機動戦士ガンダム00 ~切り拓く明日~   作:ジャスサンド

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録画ためてた鉄血見たらとんでもないことになっとった…何故昭弘は報われへんのだ


MISSION11 生の瀬戸際

人革連との戦闘が開始されてから数分が過ぎた。

状況は最悪と言っていい。

 

ソレスタルビーイングは人革連側の策略にまんまとしてやられ劣勢に追いやれている。

まず人革連の戦艦と接触する前にスメラギはキュリオスとヴァーチェ、ガンダム二機を発進させた。

分散した二機を陽動であるとあえて人革連に悟らせ、それらを無視して本丸に直進してきた敵部隊を挟み込み潰す。

それがスメラギのプランだった。

 

しかしそれは人革連の指揮官セルゲイ・スミルノフにはお見通しであった。

彼はスメラギの意図を見抜き誘いに乗ったと見せかけるように、散開したガンダム二機に戦艦ラォホウを戦力の無い状態で分けて向かわせた。

そして今行われたプトレマイオスにブリッジが切り離された無人のラォホウによる特攻。

デュナメスの射撃のおかげで大事には至らなかったが30を軽く越える敵モビルスーツがプトレマイオスに銃口を向けている有り様だ。

 

 

「やられたわね」

 

 

スメラギは人革連の指揮官はロシアの荒熊と恐れられるセルゲイ・スミルノフだとこの時確信した。

陽動のガンダム二機への対処の仕方といいトレミーへの布陣といい、いずれもスメラギが頭に叩き込んだセルゲイの戦術に似通っている。

 

 

ガンダムの支援を目的として製造されたプトレマイオスには対モビルスーツ用の武装も対人用の武装もない。

つまりプトレマイオスの戦力と言えるのはたった五機のモビルスーツ、すなわちガンダムのみ。

しかしこの局面で一番頼りにしたいデュナメスは脚部のジェネレーターが使えず本来の力を発揮できないため、射出口に足場を固定しながらの射撃を強いられている。とてもではないが頼りにできるとは言い辛い。

キュリオスとヴァーチェが離れている今エクシアがプトレマイオスの防衛にあてられているのだが、いくら刹那の技量が並外れていようとも数の差を埋めるのは至難の業。

しかもティエレンにはどうもエクシアと刃を交えるのを避けているような動きが見られ、それが刹那を心身共々にかき乱す。

その統率された動きにスメラギは引っ掛かりを覚えていた。

 

 

(どういうこと…?一気に仕掛けてこないなんて)

 

 

ガンダムの性能をあちらが危険視しているとは言えども物量では完全に上に立っている以上、数の差で包囲するなりなんなりするのがセオリーのはず。

ティエレンの動きといいプトレマイオスの撃墜の他に何か大きな目論みがあるように思える。

そこまで思考したところでスメラギの脳裏にある可能性が閃く。

 

 

(まさか敵の狙いはこの艦じゃなくガンダム…セルゲイ・スミルノフの狙いはガンダムの鹵獲…!)

 

 

そう仮定するとティエレンの奇妙な動きもつじつまが合う。

あくまでもプトレマイオスへの攻撃は足止め程度言わば仮の主目的。

裏の、本当の目的は陽動に向かったキュリオスかヴァーチェどちらかの、あるいは両方のガンダムの鹵獲。

だとすると今頃アレルヤとティエリアは敵の術中に嵌まり攻撃を受けているだろう。

だがそれが分かったところで目の前の敵の群れを何とかしなければ救援もままならない。

 

 

(やってくれるわね。さすがロシアの荒熊というべきかしら)

 

 

そう呟くスメラギの声色には僅かに焦りの色を含んでいるぐらいで、両の瞳はしっかり目前の戦況を見据えている。

 

 

「まだよ…まだその時じゃない…」

 

 

いずれ敵の寝首を掻く絶好の機が必ず来る。

その時に必要な機体がこちらにはある。

時には窮地に陥った味方を救う機体となり、時に存在を知られることなく障害を排除する機体。

それを可能とするガンダムに乗る者に要求されるのは技術でも特殊能力でもない。

如何なる状況下においても的確にかつ即座に、不利な形勢を覆す肝っ玉の座った冷静な判断力と精神力。

 

 

「頼んだわよ…」

 

 

スメラギは祈るようにその人物の名を心中で呟き、モニターで展開する戦闘に全神経を注いだ。

 

 

 

--------

 

 

 

プトレマイオスが人革連の精鋭部隊の襲撃に悪戦苦闘している頃、日本ではある家族が東京の高級レストランにて夜食をとっていた。

 

 

「美味しいわねこの料理お寿司、といったかしら?」

 

「はい、日本に古くから伝わる伝統料理でシャリと呼ばれる白米の上に新鮮な魚介類を乗せた職人の腕が問われる料理、そう記憶しているが間違っていないだろうか?ルイス」

 

