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──マジでなんなの? 意味分かんないんだけど……
てかもうホント最悪……なんでうちばっかりこんな目に合わなきゃなんないのよ……
あいつらに乗せられて体育祭運営委員長になってしまったばかりに、うちはここ最近毎日酷い目に合っている。
友達だと思ってた遥とゆっこに裏切られて、また居場所がひとつも無くなって、毎日辛くって……
そしてこんな気分のまま家に帰るのが嫌だったから、たまたま気晴らしにやってきた千葉で、たまたま気晴らしに入ったドーナツ屋で、うちは変な女に絡まれている……ホントに最悪……
× × ×
「じゃあ失礼しちゃっていい?」
突然絡んできたこの女は、うちの返答とか一切聞きもしないで勝手にうちの向かいに座る。
てか笑顔なのに敵意剥き出しなんだけど。なんかムカつく。
「えっと、相模さん……だよね。あたしは折本かおり。ちなみに比企谷とはおな中」
「は!? ……なんでうちの名前まで知ってんの!?」
そもそもこいつがなんでうちを知ってるのかさえ分からないってのに、まさか名前まで知ってるなんて……マジでキモい……
──ああ、そっか、そういうことか──
「ああ、それは…」
「ああアレでしょ。あいつに泣き付かれでもしたんだ。相模のせいで学校一の嫌われ者にされちゃった〜! とかなんとか言ってきたんでしょ、あいつ。……マジでうっざ……」
ぶっちゃけあのキモい奴に女友達が居たってこと自体が超意外だってのに、まさかその女友達に泣き言を言ってたなんてね。キモッ……
……いや、女友達が居たってこと自体は不思議でもなんでもないか……だってあいつは、あの雪ノ下さんにも結衣ちゃんにも信頼されて慕われてんだから。
……クソッ、なんであいつばっかり……
「で? なに? 比企谷に泣き付かれたお友達のあんたがその仕返しにでも来たってワケ? ぷっ、笑えるんですけど」
もう全てに対してイラつきしか無いうちは、初対面でありながらこの女……折本さんとか言ったっけ。その折本さんとやらを煽る。せいぜいうちのイラつきを軽減させてよ。
……でも折本さんにはうちの煽りなんて聞こえてないかのように、とても意外な反応をした。
「……学校一の、嫌われ者」
「……?」
……知らなかったの? うちはてっきり知ってるもんだとばかり思ってたんだけど。
「……はぁ〜……そっか、やっぱり、か……。やっぱそんなんなっちゃってんのかぁ。……ったく、あのバカ……」
なんだ、知らなかったんだ。まぁ友達にそんな惨めな自分を教えるのなんてみっともなくて格好悪いしね。だからあいつはお友達とやらのこの人に、そんなみっともない自分を黙ってるのか。……ハッ、笑える。
……てか、それって今のうちにも言えることじゃん……クラスのみんなの前で遥とゆっこにハブられてるところ見られちゃって、格好悪くて逃げ出したうちと一緒か……
……だめだよ南。今はそんなこと考えたくないから、こうして現実逃避したくてひとりで千葉に来たんじゃん。気を紛らわせる為にさ……
それなのにこんな変な女のせいでまた嫌な思いさせられてどうすんのよ。
「あ、そう。知んなかったんだぁ、あいつが今ウチの学校のみんなから嫌われてるって。じゃあ教えてあげるけどさ、あいつ、文化祭んトキにうちに酷いことしたのよ。なんか知んないけどバカみたいに暴言吐いてさ」
だったら……腹立つからお友達にも教えてあげるよ比企谷。
…………いい気味だ。あんたも友達に裏切られちまえ。
そう思って教えてやったのに、折本さんはあっけらかんとこう返してきた。
「ああ、あたしそれ知ってるから。てか比企谷探してたらたまたまその現場に出くわしちゃったのよね。だからあたしは相模さんのこと知ってんのよ」
「……は?」
なん、で? あの現場を直で目撃したのに、なんで折本さんは比企谷と友達やってんのよ……?
「へ、へぇ〜、あ、あれ見てたんだ……」
……あれを見られていた。
怒りのままに女子に暴言吐いて泣かせるなんて酷い行為を目撃しても、平気であんな奴と一緒に居られる女……
その事実は、うちの心の奥の奥……最も深い部分に封印しなくちゃいけなかった考えをチクチクと刺激してくる。……チクチクどころじゃない……ナイフでグサグサと刺されてるみたい。
途端に動悸が激しくなり、引きつった顔が熱を帯び出すのを感じる。でも、顔はこんなにも熱いのに、同時に血の気が引いていくのも感じてしまうという、とても不思議な心境に襲われてしまう。
──ダメだ! この考えを思い浮かべちゃうちはダメになってしまう……!
だからうちはさらに折本さんに絡むのだ。胸の奥に仕舞い込んだこの考えを、そんなわけ無いって、そんなのはうちの勘違いだって、自分自身で否定する為に。
「……あ、あんなん目撃して、よく友達とかやってられるよねー。……だってあいつとか超クズじゃん! 女にひっどい暴言吐いて泣かせてさぁ! ……折本さんだっけ? あんたもあんな奴と付き合うのやめたらぁ? 見たトコ折本さんも学校じゃ派手なグループに属してんじゃないの? あんなんと付き合いがあるとか知られたら困るんじゃないのぉ?」
うちの問いかけに折本さんはきょとんと首をかしげる。
「へ? なにが困んの?」
そんなことも分かんないの? …………それとも、分かった上での行動なの……?
だとしたら、この女とこれ以上居るのはマズい……うちは、この女から逃げなくちゃ……!
