あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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ホントは8月8日に更新するつもりだったんですが、完成したら更新我慢出来ない病が出てしまいました(苦笑)


さて、前回の後書きでのクイズ(折本は一体なにをするのか?)の答えです!

正解は、






日記25ページ目 友達の終わり

 

 

 

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

 

 灯籠の淡い光に青々と浮かび上がる笹の葉が、晩秋の冷たい風にざわざわと揺すられる。

 その冷たい風は笹の葉だけではなく、俺の心も激しく騒つかせた。

 

 

 ──んだよ、寒みぃな。

 俺の突拍子も無い行動と台詞でただでさえ場が凍り付いてんのに、これ以上冷え込ますんじゃねぇよ。

 あー、早く宿帰って風呂入ってあったまりたい。今頃ウチのクラスはちょうど入浴時間なんだろうな。

 てかふざけんなよ、三泊あって結局一度も戸塚と風呂入れなかったじゃねぇかよ。なにしてんだよ俺のバーカバーカ。

 

 ……俺は目の前の少女に頭を下げて交際を申し込みながらも、心の中では恋愛感情とは全く結び付かない、そんな益体もないことを考えていた。現実から目を逸らしたいから。

 

 

 このやり方が間違っていることくらい解っている。

 ハッ……何を偉そうに言ってんだか。これが間違っているだなんて、ちょっと前までの俺なら解らなかっただろうが。

 折本と再会する前までの俺だったら、「このやり方のどこが悪い。俺にしか出来ない事を、一番効率のいいやり方で遂行しただけの話だろ?」なんて、自分を正当化してたんじゃね? ダッセェよな、ホント。

 

 でもあいつと再会して、あいつと話して、あいつと笑い合った今なら、自分がどれだけしょうもない真似をしてしまったのかが良く分かる。

 

 

 

『比企谷が言ってんのはさ、一人で生きてる人間の理論じゃん。別にあんたが一人っきりで生きてんなら、それでもいいと思うよ。比企谷にはちゃんとあんたと一緒に笑い合える子がいんじゃん』

 

 

 ああ、そうだな、解ってるっつーの。勘違いだなんて誤魔化さずに正直に認めるわ。今の俺は一人じゃない。

 いつか平塚先生が言ってたな。──君が痛みに慣れているのだとしても、君が傷つくのを見て、痛ましく思う人間もいることにそろそろ気付くべきだ──って。

 ……これがそうなのか。なんで今さら気づくんだよ、アホか。

 

 

『……比企谷のことをもっとちゃんと理解してる人が居たら、あんたのやり方でその子が傷ついちゃうんじゃないの? もし雪ノ下さんが今の比企谷と同じ行動取って、今の比企谷と同じようにこんな所で力なく座りこんでるとこ見ちゃっても、比企谷はそんなこと言えんの?』

 

 

 傷、つけちまったかな。こんな有様な俺を見せちまった雪ノ下と由比ヶ浜に。

 そして、傷つけちまうかな。こんな有様をあとから聞かされるあいつを。

 

 

 もしも、もしも……だ。もしもこの依頼者が戸部じゃなくて三浦だったら? 海老名さんじゃなくて葉山だったら? そして俺のこのクソみたいな役どころがあいつらだったとしたら?

 

 俺は、こんな下らない依頼の為に雪ノ下や由比ヶ浜、そして折本が……、葉山に告って無惨に振られる姿を目の前で見せられたとしたら、果たして耐えられただろうか?

 相談もせずに勝手にそんな真似をしたあいつらを認められただろうか?

 こんな真似をさせてしまった自分を許せただろうか?