「そうそう、どんどん食べて。沙慈もほら」

 

「う、うん…」

 

 

ネクサスと彼の母が寿司に舌鼓を打つのを目の前にルイスが傍らで萎縮して縮こまっている沙慈に寿司をよそう。

 

 

「遠慮しないでいい沙慈君。それとも寿司は嫌いなのか?」

 

「いえそんなことはないです…でも僕、迷惑じゃありませんか?」

 

 

本来なら自分はこの場にいるべき人間ではない。

ルイスがどうしても家族にちゃんと沙慈を知ってもらいたいとせがまれたのだ。

当然久々の一家団欒を台無しにするのは沙慈としては絶対に避けたいのだが、ルイスが退かず断り切れず彼女の言われるがまま来てしまった。

 

 

「そうね迷惑だわ。でも来てしまったものはしょうがないわわざわざ足を運んだ方を追い返すのも礼儀に反しますし」

 

「私も君に特別な嫌悪感のようなものを抱いているわけではない。日頃ルイスが世話になっていることへの私からの感謝の表れとして受け取ってくれ」

「ね、言ったでしょ。大丈夫だって」

 

「そうは言うけど」

 

「しゃきっとしてよ沙慈、今日はママとお兄ちゃんに沙慈のこと知ってもらうために沙慈をここに呼んだんだから」

 

 

耳打ちを打つとルイスは向かい側に座る家族に語りかける。

 

 

「沙慈はね,小さい頃にお父さんとお母さんを亡くしてお姉さんと二人きりでずっと暮らしてきたの。両親に代わって仕事を頑張って自分を育ててくれてるお姉さんをバイトも掛け持ちして支えてる頑張り屋なのよ」

 

「まあ」

 

「なんと…」

 

ルイスが沙慈の身の上話を話した途端それまで壁を作っていた二人の態度に変化が訪れようとしていた。

寿司を掴む箸が止まり、坦々とルイスの言葉に耳を傾けている。

それを好機とみたルイスはここぞとばかりに沙慈の苦労話を思い付く限り喋り倒す。

饒舌にあたかも実際に目撃したかのような質感を持って語るルイス。

そんな彼女の姿勢と沙慈の境遇により聞いていた二人にある変化が訪れた。

 

 

「どうやら私貴方のことを誤解していたようですわ」

 

「君のような誠実な友人がルイスの側にいてくれて兄としてとても嬉しく思う。改めて言わせてほしい、ルイスが本当に世話になった」

 

「それに貴方よくよく見てみれば若い頃のお父さんによく似てるわ」

 

 

よほどルイスの語った話が応えたのか、先ほどとは打って変わって二人は沙慈に好意的な態度になる。

急な変わりように戸惑う沙慈へルイスがどうだやってやったり、とばかりにウィンクを送った。

 

 

「ママとお兄ちゃん、こういう系の話にすごく弱いの」

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

ありがたいような申し訳ないような、反応に困った沙慈は乾いた笑いでしかルイスに返す術を持ち合わせていなかった。

 

 

 

--------

 

 

 

 

キュリオスは捕らえられヴァーチェもソーマ・ピーリスの操るティエレン超兵仕様型を相手に攻めあぐねている頃、プトレマイオスも窮地に陥ろうとしていた。

デュナメスの射撃は真価を発揮できず思うような戦いができないこと、プトレマイオスからの火器による援護が一切ないこと。

それらの皺寄せを食らいながらもエクシアは敵を沈めてはいるが、戦況を翻すだけの成果は挙げられていない。

絶え間なく続く人革連の砲撃は船体を揺らしブリッジにもその余波が轟く。

 

「嫌だ、死にたくない…」

 

 

譫言のように唇を震わせて呟くのはクリスティナ。

皮肉にもオペレーターであるからこそ、状況判断はそれなりに長けているが故に、この危機的状況がもたらす恐怖を敏感に感じとった。

サポートだけの役割で前線で戦う自分の姿を微塵も予想していなかったのも合間って、恐怖は余計に膨れ上がる。

スメラギからの指示も聞き取れてはいるものの言葉を返すのもにろくにできない程だ。

 

 

「嫌だ…」

 

「-生き残る!」

 

そんな彼女を叱咤するように声を張り上げたのは向かいに同じくオペレーターを務めるフェルト。

大人しい彼女が感情を乗せたのにブリッジの誰もが驚いたが今は気に留めるゆとりはない。

フェルトも同様で画面と睨み合いながらクリスティナに言った言葉をもう一度自分に向けて、囁いた。

 

 

「生き残るの…必ず」

 

 

生きて必ずソレスタルビーイングの目標を達成する。

そうでなければ両親が生きた意味も、両親の意志を継いだ意味がない。

 

