前回かなり不穏なスタートでストレス溜まっちゃったかもしれないので、今回は早めの投稿です♪
あの楽しかったダブルデートからいくらかの刻は流れ、季節はあっという間に秋から冬の入り口まで早足で進んでいた。
そんな、急に寒くなって人肌恋しくなる季節ではあるけど、あたしはベッドの隣でガチガチになって座っているこいつの横顔を見ているだけで、心も体もポカポカしてくるんだよね。
「ひひっ、たくー、比企谷緊張しすぎだってばー。 ウケる」
「……うっせ。情けない話だが、ちょっと突っ込んでる余裕が無いくらいに緊張してるわ」
「あはは、マジで比企谷だよねー」
今日は待ちに待った日。ついにあたしの部屋に比企谷をお招き出来たのだ。
あのデートから何度か比企谷んちには遊びに行ったんだけど、次はウチに来なよって言ってもこいつ超渋るんだもん。普通こんな可愛い女の子がウチに遊びに来れば? とかって誘ったら、一も二もなく飛び付いてくるもんなんじゃないの? 男子高校生って。
比企谷ってホント面白いよねー。
渋りまくる比企谷を口説き落としたのがこないだの日曜日。
いつものように比企谷んちに遊びに行って、たまには違うとこ行こうよ! と、今度は二人でデートするかあたしんちに来るかどっちにすんの? って半ば強引に迫って、ようやく良い返事が貰えたのだ。残念ながら平日だけどね。さすがに親が居る日は勘弁してくれって言われちゃった。
にしてもさー……ひ、比企谷ってば玄関入ってからすでに超ガチガチで、「お、お邪魔しまちゅ……」とか言っちゃってんの! もうあれはヤバい! 死ぬかと思った!
あたしの部屋に入ってからもずっと緊張しっぱなしだし、なんつーの? あまりにもキョドってるから庇護欲湧いちゃうってゆーの?
もうさっきから比企谷がキモ可愛い過ぎて、思わず抱き締めてよしよししちゃいたい欲望と、それはマズいでしょ……って理性があたしの頭ん中で大激戦中って感じ。ウケる!
「てかさー、比企谷なんでそんなに緊張してんの? あたしだって比企谷んちにはもう何回も入ってるし、二人きりの部屋とか今更じゃない?」
「……あ? 言っとくがお前が家に来ちゃう時だってかなり緊張してるっつうの」
「ちょ、家に“来ちゃう”とか酷くない?」
「いやだって本当に来ちゃうだろうが。だってお前気が付いたら勝手にリビングとか居るし」
「勝手にじゃないから。こっちは小町ちゃんに入れてもらってるんですけどー?」
ふふふ、あのダブルデート以降、かなり小町ちゃんと仲良くなっちゃったんだよねー。
比企谷と違ってLINEもしてるし、比企谷んちに遊びに行く時はまず小町ちゃんに連絡だったりする。なんか知んないけどすっごい協力的なのよね、あの子。マジで妹にしちゃいたいくらい可愛い。
「……はぁ、だからお前らは距離の縮めっぷりがおかしいんだっての。……まぁそれはともかくとしてだな、まだ俺の部屋であればなんとか平静は保てる。なにせホームだからな。……だが折本んちとなると完全アウェイだ。どこを向いても緊張を解く要素が存在しないまさにアウェイ。俺のようなぼっち歴の長い人間ともなると、ぶっちゃけどう平静を保てばいいのか分からん」
「お! もしかしてアレ? 平静が保てないってのは、つい欲望に任せてあたしを襲っちゃいそうになる的なやつ〜?」
「……なんでだよ」
あはは、比企谷ってば顔ちょー赤い。ニヤリと悪戯な笑顔で覗き込んでみたら、比企谷めっちゃ慌ててんの!
これはあながち的外れでもないんじゃない? しょーがないなぁ、あたしの溢れだす女の魅力ってヤツにクラクラしちゃってんのかー、なんつってウケる。
でもそんだけ無駄に能書き垂らしてる余裕あんだから、そのうち緊張も解けるよね。
だからあたしは、このめっちゃ緊張しててめっちゃキモ可愛い比企谷を、今のうちに心ゆくまで楽しんでおこうかな。
未だぷいとそっぽを向きっぱなしの比企谷の横顔をニンマリと眺めつつ、あたしは心が安らいでいくのと同時に、胸がチクンとするのも感じていた。
× × ×
あたしは比企谷に重大な隠し事をしている。
あ〜あ……おっかしいなぁ……比企谷と友達になった時に、こいつに隠し事なんて絶対しない! って、心の中で比企谷にも自分にもあんだけ誓ったはずなのになぁ……
それなのに、こんなにあっさりと隠し事しちゃってやんの、あたし。
あたしは、比企谷に恋してる。これはもう間違いのない感情だ。
だってさ、あの日のあと千佳に『あたしって、もしかしたら比企谷のこと好きになっちゃったのかも』って相談してみたら、食い気味で『今更!?』って返されちゃったくらいだもん。
てかさー! 気付いてたんなら早く教えてよ千佳ー……!