 

 

 ──答えは否だ。耐えられるわけがない、認められるわけがない、許せるわけがない。

 

 

 そこまで解っていながら、それでもこんなしょうもない真似をしてしまった俺は本当に馬鹿野郎だな。

 

 

『当たり前のことなんだよ、俺にとっては。何か解決しなきゃいけないことがあって、それが出来るのは俺しかいない。なら普通に考えてやるだろ。だから周囲がどうとか関係ねぇんだよ。俺の目の前で起きることはいつだってなんだって俺の出来事でしかない。勘違いして割り込んでくんな』

 

 あの日バカな俺が偉そうに折本に宣ったセリフ。

 こんなバカ丸出しのセリフを満足げに吐き出して、「なにカッコつけてんの? バカじゃないの?」のたった一言でバッサリ切り捨てられたっけな。

 あれだけバッサリ切り捨てられたのに、なんの反論も出来ず情けなくも完全論破されたのに、結局俺はあの時からなんの成長もしてなかった。

 自分にならやれる……自分にしか解決出来ないだなんて自惚れ、愚かだと解っていながらも行動に移してしまった大馬鹿野郎だ。

 

 

 こんな事しちまった俺を、あいつらは許してくれるだろうか。また、あんな風に楽しく笑い合えるのだろうか。

 

 無理……かもな。もう傷つけちまったから。

 受け入れてもらえなくても、否定されても仕方がない。

 

 はぁ……折本にもすげぇ怒られるんだろうな。もう友達やめるって言われっかもな。……ああ、それは何よりも辛いな。

 あぁ、なんかまたあいつの声が聞きたくなっちまった。屈託のない笑顔のウケる! が聞きたい。もう聞けないかもしれんけど……

 

 

 ──さて、感傷に浸るのもここまでにしよう。リセット出来ない人生だ、やっちまったもんはもう取り戻せない。

 とりあえずはいま目の前の事を終わらせよう。早く終わらせて、とっとと宿帰って風呂入って寝よう。

 

 

 交際を申し込む俺に戸惑う海老名さんだが、ここまで舞台整えればあんたなら分かるだろ、俺が何を求めているのかが。

 

「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気がないの。誰に告白されても絶対に付き合う気はないよ」

 

 事態が飲み込めず硬直していた彼女だが、そこはさすが海老名さん。一旦落ち着けば冷静になるのはとても迅速だ。

 すぐさま頭を切り替えて百点満点の解答を出した彼女に安堵する。これは俺にではなく、隣の戸部に向けられた言葉だから。

 それだけ言うと、海老名さんは静かに宿へと向かう。

「話終わりなら私、もう行…」

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 …………………は?

 

 

× × ×

 

 

 まさにいま聞きたいと思っていた声が竹林に響き渡った。え、なんで?

 しかも笑顔のウケるなんてのとはまるで真逆の、怒気を孕んだかのような叫び声。

 そちらに目を向けると、そこにはやはり想像通りの人物が。

 どかどかと音を立てそうなくらいの激おこっぷりで俺に向かって真っ直ぐ歩いてくると、目前でピタリと足を止める。

 

 

 ──マジかよ。こいつ、来てたのかよ……

 勘弁してくれ……今の精神状態でこいつからのキツい言葉は耐えらんねぇよ……

 そりゃ自業自得だけども、今はもうあんま虐めないでくれよ……

 

 

 しかし折本はそんな事など知ったことかとばかりに、ドンッと効果音が出てんじゃねぇの? ってくらいの見事な仁王立ちで睨み付けてきた。

 ……ま、しゃーねぇか。俺は折本からの信頼を裏切ったんだ。いくら責められてもそれは俺がしでかした事に対する正当な結果なのだから。

 

 ただ、ここでもし折本があの事を口に出してしまっては全てが台無しになってしまう。海老名さんの真意を口に出してしまえば、このグループは崩壊してしまうだろう。

 

 ……ったく、この期に及んで俺はまだこのグループの未来なんて気にしてんのかよ。折本に言われるまでは自分ではそんな気さらさら無かったってのに、マジでとんだお人好しだな、俺。

 でも自分で自分の大切なものを壊しておいて、さらに依頼まで台無しにでもされた日には死んでも死にきれない。

 そう、だからこれは別に俺がお人好しだからではない。あくまでも俺の為の思考だ。

 

