あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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また先にこっちを書いてしまった……orz

やっぱり執筆欲が強いものの方を先回しにしちゃいますよね(苦笑)




日記2ページ目 変わるものと変わらないもの

 

 

 

 紆余曲折あったこの文化祭も残すところあとわずか。あと数時間もすれば、体育館でエンディングセレモニーをやって はいお仕舞い、だ。

 さすがにここまでくれば、これ以上は問題なんか起きはしないだろう。いくらダメダメな相模でも、たかだかエンディングセレモニーだけで、後々「あの年の文化祭は失敗だったよねー」などと後世まで伝えられてしまう程のやらかしなんて出来るわけがない。

 これ、フラグじゃないよね?

 

 つまりこの文化祭は、まだ少し早いが、とりあえず成功したと言ってもいいのだろう。

 そう、もうなんの問題もないのだ。

 

「ひ、比企谷くん、なにをいつまでもぬぼ〜っとしているのかしら。ついに脳にまで腐敗が転移してしまったのかしら? あらごめんなさい、それは元からだったわね」

 

 な、なんの問題も無いはずなのだよ、今こいつと、雪ノ下雪乃と文化祭を回るハメになっていなければ……

 くっそ……ようやくあと少しでこのクソな文化祭から解放されると思って心がぴょんぴょんしてたのに、なんで最後の最後でこんな試練が待ち受けてんだよ。

 

 ホント監視とかいらないから。ゆきのんの監視なんか無くたって、ちゃんと真面目にお仕事こなしますから。

 お前は気付いてないかも知んないけどね、さっきからすげぇ奇異の視線向けられてんだよ、学校一の有名人 雪ノ下雪乃と一緒に文化祭を回っている俺に。

 マジで二人して文実の腕章つけてなかったとしたら変な噂立っちゃうとこだよ? あの雪ノ下雪乃に自縛霊が取り憑いてたらしいよー! って。

 やだ噂の想像が辛すぎて泣いちゃう。

 

「……い、いつまで腐っているのかしらねこの男は。まだ雑務の仕事が残っているのでしょう? 早くしなさい」

 

「……へいへい」

 

 てか、無理やり乗せられたトロッコでお前と近すぎたから、ちょっとドキドキしちゃってるんすよね。なんか可愛くブレザーの裾とかギュッと握ってくるしさ。

 察してください。いや、察しないでね、恥ずかしいし。

 なんかこいつも顔をこんなに赤くしてまで怒ってるし。別に俺のせいじゃないよね? 近かったのも、恐くてついつい俺のブレザー握っちゃったのもさ。

 

 

 

 ──そんな、許可とは若干の違いを見せていた3Bの展示をきっちり取り締まり、文化祭実行委員副会長様と共にこの教室をあとにしようとした時だった。そこで俺は思いがけない再会を果たす。

 一切望んでなどいない、むしろ一番避けてきたであろう中学時代の同級生との再会を。

 

 

「あれ? 比企谷?」

 

 

 そのどこか聞き覚えのある声に、俺の心臓は、紙ヤスリに撫でられたかのような不快さでざわりと波立った。

 

 

× × ×

 

 

 くしゅっとしたパーマが当てられたショートボブの女子生徒。

 その身を包むのは、ここ総武高校からは若干の距離はあるものの、近所の高校と言ってしまってもいい海浜総合高校の制服。それなのに持っているのは都内の私立高校の鞄という、ああ、いかにも……ってな出で立ち。

 

 髪型も制服姿も当時のそれとは全く違うものなのに、俺はこいつの顔を見た瞬間にこいつが誰であるか理解してしまった。

 そんな記憶は、とっくに頭ん中の奥深くで野垂れ死んでるものとばかり思っていたのに。

 

「……折本」

 

 

 ──折本かおり。

 こいつは、俺の中学時代におけるまさに地雷だ。

 誰に対しても等しく優しい笑顔を振りまける、いわゆる皆の人気者。

 俺はそんな笑顔に勘違いして、告って振られてクラスで嘲笑された。他には誰もいない、二人きりの教室で告白したはずなのに。

 

 まぁ折本に限らず、まだ厨二全開で痛すぎた俺が勘違いして誰かに告白しちゃった翌日には、だいたいクラス中に知れ渡っちゃってたんだけどね。

 

