あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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日記24ページ目 見たくないから、聞きたくないから、認めたくないから

 

 

 等間隔で置かれた灯籠の白い明かりが青い竹林を幻想的に照らす。

 黒い夜空から降り注ぐ月明かりも相まり、竹林がさらなる非現実感に包み込まれるこの空間で、激しく息を切らしたあたしの耳に入ってきた言葉は、まるであたしを夢の中へといざなうように鼓膜と心を揺さ振った。

 夢とはいっても幸せの夢なんかじゃないけれど。それは、そう……悪夢。

 

 

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

 

 

 ──なんで……? なんでよ比企谷……

 あたしはもうこういうことしないでって言ったじゃん……一人でカッコつけんなって言ったじゃん……

 

 あんただって……あんなにつらそうな顔してたじゃん……っ。

 

 

 ……こんなのは見たくない。聞きたくない。認めたくない。

 

 だから……だからあたしは……

 

 

× × ×

 

 

「すごいね、ここ……」

 

 結衣ちゃんがそう呟いて、この景色に優しく抱かれているようにそっと目を閉じてしまうのも無理はない。

 果ても見えない吸い込まれそうな竹林。そして葉の隙間から零れる陽の光。

 こんな光景、都会(アイラブ千葉)じゃちょっとお目にかかれない。

 まぁ実はあたし昨日来たんだけどねー。言わないけど。

 

「ええ、それに足元」

 

「灯籠か」

 

「そう。夜になると、竹林自体もライトアップされるのだそうよ」

 

 そうそう。ライトアップされるとホント綺麗なんだよね、ここ。

 

 

 

 東福寺で葉山くん達と別れたあと、あたし達は小町ちゃんの合格祈願の為に北野天満宮に寄ってから、ここ嵐山に到着した。

 

 

 やー……でもその道中は決して平坦なモノじゃ無かったんだよねー。いやまぁあたしの失言のせいなんだけどね、ウケる。

 まさかあそこで中学時代の比企谷からの告白をカミングアウトしちゃうだなんて、我ながらビックリだよ。最もあたしよりもあの子たちの方がよっぽどビックリしてたけど。

 

 だから北野天満宮に向かう最中も、絵馬書き終えてから嵐山に向かう最中も、あの二人からの質問……という名の尋問が超すごかった。

 あ、これあたし死んじゃうんじゃないの? って何度か覚悟したね、あれは。比企谷の方が遥かに死んでてウケたけども!

 

 まぁ昔の話だし? 今はそんな気さらさら無いって言う比企谷の必死の説明で不満げに渋々納得してたけど、今度はそれを目の前で言われてるあたしのか弱いハートがブレイク寸前。

 そ、そりゃさ? 文化祭の屋上ではあたしもああは言いましたけども? でもそこまではっきり言わなくたってよくない!? ちくしょー……比企谷のばーか……!

 

 そんな怒りを込めて、ここに辿り着く道すがらの買い食い中に、食べ掛けのコロッケやら牛しぐれまんやらを比企谷の口にあーんて無理やり放り込んでやったら、また雪乃ちゃん達に超睨まれてやんの! ざっまー! いや、あたしも超睨まれちゃったけどね、ウケる。

 

 でも比企谷にああ言われようと雪乃ちゃん達にこうして警戒されようと、悪いけどもう比企谷を諦める気なんて毛頭ない。

 たぶんもう、あたしには比企谷無しとか考えらんないし、雪乃ちゃん達がどんなに強敵だろうと絶対に譲る気なんてないかんねー。

 

 

 

 とまぁ笑いあり涙ありでようやく辿り着いたここ嵐山で、どうやら奉仕部ご一行は目的地を迎えたみたい。

 

「ここだ! ここがいいよ、たぶん!」

 

 雪乃ちゃんの竹林マメチの美しい景色を頭の中で思い浮かべたのか、結衣ちゃんが楽しげにくるりと回って一言。

 

「何が」

 

 すかさず比企谷がツッこむ。

 うん。ホントに何が? 主語とか一切なさすぎて意味分かんないよね、女子トークって。

 

 するとそう聞かれた結衣ちゃんはもじもじと俯き、ちらちらと比企谷を見ながら恥ずかしそうにぽしょりと呟く。

 

「こ、告られる、なら」

 

「なんで受動態! ウケる」

 

 ヤバい、面白すぎて即座にツッこんじゃったじゃん!

