機動戦士ガンダム00 ~切り拓く明日~   作:ジャスサンド

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00の前半ってこういう政治関連の話が多くて時折、このセリフこの場面であってるっけってなりがちです


MISSION4 利用

東京の朝は格別人通りが多い。

通勤通学に出る者、買い物に外出する者、何の目的もなくぶらぶらと散歩をする者。

とにかくたくさんの人間や車の往来が激しい街の公園に刹那とジルウェはいた。

ベンチに腰を下げ噴水から宙へ吹き出す水を眺める刹那の近くで、ジルウェはベンチの背もたれに体を預けるようにして両手に広げた新聞を拝見する。

 

 

「リアルIRAの活動休止…今日はどこもこの話題で持ちきりだな」

 

 

紙面には大きな見出しで取り上げられており昨晩のニュースでもこの件が速報で流されていた。

長らく続いていた争いが一つながらもなくなったのだ。それはつまり歴史を変えたことを意味し、今後自分たちへのマークがより厳しくなることも暗示している。

 

 

「紛争根絶に比べたら小さな変化だがこれは大きいぞ刹那」

 

「ああ。俺たちが終わらせた」

 

「そういうこと」

 

 

意見の合致を得たジルウェは綻んだ口元を新聞紙で隠しながら天を仰ぐ。

-宇宙にいる皆は大丈夫だろうか

宇宙にはソレスタルビーイングの母艦『プトレマイオス』がある。

優秀な戦術予報士と多種の個性的なクルー、そしてティエリアが乗船しているものの、敵に勘づかれるのは好ましくない。

テロリスト風情ならともかく国家規模の軍勢に襲われたら、ヴァーチェとプトレマイオスの武装だけで凌ぐのは無理がある。

そう思考を巡らせていると、どこからが聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

 

「あれ、ジルウェさんに君は、刹那・F・セイエイ…だったっけ」

 

「沙慈くん、おはよう」

 

 

昨日知り合った沙慈ともう一人同年代とおぼしき少女がいる。

一見して日本人ではないヨーロッパ辺りの白い肌をしている。

さらっとした長い金髪が目を引く見るからに活発そうな印象が顔つきに醸し出されており、こちらを指差し沙慈に訊ねていた。

 

 

「沙慈この人たち知り合い?」

 

「昨日隣の部屋に越して来たんだ。紹介します彼女はルイス・ハレヴィ、僕の学校の同級生です」

 

「俺はジルウェ・パラオ、こっちのベンチに座ってるのがさっき沙慈くんが言ってた刹那・F・セイエイ」

 

 

まるで自分から喋る気はなくジルウェに丸投げするかのように刹那はスルーし、名前も自ら名乗ろうとしない。

無口を徹底して貫く刹那はひとまず放置して、ジルウェは素朴な疑問を沙慈に投げかけた。

 

 

「学生ならこの時間は授業じゃないの?いいのかい?こんなところにいて」

 

「僕らはこの時間は授業ないんです。二人は何をしてるんですか?」

 

「こっちはまあ…日向ぼっこってところかな」

 

「日向ぼっこ?変わった人ね」

 

「よく言われるよそれ」

 

 

ルイスの一言に気分を害した様子もなくジルウェは新聞を丸め、足元の鞄に仕舞うと他人事のように話しだした。

 

 

「それにしても最近物騒だね学校とかでも話題になってたりとかするの?あの何だっけ」

 

「ソレスタルビーイングのことですか?」

 

「そうそうそれだ」

 

 

身を置いている組織の名をさも自ら出し、関係なさげに装うジルウェ。

こういう場合組織の名を不用意に出すのはNGだろうが、今の世間でソレスタルビーイングを話題にしないほうがおかしい。

それにジルウェ自身、自分たちがどう一般人に思われているのか興味があった。

 

 

「学校の皆は面白おかしく囃し立ててますよ。戦争をなくすなんて妄想だとか、世界を変える革命的な組織だとかそんなのばかりですよ」

 

「そうなんだ。ちなみに沙慈くんはどんなふうに思ってる?」

 

「正直なところよくわかりません。何がしたいのか…あんなことしてもますます争いが生まれるだけなのに…」

 

 