「うわ超ナツいんだけど! レアキャラじゃない?」

 

 そんな地雷に対して警戒している俺とは対照的に、折本は特に気にする様子もなくバシバシと肩を叩いて軽い感じで話し掛けてきた。

 

「お、おう……そうだな」

 

 ……んだよ、気持ち悪いな、俺。なんで愛想笑いなんて浮かべてんだよ。

 

「てか比企谷って総武なんだー! 超いがーい! 頭いいんだねー」

 

「お、おう……まぁ総武だ」

 

 意外……か。

 つーか意外もなにも、お前は俺の中学の時の成績なんて知らんだろ。

 こちとら、お前らと二度と関わらないようにする為に、頑張って勉強して総武に入ったってんだよ。

 まさかこんなところで関わっちまうなんて予想外だがな。……ちっ、油断してたわ……

 

 と、終始にこやかだった折本が、「あ、やっば」と表情を強張らせ、俺の監視者へと目を向けた。

 

「ごっめーん! せっかく文化祭二人きりで楽しんでんのに、いきなり声かけて超邪魔者だったよね。 えと、比企谷の彼女さん? 超綺麗だねー」

 

「……は?」

 

「ちょ!?」

 

 いきなりなに言い出してやがんだこの女。

 やめて! ゆきのんがみるみる真っ赤になって般若みたいになってるから! あとで割を食うの俺なんだから!

 

「ばっかお前違げぇよ! 腕見ろ腕! 文実だ文実! 仕事中だっての」

 

「へ? ああそーなんだ。なんか楽しそうだったし、あたしてっきり文化祭デート中かと思ってた! ウケる」

 

「ウケねーから……」

 

 いやホント笑えないから。あとで俺だけ凍らされちゃうんだからね?

 そんな、凍らされちゃうであろう未来に一人ヒヤヒヤしていると、折本はなぜかきょとんと俺の顔を見ている。

 

「……あんだよ」

 

「え? あー、別になんでもないから気にしないでー」

 

 よく解らんやつだな……

 が、この騒ぎで、予期せぬ邂逅に冷や汗ダラダラ頭も身体も停止してしまっていた俺は、いつの間にか己のペースに戻れていたようだ。

 正直、雪ノ下と一緒に居る時で良かったわ。これが一人の時だったら、早くどっか行ってくれと願いつつ、いつまでも気色の悪い愛想笑いを続けていたんだろう。

 

「……あなた、折本さん……と言ったかしら」

 

「へ? あ、うん! よろしくね」

 

「覚悟しておきなさい。こんな男の、そ、そのっ……か、彼女だなんてっ……名誉棄損で告訴する事も辞さない屈辱的な発言をしたことをっ……」

 

「やばいあたしこの歳で前科者になっちゃう! ちょーウケる」

 

 いやウケねーよ……

 やっぱり雪ノ下が居ない時の方が良かったです。

 

 

× × ×

 

 

 しかしすげーな、折本。まさか恐ろしい冷気をガンガン放ってる雪ノ下に一切物怖じしないなんてな。

 

 まぁこれがこの女の特性かもしれない。

 こいつは昔からサバサバ系を自負している、自称姐御肌の自称サバサバ系だ。

 サバサバな自分かっこいい、サバサバなあたし青春してるでしょ? てな具合に、サバサバがゲシュタルト崩壊しちゃいそうなくらいサバサバな自分を演出している。

 

 地元の高校に通ってるくせに、わざわざ都内の私立高校の鞄を持ち歩いている辺りも、こういうイケイケ女子高生らしさを如実に表している。

 都内の有名校の鞄なんて、いろんな所に友達がいます、横の繋がり多いんですアピールをするイケてる女子高生の間じゃ、下手なブランド物よりもよっぽどステータスになりえるアイテムだ。

 そんなところからも、外側から着飾って、格好良く演出した自分を周りに見てほしいという虚栄心がありありと伺える。実にくだらない、青春謳歌しちゃってますリア充らしい思考だ。

 

「それにしても意外ね。あなたの知り合いが居ただなんて」

 

 未だに若干頬を赤らめジト目で俺を睨めつけながら、不意に雪ノ下が声を掛けてきた。なんで睨まれるの八幡なのん? まだ怒ってるのん?

