今回は、ついに折本を語るうえでどうしても避けられないあの話について言及しちゃいます!
やー、今日はちょっと遅くなっちゃったかなー。
塾で自習してたら大志君にマックに誘われて、またなにか相談事でもあるのかなー? と思ってたら、単に二人で食事がしたかっただけらしいのです。
まぁ大志君のご厚意(ご好意)は嬉しく思うわけなんですが、小町的にはやっぱりどこまでいっても永久的にお友達止まりだと思うんですよねー。ま、小町はみんなの小町ですし。
でも、それでもあえて誰の小町かと挙げるとしたら、そこはもちろんお兄ちゃんの小町だね☆
あ、今の小町的にポイント高い!
なんて思いながら、小町はお兄ちゃんの部屋の扉を勢いよく開けたのです。
「たっだいまー! お兄ちゃんごめーん! 遅くなっちゃったけど、お兄ちゃんのことが大好きな小町が只今無事帰還しましたー! あ、今の小町的にポイ……」
「……」
「……」
……部屋の、空間の空気がぴしっと固まる。
だって……そこに居たのは、ほんのりと頬を赤らめてベッドを背もたれにして座るお兄ちゃんと、そのベッドの上で無防備に寝そべる女の人だったから。
× × ×
「お兄ちゃん、あれ何?」
小町の前で正座をする兄に、そう一言告げる。
さっきまでは笑顔で着席を促してたけど、今の小町にはもう笑顔はないよ。
「え、何って……?」
「そういうの今はいいから。さっきのことに決まってんじゃん」
「……ああ、まぁ知らないかもしんないけど、あいつは中学の同級生でな」
「そんなこと知ってるよ…………折本先輩でしょ」
「なんだ、知ってんのか」
──うん。小町は折本先輩とは直接面識は無いけど、同じ中学だし折本先輩は結構有名人だったし、……それに…………
とにかく小町はあの人をよく知っている。そう、本当によく……
「……小町が聞いてんのはアレ誰? ってことじゃなくて、なんであの人がお兄ちゃんの部屋に居んの? ってこと」
ホントに小町には意味が分からないよお兄ちゃん。だって、折本先輩っていったらさ……
小町のその想いが顔に出ちゃったのか、お兄ちゃんは心配そうに小町を見つめてくる。
「あー、っとだな、小町。もしかして、折本のこと嫌……苦手だったりすんのか?」
……おや? わざわざ嫌いじゃなくて苦手に言い換えたね。お兄ちゃんの癖に、女の子が答えづらそうな質問を、答え易いように気を遣って言い換えるだなんて感心感心。それちょっとポイント高いよ?
でも別に小町は、嫌いか? と問われようと苦手か? と問われようと、それに関しては答えは決まってるんだ。
「折本先輩のことは別に嫌いじゃないよ。っていうか、からっとしてる感じは結構好き……」
そう。小町は折本先輩自体には、お世辞でもおべっかでもなくて、本当に好印象を持ってる。
あの人は小町が苦手とする“女の世界の裏側”みたいな裏表がほとんど無いっぽいし、見ていてホントに気持ちがいい。
もしも雪乃さんや結衣さんみたいな出会い方をしてたら、むしろ小町の方から進んで友達になって欲しいと思えるくらいの素敵なお姉さんだと思う。
……でも、ね?
「ただ……周りにいた人たちが、その、ね……。ちょっと、あんまり……いい感じはしなかった、かな……」
小町だって分かってる。小町が進んで友達になりたいって思えるってことは、つまりは折本先輩には人が……友達が集まるってこと。折本先輩はあのからっとした性格上、自分と友達になりたいっていう人が集まってくれば、どんな人でも分け隔てなく友達になる。
そして友達が多いってことは、その多種多様な友達の中には小町が苦手とする部類の人だって少なからず居るわけで、それは仕方のないことだと思う。
──そう。頭ではちゃんと理解してるんだけどね……
× × ×
お兄ちゃんがまだ小町と同じ中学に通っていた頃、お兄ちゃんは折本先輩に告白して振られた。
そしてその“振られた”って事実は、瞬く間に学校内での今をときめく流行りの笑い話になった。
でも小町は別にその事で折本先輩に対してどうこうっていう気持ちは無いんです。
だって、好きでもない男の子から告白されて振って、その事を仲の良い友達に相談するのなんて、ホントにどこにでもある、ありふれたお話だから。「ビックリしちゃったよー、昨日比企谷にいきなり告られちゃってさー」なんて、仲の良い友達内だけでの軽口だったんだろう。
それは決して褒められたことでは無いけど、友達大好きでデリカシーの無……奔放な折本先輩みたいな人にそこまで要求しちゃうのは酷だと思うんですよ。
小町だって仲の良い友達だけになら言っちゃうこともあるかもしれないし、実際に友達から相談されたことだってありますし。
それに、そもそも告白する側にだってそれなりの、友達に言われちゃう覚悟くらいは必要だとも思う。
振られたあとに「誰にも言わないでね」なんて涙目で懇願してくる情けない子なんて、だったら初めから告白なんかすんなー! って思うのです! 以上、小町の実体験講座でした!
