く明日~   作:ジャスサンド

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MISSION7 呼び起こされた悪夢

-これは神の意思による戦いである。我々の魂は神の元に捧げられ永遠の救済を得るのだ。

 

 

そう自分を含めた同じ年頃の多くの仲間たちの前で悠然に弁舌する男を一生忘れ去ることはないだろう。

武術もナイフ捌きも射撃の腕も、ありとあらゆる分野において数段上の域に達していた彼は当時の自分たちから羨望の眼差しを一手に集めた。

彼に一日も早く追い付き役に立ちたいと、誰もが例外なく願いそのためになら何だって実行した。

ゲリラ戦、対人戦、果ては生身の機関銃でモビルスーツへ戦いを挑んだことも数知れない。

やはり当時の自分はそれらが苦とすら感じる感覚が麻痺していたのだ。だからこそ平然と迷いなく生まれ育て血を分けた両親を殺すことができたのだ。

しかし今はあの時とは違う。

ガンダムの力を手にし、あの男からの呪縛にも縛られはしない。

そう…だから-俺はこの男に勝たなければならない。

ガンダムマイスター『刹那・F・セイエイ』としてもクルジスの『ソラン・イブラヒム』としても、この男だけには。

 

 

「うおおおおお!」

 

「何!?」

 

 

切り結ぶリニアブレイドをGN粒子の出力と実体剣の硬度を利用して、断熱し半ばから切り飛ばす。

この時刹那はエクシアと同調したような一体感を五感全てで感じ取った。

もちろんそんなことは理論上は有り得ない現象だと理解していても、刹那は己でも珍しく思う程そういう心象が欲しかった。

 

 

「なんて切れ味だ…これがガンダムの性能ってわけか」

 

 

こいつを手に入れれば一躍大儲けだ。

いやこれだけのモビルスーツを手放すのさえ惜しいとさえ思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「刹那……?あいつ…何しでかしてんだ…!丸腰で、生身を敵前に晒すなんて正気か!?」

 

 

 

深紅のイナクトに手を煩わされながらもジルウェはサブモニターでその一部始終を横目にしていた。

エクシアのコックピットハッチを開け、敵方である青銅色のイナクトに身をさらけだす刹那に彼は呆れを通り越して、もう一段階上の感情が爆発しそうになる。

素性が暴かれるのもそうだが、のこのことモビルスーツのコックピットで棒立ちでいる刹那の意図が計り知れない。

幸いというべきか青銅色のイナクトは刹那を蜂の巣にすることはなく、自らもコックピットから出てきて立ち尽くしている。

何かの奇策かとスメラギの関与を疑ったが通信の向こう側の慌てぶりを尻目にする限りでは、彼女が刹那に指示を出したとは考えにくいだろう。

ならば残りの可能性は刹那の独断だ

 

 

「あいつ…アレルヤはまだしも…あいつは一回ティエリアのお説教を受けたほうがいいんじゃないか?」

 

「どこに気を引かれている!味方の心配をしている場合ではないはずだ!」

 

「しつこいんだよ、ストーカー野郎……!」

 

 

溜め息と共にそう呟き銃口から打ち出された弾を横際に逃げ込むように遣り過ごし、GNハルバードを振るう。

大気を振動により横凪ぎの旋風を発生させたハルバードが描くその軌跡が、回避行動を取るべく浮上したイナクトの脚部の先端を掠る。

 

 

「ちぃ、そろそろ大人しく落とされてくれないか。このカトンボめ…」

 

「イナクトに助けられたな…やはりガンダムはそう簡単にはいかないか」

 

 

濃紺のガンダムと深紅のイナクトを乗りこなすパイロット二人は、それぞれ正面のモニターに投影されている相手の実力を異なる言い回しで認める。

特にジルウェはイナクトにこうまでてこずらされることになろうとは、予想だにしていなかった。

デュナメスが刹那から青銅色のイナクトを退ける様を見たジルウェは操縦悍を握り潰すようなまでに手に力を込め、ペダルを投げやりに目一杯踏み込む。

 

 

「刹那の方はロックオンがどうにかやったみたいだな…こっちもさっさと片つけないとな」

 

 

急加速と同時にトリガーを数回引き、ライフルから放たれる光条がイナクトの回避先を絞り混み、優れた機動性を封じる。

この程度では気休めぐらいの時間稼ぎにしかならないがそれができればジルウェには充分意味があった。

連続射撃に悪戦苦闘するイナクトの真横を駆け抜け際にハルバードを一閃。

 

 

「ぐうう!バーニアを!」

 

 