 だから俺は堂々と胸を張って折本を止めてみせよう。

 

「お、折本……ちょ、ちょっとここじゃなんだかりゃ……」

 

「……は?」

 

 全然堂々と胸を張れませんでした。だってこの折本超恐えぇんだもん……

 

「あのさー比企谷、……なにこれちょっと酷くない?」

 

 ギロリと睨め付けてくる折本はマジで恐い。

 普段とのギャップも相まって、下手したら常日頃から他者を睨みまくってる雪ノ下よりも恐いかもしんない。

 

「さっきさぁ、あんた電話で言ったよねぇ?」

 

 ってビビってる場合じゃ無かった。やっぱこいつは怒りに任せて真実を詳らかにしてしまう。

 せめてどっか移動してからにしないと……

 

「ま、待て折本……! せめてあっち…」

 

「『すまん折本、ずっと気持ちを伝えられなくて。でもやっとお前に俺の熱い想いを打ち明けられる決心が付いたんだ。電話なんかじゃ無く、今夜最高のシチュエーションで大切なお前への熱い想いを伝えたい! だから、あの場所に来てくれないか……?』って、超イケメンボイスで」

 

「…………はい?」

 

 

 ちょっと待って? 俺いつの間にそんなイケメンなセリフ吐いたっけ? 本人なのに初耳なんですけども。

 

「だからワクワクしちゃって居ても立ってもいられなくなっちゃって、こうして約束の時間よりも早く来てみたらさぁ! なによこれ!」

 

 やだ! 俺の知らない所で超修羅場ってるんですけど! なんなの? 俺ったら折本に告白するって言っときながら、その前に違う女に告白しちゃってる外道なの?

 ってそんなわけあるか。こいつ……マジでなに言ってんの……? 何がしたいんだ……?

 

 

 本当に意味が分からず、俺はただ立ち尽くすのみ。

 もちろんこの場に居る誰しもが、この突然の昼ドラ展開に完全に固まっている。

 

 すると、折本の口からさらに予想外のセリフが発っせられる。

 そのあまりにも斜めすぎる予想外のセリフこそが、この場を……この嘘告白という茶番の場を、舞台ごとひっくり返すことになるのだった。

 

 

「……いくら夜で暗いからってさぁ、告ろうとしてる女の目の前で、人違いで違う女に告っちゃうとか、いくらなんでも有り得なくない!?」

 

 

 その瞬間、この嵐山の竹林には、ピシィッと亀裂が入る音が響き渡りました、まる。

 

 

× × ×

 

 

 静寂。ただただ静寂。

 先ほどまで俺の心を凍えさせていた冷たい秋風もナリを潜め、今この場を支配するのは恐ろしいほどの静寂。

 

 

 ……い、いやいやいや、さすがにそれは無茶だろ折本。いくらドジッ子な俺でも、このシチュエーションでそんな間違いはしないだろ……

 

 え? この空気どうしてくれんの? と恐る恐る折本に視線を送ると…………っべーわ、こいつ目が超泳いでるわ。絶対いま思いついて適当に言ってみただけだろ。

 

 先ほどまでの勢いはどこへやら、途端に冷や汗を流し始める我が友人。

 しかししばらく間が空いたあと、折本の頭上に突如ピコンと豆電球が光り輝いた。

 

「……あ、あれでしょ、どうせヘタレな比企谷の事だから、告る時にあたしの顔とか恥ずくて見てらんないから、コンタクト外してきたとかでしょ。……ホ、ホントどうしようもないよねー」

 

 ここでさらなる新発見。俺って普段コンタクト使ってたんだー。へー、初耳ー。

 

「ま、まぁ? あたし的にはそんなヘタレでどうしようもない比企谷も、か、可愛いなぁ……とか思ってるし……? け、結構そういうトコ、す、すす好きだったりとか、するし……?」

 

「」

 

 なんなんですかねこれ。なんでこんな事になってんのかな。死ぬほど恥ずかしいんだけど。

 てかお前も顔真っ赤じゃねぇかよ。そんなもじもじしてそんなこと言われちゃったら勘違いしちゃうよ?