 だって戸部くんが勝負をキメる場所を探してたはずなのに、結衣ちゃんの頭の中ではいつの間にか自分が比企谷に告られてるであろう姿に変換されちゃってんだもん。

 まぁこうやって照れてる姿は悔しいけど超可愛いし、気持ちは分からんでもないけどねっ。

 

「じゅ、柔道、体……? あたし向いてそうかな……?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

 不思議そうにこてんと首をかしげて見つめ合うあたしと結衣ちゃん。ど、どゆことだろ……?

 

「おい由比ヶ浜。折本は別に柔道に適した体つきのことを言ってるわけじゃねぇからな……?」

 

 ……あ、そゆことなんだ。いやいやいや……!

 

「は、はぁ? ……そ、そんなの知ってるし! ヒッキーキモい!」

 

 両手をパタパタさせて真っ赤な顔で否定する結衣ちゃん。

 ゆ、結衣ちゃん、さすがにそのボケは無いって。

 

「ね、ねぇ比企谷……なんで結衣ちゃんて総武受かったの……?」

 

 あまりの衝撃にあたしは比企谷にそっと耳打ちする。

 ひひひー、こうして超近くに寄ると、比企谷の耳が真っ赤になって可愛いんだー。

 ……でもこうやって必要以上に近づいたりボディタッチしたりがホント増えたよね、あたし。それは照れる比企谷をからかうのが楽しいからなのか、それを口実にただあたしが比企谷にくっついていたいからなのかは……うん、そりゃ決まってる。恥ずから言わないけども!

 

「知らん。千葉の七不思議かなんかのひとつなんじゃねぇの……?」

 

「酷い!? 二人とも超聞こえてるしっ!?」

 

 涙目でうがーっと唸る結衣ちゃんと苦笑いのあたし達。

 そんな一連のやりとりが面白かったのか、雪乃ちゃんがクスリと優しく微笑んで結衣ちゃんのフォローに回る。

 

「雰囲気はとても素敵ね。ロケーションとしてはいいんじゃないかしら」

 

「だ、だよね!」

 

「そーなると、戸部が勝負すんならここか」

 

 

 ──そっかー。修学旅行前からあれだけ聞いてた告白劇が、まさかここで行われるなんてねー、超ウケる。

 ……やっぱ、運命なのかな、あたしと比企谷の出会いって……これはもう結ばれるしかないんじゃない!? なんちって。

 

 

 

 と、不意にポケットに入れといたスマホがぷるぷると震えた。

 なんぞ? と見てみると千佳からのメッセージが。

 

[おーいかおりー、愛する比企谷くんとお楽しみのとこ悪いんだけど、あんたどこに居んのー? わたし達もう宿に着いたんだけど、あんた帰ってこないと入れないんですけどー!]

 

 おっとヤバいヤバい! そんな事すっかり忘れてた。ごめんよみんなー。ちなみに愛するって一文はスルーで。

 よっし、場所も決まったし時間も時間だし、あたしはそろそろ退散しよっかな。いい加減帰らないと千佳達に怒られちゃう。

 

「あ、比企谷ー、あたしそろそろ戻るねー。千佳から呼び出し食らっちゃった」

 

「おう、そうか。つーかこんなとこでいきなり別れても帰り道とか分かんのか? 竹林出て大通りまで一緒に出りゃいいんじゃねぇの?」

 

「ん、へーきへーき。なんとなく分かるし」

 

 そうそう。超へーきなのだ。だってここには千佳達とゆうべ宿を抜け出して来てるんだから。

 

「じゃね! 今日はありがとね。雪乃ちゃんも結衣ちゃんもばいばーい」

 

「ええ、さようなら。自由行動に変な部外者が入り込んでしまったと頭痛を憶えていたのだけれど……終わってみれば、そうね。そんなに悪くもなかったわ」

 

「ヤバいゆきのんがデレたウケる!」

 

「だからあなたにゆきのん呼ばわりされる謂われは無いと言っているでしょう!」

 

「あはは、ばいばいかおりーん。また一緒に遊ぼうね!」

 

「うん、約束ー。まったねー」

 

 

 ──あたしが中学時代に比企谷に告られた女子だという衝撃の事実を知って、あからさまに今まで以上に警戒する二人だけど、なんだかんだ言ってもちゃんとあたしとの別れをこうして惜しんでくれる。

 

 やっぱあの比企谷が心を許して一緒に居るだけのことはあるよね、ホンっトにいい子たち。

 比企谷LOVEのあたしとしては複雑ではあるけども、でもやっぱ比企谷の為にもこの三人はこのまま素敵な関係でいて欲しいな。

 願わくば、その輪の中にあたしも入り込めたら超楽しいんだろうなー……なんて思っちゃうくらい、どうやらあたしはこの二人の事もかなり好きなようだ。

 ま、あくまでも……あ、く、ま、で、も、比企谷の彼女はあたしの予定で!