両足が分断され機体が重力によって地に墜ちる轟音が地表に鳴り響いた時には既にシェーレの機影はきれいさっぱり消失していた。

 

 

「くっまたしても…!一度ならず同じ相手に二度も地に捨てられるなど私は何をやっているのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所定の合流ポイントに向かってそのままプラン通りに動いて……もお、あの子のおかげでプランがぐちゃぐちゃよ」

 

 

刹那の勝手極まる問題行動にスメラギは憤慨する。

おかげでミッションプランの大幅な修正を強いられてしまった。

 

 

 

 

渓谷地帯をキュリオスの先導の元五機のガンダムが狭い谷間をすいすいと抜けていく。

 

 

「わざわざこんなところを通らせるなんて」

 

「ぼやくなよ、敵さんは電波障害の発生しているポイントを重点的に狙っている。隠密行動で一気に叩くのさ、まあゆっくり楽しもうぜ、水先案内人」

 

 

-羨ましいまでにお気楽なものだ。

アレルヤは憂さ晴らしを込めた悪戯を思いつき岩盤にわざとキュリオスの羽先をぶつけ、砕けた岩の破片が後続のデュナメスに降り注ぐ。

 

 

「うおっ!アブねえなアレルヤ」

 

『へたっぴ、へたっぴ』

 

「どんまい」

 

「そりゃこっちのセリフだ」

 

「勝手にやってろ…お前ら」

 

 

その後ろに縦に続く三機の中でロックオンとアレルヤのやり取りに溜め息をついたのは、最後尾のシェーレを駆るジルウェのみだった。

火力は最高級だがその鈍重さで機敏な動きを取れないヴァーチェの援護のため、その背中を守るようにシェーレは配置されているのだ。

 

 

「刹那・F・セイエイ、今度また愚かな独断行動を取るようなら君を後ろから撃つ」

 

「太陽炉を捨てる気か」

 

「情報のためなら」

 

 

そのヴァーチェとエクシア間で折りなされる会話は先の二人とは打って変わって物騒な内容であり、ジルウェはヘルメットの中で再び呆れた声を出す。

 

 

「大丈夫か…このチームで…」

 

 

 

 

 

岩壁を通り抜けた先はモラリア軍本部。

颯爽とキュリオスとデュナメスが先陣を切り、探知しそこねたおかげで迎撃が追い付かなかった機体に風穴をぶち開ける。

続いてヴァーチェの高濃度圧縮粒子による砲撃が地表を斜め線の跡を作り、モビルスーツを格納庫ごと溶解していく。

粒子残留に気を配りジルウェはライフルの使用を取り止め、GNハルバードのみを抜き放ち横並びのヘリオン三機を両断した。

そして先刻問題行動を起こしたエクシアも抱えたもやもやを捨て去り、敏捷なスピードで撃ちもらした機体を切り捨てる。

そうして五分弱で基地から無条件降伏を宣言する白旗信号が打ち上げられ、デュナメスは戦術予報士にそれを報告した。

 

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

-圧倒的に負かされた。

シェーレに完封されたイナクトはモラリア軍の降伏の後に回収され、整備班による修復作業が休む暇もなく早速行われている。

ネクサスは作業員がてんやわんやしている様を一望できる室内に座り込み、意気消沈していた。

 

 

「私を信頼してこの機体を授かって下さったというのになんたる失態だ…」

 

 

これでは上官の期待に答えるどころかハレヴィの家の名にも泥を塗り続けてしまう。

自分の産みの親である両親といとおしい妹のためにも必ずや、ガンダムを仕留めて見せなければならない。

そう新たに家の名と自らの胸に秘めた意地に誓うジルウェの元に、AEUの軍服に身を包んだ赤黒い髪の男が歩み寄った。

 

 

「何へこたれてんだよ。らしくねえ」

 

「パトリック少尉でしたか。このような様をお見せして申し訳ありません」

 

「おいおいよせよ。俺は少尉、お前はその上の大尉だぞ、階級が下の奴に敬礼なんて軍人として駄目だろ」

 

「そうでしたね。失礼しました」

 

「本当は敬語もNGなんだがまあそれはいいか…言っても直んねえのはわかってから」

 

 

敬礼の姿勢をとるネクサスの肩に手を置いたパトリックがそう注意すると、両足をもぎ取られ半壊したイナクトを見下ろす。

 

 

「あのイナクトを見たところお前もガンダムにやられたみたいだな」

 

「はい…無様にも」

 

「そんなにへこたれることねえだろ。小耳に挟んだ話じゃ粘るに粘った結果だって聞いてるぜ、あんなになったのは」

 