 なんでこんなワケの分からない茶番で二人して頬染めて俯いてんだよ。

 

「……だ、だからと言ったってさぁ、さすがに今のは無くない!? あたし超怒ってんだけど……!」

 

 そう言ってぷくっと頬を膨らます。

 お前あざといキャラじゃないよね……ちょっとキモいぞ、可愛いけど。

 

「……ねぇ、なに黙ってんの? ごめんなさいは?」

 

 そしてより一層声を低くして謝罪を要求してくる折本。

 

「あ、や……ちょ、ちょっと意味が」

 

「ごめんなさいは……?」

 

「ごめんなさい」

 

 謝っちゃった! だって、頭パンク寸前でこの怖さとか無理ですって。

 

 

「……まぁ、今回だけはしゃーないから許してあげる」

 

 かなりご不満なご様子ですが、なんとか許していただけたようです。良かったね、俺。

 

「……なに黙ってんの? ありがとうは……?」

 

「ありがとうございます……?」

 

「……よし」

 

 仁王立ちで腕を組んでる折本が、満足そうにうんうん頷く。

 どうしよう、終着点が見えない。

 

 

 しかし次の瞬間、この茶番劇はあっけなく終着駅に到着するのだ。次の折本の爆弾発言によって。

 

「……ま、そういう事だし? バカ比企谷のせいでムードもへったくれもない告白になっちゃったけど…………ま、仕方ないからあんたの告白受けてあげる。あたし、比企谷の彼女になってあげるよっ」

 

 え、なんだって?

 言った言葉が意味分かんなすぎて、折本の赤面ウインク&サムズアップしか頭に入ってこないです。

 

「……え」

 

「……あ、あははー、なにこれ? さすがにちょっと恥ずいんですけどっ……! ん! んん! で、でも比企谷超幸せもんじゃん。あんなしょーもないミスしたのに、こんな可愛い彼女が出来てさー。…………ま、まぁそういう事だから、今後ともよろしくね……!」

 

「……」

 

「……よろしくは……?」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「うん、よし。ひひっ、ヤバいあたし比企谷の彼女になっちゃった、ウケる!」

 

 ……えっと、これが終着点でいいのん? とんでもない無理矢理感なんだけど。

 てか、え? 俺と折本恋人になっちゃったの? なにこの超展開。

 

「あ、やっば! あたしもう行くねー。飛び出して来ちゃったから、また千佳に怒られちゃうんだけど!」

 

 そう言って嵐のように現れた折本は、やはり嵐のように退場していく。

 

「あ、なんかあたしの比企谷が迷惑かけちゃったみたいでゴメンねー。あとでちゃんと説教しとくから」

 

 海老名さんと戸部にそんなフォローを残して。

 

 

 ……あたしの比企谷ってなんだよ……。やめて! なんかムズムズがじわじわ来ちゃう!

 

 

 そして、なんだかよく分からないカオスな空間と化してしまった竹林に、最後にこんな声が響き渡るのだった。

 

 

「じゃーねー比企……はーちまんっ!」

 

 

× × ×

 

 

 古今東西、嵐が過ぎ去ったあとに残るのは静けさだけだ。

 今まさにここに残っているのも静けさのみ。俺はもちろんのこと、目の前の海老名さんも隣の戸部も、果ては後ろに隠れている雪ノ下も由比ヶ浜も葉山達も、嵐が巻き起こしていった異常な事態に頭の整理が付かないでいるようだ。

 てかこれはさすがに無理じゃないですかね。いくらなんでも人違いでしたってのは無理があり過ぎるだろ。戸部に海老名さんの真意がバレちゃったら元も子もないんだけど。

 どうしてくれんの? 折本さん。

 