 それにしても、あなたのことを知っている人が居るなんて意外みたいなニュアンスの発言はやめてください。

 

「……別に、単なる中学んときの同級生だ」

 

「だから意外だと言っているのよ。中学生時代のあなたのことが記憶にある人が居ただなんてとても意外、と言っているのよ? 引きこもり谷くん」

 

 みたいなニュアンスじゃなくて、まんまその通りの意味でした。

 さっきまで赤い顔して慌ててたくせに、俺を罵倒してくる時は相変わらずいい笑顔向けてくんな、こいつは。

 その笑顔があまりにも可愛くて惚れちゃうレベル。罵倒してくる笑顔を見て惚れちゃうとか、とんだM男くんじゃないですかやだー。

 

「だからなんでお前は俺の昔のあだ名知ってんだよ。ユキペディアは予測機能も備わってんのか?」

 

「ふふっ、予測機能なんて無くたって、あなたの存在と行いを毎日見ていれば、子供が考えそうなあだ名くらい誰にだって予想が付くじゃない、ヒキガエルくん。…………あといい加減その呼び名はやめなさい」

 

 引きこもりやらヒキガエルはいいのに、ユキペディアはダメなのかよ。

 

「えっと〜……比企谷?」

 

 あ、ゆきのんの罵倒に夢中になりすぎて忘れてたわ、折本の存在。

 なんならこのまま居なくなってくれてれば良かったのに。残念。

 それにしても罵倒に夢中とか俺まじヤバい。

 

「おう、悪いな。じゃあな」

 

 居なくなってくれなかったから、こっちから進んで居なくなっちゃうスタイル。

 や、今絶賛お仕事中だしね? 悪気はないのよ?

 

「ちょ、ちょっと待ってってば! せっかく久しぶりに会ったんだから、ちょっとくらい話でもしない?」

 

「いやなんでだよ。今アレがアレして忙しいんだよ」

 

 純粋に仕事中だって言えばいいのに、ついクセで言い訳をアレでアレしちゃうどうも俺です。

 

「アレがアレとか意味わかんなすぎなんだけど」

 

 なんか冷ややかな目で見られちゃいました。

 

「折本さん、この男は今仕事中だと言ったでしょう? 監視役として、こんなところでいつまでも油を売らせているわけにはいかないのよ。残念だけれど、お引き取り願えるかしら」

 

 雪ノ下はいつにも増して不機嫌オーラを醸し出してんな。

 まぁただでさえ人見知り──てか初対面の人間には異様に冷たいだけ。あ、俺にもか──の上に、さっきあんなこと言われたんだもんな。そりゃ不機嫌にもなるわ。

 

「……んー、そっかぁ……じゃあやっぱ悪いかな。……あ、ちなみに比企谷って今なんの仕事してんの?」

 

「あ? 記録係だけど。各展示を回って写真撮ったりとかな」

 

 その仕事に監視が必要かどうかは知りませんがね。

 

「……へー」

 

 顎に手を添えて何事か考え込んでいる折本に、「まぁそういうこったからまた今度な」と、永遠の別れを告げて立ち去ろうとした俺の肩がぐいと掴まれる。まだなんかあんのかよ……早くこの地雷源突破したいんだけど。

 

「じゃあそれあたしも着いてっていい!? 別に仕事が写真撮るだけならよくない!? 邪魔になんないよーにするからさぁ。あたしもただ無計画に見て回るだけより、比企谷に説明してもらいながら見て回った方がなーんか面白そうだしさっ。だから移動中に話そうよ」

 

 どうやら早く突破したいと思っていた地雷源が、自ら着いてきたいそうです。マジで勘弁してくれませんかね。なんか背中からすげぇ冷気が漂ってきてますし。

 あとさ、さっきからお前の連れの霊圧が消えかかってんぞ? 大丈夫?

 

 

× × ×

 

 

 さんざん俺に断られ、そして雪ノ下にもさんざん嫌味を言われた折本は、なんと平気な顔をして着いてきやがった。

 こいつマジで強心臓だろ……なんでそこまで着いてきたいのん?

