最近リアルの方が落ち着きオルフェンズ二期も始まりましたので、これからは少し投稿スペースが上がると思います
『お父さんとお母さん…僕とお兄ちゃんのこときらいなの?いつもお仕事ばかりで全然構ってくれないじゃん』
『そんなことないさ。お父さんとお母さんが忙しいのは僕たちを大事に思ってくれてるからこそなんだ』
いつ頃のことだろう。
どれぐらい昔の話かはうろ覚えだが、この時話した内容は今もなお鮮明に記憶に残っている。
確か親に構ってもらえないのが悲しくて拗ねている弟をあやしていた時のことだ。
『寂しいかもしれないけれどお父さんとお母さんはちゃんと僕たちのことをちゃんと考えてくれてる。お仕事が忙しいのはその気持ちの現れなんだよ』
『よく…わからないよ…』
『うーん、もう少し大きくなったらわかるようになるよ』
そう言ってはいつも弟の頭を撫でるのが日常の一部になっていた。
慰める自分も弟と大して年の差のないませたガキみたいなものだった。
自分の言葉の意味を本当に理解していて言ったのかはっきりしないような、年下の弟の前で弱みを見せまいと強がる虚勢を張った子供だった。
ただ何年もの年月が過ぎた今でもしっかり覚えていることが一つだけある。
幼い子供心に信じていた。仕事に明け暮れる両親が世界で最高で自慢の肉親だと……この時はまだそう信じて疑わなかった。
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ソレスタルビーイングの母艦プトレマイオスには展望室が設けられている。
戦闘用もといテロリストの活動用スペースシップに何故そんな施設が作られたのか、クルーの誰もその理由を知らない。
さして必要ではない空間なのだが使われないというわけでもなく、ある少数の者にとっては宇宙空間を眺めながら落ち着ける休息の場として使われている。
ジルウェもその中の一人であった。
彼はどこか遠いところを見るような目付きで暗く素っ気ない宇宙の黒い海を、ガラス越しに眺めている。
一体どのくらい前の時間からこうしているのか本人もよく分かっていない。
ただ特にやることもなく自室にいるのも退屈だから何となく展望室に足を運んだ。それだけの理由でプトレマイオスに着いてからずっとここにいる。
「ジルウェ…?」
ぼんやりと手放していた意識が低音ながらも透き通る声質の主に呼びかけられたことで、ハッと覚醒する。
ジルウェは白昼夢にいるような重たい頭をどうにかフル活動させ、自分の名前を口にした少女に目線を移す。
「どうかしたかフェルト?」
フェルト・グレイス。
刹那と一つ年下のピンク髪が映える少女。
オペレーター担当で口数が少ないものの、非常に優秀なクルー。
クリスティナにとっては大人しい妹のような存在で、プトレマイオスのクルーにおいても最年少のまさに女の子らしい雰囲気を漂わせている。
「休憩もらったからちょっと来てみただけ、ジルウェは?」
「俺も似たようなものだ。整備をしようにもイアンに断られて駄目、部屋にいたってやることはないしで何となくここにいる」
「そう、隣いい?」
「ああ」
顔色を変えず左に立つフェルトを見ると正直損をしているように思う。
顔立ちは美少女のクラスに入るだろうし心根も優しい子であるのは、日頃の様子とクリスティナの溺愛ぶりから察せられる。
素材はいいのだから表情豊かな年相応の少女らしい性格になったら、まさに非の打ち所のない美少女の出来上がりだ。
(いつだったがクリスティナがぼやいてたが同意だな。確かにもったいない)
顔を合わせ談笑する都度フェルトの話題になると、必ず女の子らしくなって欲しいと吐露するクリスティナの愚痴に散々付き合わされているジルウェは尚更そう思う。
しかしフェルトはジルウェがそんなことを考えているなど露知らず、呟く。
「ジルウェは自分の家族のこと好き?」
そう言うフェルトの声はいつもながら淡々としている。
だがそれでいていつもとは違うどこか儚げな感じに聞こえた。
「昔はな…好きだった」
「今はどうなの?」
「大嫌いだ…」
「悲しいね」
たったそれだけで会話が終わり、展望室内を静寂が飲み込む。
ジルウェもフェルトも口を開かず、ガラス越しに映る宇宙空間をただただ眺めていると自動ドアが開く音が背後から発生した。
「ジルウェ、それにフェルトも。珍しい組み合わせだな何の話してたんだ?」