「あ、あはは……も、もー酷いなぁ、ヒキタニくん。人違いで告白してくるなんてー。偉そうに振っちゃって私が恥かいちゃったじゃーん」

 

 と、微妙な空気の中まず動きをみせたのはやはり海老名さん。

 さすがだ、この事態をいち早く飲み込みやがった。

 

「いやー、それにしてもヒキタニくんもついに彼女持ちになっちゃったのかぁ。私的には彼女持ちじゃなくて彼氏持ちになって欲しかったんだけどなー。なんなら隼人持ち? ぐ腐っ。……ま、でも、……おめでとうね、ヒキタニくん。じゃあ私行くから」

 

「……あ、ああ。迷惑かけた、すまん」

 

 んーん? と笑ってペコリと頭を下げると、海老名さんは小走りで去っていった。

 

 しかし残された戸部は未だ動けず。

 一世一代の告白を横から掠め取られた上に、その後のあの無茶苦茶な茶番劇だ。動けないのも仕方がない。

 

 やっぱ無理だろ……いくら戸部でも、さすがにアレは……

 そして俺の告白が嘘告白だとバレて海老名さんの真意がバレれてしまえば、この依頼は全ておじゃんだ。……いや、このグループは全てお終いだ。

 

「……ヒキタニくん」

 

 ついに戸部が再起動した。こいつはいま何を思うのか。

 

「ヒキタニくん、マジでごめん。……まさかこんなんなるなんて、マジで俺、考えが浅すぎたわ」

 

 戸部は開口一番謝罪の言葉を漏らす。……やっぱバレるよな。

 

「ヒキタニくんは分かってたんしょ……? 海老名さんはまだ誰とも付き合う気が無いって。……それなのに俺が無茶ゆーから、振られないようにとか勝手なことお願いすっから、だからヒキタニくんは俺にそれ分からせる為に先に海老名さんに告白してくれたんしょ……?」

 

「……」

 

「……あー、俺ホント馬鹿だわー。……だからヒキタニくんさっきあんなことゆーてくれたんしょ、最後の最後まで頑張れって。……やっぱ、ヒキタニくんってすげぇ良い奴だよな」

 

 ……ばっか、だからそんなんじゃねぇって言ってんだろが。結局こうしてバレちまったわけだし。

 

「しっかしホントまさかだよなー。俺の告白のあと自分の告白も待ってるっつーのに、そんな超緊張の前に俺の為に犠牲になってくれっとか、ヒキタニくんやっぱ超すげーわ、っべーよ」

 

「……は?」

 

「いんやー、でもマジ良かったわー! もしあの嘘告白のせいでヒキタニくんの告白まで失敗してたら、俺もう立ち直れなかったかもしんねー! フツー目の前で他の奴に告ってっとことか目撃しちったら、頭きてそのまま帰っちゃうもんなぁ。おりもっちゃんが理解のある良い女で良かったわー。つーかおりもっちゃんもマジヤバくね? どんだけドジッ子だよ〜、超可愛いわー」

 

 え? なに言ってんのこいつ。

 なんなの? もしかしてマジで折本がアレを勘違いしてただけだと思ってんの?

 

 つまり戸部は海老名さんの真意に気付いたからじゃなく、俺が嘘告白したのはあくまでも戸部の為。

 そして折本のあんな茶番に対しても、折本は俺が人違いで告白しちゃったと思ったって、マジで信じちゃってるって事か?

 ……お前どんだけピュアなんだよ。

 

 開いた口が塞がらない……そんな思いで戸部を唖然と見ていると、戸部は俺の胸を拳で軽く叩いた。

 

「ヒキタニくん、わりぃけど、俺負けねぇから」

 

 何に!?