でも問題は、折本先輩は普段誰かから告白された時となんら変わらないように、仲の良い友達に“告白されて振った”事実をただ伝えただけなんだとしても、その当事者……伝えた側と伝えられた側が、それを面白がって人に言い触らす嫌な友達だったってことと、からかわれる対象になりやすいお兄ちゃんだったってこと……
あのことでお兄ちゃんがどれだけ傷ついていたかよく知ってる小町としては、どうしても折本先輩の周りに居た、悪意で人をからかって楽しむ人たちを容認する事なんて出来ないのです。
……そしてごめんなさい。その事について折本先輩にどうこうっていう気持ちが無いだなんて小町の大嘘です。頭では別に悪くないって思ってるつもりなのに、それでもやっぱり折本先輩のことも……小町的にはあまり好ましく思えないのです……
だから本当に全く理解出来ないのです。なんで今さらお兄ちゃんと折本先輩は仲良くしてるの……?
× × ×
小町は、もうあんなお兄ちゃんは見たくない。
雪乃さんたちのおかげで、せっかく最近はかなりいい感じになってきてるのに、また折本先輩に関わることで、もうあんな辛そうな顔をして欲しくない。
だから小町は、今から少しだけお兄ちゃんにキツくあたるよ? なんで折本先輩と関係を持ってるのかは分からないけど、せめて可愛い妹を納得させるくらいの説明はちょうだいね……?
「……小町だって、アレが折本先輩のせいだなんて思ってないんだよ。そもそもあんなことになったのはお兄ちゃんが全面的に悪い! 折本先輩の性格も周りの友達の質も考えないで、勝手にバカやって勝手に自爆しただけなんだから。……でもさ、だからと言ったって、今度は大丈夫なの? なんで折本先輩と仲良くしてるのか小町は知らないけど、またあの時みたいに……折本先輩絡みで痛い目見たりすんじゃないの?」
するとお兄ちゃんは、正座のまま小町からの咎めるような言葉をしっかりと受け取ってくれる。
「……そう、だな。すまん。ちゃんと説明するわ。なんであんなことになってたのか。……ただその前にまず一言だけ言わせてくれ。……大丈夫だ。折本は……ああ見えて結構信頼できるやつだ。……つーか、その……と、友達だ。……だ、だからもう折本絡みで痛い目とかは見ない」
──お、お兄ちゃんがデレたー!?
小町はいま信じられない現場に立ち会っています!
あのお兄ちゃんが……友達って言った!?
ぶっちゃけお兄ちゃんが折本先輩を部屋に連れ込んでいたことよりも、その折本先輩がお兄ちゃんのベッドでゴロゴロしてたことよりも、この発言に小町は一番衝撃を受けたのです!
……そしてお兄ちゃんは語ってくれました。
文化祭で小町と別れてから起きた出来事を。
折本先輩と再会して、嫌々ながらも共に行動した事、文実でやらかしちゃった事、その現場を折本先輩に目撃されて話し合って、友達になった事。
そして今日、直接は言わないにしても、その文実の顛末を心配してわざわざ会いに来てくれた事。
どのエピソードを語ってるときもお兄ちゃんが少し嬉しそうに話していて、内容もさることながら、その表情もその空気も、全部が全部、小町の折本先輩への不信を晴らすに足るものでした。
やっぱりそれでももちろん思うところはあるのです。なんであの時、お兄ちゃんの立場を考えて行動してくれなかったの? なんで質の悪い友達に話しちゃったの? って、あまりにも身勝手で身内贔屓な思いが。
でも、それでもあの時はあの時、今は今。
少なくとも今のこのお兄ちゃんの顔を見れば分かる。お兄ちゃんは今まさに折本先輩に救われている。お兄ちゃんにはそんな自覚はまだ無いかも知れないけどね。
だから小町は忘れます。あの時のこと。
でもね? やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんでした。
せっかく小町も納得して綺麗に話がまとまると思ったのに、ここでとんでもないバカで勘違いなセリフを吐くんですよ、このごみぃちゃんは。ご丁寧に頭をぽんと優しく撫でながら。
「だからまぁ、心配すんな。もうあの時みたいに、小町に嫌な思いはさせない」
それはもう小町はぽかーんとしましたよ。なにを言っちゃってるの? この愚兄は。
たぶん小町が感動して優しい笑顔にでもなると思ってたんだろうね。お兄ちゃんはそんな疑問符を浮かべまくっている小町に対して、どうしていいか分からないって顔してる。
「はぁぁ〜……そうだよね、お兄ちゃんはそういう考え方にいっちゃうんだよねー……」
小町は深く深くため息を吐いて頭に優しく乗せられた手をばしっと払いのけ、このバカな兄にびしぃっと指を突き付ける。
「あのね、お兄ちゃん、勘違いしないでね? 小町は折本先輩の友達がかなーりムカついてただけで、お兄ちゃんをバカにされること自体は何とも思ってないし、むしろ当然だと思ってる。……別にアレが無くたって、どっちにしろお兄ちゃんなんていつも誰かしらからネタにされて笑われてるし、むしろ小町が友達との会話で積極的にネタにしてんだから」
まぁさんざん愚兄ネタを笑いにしたあとは、ちゃんと最後に「でも小町はそんなバカなお兄ちゃんが大好きなんだー」って付け加えてあげてるんだよ?