うちの深層心理が警戒警報をガンガンに鳴らしまくる……これ以上折本さんに突っ掛かるのは悪手にしかならないって。
いつの日からかうちが蓋をしてしまったあの考えを白日の下に晒さない為にも……
「だってあんなんと付き合いがあるってバレたら、周りの友達から下に見られちゃうじゃん。ちょっと考えたら分かんない? フツー」
なのになんで……? なんでうちはまだ突っ掛かるの……? これ以上はマズいよ……!
もう自分自身がなにをしたいのか分からない。馬鹿馬鹿しいから帰るって席を外せば済む話じゃない!
すると折本さんはうちのそのセリフを聞くと深く深く溜め息を吐く。そしてうちに心底つまらなそうな瞳を向けてこう言うのだった。
「……くっだらなー」
× × ×
く、下らない……? なによそれ……なんであんたにそんなに冷めた目で見られてまで下らないなんて言われなきゃなんないのよ……!
これ以上関わるのはマズいのに、うちの頭はカァーっと熱くなってしまう。
早く帰ればいいのに、ムカついてしまって帰宅を選択することが出来ないでいるうちに、折本さんはさらに言葉をぶつけてくる。
「なにそれ? 自分が付き合いたいと思った友達と付き合うのに、周りからの評価まで気にしなきゃなんないの? それなんてオトモダチ?」
「……っ!」
「あたしはさ、比企谷と本当に友達になりたいと思ったから友達やってんのよ。そこには他の友達がどうとか周りからの評価がどうとか、そんな下らない要素はひとっつも介在しない。つーかそんな下らないこと考えてまで薄っぺらくてしょーもない友達関係続けるくらいなら、あたしにはむしろそっちが要らないわ。だってそんなのと一緒に居たってウケないし」
……なんにも言い返せない……。だって、うちは最近その友達とも呼べないような薄っぺらなオトモダチ関係に、あっさり裏切られたばかりなんだから……
そして、この人にはそんな薄っぺらなうちを全て見透かされているようで。
嫌なのに……負けを認めるみたいなものだからこんな態度は取りたくないのに、うちは思わず俯いてしまう。
「……なーんかウケない。興醒めしちゃった」
「……?」
興醒め……? こいつ興醒めって言った!?
うちに……? うちがつまんない奴だってこと……!?
──あぁぁ!! マジでムカつく!!
どうせ今この女はうちをつまらないモノでも見るかのように見つめてんでしょ? 何様のつもりよ!?
だからうちは思わず俯いてしまった顔を上げて折本さんをキッと睨みつけた…………のだが、そこにあった折本さんの顔は、うちを見下すのでも軽蔑するのでもなく、なんだか悲しそうな複雑な顔をしていたのだった。
× × ×
「……あたしが、たまたま相模さん見かけて声掛けたのはさ、ふたつほど目的があったんだよね」
「……は? なに、目的って……」
「ひとつめは単純に聞きたかったから。今比企谷がどういう状況になっちゃってんのか。……あいつあたしが気に病むと思ってんのか知んないけど、「別に前と変わらん」としか言ってくんないんだよね。でもやっぱどうしても気になっちゃったからさ、相模さん居たから、じゃ、ちょうどいいや! ってね。……ま、あたしが聞く前から勝手に全部話してくれたから助かったけど」
「……」
「んでふたつめは…………、せっかくだからちょっと文句言ってやろうかと思ったのよ。まぁどうせ悲劇のヒロインぶった底の浅い女に懇切丁寧に教えてやったって解りゃしないだろうけど、それでも何にも文句言わない比企谷の変わりに、ちょっとでもこの女に現実を教えてやろうかと思ってた。……ずっと、あたしが比企谷になにかしてあげられることってないかなって思ってたから、これはいい機会かもって…………でもさ」
でも……と、そこまで言うと折本さんは悲しい顔でうちを見つめる。
──ヤバい……ヤバいヤバいヤバい……! お願い! お願いだからその先は言わないで!
「……なんで相模さんは、比企谷の悪口をあたしに話す時、あんなにつらそうな顔すんの? 大嫌いな奴を貶すんなら、馬鹿にしたいんなら、もっと楽しそうな顔して話せばいいじゃん。アハハって可笑しそうに笑ってればいいじゃん。……それだったらあたしだって相模さんに対して思いっきり言えたのに。思いっきり罵れたのに。……だから興醒めしちゃった。なんにも解ってないバカな女にストレスぶつけられなくなっちゃったから。……だってさ」
……お願い、だから……その先は言わないで……
今はまだ自分の中だけで済んでる、単なるうちの勘違いのはずなのに……どうしようもない考えのはずなのに、それを他人に言われてしまったら、もう認めざるを得なくなってしまうから……
──ああ、やっぱやめとけば良かった……こんな会話、早く切り上げとけば良かった……
もう早く家に帰りたい……早く家に帰ってお風呂入ってあったかいベッドに入りたい……
「……たぶんだけど、さ……相模さんって気付いてるでしょ。……実は自分が、本当は比企谷に救われてたんだって」
──その瞬間、うちの心の奥の奥の方で、ずっと認めないように、考えないようにしていたなにかが、ガラガラと音を立てて崩れてしまったような気がした……
続く
まさかのさがみん視点でしたがありがとうございました!
ぶっちゃけ読者さまが期待してたようなお話では無かったんじゃないかな?とは思います><;
この話し合いは本当は1話で終わる予定だったのですが、思ったよりも長くなってしまいそうだったので2話に分けることにしました。
というわけで次回も笑い無し涙無し面白み無しのさがみん視点でお贈りいたします(白目)