学生の見解にもやはり色々あるらしい。

沙慈のように存在を嫌悪する声や単なる面白話として扱われたりと、それなりに面白い答えが得られた。

ジルウェが沙慈に礼の言葉を紡ごうとすると、急に静観に徹していた刹那の声が響く。

 

 

「だがこれまでのままでも世界から争いは絶えない」

 

「…それはそうかもしれないけど」

 

 

しまった、とジルウェは困り果てた仕草で刹那を見やる。

刹那の過去に何があったのかは知らない。ガンダムマイスターは互いの素性に干渉することは基本的にタブー、暗黙の了解とされている。

だが刹那のガンダムに対する執着とも言える感情は並々ならぬ物だ。

そんな彼の前でいかに隣人といえど、民間人に話す話題ではなかったとジルウェは今になって悔やむ。

これ以上この話題について語るのはいかんとジルウェが話を切り替えようと試みるが、それより早くルイスが凄まじい剣幕で叫んだ。

 

 

「ソレスタルビーイングなんてとっとといなくなっちゃえばいいのよ!あんなのせいでお兄ちゃんが危ない目に会ったら嫌よ!」

 

「ルイス、落ち着いて気持ちはわかるけど…」

 

「お兄さん?」

 

「はい。ルイスのお兄さんルイスの故郷のあるAEUで働いているみたいなんです」

 

「私の自慢の凄腕パイロットなんだから!」

 

「…AEUのパイロットなんだ。それは凄い」

 

 

何ともまあ偶然が舞い降りたものだ。つい最近自分もAEUのカスタム機に接触され打ち緒としたばかりで、その国旗は記憶に新しい。

 

 

(聞くんじゃなかったな)

 

 

AEUの、それもパイロットならばいずれどこかの戦場で遭遇することだろう。

おそらく自分たちは迷わず彼女の兄が乗る機体を撃墜する。

そうなれば彼女は悲しむ。兄が傷つけられたことに…いやそれならマシなほうで、二度と会えなくなったら彼女は確実に自分たちを、ソレスタルビーイングを憎む。

もちろんそれが怖いわけではない。それが怖いようではガンダムに乗ってなどいない。当に機体を降りている。

ただ聞かなければどれだけ殺りづらくなくなっただろうか。

 

 

 

--------

 

 

 

モビルスーツ製造や修理が行われる格納庫。

エクシアと交戦し改修作業を受けているフラッグの前でグラハムとカタギリは黒き機体を見上げ、ガンダムの性能を語り合っていた。

 

 

 

「機体の受けた衝撃度から考えてガンダムの出力はフラッグの六倍はあると思うよ。どんなモーター積んでるんだか」

 

「出力もそうだがあの機動性だ特にあれほど滑らかな急加速に対応できるモビルスーツでなければ、恥ずかしくて誘いをかけられん」

 

「戦闘データで確認したよ。やはりあの機動性を実現させているのは…あの光る粒子に秘密があるだろうね」

 

「あの特殊粒子はステルス性の他に機体制御にも使われている」

 

 

化け物という比喩が洒落にならない末恐ろしさだ。

AEU、人革連、そしてユニオン。三軍が躍起になっているのも頷ける機体性能をガンダムは有している。

それは直接合間見えたグラハムは熟知していた。

だからこそそのガンダムに食らいつけるだけの性能を発揮するための全てをフラッグに詰め込んでもらわなければならず、それにはエイフマンの協力が不可欠。

グラハムがそう思った時その待ちわびていた、杖を持った年老いた老人が到着した。

 

 

「おそらくは火器にも転用されているじゃろうて…」

 

「レイフ・エイフマン教授!」

 

「恐ろしい男じゃ、わしらより何十年先の技術を持っとる」

 

 

機体が化け物なら開発した人間も同じかそれを上回る化け物、エイフマンはその意をこめた台詞を吐き静かにイオリアを技術者として誉め称える。

 

 

「できることなら捕獲したいものじゃ、ガンダムという機体を」

 

「同感です」

 

 

同様の意見を告げグラハムはエイフマンに敬礼を取るなり要求を突きつけた。

 

 

「そのためにもこの機体をチューンして頂きたい」

 

「パイロットへの負担は?」

 

「無視して頂いて結構。ただし、期限は一週間でお願いしたい」

 

 

無茶を言う男だ、エイフマンはそう呟きグラハムを検分するように視線を動かす。

真摯で真っ直ぐな瞳と白人にしては一風変わった物言い。

まるで日本で有名な武士が現代に蘇ったような男だ。

 