 

 

 ぶんぶんと手を振って三人と別れたあたしは、竹林から“僅かに”歩いた宿の前でこっそり隠れて待っててくれてる千佳たちのもとへ。

 

 そう! 実はこの決戦の地である嵐山の竹林は、なんとあたし達が泊まってる宿の目と鼻の先なのだ。なんて運命的!

 そりゃ帰り道の心配なんてあるワケないっての、ウケる!

 ゆうべ竹林を訪れた事も宿が超近い事も言わなかったのは、もしタイミングさえ合えば今夜こっそり見に来ちゃおっかなぁ? とか画策してたから。言っちゃったら絶対に拒否られるだろーし。

 

 だって超面白そうじゃん? あの軽い戸部くんがどんな告白すんのか。

 ……いや、多分そんなのはただの方便だ。実際は戸部くんの告白とかどうだっていい。

 

 

 

 あたしがずっと気になってんのは、東福寺から少しだけ変化した比企谷の表情。たぶんよっぽど比企谷の事ばかり想ってないと気が付かないほどの、ほんの僅かな機微。

 それは比企谷の癖なんだろうと思う。心配事や悩みがあっても周りに心中を悟られないように、表情に出さないよう努めるんだよね、あの馬鹿。

 ……ったく、どうでもいい下らない事だと、分かり易すぎるくらいにすーぐ嫌そうな顔するくせにさ。ホントに難儀な奴……

 

 

 だからあたしは何があるのか、何をするのか見届けたい。大好きな比企谷の事は信用したいけど、ことこういう事態となると一切信用出来なくなるんだよね……

 

 比企谷、お願いだからあんな文化祭みたいな真似しないでよ……?

 あんな風に、また自分を軽んじて傷つけるような真似したら……あたし許さないからね。

 

 

× × ×

 

 

 宿に着いて散々いじられ、食事を済ませ散々いじられ、今は各部屋でクラス毎のお風呂時間待ち。

 相も変わらず比企谷の事を根掘り葉掘り無遠慮に聞いてくる友たちを軽やかに躱し、あたしはスマホの画面の時計に意識を寄せていた。

 

 ──んー、あの作戦って何時からなんだろ?

 ちゃんと聞いとけば良かったんだけど、時間まで聞いちゃうと見物に行くってバレちゃいそうだったから聞けなかったんだよね。灯籠のライトアップの話してたから、そろそろなんだろうけど。

 でも下手したらもう始まっちゃってたりして。やっぱもう出ようかな。でもさっき宿抜け出そうかと思ったら学年主任が見回りしてたからなぁ。

 

「ちょっと折本聞いてんのー?」

 

「協力してやったんだからちゃんとあたしらの質問に答えやがれー」

 

「マジあの比企谷くんての何者なん!? ぼっちとか聞いてたわりにあんな美女二人と自由行動周ってるとか、実は競争率超高いんじゃね!?」

 

 ……もー、うっさいなぁ……! そりゃ協力してくれたことは有難いけども、こいつらちょっと楽しみ過ぎじゃない?

 ったく、どんだけ恋バナに飢えてんのよあんたら。……いやまぁ“あたしの恋バナ”ってのが超レア過ぎるのが原因ですけどもね。

 

「あーもーしゃーないなぁ……あたし今からちょっと宿抜け出すからさぁ、帰ってきたらなんでも話しますってばー」

 

 と、半ばやけくそ気味に答えた時だった。

 

[〜♪]

 

 部屋に鳴り響く、今流行りの元気で幸せなラブソング。

 マジであたしらしくないんだけど、これは最近あたしが比企谷だけに設定した着信音なのだ。

 

「うっわ、これかおりの着信ー!? 完全に旦那限定だよね」「折本がラブソングを着信にするとかウケるー」「やぁだぁ、乙っ女〜!」「死ねばいいのに」

 

 ……うぐぅ! 比企谷から電話が掛かってくることなんて稀だから、あたしがこんなの着信にしてるなんてこいつらにバレて無かったのにぃっ……!

 なにこれ!? 超恥ずいんですけどっ!

 

 

「も、もしもし!? どしたの……?」

 

 普通に考えたらこいつらが居る前で比企谷からの電話なんて出るワケなどなく、どっかに移動してから出るのが当たり前なんだけど、今はそれどころじゃない。

 だって、比企谷がこんなタイミングで電話掛けてくるなんて、あまりにも異常事態だから。

 とにかく急いで出なきゃと考えたあたしは、フゥ〜フゥ〜言ってるこいつらの冷やかし声を真っ赤な顔で我慢して、すぐさま出る事にした。

 

『おう、いきなり悪いな。……今、大丈夫か?』

 

「うん」

 

 ホントは全然大丈夫じゃないけどね。

 ……あ〜、フゥ〜フゥ〜うっさいなぁ……散れ! シッシッ!