……とまぁそんなワケで、あたしはこうして晴れて恋する乙女となってしまったわけなのですが、ついちょっと前まで『あたしが恋する乙女とかウケる』とか思ってたくせに、いざ実際にこうして恋する乙女になってしまうと、予想に反してあんまり笑えないのよね、これがまた。
──あたしは今までこれといって恋とかしたことがない。
まぁあたしだって年頃の女子だし? ちょっといいかもとか思った男子はそれなりに居るけども、でもそれだけ。そこで止まってた。
だって、異性として二人で付き合うとかより、同性異性関係なく、友達として大勢で笑い合ってる方がよっぽど楽しそうなんだもん。
だからついに異性として二人きりで居たいなって思える男子にこうして巡り合えたわけだけど──ま、まぁ巡り合ってたのはずっと前からだけどね──、これがなかなかどうして、想像してたよりもずっと難しいのよ。高い壁がいくつか立ちはだかっちゃっててね。
まずひとつめの壁として、そもそもあたしって中学のとき比企谷振っちゃってんのよね。
それなのに今更どの面さげて告白なんて出来んの? って話。
その上さらにマズいことに、あたし比企谷と再会した時に振ったことをわざわざ掘り起こした上で「比企谷と付き合うのは無理」だなんて言っちゃったんだよね……マジあたしバカじゃないの? どんだけ自分の首締め上げてんのよ。
これで好きとか言ったら、完全にドン引きされてお仕舞いだっつの……マジウケない……
そしてふたつめの壁は超単純。そう、学校が違うこと。
とにかく会う機会が少ないのだ。現状でさえ比企谷ともっと会いたいのに、これでもし彼氏にでもなったら、もっともっと会いたくて堪らなくなる自信がある。
その上こいつと同じ学校には超強烈なライバルが居るしね。
マジなんなの? あいつ。なんで知らないあいだに、あんな美女たちに慕われちゃってんのよ……ったく。
そしてみっつめにして、最大最強の壁が立ちはだかっている。
それはなんとも情けなくて臆病なあたしが勝手に積み上げてしまった壁。
なんてことはない。振られるのが恐い。恐くて堪らない。
……違うね。恐いのは振られることじゃなくて、こうして一緒に居られなくなっちゃうのが恐いんだと思う。
あたしは今までこれといった恋をしたことが無いから知らなかった。恋して告って、そして振られたあとの恐怖を。
振られちゃったらどうなるのかな? 今までと同じように友達で居られんのかな? それとも気まずくなって、隣に居られなくなるのかな?
少なくとも今まであたしに告ってきた男子たちは、あたしが振ったあとはだんだんと距離を取っていった。それは中学んときの比企谷も一緒。
あれから数年経った今、こうしてその比企谷と片寄せ合えてるなんてのは、たぶん奇跡なんじゃないだろうか?
だからあたしは恐くて堪らない。そんな奇跡が何度も続く保証なんてないから。
せっかくこうして大好きな比企谷と仲良く居られるのに、この関係が壊れちゃうのなんて絶対無理。
……マジで勝手だよね、あたし。今まで誰かからの告白を断ってきた時って、相手がそんな凄い覚悟をしてただなんて知んなかった。
知ってたら、もっと気持ちを込めてちゃんと真剣に断ったんだけどなぁ……
──だからあたしは比企谷に隠し事をしてるっていう、チクンとした胸の傷みから目を逸らして、今日もこうして比企谷に隠し事をするのだ。
この関係が壊れてしまうくらいなら、あたしはこの想いを隠し続けてでも比企谷とこうやって笑い合ってたい。
はぁ、マジで情けなー……自己分析では、あたしって恋とかしたら真っ直ぐ突っ走ってくタイプだと思ってたのに、いざとなるとこんなにも弱っちいんだね、マジで笑える……
「な、なぁ……」
そうやって自分の情けなさを痛感して落ち込んでいた時、不意に比企谷から声がかけられた。
「ん? なに?」
「だからなんでいつもこんなに近けーんだよ……ちょっと離れてくんない?」
「え? 別にいいじゃん友達なんだし。それにホラ、寒いからこうやってくっついてた方があったかくてよくない?」
「……暑ちいっての」
ぷっ、ウケる! あたし自分で『比企谷に告れないみっつの理由』を頭ん中で偉そうに挙げてたくせに、身体は勝手に比企谷にくっついちゃってやんの!