お兄ちゃんには教えてあげないけど。
「お、おう……」
小町大好きお兄ちゃんは、そんな愛する妹からの怒涛の悪口に顔を引きつらせている。
でもごみぃちゃんなんて、もっともっと顔を引きつらせて目を腐らせちゃえばいいのです!
「だから別にお兄ちゃんがどんなバカなことやったって、小町は笑い飛ばして認めてあげる。だからさ……」
そうだよ、お兄ちゃん。
小町は、別に自分が嫌な思いをしたくないから言ってるんじゃないの。
小町が言いたいのはね?
「……くれぐれも“小町の為に”とか“もう小町には”とか言わないように! そんなの、小町に取っては余計なお世話なの。分かった?」
ただ、お兄ちゃんにはほんの少しだけでも、自分のことをもっと考えてもらいたいだけなのです。
そんな小町の気持ちを知ってか知らずか、お兄ちゃんは頭をがしがし掻きながらチッと舌打ちしてこう言うのです。
「……うっせ、もう言わねーよ。ま、バカでも認めてくれるってんならありがとよ……」
ふっふっふ、よろしい! それでこそ小町の大好きなバカで捻くれてるお兄ちゃんだよっ。
× × ×
それにしても、このことで小町的にちょっとだけ困ったことがあります。
それは、確かに折本先輩がいい人でお兄ちゃんの友達だってことは理解出来たんだけど、……うーん、ホントにそれだけなのかな。
だから小町は、ようやく落ち着いた空気の中でお茶をすすり始めたお兄ちゃんに訊ねてみます。
「ねぇお兄ちゃん」
「あん?」
「お兄ちゃんってさ、中学のとき折本先輩のこと好きだから告白したんじゃん?」
「ぶぼっ!」
「ギャー! 汚いよごみぃちゃん!」
「お茶飲んでる時にいきなりそんなこと聞いてくっからだろうが!」
もう! 汚いなぁ……。小町は確かにお兄ちゃんは好きだけど、さすがに吐いたお茶とかはバッチイと思うのです……
一応お兄ちゃんと洗濯物分けてるし? お風呂だってお兄ちゃんが出たあと替えてるし?
「……もう最悪だよ〜……早くお風呂入ってこなきゃ……」
本当に心から嫌がってる小町を、悲しそうにどんより腐った目で見てますが、そこら辺は思春期の女の子なので、いくらお兄ちゃんと言えど容認は出来ないのですよ。
でも今はちょっとだけ我慢しよう。話の途中だし。
小町は近くにあったハンドタオルで少しだけかかったお茶を丁寧に拭き拭きしつつ、先ほどの話をぶり返す。……このタオルも早く洗おっと。
「……で、さ。そんな好きだった女の子と友達になって二人っきりで部屋に居たりして、なんとも思わないの?」
そう。これは折本先輩を認めたことによる小町の新たなる問題。
だってさ、もしお兄ちゃんと折本先輩がすっごく仲良くなっちゃったら……小町は立場上とても困る。
だって……小町は雪乃さんと結衣さんが大好きだし、いつの日かお義姉ちゃんにと狙ってるし。
小町はお義姉ちゃん候補を探す体で面白がってるって思われがちかも知れないけど、実はそんなこと無いんだよね。
本当はお兄ちゃんがモテ過ぎちゃうのは困るのです。だって、ヘタレなお兄ちゃんがいずれ誰か一人を選ばなくちゃいけないんだから。
現状では雪乃さんに結衣さん。あとは大穴で沙希さんもお義姉ちゃん候補の一角だけど、本当は心苦しいんだよね。小町は皆さんを応援していますが、誰か一人を贔屓する事は出来ない。
だって、小町は決して皆さんの味方にはなれないから。
だからホントはこれ以上はお兄ちゃんごときの為に傷つく人を……犠牲者を増やしたくはないのです。
これでもしも折本先輩がごぼう抜きなんてしちゃった日には、もう小町は雪乃さんたちに合わせる顔がなくなっちゃいますよ……
「あのな、確かに昔は好きだったかもしれんが、今はそんなんじゃねぇよ。ただの友達だ。だいたい折本自体にそんな気は一切無いし、間違いなんて起きようがない」
「なんで? 折本先輩がその気がないかどうかなんて、お兄ちゃんに分かるはずないじゃん」
「分かるっての。こないだ屋上で言われたしな。比企谷と付き合うのは無理だけど、友達にはなりたいってな」
「折本先輩が……? そう言ったの……?」
「……だからそう言ってんだろ……」
なんか……余計に心配になってきちゃったよお兄ちゃん……
付き合うのは無理って言った相手の家に上がり込んで、あんなに油断し切った姿を見せちゃうの? 折本先輩って。
小町だったら、付き合うの無理って思って伝えた時点で、少なからずその相手には警戒しちゃうと思うし、間違っても二人っきりであんなに油断し切った姿なんて見せられないと思う。
そりゃ男の子として見てないだけなのかもしれないけど、女の子って、男の子が思ってるよりもずっと色々と考えてるんだよ?