 

「やっぱ好きな女に告んのに人を頼るなんて間違ってたわ。俺、ヒキタニくんに負けねぇように、これからはちゃんと自分の力でやってみせっから。自分で頑張って、いつか海老名さん振り向かせてみせっから。……んで、ヒキタニくんに負けねぇくらい幸せになってみせっから」

 

 人好きのするニカッとした笑顔でサムズアップすると、どこか満足げに歩き去っていく。

 

「いやー、やっぱヒキタニくん捻くれてっけど超良い奴だわー」

 

「だな」

 

「それな」

 

 先で待っていた大岡と大和と肩を組んだり背中を叩かれたりしながら。

 

 ねぇちょっと待って? なにお前ら勝手にイイハナシダナーにしちゃってんの? それ、お前らの盛大な勘違いだからね? 俺べつに幸せになってないからね?

 

「参ったよ。まさかこんな手段を取るだなんてな……」

 

 すると愕然と三馬鹿の背中を見送っている俺に爽やかな声が掛けられた。え? なに? まさかお前もなの?

 

「比企谷、巻き込んでしまってすまない。そして、比企谷のやり方を知っていながら、それでも君に頼ってしまって本当にすまなかった」

 

 嫌々振り向くと、やはりそこには今回の裏の主役でもある葉山が立っていた。

 

「……比企谷の姫菜への告白を見ていた時、正直途中までは心から悔やんでいた。あんなやり方しか知らない比企谷に、俺はなんで頼ってしまったんだ……ってね」

 

 そう呟く葉山は、とても苦しそうに顔を歪め俯く。

 うるせぇよ、余計なお世話だ。

 

「……だが」

 

 しかし葉山は顔を上げる。その表情はどこか晴れやかに、そしてどこか悔しそうに。

 

「まさかあんな手段があるだなんて参ったよ。姫菜も戸部も、そして君も傷つかない驚くべき手段だった。……情けないが、君に頼って本当に良かったと思ってしまったよ」

 

 戸部達と違って折本の暴走も作戦の一部だと考えているようだが、やっぱお前もかよ……。だから違うからね? あれ考えたの俺じゃないからね?

 一番驚いてんの俺だから。

 

「……それでもやはり悔しいな。……君はいつだってそうだ。俺とは違うやり方で俺に出来ないことを、事もなげにやってのけてしまう」

 

「いや、ちょっと待っ…」

 

「君に劣っていると感じる。そのことがたまらなく嫌だ。だから俺は君が嫌いだ。……ははっ、でもこんな感情は、単なる醜い嫉妬でしかないな」

 

「だからちょっ…」

 

「俺はさっき比企谷に言ったよな。得ることよりも失わないことが大事なものだってある、と。変えたくない、と。……でも違うんだな。失うことを恐れずに得ること、変わってしまうことを恐れずに先に進むって考え方だってあるんだな。今の君を見て思ったよ。……君は、失うことを恐れずに大きな物を得た。変化を恐れずに受け入れた」

 

 ……えぇぇえ……なんなのこいつ……? 人の話聞きゃあしないで、なにひとりで勝手に盛り上がっちゃってんの?

 ねぇ、まず俺の話聞かない?

 

「だ」

 

「俺は……選ばない事を、変わらない事を選んで生きてきた。それが一番いい方法だと信じていた。……でも違うんだな。そんなやり方もあるんだな。今の変わった君を見て、そういうのもいいのかもな……だなんて、らしくないことを思ってしまうよ」

 

 そう言って葉山は苦笑いを浮かべる。

 

「……でもやっぱり俺はこのまま選ばない事を選ぼうと思う。これで生き方を変えてしまったら悔しいからな。君には負けたくない。……でも、もしもこんな俺でも変わる事を選んびたくなってしまったならば、俺も変われたならば……比企谷は嫌がるだろうけど、その時は君と友達に……いや、やめておこう」

 

 おいやめろ! そんな爽やかな微笑みを向けてくんじゃねーよ! まだ近くに海老名さん居んだぞ! あの人ニュータイプだからなんか感じちゃうってばよ!

