待っていた夜は 作:厨二患者第138号
この国に未練はない。
俺は第二の故郷の景色を遠くから眺め、そして前を向いた。思い出の詰まったボロ屋は最後にしっかり掃除をした。立つ鳥跡を濁さず、という訳ではないがそうすべきだと思った。
腰にはじいさんが残したと思われる剣を添え、何故かボロ屋にあった黒い外套を身にまとう。恐らくどちらともじいさんが俺のために用意してくれたものだ。
剣には『愛してる』という文字の他に、沢山の文字の様な何かが刻まれていた。それは外套も同じで、目を凝らしてよく見ると似た様な文字が書かれている。
「大冒険の始まり、か」
心が躍らないと言えば嘘になる。だが、ソレ以上に不安があった。
俺は今年で十四歳となる。一応前世、つまり日本人だった頃を入れれば四十を超えるおっさんだが、それでも徒歩の一人旅と言うのは初めてだ。不安にならない方が難しい。
路銀は窃盗と怪しいバイトで十分に用意した。食料だって節約すれば二週間はもつように調整して持ってきた。野盗に襲われても対応できるよう、独学でありながらも瞬間移動的なムーブを活かした剣の修行した。
準備は沢山してきた。
しかし、それでも不安は拭いきれない。これからどうなるかという恐怖、無事に次の町までたどり着けるのかという不安、何よりも『影の国』は本当に存在するかという疑問。
懸念に思う点は多々あり、それを解消する術は今のところない。『影の国』にいたってはじいさんの遺言以上に存在を証明する材料がない。
目的の存在が不明瞭な無謀な旅。残念だが、現状はこう言わざる得ない。
「はぁ、ホント、これからどうなるんだろう」
非力な俺は、ただため息をつくことしか出来ないのだ。
―――――――――三年後――――――――
「影の国、か。随分と懐かしい単語を聞いたもんだわい」
「おじいさん、知ってるんですか?」
第二の故郷を発ってから三年。ようやっと俺はそれらしい情報源を見つけた。
そしてその情報源と言うのがこのいかにも歴戦の戦士だったっぽいおっさんだ。因みに彼の名前は物知りジダンと言うらしい。
「知ってるも何も、元は儂も影の国を目指す武芸者だった。お前さんも影の国を目指すものならば、少なからず武術に精通しとるじゃろう?」
「まぁ武術と言っていいかは微妙だけど、それなりには」
俺が出来る事なんて不意をついて後ろから刺すことくらいだ。とはいえ、一応じいさんの瞬間移動的な武術っぽい何かを用いて不意打ちしているので、一概に武芸が出来ないという訳ではないが。
「ふむ、そうか。ところでお前さん、肌が薄黒いが中東の辺りから来たのか?」
「そうですよ。しっかり言葉通じてますか?」
目深にフードを被っているのに見抜いてくるあたり、やはりこのおじいさんただ者じゃない。
人を呼ばれると面倒なことになるのでどうか黙ってほしい。現在ヨーロッパ諸国と中東方面の国々はかなり仲が悪い。
そんな中で俺みたいな『ザ・ペルシャ系』の容姿を持った人間が町をうろついていたら奴隷と勘違いされるか、或いは問答無用で襲い掛かられる。
因みに現在地はドイツかポーランド辺りにある町。恐らくポーランド大国だと思われる。勉強は嫌いじゃないので、ここらの言葉は頑張って覚えた。
「若干訛りが見られるが問題ないじゃろう。安心せい。多くを語らねば誰にも分からんじゃろうて」
「ご忠告ありがとうございます」
いい人で良かった。というか、ピンポイントで俺の不安を解消してくるあたりやはりこのおじいさん(ry
兎も角、俺は内心かなり安心していた。
「それで、出来るだけ詳しく影の国について教えてくれませんか? 大恩人兼家族の遺言でそこを目指しているんです」
「いいぞ」
「……え?」
おう、マジか。
何か面倒な条件とか出されて、今やドラゴンの出番なんてないクエストや何がファイナルなのか分からないファンタジーばりのお使いをさせられるんじゃないのかと思っていただけに、何か拍子抜けである。
いや、本当にそんな簡単に教えちゃってもいいものなの? 俺ってばここまで漕ぎ着けるのに三年掛かったんですよ? 寧ろもっとなんかこう、無理難題吹っかけられて四苦八苦するだろうと思ってかなり身構えていたんですのよ、よ?