たまたま通りがかり、混ぜてくれと言わんばかりにフェルトの左に移動するロックオン。
彼にもフェルトはジルウェと同様の質問を投げ掛けた。
「家族の話…ロックオンも自分の家族は嫌い?」
「そんな話か…好きだ…いや好きだったってのが正しいか」
その言い回しに目線を合わせていなかったジルウェは反応し、ロックオンを見やる。
わざわざ過去形に言い直した。その理由には早々に検討がついたからだ 。
「お前の家族…まさか…」
「想像通りだ。俺がガキの頃に死んだ…テロで両親と妹をいっぺんに殺された」
「…そうか」
やはりというか予想された事実だった。
以前ミッションで共に行動した際一般人が巻き込まれる事態に陥ったことがあった。
その時ロックオンの並々ならぬ怒りが、言動の節々に如実に現れていたのを記憶している。
「そうしんみりすんなよ。昔の話さ今更そんな気にしちゃいねえよ」
「…ならそういうことにしといてやるよ」
「そうしてくれ…それよりフェルトはどうなんだ?自分の家族のことどう思ってるんだ?」
より雰囲気を悪くしない内に自分の話は終わりと踏ん切りをつけたロックオンはフェルトに話を振る。
「好き。お父さんとお母さんはソレスタルビーイングの第二世代ガンダムマイスターだった。とても優しかった…寂しくないようにっていつも遊んでくれた…いつもぎゅって抱きしめてくれた…今日が二人の命日なの」
失った両親を思い出し視線を落とすフェルト。
俯く彼女の柔らかなピンクの髪にそっとジルウェが手を置くと、ゆったりと頭を撫でる。
「あ…」
その手つきは様になっていて眠気を誘うような心地好さにフェルトは満たされた。
母のような暖かく父のような大きな手が幼い頃の記憶を呼び覚ましてくれる。
気恥ずかしいのかそっぽを向いて目を合わせようとしないジルウェにロックオンは内心ほくそ笑み、フェルトに囁くように告げる。
「意外にシャイな奴なんだよ」
「無遠慮などこかの誰かよりマシだ」
それがしっかり耳に入っていたジルウェがロックオンに苦言を呈する。
その反応を期待していたロックオンはくすりと含み笑いで返す。
「そういうことにしといてやるよ」
からかう笑みと共につい数分前に言ったのと全く同じ言葉を返されたジルウェはふてくされて室外へ、逃げるように立ち去った。
「やれやれ…ああいうところが可愛いやつだろ?」
調子に乗ってからかい過ぎたと反省する素振りを微塵も見せずロックオンはフェルトに言う。
可愛いの意味がいまいちよく分からなかったが仲間が覗かせた意外な一面に、フェルトは少し戸惑いを覚えていた。
「よもやこれほど近くにガンダムがいたとはな」
人革連の超武に命じられた今回の任務はセルゲイの軍人人生の中でも最大級の難易度を誇る内容だ。
世界を混乱に陥れている私設武装組織ソレスタルビーイングの有する高性能モビルスーツガンダムの滷獲。
それが今回の主目的だ。
六十以上の宇宙型ティエレンとティエレン・タオツーを駆る超兵ソーマ・ピーリスを投入した人革連でも大規模な戦力を従えているセルゲイだが、成功するかは五分五分とも言えぬ確率だと踏んでいた。
ユニオンとAEUも躍起になってソレスタルビーイングの壊滅を狙ったが、数機のガンダムにあえなく敗残している。
しかしセルゲイもれっきとした軍人である。
上の意向に従い必ず形のある結果を残さなければならない。
「これで収穫を得られなければ私の立場がないな」
『中佐間もなくソレスタルビーイングのスペースシップがあると思われる宙域に差し掛かります』
「作戦を決行する。各機油断はするな。ガンダムの性能は我々を遥かに上回る心してかかれ」
報告を受けたセルゲイは部下とそして、一番に自分自身に言い聞かせるようにその指示を下した。
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宇宙で大規模な戦闘が火蓋を切ろうかという時、経済特区東京でもある種白熱した激戦が繰り広げられていた。
「ルイス帰るわよ」
「やだ!ママ離してよ!」
その戦い、というよりかは口論を引き起こしているのはルイスとはるばるスペインより日本を訪れた彼女の母だ。
ルイスを連れ戻そうとする母とそれに反抗する娘。見事に主張が食い違ったためにこの口論が勃発したのだ。
最初こそ穏やかだった口論も互いが己の主張を頑固として引き下げようとせず、静まるどころか過激さを増していた。