 

「多少強引でなければガンダムは口説けません」

 

「メロメロなんですよ彼」

 

 

カタギリが耳元で囁いた言葉にエイフマンは成程と頷いた。

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

 

「タリビアがユニオンを脱退か、思い切った行動にでたな」

 

 

マンションの一室でテレビの報道を皿洗いをしながら視聴していたジルウェは皿を洗う手を止め、テレビ画面に釘付けになった。

刹那も腹筋を続けながらジルウェと共にアナウンサーが知らせる情報を聞き取る。

 

ユニオンは五十以上の国家で形成された経済連合で議会制を敷いているものの、太陽エネルギー分配権を握るアメリカの独裁体制で成り立っている。

独自の太陽光発電エネルギー使用権を主張し、万が一他国から圧力があった場合軍事力を持って対抗する。

 

それがタリビアの声明をアナウンサーが報道した内容だった。

 

 

「強気だな。これでユニオンが黙っているわけはないだろう…軌道エレベーターがあるからか」

 

 

タリビアの主張は若干恐喝の域に達している。

ユニオンを相手にそんな真似ができるのはタリビア軌道エレベーターがタリビアの近くにあるためか、あるいは

 

 

「俺たちを利用しようとしている」

 

 

ジルウェが言わんとした言葉を刹那が画面を見据えながら呟く。

刹那の発言にはジルウェも同感だった。

間違いなくユニオンはタリビアに兵力を送りつけ攻めようとする。そしてソレスタルビーイングにユニオンを攻撃するよう仕向け、代わりに国を防衛してもらおうという腹積もりだろう。

 

 

「気に食わないな。しかしこいつはちとばかり面倒だ…俺たちが武力介入をすれば奴らの姿勢を認めることになる」

 

「武力介入をしなければユニオンの軍事行動を許してしまう…俺たちの理念に逆らってしまう」

 

「こういうのを八方塞がりって言うんだろうな」

 

 

ベランダの窓を開け風が室内に入り込み、ジルウェの纏めた髪が左右に揺れ動く。

ジルウェの眼差しは雲一つない澄みきった青空の向こうに向かれ、彼は口端を持ち上げた。

 

 

「そう焦ることもないか。今頃俺たちの戦術予報士が作戦を考え終えてるだろう」

 

 

 

--------

 

 

 

 

宇宙を航海するソレスタルビーイングの母艦『プトレマイオス』。クルーたちからは『トレミー』の愛称で呼ばれているその船のブリッジに戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガはいた。

艦長席に座る彼女の周りには他にも複数のクルーが待機しており、皆年の差はあれど同じ目的のために戦う仲間である。

 

 

「どうするんですか?スメラギさん」

 

「ちょっと少しは焦ったらどう?」

 

 

操縦席で舵を任されている陽気な性格の若い男性リヒテンダール・ツエーリが緊迫感とは裏腹な声質で問う。

それにオペレーターを担当するクリスティナ・シエラが咎め、彼女の対角で同じくオペレーターを勤めるフェルト・グレイスはさして口を挟むことなくモニターを見つめる。

 

 

「そうねえ…どうしましょ」

 

「あー!またお酒飲んでる!」

 

「おいおい…いいのかよそんな呑気に構えてて」

 

 

アルコール飲料を上機嫌で飲むスメラギにクリスティナが非難の声を浴びせ、砲撃士のシートに座すラッセ・アイオンもあきれ果てた様子で両手を上げる。

しかしそんな彼らなどどうでもいいというようにティエリアが研ぎ澄ました声色で言う。

 

 

「スメラギ・李・ノリエガ、作戦プランは?」

 

「当然決まってるわ。クリス、フェルト各マイスターに通達を」

 

 

 

 

--------

 

 

 

翌日タリビアでは進軍を始めたユニオンを撃退するべく、市街地にモビルスーツによる防衛網を展開していた。

世界が注目している。ソレスタルビーイングがどんな動きをとるのか。

 

未だに両軍共に目立った動きを見せない鎮まり帰った空気の中雲を貫いて、一筋の紫の光がタリビアのユニオンリアルドに注がれた。

 

 

「何だ!?ユニオンの攻撃か!?」

 