 

 そして葉山は「じゃあ」と片手を上げて、どこまでも爽やかに去っていく。

 ……こいつやっぱナルシストだろ。完全に自分の世界に入って自分語りして、勝手に満足して行っちまったよ。

 

 

 ──失うことを恐れずに大きな物を得た──

 

 ──今の変わった君を見て──

 

 か。

 

 そんなことねぇよ。結局俺は何一つ変わってなんていなかった。

 失うことを恐れなかったわけじゃない。失う事にブルブル震えながらも、俺はただやり方を変えられなかっただけのどうしようもない奴だ。

 

 それでももしも変わったというのなら、それは俺が自分の力で変わったんじゃない。あいつに……無理やり引っ張りあげられたってだけだ。

 

 

 ……ったく、なんてことだ。

 俺は失ってしまう事を諦めてまであんな真似したってのに、あいつに……折本に全部ひっくり返されちまったよ。

 

 あんな考え無しの行き当たりばったりな方法で、あの偽物の告白が……惨めに痛々しく振られるはずだった運命が……無かった事にされてしまった。

 折本のおかげで、俺は色々なモノを失わずに済んだのか。

 

 

 

 

 ……ん? あれ!? 寒っ!! なんかいきなり体感温度が十度くらい下がった気がすんだけど……?

 

 

「……比企谷くん。これは一体どういった趣向なのか、詳しく説明してもらえないかしら」

 

「……ヒッキー、あたしも色々聞きたいんだけど」

 

 

 背後からのそんな優しい声に振り向いてみると、そこには満面の笑みを浮かべた美少女が二人立っていました。

 

 あ、俺これから色々なモノを失っちゃうかもしれないです、てへ(白目)

 

 

× × ×

 

 

 修学旅行最終日。

 東京行きの新幹線を待つ僅かな時間、俺は京都駅の屋上で人を待っていた。

 

 駅の屋上から一望できる京都の街並み。近代的な建物と神社仏閣が入り交じるそんな千年の都を眺めていると、この修学旅行での様々な出来事が思い出された。

 信じらんねぇな、ここに三日やそこらしか居なかったのかよ。あまりにも色々ありすぎて、その思い出は俺の脳の三日分程度のキャパシティーじゃ、とてもじゃないが収まりきらない。

 ま、その濃すぎる思い出の容量のほとんどは昨日の出来事ではあるけれど。

 

 

 

 柄にもなくそんな思いにふけっていると、わざわざ長い外階段を登ってくる人の姿が目に入った。

 見間違えようもない。今日この時間に、俺をここに呼び出した人物だ。

 

 そいつはニコニコしながらゆっくりと俺のもとへやってくる。

 そして右手を高々と上げてこう言うのだ。昨日あれだけの事がありながらも、そんな事など無かったかのようにいつも通りに。

 

 

 

「おいーっす比企谷ー」

 

 

 

続く

 




正解は


力ずくで自分に告白した事にして、無理やり嘘告白を無かったことにしちゃう!そしてほんのついでで比企谷の彼女になっちゃう☆


でした!


(ノ゚□゚)ノ~┻┻



説教回を楽しみにして下さっていた方々スミマセン(汗)
あの誰も幸せにならない嘘告白をハッピーエンドに変えられるのは、折本のこんな無茶な超理論くらいなもんだろうと考えてまして、この嘘告白回避シーンは執筆初期から決めておりました(^^;)




予想外に長々と続いてきましたこの友達Diaryも、ついに次回で(たぶん)最終回となります!

私はこう見えても結構折本が好きなので、折本に対して誤解をしている読者さま方に少しでも折本を好きになってもらえたらなぁ……との思いで始めたこのSSですが、まさかこんなにも多くの方に読んでいただけるとは思っておりませんでした。
本当にありがとうございました!


ではでは残すところあと1話ではございますが、最後まで楽しんでいただけましたら幸いです♪

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