 

「ちょっと比企谷くん……いったいなんなのかしら、あの女は……少し普通じゃないんじゃないかしら」

 

 こめかみを押さえつつ、戦慄したかのように小声で話し掛けてくる雪ノ下。まぁ君も大概普通じゃないんだけどね。

 

「まぁあいつは昔から他者との距離の詰め方が少しおかしいんだ……誰彼構わず距離を詰めようとする、いわゆる構いたがりってやつだな……」

 

 そりゃ夢見る童貞は勘違いしちゃいますよ。被害者は語る。

 

「ああ、なるほど。だから比企谷くんを覚えているのね。普通なら記憶から消し去りたいはずだもの」

 

「……だからなんでいきなり俺への罵倒に変わってんだよ……そんな素敵な笑顔で」

 

「あら、それは仕方ないじゃない。私可愛いもの」

 

 こんなセリフ、雪ノ下じゃなかったら殴られても文句言えねぇぞ……

 つまり雪ノ下が言っているから許されてるわけですね分かります。

 

「ホント比企谷と雪ノ下さんて仲良いよねー。マジで付き合ってないの?」

 

「だからやめてくれ……」

 

「う、訴えるわよ」

 

「ウケる!」

 

 ふぇぇ……もうやめてよぅ……なんつうフリーダムさだよ……

 だがなんだろうか。突然の邂逅でパニックを起こし掛けた時に比べて、今はそんなに不快ではない。

 たぶん雪ノ下が居ることによって、俺のホームグラウンドで戦えているからだろう。たぶんこれがうちの学校でもなければ、雪ノ下みたいに、僅かながらでも気の許せる間柄の人間が居ない場所であったのなら、俺はずっと愛想笑いを浮かべるだけの貝になっていたことだろう。俺に居場所があったこと自体が意外!

 

 そんな状態で初めて解る、折本という人間。

 俺はこいつに強いトラウマを抱えてたから、勝手な偏見で勝手に悪く見ようとしていたが、案外そんなに悪い奴じゃないのかも知れない。

 うざいし早くお帰り願いたいけど。

 

 

 

 

「あ、そだ! 比企谷さー、葉山くん知ってる? サッカー部の人!」

 

 適当に各展示を回りながら適当に写真を撮っていると、不意に折本から質問が飛んできた。

 他校の女子生徒、しかもサッカー部という情報まで提示してくる以上はあの葉山なのだろう。

 

「……ああ、まぁ一応」

 

「マジ!? 紹介してほしいって子、たくさん居るんだよ〜。この子とかさー」

 

 そう言って横の友達を指差す折本。

 てかようやく!? その人、ずっと一人ぼっちで居心地悪そうだったけど。

 やだ、俺に一人ぼっちとか思われちゃうその人マジキングオブぼっち。

 

「あ、この子、同じ高校の友達ね。仲町千佳」

 

「……ちょっと折本さん。友人を紹介するつもりがあるのなら、初めから紹介してはどうかしら。貴女と私たちが行動を共にしはじめてから、一体どれだけ経っていると思っているの」

 

「ごめんごめん。あまりにも雪ノ下さんと比企谷のやりとりが面白くて、紹介すんのすっかり忘れてたよ〜。忘れられてたとか千佳ウケる!」

 

「……全然ウケないから」

 

 長いことかけてようやく発したなんとか町さんとやらの第一声が「全然ウケないから」とかウケる。

 この人も折本のフリーダムっぷりに苦労しているのだろうか。

 そんな若干不機嫌ななんとか町さんの脇腹を肘でぐりぐりと小突きながら、折本はニヤニヤと仲なんとかさんに語り掛ける。

 

「ほら、千佳、葉山くん紹介してもらえるかもよ」

 

「えー、わたしはいいよー」

 

 とかなんとか言いながらも、なんとか町さんはまんざらでもなさそう。もう仲町さんでいいよね、これ。

 

「いや、知り合いじゃないし……」

 

 だが申し訳ないが、あいつと俺は紹介出来るような間柄では無い。

 仮にそんな間柄であったとしても、めんどくさいから紹介しないけど。

 

「あー、だよね。接点なさそう」

 

 うんうんとうなずく折本は、初めから大して期待してなかったようだ。じゃあ聞くなよ。

 

「あら、紹介してあげればいいじゃない。一応クラスメイトなのだから」

 

「え!?」

 

「そうなの!?」

 