だってさ、最近は比企谷の近くに寄れば寄るほど落ち着くんだからしゃーないじゃん? ちょっと腕とか肩がくっついちゃうくらい仕方なくない?
まぁたまに気付いたら比企谷の背中に寄りかかってる時とかもあるけども。
ふむ……関係が壊れるのが恐いとか弱音吐きながらも、やっぱあたしはあたしなのかも知んないね。
やれやれ、こうも身体が勝手に欲望のままに動いちゃうようじゃ、いつまでこの気持ちを伝えんの我慢出来ることやら……
× × ×
その後も話したりからかったりピトッとくっついてみたり、本読んだりからかったり寄っかかったり、携帯いじったりからかったりコチョコチョくすぐってみたりと、なんとも贅沢でなんともまったりした大好きな時間が流れていく。
この時間、プライスレス……なんちゃって!
「あ」
しかしそんなプライスレスタイムに心が安らいでいた時、ふと比企谷に対してのとある質問が浮かんだ。
まぁこれは前々から聞こう聞こうと思っていた質問ではあるんだけど、今の今まですっかり忘れていた質問だったりする。
それを思い出したのは、ついさっきまで比企谷に告白しづらい憂いだったり、違う学校であることへの無念だったりと、ウジウジ考えていたからなのかな。
「ねぇねぇ比企谷ー」
「……あんだよ」
あたしからの呼び掛けに、なぜか不機嫌そうに返してくる比企谷。
ありゃ? さっきくすぐったこと怒ってんのかな? いや、違うな。この耳は照れてるだけだね、ウケる。
「そういえばさぁ、総武っていつぐらいに修学旅行なの? ウチは来週なんだけど」
そうなのだ。さっきまで違う学校だし告白出来ないしでいじけてたからこそ思い出したこの質問。
なぜかって、そりゃ学校が同じだったら一緒に修学旅行にも行けるし、もしかしたらいいムードになって告れちゃうかもしんないでしょ?
まぁ比企谷と二人で居ていいムードになるかって言ったら超疑問だけど。
「……修学旅行……?」
そんなあたしの質問で、比企谷は突然どんよりと目を腐らせる。
え、なに? 修学旅行って地雷だったりすんの?
「どしたの? 目がヤバすぎてウケるんだけど」
「いやウケないから。……まぁ、ちょっと、な。……修学旅行ですげーめんどくせぇ依頼受けちまったんだよ。主に由比ヶ浜が」
「依頼?」
奉仕部って修学旅行中でも仕事すんだー。そりゃ御愁傷様。
にしてもここまでうんざりするって、どんな依頼なんだろ。
「どんなん? て聞いちゃってもいい?」
「ん……あー……そう、だな」
「あ、ごめん。別に守秘義務? 的なものがあるんだったらいーよ。そういう部活なんだろうし」
比企谷がここまでどんよりするなんて、正直かなり気にはなる。
なにせあたしが知ってる限りでの奉仕部の依頼内容といったら文化祭と体育祭。どっちも比企谷が大変な目に合った仕事だもん。
だからまたこいつは何かしでかしちゃうんじゃないかって、どうしても不安が芽生えてしまう。
それでも奉仕部への依頼ってのは個人の悩みだからね。あたしが聞いちゃってもいいかどうかは、あたしが決めることじゃないから。
「……いや、まぁいいか。折本には一切関係ない奴の相談だし戸部だし」
とべ?
とべがなんなのかはどうでもいいけど、徐々にではあるけど、最近比企谷はこうやって色々と話してくれるようになった。
なんか、それが嬉しくて堪らないんだよね。少しずつ、こうやって近付いてきてくれるのかなー、へへっ。
「まぁ……端的に言うと、恋愛相談だな」
「……へ?」
比企谷の変化にほんわかしてるところに、あまりにも予想外の依頼内容が聞こえてきて、あたしは思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
は? なに? 奉仕部ってそんなこともすんの? また重い仕事なのかと思って身構えちゃったじゃん!
てかその依頼、あたしもあんたにしたいんですけど?