 

「どうかしたの? 比企谷が掛けてくるなんて珍しいじゃん。今、どこに居んの?」

 

『……ああ、竹林に向かってるとこだ。もうすぐ着く。……なんつーか、ちょっとだけ折本の声が聞きた、い、いや……話したくなっちまってな』

 

「は、はぁ!?」

 

 ちょ、ちょっとこの空気の中でいきなりそういうこと言うのやめてくんない!? あたしの顔の赤さで、こいつらのニヤニヤが尋常じゃないことになってんだけど。

 

 ……と、比企谷とは思えないあまりの大胆発言に少しだけパニくっちゃったあたしだけど、冷静に考えたらやっぱおかしい。

 たぶんこの『あたしの声が聞きたくなった』というセリフには、あたしが思ってるような甘い空気なんて一切含まれてないはずだ。

 

 あたしは深く息を吐き出すと、静かに……落ち着いて語り掛ける。

 

「……東福寺で海老名さんと話してたとき、やっぱりなんかあった?」

 

『……んだよ、やっぱバレてたのかよ』

 

「ひひっ、そりゃーね。あたしを誰だと思ってんの? ちょーバレバレだっつの」

 

『……そうか』

 

 一拍の間が開き、電話越しに深く息を吐いた音が聞こえる。

 ……そして、あたしと比企谷の会話が始まった。

 

 

× × ×

 

 

『……まぁ、なんつーか、やっぱお前だけには話しとこうと思ってな。ちゃんと色々話すって約束しちまったし』

 

「うん。あんがと」

 

『……前に、海老名さんから変な依頼があったって言ったろ。……あれ、なんだったのか分かっちまったんだわ。……ぶっちゃけ、かなりしんどい内容だった』

 

「そっか。なんて?」

 

『まぁ端的に言うと、戸部からの告白を阻止して欲しいってことだな。それをされたらグループが今のままでは居られなくなるから、なんとかして欲しいっつー事なんだろう』

 

「……そっか、それは厳しいね。依頼内容、真逆だもんね」

 

『おう。……で、さっき葉山とも話した。あいつもその相反する友達からの相談に悩んでたらしい。んで、結局最後までなんにも出来なかったことに今も苦しんでた』

 

「……そっか、だからかー」

 

『だから?』

 

「あ、んーん? こっちの話。……んで? その相反する依頼の件は雪乃ちゃん達と話し合ってどうするか決めたの?」

 

『……いや、雪ノ下達には海老名さんの本当の依頼内容は伏せたままだ』

 

「……なんで……? だってそれ言わなきゃ、三人で同じ方向見て解決できないじゃん……!」

 

『だな。でも言えねぇんだよ。……だってあれは、俺だけに分かるように真実を上手く隠したお願いだからな。……つまり、俺以外には知られたくない……って事だろ。だったらそれは守秘義務ってやつだ』

 

「……あたしには……言っちゃってんじゃん……」

 

『ま、お前は完全部外者だし。……それに、お前とは海老名さんのお願いを聞くずっと前に約束しちまったからな、全部話すって。だから優先されんのは折本との約束の方だろ。ま、特例だな』

 

「……そっか」

 

『おう』

 

「……で? どうすんの……? またおかしな真似してみんなを助けんの……?」

 

『おかしな真似ってひでぇな。それに俺のやり方程度で誰かを助けるなんて言ったら傲慢だろ。とりあえず解消するだけだ』

 

「……なに、すんの?」

 

『…………』

 

「なんでも話すって言ったくせに、それは話してくんないの……?」

 

『……いや、あんま言いたくは無いが、まぁ約束だからな。ちゃんと話すわ。……つってもホント大したことじゃねぇんだよ。どうしようもないくらい下らなくて安い手なんだが……って、あ』

 

「どうかした?」

 

『すまん折本。もう現場に着いちゃいそうで、遠くから雪ノ下達が訝しげに睨んでんだわ。……どうなったのか、どんなしょうもない事をしたのか、後で全部包み隠さず話すから。…………じゃあな』

 

「ちょ、ちょっと比企谷……!?」

 

 

× × ×

 

 

 ……やっぱりか。やっぱりあの馬鹿はどうしようもない事するつもりなんだ。

 

「行かなきゃ……!」

 

「か、かおり……? どしたの? なんだったの……? 今の電話」

 

 比企谷からの電話に最初はニヤニヤしてた千佳達だけど、あたしの受け答えでどうやら何かあったんだと悟ったみたいで、みんな心配そうな目を向けてきてくれている。

 でもごめん! 今それどころじゃないんだ。

 

「みんなマジごめん! あたし行かなきゃ!」

 

 それだけ言って全力で走り出す。

 宿を抜け出す最中、先生に見つかったかどうかも分からないくらい、てかそんな事どうでもいいくらいに全力で。

 

 作戦は決行してないみたいだったから、頑張って走ればまだ間に合うはず!