 

慰めの言葉をかけてもネクサスの気分は晴れない。

それだけ二度も同じ相手にやられたのがショックだったのだろう。

 

 

「お前は生真面目すぎるんだよ。一度や二度負けたぐらいでそんなにへこたれてんじゃ次またガンダムとやり合う時気乗りしなくなっちまうぞ。俺を見ろ何度ガンダムに落とされてもこんなんだぜ?いいじゃねえか、三回目四回目でガンダムを落とせば、それが俺だろの務めってもんだろ?」

 

「パトリック少尉…」

 

 

そうだ。たかが二回落とされたぐらいで何をへこたれていたのだ。

命令が取り下げられない限りまだチャンスはいくらでもあるではないか。

次にガンダムと対峙した時打ち負かすためにも今するべきは下を見ることではなく、どうガンダムを攻略するかその手段を模索することだ。

 

 

「助言を頂きありがとうございましたパトリック少尉」

 

「いいってことよお前と俺の仲じゃねえの」

 

「お礼に今度何かご馳走させてください」

 

「お、いいのか?じゃあ何か考えとくな」

 

 

ネクサスの懐に住み着いていた悩みが消し飛びパトリックと親しげに会話を展開していた。

その時、ネクサスの内ポケットの携帯端末から着信音が鳴り出し通話ボタンを押す。

 

 

『ネクサス?大変な任務と聞いていましたけれどお元気そうで何よりですわ』

 

「母上、ご心配なく私はこのとおり万事良好ですよ」

 

「お袋さんか」

 

 

画面に映り込んだのは金髪に翠緑の瞳とネクサスと似た印象を与える女性。

後十五、六いや人妻で子持ちでなければ猛アタックを敢行しているだろうと、パトリックは画面越しの同僚の母を見る。

 

 

『あらそちらの方は?』

 

「パトリック少尉です。言うなれば私の先輩というところですかね」

 

「よろしくお願いします…」

 

『いえこちらこそ息子がお世話になっています。いつも聞いていますよ頼りになる方だと』

 

 

予期せぬ人間からそのような言葉をかけられ、照れ臭いのかパトリックは隣の同僚に軽く肘打ちをする。

苦笑しつつもネクサスは母に切り出した。

 

 

「母上今日はどのようなご用件で?ルイスにまた何か?」

 

『そうではないのよ。私近々ルイスに会いに日本へ行くの、だからあなたも一緒にどうかと思いまして』

 

「日本ですか…」

 

「行ってくればいいじゃねえか。どのみちしばらくは駆り出されることもないだろうしそう長くいるわけじゃないだろ?一日や二日ぐらいなら休暇使えば問題ない」

 

 

AEUは今回のソレスタルビーイングによる大打撃でモビルスーツと予算に多大な被害を被った。

当分の間はソレスタルビーイングに手を出そうなどとは思わないだろう。

パトリックの後押しありネクサスは母の申し出を快諾した。

 

 

「わかりました。是非ともお供させてください母上」

 

『そう良かったわ。じゃあまた日時は連絡するわね』

 

 

通信が切れるとパトリックはネクサスにこう告げる。

 

 

「いいお袋さんだな」

 

「ええ自慢の母です。もちろん妹も」

 

「…のろけんな、幸せもんめ」

 

 

-俺も早くこいつらみたいな家族を作りたいな、いやその前にまず奥さん探すか

パトリックは友の嘘偽りのない言葉を聞いてしみじみそう思った。

 

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

砂浜に鈍い音が響き刹那が殴り飛ばされた。

彼を殴った張本人ロックオンは普段飄々とした顔つきからは離れた、怒りをほんの少し込めた表情で刹那に問い詰める。

 

 

「殴られた理由はわかるな?ガンダムマイスターの情報は太陽炉と同じSレベルの秘匿義務がある…何故姿を晒した」

 

 

敵兵を撃ち抜くスナイパーの鋭い眼光を浴びても刹那は一貫して無言を貫く。

困り果てたジルウェはいつもと変わらぬ調子でロックオンの代わりに訊ねる。

 

 

「黙ってちゃわからないだろ…何もお前からエクシアを取り上げようってわけじゃない。ただあの時一歩間違えてたらお前はくたばってた…その危険を犯してでもお前がしたかったことを教えてくれればそれでいいんだ」

 

「……」

 

「強情だな。お仕置きが足りないのか」

 

「言いたくなければいい。君は危険な存在だ」

 

「ティエリア…」

 

 