俺のそんな複雑な思いが老人にも届いたのか、含みのある笑い方をして告げる。
「ここまで苦労してきたんじゃのう。じゃったら儂も何か面白おかしく難題でも出そうかのぉ」
「やめてください、死んでしまいます。主に俺が」
割とマジで切実に何度も頭を下げてお願いする。できればもう何事もなく目的を達したい。詐欺とかもう勘弁なのである。
俺の反応に老人は心底面白そうに笑うも、すぐに眉間にしわを寄せて神妙そうな顔になる。
「生半可な力では影の国に足を踏み入れる事すら叶わんぞ? そしてもし仮に国境を踏み越えたとしても、その先は幻想種ばかりの秘境。思うに今のお前さんでは――――――死ぬぞ?」
――――――死ぬ
その言葉を聞いた瞬間に背筋に嫌なモノが走った。
俺はその重みを知っている。実際、それを間近で見たからだ。
目の前の老人もその言葉の重さと意味を正しく理解しているだろう。
その上で、俺は答えた。
「……だとしても、俺は行かなきゃいけない。じいさんが俺に残してくれた最後の言葉だったんだ。『影の国へ行け』って」
目の前の老人は目を瞑り、そして口角を吊り上げた。
それが恐ろしいくらい様になっていたのが印象的だった。
「いいのう、若さというのは。後先考えず、それでも走り切れれば本物じゃ。故に、いいじゃろう。影の国の在りかを教えてやる」
老人はそう言って、重そうに腰を浮かして俺の手を握った。突然の行為に戸惑うも、それを突き放す気にはならなかった。
ただ奇妙には思ったので俺は問いかけた。
「……あの、これは一体」
「ふむ。魔術の才能はそれなりか」
「は? 魔術?」
「何だ、知らんのか」
魔術。それはファンタジー界の王道と言っても過言ではない学問、或いは技術である。しかしそれは本来フィクションであり、現実にはそんなものは存在しない。
そう、
というのも、俺は一度超常的な現象に遭ったことがある。輪廻転生だ。俺は一度転生を経験し、第二の人生を歩んでいる。そしてそれこそが魔術の存在を示していると言えるのではないか。
「はい、申し訳ないです。魔術なんて絵空事だと思っていたもので。まさか本当にあるんですか?」
俺が尋ねると、老人は質問には答えずに腰を折って地面に何か文字の様なモノを書いた。その文字は何となくだが、俺の纏っている外套やじいさんの剣に刻まれている文字と同じような雰囲気があった。
「儂もあまり得意という訳ではないのだがな。何、とはいえ基礎程度ならばできなくはない。――――――ほれ、これが魔術だ」
老人はいくつか文字を掘った後、俺の方に顔を向けた。彼の手先から青い光の様なモノが文字に流れた、その時だった。
文字が、燃えた。
まるで意味不明だ。薪や油が継ぎ足されているという訳ではないのに、何故か火が消えることは無い。むしろ時間が経つにつれて火の勢いは増していく。
代わりに老人の手先から青い光の線が文字のあった所に流れていく。まるでそれがエネルギー源とでもいうかのように。
「その、青い線は……?」
「流石に気づくか。これは魔力。魔術を扱うために必要な、そうじゃな、燃料の様な役割を果たす」
老人の手先から青い光の流れが途絶えた。それと同時に火の勢いは衰えていき、やがて消えた。
『……す、すげぇ』
俺は思わず日本語で驚きの声を出してしまった。しまった、そう思って老人の顔を窺う。
しかし、どうやら老人は俺の突発的に出た日本語を中東の言語だと思ったようで、さして気にするような素振りは見せなかった。その様子を見て、俺は胸をなでおろした。
「何を安心しておる。お前さんが中東から来た事なぞ誰にも話さんよ」
「そういう意味じゃ……ああ、いえ、ありがとうございます。しかし、それが魔術ですか。何か、こう、思った通りかっこいいですね」
「ははは、かっこいいか。お前さんは知らないからそう言えるのじゃろうが、本来魔術を扱うものは常に死と隣り合わせじゃ。もっとも、儂は魔術師ではないから言うほど死に近いわけではないが」
ん? それはどういう意味だろうか。
魔術が使えるからと言って魔術師とは限らない。ならば、何をどうすれば魔術師と言えるのだろうか?