 

 

 

面白いぐらいに上手くいっている。

セルゲイ・スミルノフの武勲は末端の兵にも轟いている。人革連でも指折りの技量を誇る彼が直々に考案した作戦なのだ。ミスさえ犯さなければ何の問題もなくもうじき終わるだろう。

ティエレンを駆りソレスタルビーイングのスペースシップを数の暴力で潰しにかかる人革連兵の一人は、口角を吊り上げ勝利を確信した。

 

 

(いくらガンダムでもこれではどうにもなるまい。もはや奴らはじり貧、このまま畳み掛ければ我々の勝利だ)

 

 

ユニオンにもAEUにも成し遂げられなかったガンダムの滷獲そしてソレスタルビーイングの討伐。

それを人革連が成したとなれば、世界の勢力図も人革連内部の技術向上も一変する。

一気に人革連が二つ軍の技術力を上回り、世界を牛耳ることも容易だ。

-精々悪あがきを続けているがいいソレスタルビーイング

嗜虐的な笑みがヘルメットの内側で沸き上がったその時、狭苦しいコックピットに警告音が鳴り響く。

 

 

「なんだ!?」

 

 

ソレスタルビーイングのスペースシップから東南の方角に浮遊するなんのへんてつのない隕石。

その表面に突如紺色の機影が現出し、両肩に装着された武装からミサイルが大量に放たれた。

ガンダムと同じく緑の粒子を帯び散らばったそれらは黒い海を横切って、ティエレンの装甲に着弾。

被弾したティエレンはことごとく部位が吹き飛ぶか、当たりどころが悪い機体は跡形もなく爆散していく。

 

「バカな、先まで影も形も…」

 

 

そう一瞬でも意識を反らしたのが運のつき。

ミサイルをかわすことに専念するあまり彼は見落としていた。

ソレスタルビーイングのスペースシップから銃口が伸びていることに

 

 

「は-」

 

 

長距離射撃型のガンダムのスナイパーライフルが火を吹き、そこから伸びた桃色の射線が彼の視界を、彼を構成する体の細胞に至るまで焼き尽くした。

 

 

 

 

『ナイスアシスト』

 

「ナイスショット」

 

 

暗い無重力の海底に咲き乱れる光を尻目にロックオンとジルウェは賛辞を送る。

シェーレには他の四機のガンダムのような突出した性能はなく装備も至って標準的な兵装ばかりだ。

しかしシェーレのGNドライヴは他のガンダムの物とは異なる調整が施されてあり、それによりGN粒子とステルスシステムの相性は抜群。

本来移動とステルスを同時に併用して扱うことはできないが、特殊な仕様が為されたシェーレに関してはその制限がない。加えて高性能レーダーも備わっている。

だがそれらと引き換えに火力と機動力、いずれも平均を下回る欠点が生まれてしまったのだ。

 

 

 

ミサイルボットを装備したシェーレは隕石から進み出残りのティエレンにビームライフルの一射の元、牽制していく。

整っていた陣形が崩れ人革連側は次第に後退しつつあった。

それを逃さずエクシアが懐に切り込み、デュナメスとシェーレの銃撃がその援護射撃として加わり着実に敵数を減らしていく。

このまま全滅しかねない勢いに追いやられたティエレン部隊の後方に、光信号が打ち上がる。

 

 

「あれは…」

 

『光信号』

 

 

それを合図に残りのティエレンは撤退しプトレマイオスは危地を脱した。

 

 

『ほんとギリギリのところまでよくこらえてくれたわね』

 

「だがまだ安心できない。このままキュリオスの援護に向かう、そっちは」

『ティエリアの方に向かうわ。アレルヤは任せたわよ』

 

 

ミサイルボットをパージし低下した機動力を元に戻したジルウェはスメラギからの通信にそう返し、機体を駈る。

数分程度で宇宙空間に漂うキュリオスの機影を捉えたシェーレは制動をかけて、その傍らに浮遊した。

 

 

「無事か?アレルヤ」

 

『僕は…』

 

「アレルヤ?おい!」

 

『…ジルウェ』

 

「しっかりしろ。自力で戻れるか」

 

『ああ、大丈夫だ』

 

「なら安心した」

 

 

そうは言ったがアレルヤの声は微かに震えていた。

それに気付かないジルウェではない。

キュリオスの近くに浮かぶティエレンの物とおぼしき残骸に目がいく。

人革連の猛攻を受けたのだからティエレンの残骸があってもおかしくはないのだが、編隊を相手にしていたにしては質量が足らなさすぎる。

だがその違和感を覚えたのも一瞬、アレルヤの変調にはさほど関係ないだろうと踏ん切りをつけキュリオスと並んでプトレマイオスへ帰還した。

 

 

 


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