今回はガンダム総出で任務を遂行するとのことで刹那、ジルウェ、ロックオンの三人は追加武装の受け取りのため太平洋に点在する孤島に着陸していた。
彼らの到着を待っていたのは眼鏡の中年男性イアン・ヴァスティと彼の後方に置かれた三つのコンテナ。
その三つの中に各々のガンダムの追加武装が収納されているのだ。
「遠路はるばるご苦労だったな三人共、さっそくだがまずはエクシアからだ」
イアンがスイッチを押すとコンテナから姿を見せたのは一本の実体剣。
刃先が照らされた太陽の光を反射しその切れ味を誇示するかのように、輝きを強くする。
「これがエクシアの武器GNブレイドだ。GNソードと同じ高圧縮した粒子を放出、厚さ三メートルのカーボンを難なく切断できる。どうだ?感動したか?」
近接戦闘に赴きをおいたエクシアらしい装備だ。
刹那はまじまじとセブンソードを見つめた後自身の愛機、エクシアに目を移す。
「なんだあいつは?大急ぎでこんな島くんだりまで運んできたんだぞ、少しは感謝ってもんをだな…」
「充分感謝してるさおやっさんら刹那はエクシアにどっぷりだからな」
「まあいつものことだ。それより次の装備を紹介してくれ、向こうもお待ちかねだろうからな」
刹那が無愛想なのはいつものことだろうとロックオンとジルウェがイアンに告げ、脱線しかけた話を本筋に戻す。
彼らの指摘を受けイアンはゴホンと一旦咳払いをし調子を整えると改めて他のコンテナを開き装備の解説をする。
「デュナメスの追加武装は一足先に実装させてもらった…んでシェーレの方だがどうする?」
「何がだ?」
「ああすまん、見てもらった方が早いか 」
イアンが首で示した先のコンテナには黒い正方形の物体に丸く縁取られた穴が8つ程あり、一見しただけでもかなりの重量があるだろう。
「GNミサイルボット…GNミサイルをふんだんに搭載した完全な遠距離武装だ。ヴァーチェ以外のガンダムよりGN粒子を機動力に回せないシェーレを補うためのものだ」
「ミサイルか…気持ちはありがたいがこれは今回のようなミッションには向いてないんじゃないか?こういうのは奇襲や殲滅戦に適してるものだろう?待ち構えられている状況じゃむしろ動きづらくなる」
「やっぱりそう思うか、なら今回はこいつは」
「使わない。このミッションが終わったらトレミーに持っていくよ」
「わかった」
ジルウェはそう言うとシェーレのコクピットハッチからぶら下がっているラダーを伝って、シートに戻る。
機体のシステムを稼働させ出撃準備を整えた。
AEUとPMCトラストの合同軍事演習に武力介入をするために
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『全軍に告ぐ!これよりAEUとPMCトラストによる合同軍事演習を行う!双方共に演習だからといって全力で取り組んでくれ!』
上官の言葉に苦笑染みた笑いを浮かべながらネクサスはコクピットの居心地を満喫していた。
お気に入りの赤いカラーリングが彩られたAEUの新型モビルスーツイナクト、そのパイロットとしてネクサスは軍事演習に混ざっている。
「さあ、来るがいいガンダム。私が今の誠意を持って貴公の期待に答えよう」
AEUとPMC軍事演習など単なる茶番に過ぎない。裏の目的はガンダムを誘きだし軌跡を鹵獲することにある。
だがその裏の目的をソレスタルビーイングは見抜いているであろうことは百も承知。
しかし彼らの理念が紛争根絶ならば必ずやこの軍事演習に武力介入を仕掛けてくる、そう睨んでいたのだ。
「しかし気が引けるな。私の妹の恩人に対してこのような形で礼をする羽目になろうとは」
数日前の軌道ステーションでの事故にネクサスの妹ルイス・ハレヴィが巻き込まれ、ガンダムに救われたのは本人の口から電話で聞かされていた。
私情を任務に持ち込むなど軍人として遺憾なものだがネクサスにとって妹は自分の命にかけても守りたい存在であり、目に入れても痛くないぐらい溺愛している宝だ。
助けてくれたことには感謝している。
だがらこそ機体から引き摺り出し面と向かって感謝の言葉を告げる。
これならば建前としても成り立ち、軍にも文句を浴びせられることもないだろう。