「なんか修学旅行中に告白したいんだとよ。で、そのサポートをしてくれって話だ。絶対振られないように……ってな。アホかっつうんだよ」
「……」
うぐっ……ちょっと耳が痛いんですけど……
修学旅行で告白したいとか絶対振られたくないとか、なんかついさっきどっかで聞いた話すぎてツライ……
た、確かにどっかのあたしと同じ思考に耳も頭も痛くなっちゃったけど……で、でもそれにしたってさぁ……
「それを部活に頼っちゃうとかさすがに無くない? てか絶対振られないようにサポートしてくれとかウケないんだけど」
「な」
……そりゃ比企谷も目を腐らせるわ。
でもまぁ、確かに結衣ちゃんとかだったら目をキラキラさせて二つ返事でオッケーしそうではあるな〜。女子ってそういうの大好物だもんね。あたしも一応女子だけど。
「で、勝算はあんの? その告白」
「おう、まるで無い。ゼロだ」
「即答すぎウケる」
「いやほんとウケるんだわこれが」
そう言って二人して苦笑い。んー、でもこれなら……
「じゃあどうすんの?」
「やれるだけのことはやるつもりではあるが、ぶっちゃけ成否は無視だ。あくまでも振られるの前提だと本人にも言ってあるし。俺たちは告白するまでのお膳立てをするだけで、あとは本人の努力次第だな。ウチはそういう理念の部活動だし」
……うん。これならそんなに心配する事もないかもねー♪
さすがにこんなしょーもない依頼なら、比企谷も無茶しないだろう。
「でもなぁ……ちょっと引っ掛かるところがあんだよなぁ……」
「まだなんかあんの?」
「……いや、たぶん大したことじゃ無いと思うんだが、時を同じくしてその告白相手からも別の依頼が入ってな」
「マジで!? なんて?」
「……あー、こっちはホント良く分からんのだが、今まで通りみんな仲良くね、とかなんとか。別にあいつらの仲はいつも変わんねーと思うんだけどな」
うん。ホントよく分かんないや。
その後も比企谷は詳しい話をしてくれた。
どうやらその告白したいヤツと告白される子は、どっちも葉山くんのグループなんだとか。
で、その戸部くんと海老名さんの人となりから、どんな関係性なのかまで色々と。
てか海老名さんとか超ヤバい! 比企谷曰く“強キャラ”っぷりが半端なさすぎて、心ゆくまで笑い転げてしまった。是非とも紹介してもらいたい。
ただひとつ気になったのが、その戸部くんの依頼のあと、比企谷は葉山くんから深い謝罪を受けたらしい。
『巻き込んでしまって本当にすまない。まだ時間はあるから、それまでになんとかしたい』
との事。
これには比企谷も唖然としたみたいなんだよね。この程度のくだらない依頼、そんなに謝罪するほどのことでもねぇだろ? って。
本当にそうだよね。だって、比企谷だって振られるの前提って割り切ってるみたいだし、いくらグループの友達のことって言っても、葉山くんがそこまで気に病む必要なんてないよね……?
それでもやっぱちょっと気になるんだよね。だってあたしは……比企谷には内緒で、葉山くんに比企谷のことをお願いしたから。
──でもま、こればっかりはあたしがいくら気にしてみてもしょーがないよね。
とりあえず今は比企谷の無事を祈ってあげようじゃないか!
「ひひっ、比企谷も大変だよねー、せっかくの修学旅行がそんなんじゃ全然楽しめなさそー。寂しくなったらいつでも電話してきていいかんねー」
「……寂しくもなけりゃ電話もしねぇから……。まぁもともと俺にとって修学旅行なんて大したイベントじゃないから別にいいんだけど、……はぁ、とにかく面倒くせぇ」
だから遠慮しないで電話してくれば、いくらでも話し相手になってあげるって言ってんのにー。
まったくホント素直じゃないよねぇ。
……あ、そういえば奉仕部への依頼ばっかに気が行っちゃって、肝心の話聞いてないじゃんあたし。
「あ、だからさぁ比企谷。総武はいつから修学旅行なの? まだ聞いてないんだけど。お土産とかお土産とか、聞きたいこと沢山あんだけど」
ホントは一週間くらい会えなくなっちゃいそうだから、先に聞いときたいだけなんだけどね。
「土産ばっかじゃねぇか……あー、まだ言って無かったっけか。ウチも来週だな。月曜から三泊四日で京都だとよ」
「…………え」
え、うそ、マジで……?
「マジで!? ウチの学校も来週京都行くんだけど! 火曜から三泊四日で!」
「……は?」
なにこれなにこれ!?
ヤっバい……! なんか超運命的じゃない!? ちょーウケるんだけど!
続く
今回もありがとうございました!
今回は戸部からの依頼回かと思った?残念!そんなのすっ飛ばしちゃいました!
知ってる人は知ってると思いますが、私って原作沿い書くの苦手なんですよねー。
原作でやったことをそのままなぞるって、書いてても楽しくなくて筆が進まないんですよ(白目)
なので、必要な部分以外は思いっきりはしょる所存であります!
というわけで、ベタではありますが折本も京都に参戦する事が決定しました☆
次はこんなに早い投稿ではないと思いますが、また次回お会いいたしましょう(^^)/