貞操観念がしっかりしてる子だったら、絶対になんとも思ってない異性と二人きりの部屋であんな姿は見せない。折本先輩はたぶんそこら辺はちゃんと線引きしてるタイプだと思うし。
つまりそれだけお兄ちゃんに心を許してるって事なんだよね。でも、家族でも恋人でもない“異性”の友達に、そんな全幅の信頼って寄せられるものなのかな。
だから、もしかしたら折本先輩は自覚してないだけかも知れないけど……
「まぁそういうこったから、折本はホントただの友達だ」
「…………はぁぁ……これだからホントごみぃちゃんは……」
何よりも一番の問題点は、このごみぃちゃん自身が折本先輩にこんなにも心を許してるってところなんだよね。
だって、ごみぃちゃんだよ? あのヘタレごみぃちゃんが女の子をここまで友達だと言い切るくらいに認めてるんだよ?
………………うーん……
「……んー、ま、いっか!」
「え? なにが……?」
正直これからどうなるか分からないし、もしかしたらもしかしちゃうかも知れない。
でもさ、もしかした時ってことは、それはつまりお兄ちゃんが幸せになるってことに他ならないわけで、もしかしなくたって、少なからず折本先輩の存在は今後のお兄ちゃんの人格形成に良い影響をもたらしてくれることは間違いなさそうなんだし、よくよく考えたら折本先輩の存在はいいことだらけで万々歳じゃん。
「ねぇねぇお兄ちゃん!」
だったら小町が取る手段はひとつだけ。
それは小町の人生において、他のなにものにも譲れない揺るぎない気持ち。
「……んだよ」
ごめんなさい、雪乃さん結衣さん。もちろん小町は今まで通りにお二人を応援はします。でも、味方にはなれないのです。
なぜなら……
「じゃあ今度折本先輩が遊びに来た時には、小町にもちゃーんと紹介してよねっ」
なぜなら小町は他の誰でもない、お兄ちゃんだけの味方なのです!
あ、今の小町的に超ポイントたっかいー♪
続く
ありがとうございました!
ここでまさかの人生初の小町視点とはっΣ( ̄□ ̄;)
小町感、出せていたでしょうか……?(ガクブル)
“わたし”か“私”で一人称を悩んだんですが、唯一小町視点がある原作ストーリー『原作3巻ぼーなすとらっく』にて、一人称は使わなかったもののずっと“小町的には”って言ってたんで、一人称も小町にしてみました。
さて、今回のストーリーなんですけど、これまた知ってる人は知っている『特典小説2巻』での小町のセリフを、そのままではないにせよある程度使わせて頂いて(折本先輩は好きだけど周りの友達がムカついてたとかの辺りと、八幡の勘違いセリフへの呆れの辺り)、そのままじゃつまらないので小町視点にしてみたって感じの回でした。
未だ誤解がある方もいらっしゃるかも知れないので、どうしてもこのストーリーにしたかったのですが、直接の原作では無いとはいえ、原作者さまの手によって『告られた折本が面白がって言い触らしたわけでは無く、あくまでも悪意で言い触らして笑い者にしてたのは折本の友達』という事実がようやく発覚した場面でした。
人間関係が良好な小町が言ってるので、まず間違いはないでしょう。
(てかそういう情報はちゃんと原作で出せよ……と言いたい(小声))
とにもかくにも折本を語るうえでは、どうしてもこの事は語りたいなぁと思い、今回のストーリーにしてみました!
ではではまた次回です☆