 めんどくせぇから余計なこと言うなよ雪ノ下。だったらお前なんか幼なじみじゃねぇかよ。

 

「いや、別にクラスが一緒だからって一切親しくないから」

 

「だよねー。あ、ちなみに雪ノ下さんは!? 雪ノ下さんクラスなら、トップ同士で親交ありそう!」

 

「私は一切興味がないの」

 

 さすが嘘を吐かない雪ノ下さん。知らないじゃなくて興味が無いと冷たく吐き捨てる辺りがさすがです。

 

「あはは……そ、そう」

 

 これにはさすがの折本も苦笑い。折本を苦笑いさせるなんてやっぱすげーわ。

 

 そんな時、いきなり仲町さんとやらがハッとする。どうやら時間を気にしてるみたいだが、門限でも近づいてるの? まだ夕方だけど。

 

「……かおりかおり! もういい時間になっちゃってるよっ……! ライブライブ……!」

 

 ん? ラブライブ? こそっと耳打ちしているつもりらしいが、ずいぶん興奮しているのか丸聞こえである。あるいは難聴系主人公であるならば聞き逃していたのかもしれんが。

 

 そういや計画書にエンディングセレモニーの前に葉山グループがバンドやるとか書いてあったっけな。

 葉山にご執心らしい仲町さんが、そのライブを目当てにしているのは自明の理。早く席とらないと、いい席なくなっちゃうもんね。

 

「あー、もうそんな時間かー。せっかく楽しんでたのにな〜」

 

 そう? 楽しかった? まぁ楽しんでたのは折本一人だけだよね。

 すると折本は、仕方ないなぁ……と、俺たちに別れの挨拶を始めた。

 

「ごめんね、比企谷! あたし達、体育館行かなきゃなんないんだー」

 

 いやいや、早くどっか行って欲しい俺としては、謝られる筋合いとかマジでガチで一切ないんだけど。

 

「あーそう」

 

「超棒読みすぎじゃない? ウケる」

 

「いやウケないから」

 

「雪ノ下さんもいきなり割り込んじゃってごめんね!」

 

「あら、貴女には申し訳ないと思える気持ちがあったのね。心から意外だわ」

 

「辛辣すぎウケる! じゃ、またねー」

 

 どれだけキツい言葉を投げ掛けてもウケると一笑に伏せられることにも慣れた雪ノ下は、やれやれと首を横に振る。

 折本って意外と雪ノ下の天敵なのかも知れない。

 

 ──またね、ね。ま、もう二度と関わることなんてねぇだろ。今日はあくまでも偶然の再会。特別だ。

 

 手をブンブン振りながら走り去っていく背中を呆れた眼差しで見つめていると、不意に折本が振り向いた。

 

「あ、そうそう。比企谷ー」

 

「あん?」

 

「言うの忘れてたんだけどさー、なんか比企谷って変わったよねー! 今日の比企谷って、なんか超ウケた」

 

「……ウケねーし別に変わってねぇよ」

 

「あはは、そういうとこよ、そういうとこー。ひひ、んじゃ、まったねー」

 

 

 ……ホントよく分からんヤツだ。

 変わった……か。俺は別に変わったつもりなんか無いが、まぁ暗黒の中学時代に比べたら多少は変わったのだろう。

 だが人には変わったとかいうわりに、あいつは全然変わってねぇな。笑っちまうくらいに。

 ま、もう会うこともない折本が変わっていようが変わっていまいが、俺には関係の無いことだ。

 

 

「……嵐のような人だったわね。正直ちょっと疲れたわ」

 

「……だな。んじゃ、あと少し展示を回ったら、俺らも文化祭の仕上げに体育館に行きますかね」

 

「ええ」

 

 

 こうして紆余曲折あった文化祭は、折本というさらなる嵐に見舞われながらも、なんとか幕を閉じていくのだった。

 

 ……幕を閉じて行くはずだった。まさかこの後、この紆余曲折の文化祭において、史上最大級の嵐に巻き込まれることになろうとは……

 

 

 

続く

 

 

 




なんだか6巻と8巻を足して2で割ったような2話目でしたがありがとうございました!
そして2話目にして、まさかのヒロインディスりまくり。まぁ今後の為ですがw

それでは次回もよろしくお願いいたします!

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