 あの馬鹿がなにする気か分かんないけど、出来れば止めたい。無理でも……せめてその場に居たい。

 

 

 

 

 

 息も絶え絶えに全力疾走で辿り着いた竹林の迷宮の奥深く。

 まだ遠目でしか確認出来ないけれど、そこには一組のカップルが佇んでいた。

 そしてそのカップルに急ぎ足で近づく影がひとつ。迷いながらも確かな足取りで、そんな二人の前へと歩み寄る。

 

 

 

 等間隔で置かれた灯籠の白い明かりが青い竹林を幻想的に照らす。

 黒い夜空から降り注ぐ月明かりも相まり、竹林がさらなる非現実感に包み込まれるこの空間で、激しく息を切らしたあたしの耳に入ってきた言葉は、まるであたしを夢の中へといざなうように鼓膜と心を揺さ振った。

 夢とはいっても幸せの夢なんかじゃないけれど。それは、そう……悪夢。

 

 

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

 

 

 なんで……? なんでよ比企谷……

 あたしはもうこういうことしないでって言ったじゃん……一人でカッコつけんなって言ったじゃん……

 あんただって……あんなにつらそうな顔してたじゃん……っ。

 

 

 

 ──マジで馬鹿じゃないの?

 別にこの二人が、このグループがどうなろうと、あんたには関係ない事じゃん。

 あんたがこんな真似したら、このあとどうなるか分かってんの……?

 あたし言ったよね? いつか遠くない未来に、大切な人を傷つけちゃうんじゃないの? って。あんたの事を大切に想ってるなんにも知らない二人が、これを見て傷つかないとかマジで思ってんの……? どんだけ胸が痛いか分かってんの……?

 あんたは自分の事を大切に思ってくれる大切な人達よりも、どうでもいいはずの他人の為にまた自分を犠牲にすんの……?

 

 

 

 

 でも本当は、あたしもどうでもよくなってしまってる。雪乃ちゃんの胸の痛みも、結衣ちゃんの胸の痛みも。

 

 ……痛いよ……胸が痛いよ……雪乃ちゃんも結衣ちゃんもどうだっていいくらいに……あたしの胸が張り裂けそうに痛いよ……

 自分の大切な人が、目の前で他の子に告白をして、そして惨めに痛々しく振られようとしている。

 ……こんなのは見たくない。聞きたくない。認めたくない。

 

 だから……だからあたしは……

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 見たくない、聞きたくない、認めたくない。

 だからあたしは目を逸らさずに、自分から突っ込んで行く事にした。

 

 

 

 

 ──比企谷は変わらないんでしょ?

 あんたはそうやって、いつまでも自分を軽んじて自分を傷付けるんだ。

 

 だったらあたしはあたしらしく、そんな馬鹿でアホでどうしようもないあんたを力ずくで変えてみせるから。

 ぶん殴ってでも、首根っこ引っつかまえてでも、あんたが勝手にひとりで傷付かないように………………あたしが抱き締めてあげる。

 

 

 

 

 

 もうこのあとどうなったって知らないかんね! 覚悟しとけよ!? こんの馬鹿比企谷ぁ!!

 

 

 

 

続く

 






今回は久しぶりに早い投稿でしたがありがとうございました!
やっぱ暗い雰囲気のまま次回に持ち越しとかだとストレス蓄まっちゃうと思ったんで、前向きに続きを待っていただけるように執筆頑張っちゃいました☆
ちなみに今回頑張ったんで次はたぶん遅いです(苦笑)



やはり折本は折本でしたw
折本があの現場に遭遇して、大人しく見守るワケ無いですからね(^皿^)
ヒロインが折本ということで、あの場に突撃していくんじゃね?と予想してた方も多いんじゃないでしょうか?(笑)


そして次回は遂にクライマックス!果たして突撃した折本はなにをするのか?

愛する八幡にあんな真似をさせた海老名さんや戸部や葉山に説教をかますのか!?
または愛する八幡に任せっきりのゆきのんやガハマに説教をかますのか!?
はたまた愛する八幡に説教(物理)を食らわすのかw!?


ではではまた次回で(^^)/


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