老人の言い分だと魔術師は常に死が付き纏う事に対して、老人の様な魔術を使えるだけの人間は死ににくいという風に聞こえるのだが。
いや、そもそも魔術を扱うこと自体が命がけだという事にかなり驚いている。魔法とか魔術とかのファンタジーに憧れを持っていただけに、少しショックである。
「すみません。質問いいですか?」
「無論、何でも聞くと良い」
気前のいい返答に驚くが、何も特別な事を聞きたいわけではないのでそのまま尋ねる。
「魔術師とおじいさんの違いは何ですか? いまいち違いが分からないのですが」
「む? そうか、お前さんは魔術の見識が深いわけではなかったのだったな。ふーむ、何と答えてやれば良いやら」
老人は顎の髭を弄り、しばし思考に耽り始めた。その時、顎に触れる指の内親指がないことに気が付いた。切れ味のいい得物で切り裂かれたのか、不謹慎だが断面は非情に綺麗である。見れば、他にも肌が露わになっている個所には痛々しい傷跡が多く刻まれていた。
それだけで、老人は少なくとも以前は堅気ではないのだと分かった。
「一言で表すならば魔術師は学者。儂の様な人間は放牧された家畜とでもいえばいいか」
言い終えた老人は上手いこと言ってやったぜ的な、そんな良い表情をしている。有体に言えばドヤ顔というやつである。
しかし残念なことに前者の方は分かるのだが、後者はまるで意味が分からん。
学者と言うくらいなのだから魔術師という人種は魔術を研究し、魔術を発展させていく者達の事を指すのだろう。
では、老人の言う家畜とは一体何か。
想像出来得るのはある程度魔術を修めた後に、魔術師に実験の道具として使われる事。他には魔術とは違って研究する気がない人たちの事か。だとすると、家畜の意味が通らない訳だが。
「家畜、ですか?」
「正しくは放牧されている家畜、だ。放牧はある程度自由を許されておるじゃろう? もしかすると野生にかえることもある」
「と言いますと?」
「基本、儂らの様な魔術をただ一つの道具として行使する者たちを魔術使いと言う。そして魔術使いは魔術師とは違って『魔術』を目的としていない」
成程、つまり魔術使いはただ魔術を行使できるだけの者達の総称。魔術師と違ってあくまでも魔術は手段に過ぎないのだ。
だが、ソレだけではわざわざ家畜と称した意味がない。
「魔術使いの実力もピンキリ。才能のある人間は魔術師に狙われる。また、魔術を習うには魔術師に教えを請わなければならない。家畜とはそういう意味ですか?」
「ほう、頭の回転は悪くないようじゃな。そうじゃよ、しかし喜べ少年、お前さんは運がいい。なんせ目の前にいるのは魔術使いだ。魔術師の様に研究材料にはせんし、対価を払う必要はない」
「対価、ですか?」
「魔術師の世界では等価交換が常識じゃ。相手にしてほしい事があれば、こちらもそれ相応の事をしなければならない」
当たり前と言っちゃあ当たり前だが、どうも聞いた限りだと魔術の世界はシビアらしい。何となくお近づきになりたくない人種だな、魔術師って。
……しかしさっきからこの老人、親切にもほどがあるんじゃなかろうか。何故か先程も何でも答えると言っていたし、今も無償で魔術を教えてくれる気でいるらしい。
ぶっちゃけて言うと、逆に優しすぎて不気味だ。
今日までの旅路でここまで親切な人間は皆無と言ってよかった。見知らぬ人間だしそれが当然だと思っていた。だが、その常識がこうも裏切られると、逆に疑いたくなる。
「……あの、ここまで聞いておいてなんですが、貴方はどうしてここまでしてくれるんでしょうか。ハッキリ言ってしまいますと、俺は少し貴方を警戒しています」
もし老人の行動が全て善意から来るものだとしたら、俺の発言はあまりにもあんまりなものだが、ここだけは明確にしておきたい。
老人は果たして俺の味方なのか、もしくはソレと全く反対に位置する人間なのかを。でないと、俺はこの老人とマトモに会話できる気がしなかった。
「じゃろうな。儂自身もここまでお人よしだったか疑問に思っておる。きっとお前さんの若さに充てられたんじゃろうなぁ」
すると、老人は俺から目を離してどこか遠くを見るような眼で空を見上げた。
まるで計り知れない。それが俺の老人に対する評価だった。
ただ、少なくとも分かることは、この老人は決して邪な思いで俺と会話している訳ではないという事だ。
「して、どうする少年よ。影の国の前に、そこまで至るために強くなる気はあるか?」
酷く優しい声音だった。
そして老人は親指の欠けた掌をこちらに差し出してくる。
その姿がじいさんと重なった。
老人の手を取るのに時間はかからなかった。
友人A←無課金で☆五持ち「☆四の中で最も悲しみを背負ってるバーサーカーってベオウルフだよな」
しじみ←最初に当てた金鯖がベオウルフ「は? 何言ってんの? ベオの兄貴滅茶苦茶宝具強力じゃん」
友人A「火力はヘラで十分だし。しかもヘラの方が戦闘継続力高いし。つーか絆礼装も強力だし」
しじみ「っぐ! でもほら、ベオの兄貴はビジュアル面で優れてるじゃん? 今回の高難度クエストでもクリティカル発生ダウンで活躍したし……」
友人A「でもガッツの仕様変更でベオウルフの唯一あった戦闘続行弱くなったよね。ヘラはその分回避があるからマシだったけど」
しじみ「っぐふっぅ!?」
お願いします。ベオの兄貴の強化を……。せめてガッツの仕様をもとに戻してくださいぃ……