「いやあれを見ろ!」

 

 

重力に従って空より降り立つエクシアは予期せぬ不意打ちに、どよめくユニオンリアルド二機を無情にもGNソードの刃の元に切り捨てる。

爆発した機体を覆う炎を背後に、エクシアのパイロットはソレスタルビーイングが導きだした答えを代表して告げた。

 

 

「タリビアを紛争幇助国と断定。エクシア、目標を駆逐する」

 

「ったく人様を利用しようとしやがって、デュナメス、目標を狙い撃つ!」

 

「世界の悪意が見えるようだよ、キュリオス、介入行動に入る!」

 

「詩人だなアレルヤ。シェーレ、障害を取り除く」

 

エクシアの介入を皮切りに他のガンダムもタリビアのモビルスーツを破壊していく。

これがソレスタルビーイングの答えだ。それを悟ったのかタリビア側は我に帰ったように機体を操るが、どうにかなるものではない。

デュナメスの精密射撃がユニオンリアルドの武装と部位を撃ち落とし、建物に被害を与えぬよう跳躍しながらGNビームライフルを片っ端から撃ちまくるシェーレ。

 

 

「こうも住宅が密集してるとハルバードじゃ建設業者に叱られるからな」

 

「ってももう技師泣かせだぜ俺たち。こんだけ狙い撃ってんだからよ」

 

「なあにまた機械弄りできるんだ。大手を振って歓迎してくれる」

 

「だといいけどよ!」

 

 

軽口を叩きつつも絶妙な射撃で敵機を制圧するシェーレとデュナメス。

更に上空からキュリオスが畳み掛けるように援護射撃があり、僅か五分程度でタリビアの戦力の半数以上を奪った。

 

 

「暗号通信だ。ユニオンの援軍が来る前に引き揚げるぞ」

 

「了解」

 

 

デュナメスからの指示にキュリオスとシェーレは飛翔し撤退段階に入るがエクシアの機影が見当たらない。

シェーレのモニターで周囲を探ると、黒いカラーリングのフラッグに追い回されてこずるエクシアが映った。

 

 

「刹那、くそ、もうユニオンが来たのか」

 

 

確認できるだけでフラッグが三機。

二機は棒立ちに近い状態で浮遊しておりエクシアに手を出す気配はないが、唯一黒のフラッグだけはエクシアを執拗に間合いに捉えて接近していた。

その機体捌きからは以前にも感じた同種の感情が乗せられているようにジルウェには見えた。

 

 

「あのフラッグスピードがおかしいだろ…設計は大丈夫なのか?」

 

 

エクシアに食らい付くスピード。通常のフラッグの何倍もの速度を増しており、速さの恩恵が得られる分発生するパイロットへの負担が気になるところ。

どうやら黒フラッグの調整を担った人物はパイロットに優しくないのだろう。

それはともかくこのまま撤退できないようでは、いずれ本隊が合流してくるのも時間の問題。

ジルウェは観戦している風に見えるフラッグ二機のスラスター部分に引き金を引いた。

 

 

「悪いな」

 

 

丁度二発でスラスターの破壊に成功し二体のフラッグは海面に墜落していく。

黒いフラッグが僚機の損傷に気を配っている隙にエクシアは離脱を終え、シェーレもそれに続いて撤退を完了した。

 

 

「すまない」

 

「いいって、ああいう出合いは適当にあしらっておけばいい」

 

 

これに懲りたら真剣勝負や正々堂々などソレスタルビーイングとは、正反対の定義を持ちかけて来ないでほしい。

 

 

「こないだのヘリオンといいあのフラッグといいまともなのは人革だけか?」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

 

「うわああああ!」

 

「た、隊長ぉぉぉ!」

 

「ハワード!ダリル!…く、あのガンダムめ一対一の立ち合いに水を刺すとは…!」

 

 

 

グラハムは忌々しげにシェーレをモニター越し睨み付ける。

いくら合意の上でなかったとはいえ余計な茶々を入れられては、腸も煮えくり返りそうになるものだ。

ましてや戦っていた自分ではなくハワードとダリルを狙うとは卑劣としか、言い表せない行為に他ならない。

 

 

「この代償は高くつくぞ紺色のガンダム!」

 

 

 

結果としてタリビアはユニオンに保護を求め、ユニオンが利益を得た。


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