そのため元来積極性が薄い沙慈が割って入れる余地がなく、二人を咎める者は誰としていなかった。
「どうしよう…」
「わかりました、その件に関しては帰国した後改めてお伺いします。ええはい、では」
困り果てた沙慈の視界に携帯電話を切りながら一人の男が割り込んだ。
沙慈よりも五つか六つは離れているように見える大人びた風貌に、ルイスや彼女の母と同じく淡い金色の短い髪をした男。
モデルのような着こなしをした彼に沙慈は同性ながら見とれていると、母に抵抗していたルイスが驚きの声を上げた。
「嘘、お兄ちゃん!?」
「久しぶりだなルイス。変わりないようで何よりだ」
「お兄さん…?」
それまで揉めていた母の存在はどこへやらルイスは兄と呼んだ男にそそくさと駆け寄り、満面の笑みを浮かべる。
「お兄ちゃんも来てたんだ」
「母上からお前に会いに行くと聞いてな。私も休暇を利用して同行させてもらった」
「じゃあしばらく日本にいるの?」
「ああそのつもりだ」
「やった!」
満足そうに跳び跳ねるルイスに機嫌を良くした男は、一歩離れた位置で妹を見守っていた沙慈に気付く。
「彼は友達か?」
「沙慈よ。私のボーイフレンド沙慈には前に話したと思うけどこの人が私のお兄ちゃん」
「ハレヴィ家の長男ネクサス・ハレヴィだ…いつもルイスが世話になっているようで助かるよ」
「あ、はい。沙慈・クロスロードです。こちらこそルイスにはいつも世話になってます」
ネクサスと手を握りあう沙慈。
しかしおどおどする沙慈が癪に触ったのかルイスが彼のそんな態度を指摘する。
「こら沙慈もっとハキハキしてよ!私の彼氏でしょ!」
「ちょ!?ルイス!」
「か、彼氏!?」
「……」
思いがけないことを叫んだルイスに他の者は三者三様の反応を露にした。
沙慈は羞恥から頬を赤く染め、ルイスの母はその発言に口をあんぐりさせて驚き、ネクサスは雷に打たれたように膠着状態になる。
「貴方本当なの?貴方がルイスの彼氏というのは」
「いえ、あの、えっと」
強烈な剣幕で詰め寄るルイスの母に沙慈がたじたじになる。
「沙慈君…だったか」
「は、はい…」
「その辺りの話…君の口から詳しく聞かせてはもらえないだろうか…」
言葉遣いこそ丁寧だがその顔には先まであった温かみが失われている。つい先の温和な男の面影はない。
それを目の当たりにした瞬間、沙慈はある一つの確信が芽生えた。
最早この時点では自分がこの状況から逃れる手段はないと
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緊急アラームが艦内中にうっとおしく鳴り響く。
こちらの居所が敵方に露見されたのだ。
何でもGN粒子の性質を逆手に取りこの辺り一帯の宙域に双方向通信機がばらまかれていたとのこと。
「どこかは知らないがやってくれたなおい」
手早くパイロットスーツに着替えたジルウェはいち早く乗機のコクピットに乗り込む。
整備を終え万全な状態になった機体を起動させ戦闘準備に取りかかる中、ブリッジよりスメラギからの通信を受信する。
『敵に既にこちらの位置は特定されているわ』
「数と所属は?」
『まだ確認できない。双方向通信によるトレミーの捕捉ができたことからおそらく人革よ』
「それまた今一番会いたくない相手に目をつけられたな」
ここ最近の武力介入においてAEUとユニオンには正規軍の機体を破壊し損害を与えたが、人革連の被害は実質ゼロ。
次に何か策略を講じてくるとしたら人革連だろうと踏んでいたところに、双方向通信機を利用した物量作戦が展開された。
高確率で人革連が絡んでいるのは間違いないだろう。
『プランS-2を使うわ…いいわね?』
「タイミングは?こっちで勝手に判断していいのか」
『基本的には一任するわ。でもタイミングを見誤らないで…このプランのキーマンは貴方よ』
「ああ」
『シェーレ発進準備に入ります』
カタパルトに運ばれたシェーレの両肩にミサイルポットが追加される。
『射出タイミングをシェーレに譲渡します』
クリスティナのアナウンスを聞いたジルウェはゆったりとした動作でペダルを踏み、噛み締めるように自分の名を呟く。
「ジルウェ・パラオ、ガンダムシェーレ障害を取り除く」
人革連とソレスタルビーイング。
二大勢力による初の正面からの体現が開かれた。
オリキャラやオリジナルMSの設定って挙げた方がいいですかね?ガンダム系のSS見てるとほとんどの方が欠いていたので