「残念ながら家のためにも体裁は貫かねばならないのだこのような方法しか思い浮かばぬ私を許してくれ、ガンダム」
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スメラギ、クリスティナ、フェルトの三人は大がかりな作戦のため、ガンダムマイスターの連絡を迅速に対応すべく王留美の所有する邸宅の一つに潜伏していた。
広い室内にはモニターと機材が設置され各マイスターへの通信を開く。
モニターには赤い光点が砂浜に落ちている貝のように幾多もあり、それがAEUとPMCのモビルスーツの反応であることは部外者である王留美と香龍にも予想がついた。
「これは…モラリアとAEU軍の配備状況ですね」
「PMCトラストもね。しかもリアルタイム」
「いつの間にハックを?」
「朝食の前に、ちょっとね」
年相応に可愛らしい顔とは違いクリスティナのハッキングの腕は一流であるようだ。
普段の彼女しか知らぬ王留美と香龍は意外とばかりに顔を見合せる。
「さてそろそろ動きましょうか。クリス、フェルト、各マイスターに連絡を。予定通り00時をもってミッションを開始します。目標は私たちに敵対する者全てよ」
スメラギたちのバックアップもあって戦況はソレスタルビーイングに傾いていた。
デュナメスのライフルが並び立つヘリオンの頭部、片腕、武装を撃ち抜き残骸へと変えてゆく。
空を旋回するキュリオスもその突出した機動性について来れずにいるヘリオンを狙撃し、居抜かれた機体が駆動部から煙を吹いて降下する。
「AEUとPMCの機体配置図が手に入るとは、いい仕事してくれるなクリスティナ」
シェーレのライフルの光線が立て続けにヘリオンのパーツを分解し、それを見届ける間もなく次の標的を照準に収める。
暗号通信でこの戦場の最新情報が逐一寄せられ戦術予報士の指示もあって、数の差に押し潰されることなく優位に立っていた。
「新装備を持ってこなくて正解だったな、イアンには悪いが断然こっちの方がやりやすい」
目まぐるしく動き回る大多数の高速戦闘型の敵を前に一旦足を止めなければならず、しかもその重さにより機動力ががた落ちするミサイルボットなどこの局面において不向きでしかない。
背後から奇襲を仕掛け突進してくるヘリオンの体当たりを絶妙なタイミングでかわし、GNハルバードで両脚を切り離し返り討ちにする。
前方のヘリオンがたじろぐような挙動を見せるがそんなのは関係ない。
撃ちかけられる射線を脚部のブースターを駆使した操縦で被弾を貰うことなく回避し、一機一機を確実に撃墜していく。
「ごちゃごちゃ乱暴な撃ち方をする…当たればいいってもんじゃあないだろ…!」
ペダルを軽く踏み行き場をなくした敵機の銃弾が地表にめり込む。
再び地に足が着くまでにはシェーレのビームライフルが四機のヘリオンをロックし、一定の時間間隔を開けての射撃で停止に追いやる。
そんな時アラート音がコクピットに鳴り出し、サブモニターに新たに飛来する敵機の機影が出現した。
「今度はなんだ?……ヘリオン、いやイナクトか」
飛行形態で空を引き裂き接近しつつあるモビルスーツ。
データ資料を閲覧した際に見た形状をしていたためにAEUの新型だと検討はついたが、そのカラーリングは異なっていた。
エクシアが撃墜したのは青いカラーリングだったが、サブモニターの機体は見栄えの良い暖色系の赤。
何物に染まることを許さない力強さを秘めた意志の高さを見る者全てに誇示する色だ。
「あの時のガンダムか、これはついている…このイナクトと私の息を確かめるにはこれ以上ない絶好の相手だ…」
イナクトは急加速をしつつ浴びせかけられるビームを躊躇なくかわす。
射撃を無意味と踏んだシェーレはライフルを腰にマウントして肩のGNハルバードを引き抜き様に、垂直に叩きつけるように振るう。
だがネクサスは脅威的な反射速度で機体を右にブーストさせ長槍をやり過ごし、飛行形態を解く。
宙で半身になりながら右脚の蹴りを顔面にぶつける。
「ぐっ…うおぉ…!」
さすがにガンダムは地べたに這いつくことはなく軽くよろめいた程度で、武器も手放さない。