ロックオンが二度拳を振るおうとした瞬間、それを遮るようにティエリアが銃口を刹那に向ける。

その眼差しはやると言ったらやる、そう物語っている。

もちろんマイスターたちはティエリアがそういう行為をしても、違和感のない性格だと把握していた。

イオリア・シュヘンベルグのソレスタルビーイングの理想を実現させるための妨げになる存在は、例え仲間であろうと容赦なく排除する。

マイスターの中でも最もミッションに使命感が強くひたむきな性格と言えよう。

 

 

「やめろティエリア」

 

「彼の愚かな振る舞いを許せば我々にも危険が及ぶ」

 

「俺は…降りない」

 

 

銃口を突き付けられても毅然とした態度でティエリアを見据える刹那。

むしろティエリアに自分の銃を照準を合わせていた。

 

 

(勘弁しろ…)

 

 

ジルウェは口には微塵も出さず心中で、修羅場を展開させる刹那とティエリアをジト目で睨んだ。

ミッションを無視したアレルヤの独断行動が可愛く思える程今この場の空気は殺伐としており、余計な一言を発することさえ許されない危うさが充満していた。

そんな不安にまみれた雰囲気を払拭しようと、これまで静観していたアレルヤがティエリアを宥めるような言葉を吐く。

 

 

「命令違反をした僕が言うのもなんだけど僕たちはヴェーダによって選ばれた存在だ…刹那がガンダムマイスター理由がある」

 

「なら見せてもらおうか君かガンダムマイスターに選ばれた理由を」

 

「俺の存在そのものが理由だ…俺は生きている、生きているんだ」

 

 

刹那は淀みも抑揚もない声色でそう呟く。

さすがにこれにはティエリアも唖然とし、二の句を告げられずにいた。

そんな中イアンがマイスターたちに駆け寄り重大情報を知らせる。

 

 

「大変だお前たち!世界の主要都市七か国で同時にテロが起こった!」

 

「多発テロ…」

 

 

さらに詳しくイアンの話を聞くと事態はよほど切迫した状況のようだ。

爆発の規模はそう大きくないが人が密集する場を狙われたために多くの死傷者が出たこと、そしてたった今留美から寄せられた情報によれば、テロ組織の目的はソレスタルビーイングとのこと。

テロ組織の公式声明によればソレスタルビーイングが武力介入を中断しなければ、今後も同じようなテロ活動を続けると宣言したそうだ。

 

 

 

「ふん、そんなことで我々が武力介入をやめると思うか」

 

「ティエリア…!」

 

「一般人が犠牲になっているんだぞ。何とも思わないのか!」

 

 

一笑に伏すティエリアをロックオンとイアンが責め立てるが、彼は動じない。

悪びれた様子を粉粒程も感じさせない声色で持論を言い放った。

 

 

「思いません。何故ならこのような事態が起こりうることも計画の中で予測済みだったはずだ」

 

「貴様!」

 

「どうしたんですか?いつも飄々とした態度を取るあなたらしくない…テロがそんなに憎いですか?」

 

「テロが憎くて悪いか…!」

 

 

いちいち鼻につくティエリアの言葉がロックオンの神経を逆撫でする。

しかしティエリアには彼の心の機微など興味はなく、問答するロックオンに捕まれている手を振り払う。

 

 

「その組織はテロという紛争を起こした」

 

 

今にも殴りあいに発展しそうな二者を静めたのは刹那の声だった。

 

 

「ならば紛争に対して武力で介入するだけだ…行動するのは俺たち、ガンダムマイスターだ」

 

 

 




ルイスの母親ってアニメでも小説でも名前明確にされてないんですよね…だから母としか書けないんです…




以下小ネタになります。本編との関わりはあるようでないものと思ってください


パトリック「なあネクサス~、お前可愛い女の子紹介してくれよ」
ネクサス「女の子…ですか。それまたどうして?」
パトリック「ほら俺もさいい年だしそろそろ身をかためないとって思ってな。お前見た目いいから可愛い女の子の一人や二人知ってるだろ?」
ネクサス「そうですね…私が世界で一番可愛いと思う女の子ならいますけど、もちろん恋愛感情はありませんから安心してください」
パトリック「おお!マジで!?誰だよ!」


ネクサス「妹です」
パトリック「い、妹……?」
ネクサス「いつも何をしても可愛いんですが特に上目遣いで甘えてくる時なんかはもう写真に納めたいぐらいなんです。ああいうのをきゅーととかちゃーみんぐというんでしょうね…あと私の一番好きな仕草は-」

パトリック「こいつの前で異性の話題はもうやめよう…最終的に妹の話になる…」

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