「さすがは新型というべきか…カスタムヘリオンのデータが注ぎ込まれているだけに私の体に良く馴染む!これならば!」
「こいつっ!」
「例え相手がガンダムであろうと!」
ハルバードの光刃をまたもやイナクトの速度に物を言わせて無傷で済ませ、ソニックブレイドの刃先を右肩前回己が破られた部位へ射し込む。
何度押し込もうとそれ以上刃が食い込まず、ソニックブレイドが装甲を食らうことはなくシェーレの右ストレートで顔面を横殴りにされる。
土を被り転がる機体を襲う振動にネクサスは唇から血が滲み出る程に歯を食い縛り、燃え上がる意識を保つ。
「なんという固さだ、これを鹵獲しろなどと上も無茶を言ってくれたものだ…」
「大尉援護します!」
「君たちは手を出すな、それより動けぬ機体からパイロットを保護し基地に退避しろ」
彼らには無礼な表現の仕方だが、いくらヘリオンが集まったところでガンダムの前には烏合の衆でしかない。
自分もおそらくはガンダムに勝てる見込みは薄い。
どの道鹵獲できないならば損害は少ない方が後のためにもなる。
機体はいくらでも代えは効くが腕のいいパイロットはそうはいかないのだから
「いいな?」
「了解しました!」
上官の指示を承ったヘリオンは各自それに従い矢継ぎ早に飛びさって行く。
「こいつの動きセイロン島の時のヘリオンのパイロットか」
思いおこしてみればいくらか共通点が見られる。
機体の色、癖、やたらと自分との闘いに拘る肉眼でなくとも伝わる姿勢。
心中で挙げてみてジルウェの疑惑は揺るぎない確信に変わった。
あのヘリオンのパイロットならば付きまとわれないようここで落とさなければ、刹那の二の舞になる。
それだけは断固として避けたい
「…さてどうするか」
イナクトのスピードに対してシェーレはハルバードを短め構える。
世界から紛争を無くす。
それが刹那・F・セイエイの願いであり過去に犯してしまった過ちへの贖罪の表れでもある。
-やめて、ソラン
この世の存在では何かを前にしたような目を自分に向ける女性。その間近で赤い液体を床に垂らして倒れている男性。その様を凍てついた瞳で見下ろす自分。
そして怯える女性に手にした銃口を向け
-俺はもうあの男に操られていた人形ではない!
彼はエクシアを駈り妨げになる敵機を躊躇いなく切り捨てる。
-俺が…俺がガンダムだ!
順調と言える具合で新装備の助力もあって、エクシアが敵機を殲滅し終える。
「ファーストフェイズ終了、セカンドフェイズに…!」
次なる段階に進もうとした時エクシアのセンサーが機敏に反応し、刹那の意識が過去の記憶から急速に引き戻す。
レバーを引き機体を後退させると数秒と待たずにエクシアの立っていた地面を多数の銃弾が穿つ。
刹那が銃弾の軌跡を辿ると空には赤黒いイナクトが浮遊していた。
「あの機体は…」
カラーリングこそ異なるが、エクシアの初陣で完封したAEUの新型モビルスーツ。
ならばどうということはない。
エクシアがGNソードを展開し向かう機体の中枢を貫く…はずだった。
ところがイナクトは演舞のようなキレのある機動で実体剣を寸でのところで回避し、全速の体当たりをエクシアに叩き込む。
(何…!?)
偶然か、と自分に刷り込ませつつ刹那は銃弾を巧みに回避していくも、イナクトはまるでエクシアの行く先を予知でもしているかのように回り込み追い立てられていく。
次第に銃弾がエクシアの装甲で弾け着弾による揺れがコクピットの刹那に焦りと共に伝わり、イナクトのパイロットの技量を証明してみせる。
「俺の動きが読まれている…!?」
『ハッハッハ!機体はよくてもパイロットはいまいちのようだな?ええ?ガンダムさんよぉ!商売の邪魔しやがって!』
「この声…」
外部スピーカーから響く有頂天な心境を表す男の声。
その声質は刹那を遠い過去へと誘うには適任な程に彼の体の奥底に染み付いていた。
それは彼の血にまみさせた大元にして、その男にまんまと思うように利用された自分を今では嫌悪している。
だからこそ自分はこのエクシア、ガンダムに乗っているのだ。
『頂くぜぇ、ガンダム!』
-何故…何故お前がここにいる!アリー・アル・サーシェス!