あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

19 / 28


スミマセン、お待たせしてしまいました(汗)
今回は筆がノりませんでした……orz

さて、今回は修学旅行編のプロローグ的な回なので、ぶっちゃけあまり面白くはないです!(断言)


……しかし酷い前書きだな(白目)





修学旅行編
日記19ページ目 友達の苦悩


 

 

 

 修学旅行まであと僅かと迫った今日、俺は目の前の友人からの相談に動揺している。

 いや、動揺と言うよりは、茫然自失とでも言う方が正しいのだろうか……?

 

 

 ──なぜだ……なぜ今なんだ……。せめて、せめてこの相談の順番が逆であったのなら、俺はもっと上手く出来たはずなのに……

 

 ……上手く出来た、か。

 はは、笑えるな。順番が逆だったら? そんなのはただの詭弁だ。仮に順番が逆であったのだとしても……俺には上手く立ち回れるすべは無かったんじゃないのか……?

 

 

 くそっ……! 俺はどうすればいい。どうしたら上手くやれるんだ。

 例え……例え詭弁だとしても、せめて二日前のあの瞬間に戻れたら……

 

 

× × ×

 

 

 今日は珍しく男だけで遊びに来ている。

 というのも元々予定されていた部活が、陸上部の突然の練習試合により中止になったからだ。

 

 さして広いとは言えない我が校の校庭。運動部同士、こうしてお互いに限りある校庭を譲り合うことは珍しいことではない。

 いざ練習しようと部室に向かったところ、「どうしても」と陸上部にお願いされ、本日の校庭は陸上部の貸し切りとなった。

 

 校内を使えないとなると活動も限られる。校外を走るでもいいし、校内の廊下や階段で筋トレをするでも良かったのだが、まだ着替えをする前だったし、部員もここ数日のハードトレーニングで疲弊している様子がありありと窺えていた為、急きょ部活を休みにすることにしたのだ。

 

 教室に向かうと、俺たちと同じような理由で部活を休みにしたらしいラグビー部の大和と野球部の大岡が居た為、たまには男だけで遊びに行くのもいいんじゃないか? と、「むさ苦しいな」なんて笑い合いながら駅前のムー大陸へ。はは……ちょ、ちょっと姫菜には見せられないな……

 ゲームセンターやビリヤードで軽く遊び、ある程度遊びに満足すると、近くのサイゼで休憩を取ることにした。

 

 サイゼ……か。そういえばこの間サイゼで食事をしたっけな。

 あの日は元々ただの興味本位でしかなかった。なにせあの比企谷が、なんの迷いもなく友達だと言い切れる女性を見られると言うのだから。

 それがまさかあそこまで楽しめるとは思わなかった。まぁ折本さんとの二人きりの話し合いや雪乃ちゃんと結衣の不意の登場等々、予想だにしなかったアクシデントはあったけれども。

 いや、むしろそのアクシデントこそが楽しかった要因かもな。

 

「ちょっと隼人くーん、聞いてるー……?」

 

「あ、ああ、すまない。ちゃんと聞いてるよ」

 

「マジ? 隼人くん、心ここに非ずっつーの? なーんか一人で楽しそうに笑ってっから聞いてないのかと思ったわー」

 

「ははっ」

 

 ──そうか。俺はいつの間にかそんなに楽しそうな顔をしていたのか。

 ……人の話もろくに聞かず、記憶の中の出来事を楽しんでしまうだなんてな。

 ──まったく……こんなのは本当に俺らしくない。

 ま、そんなのもたまにはいいかもな、なんて思えてしまうくらい、今の俺はあの日の出来事が本当に楽しかったんだろう。

 俺から一方的にライバル視していた比企谷の、あんな姿が見られたのだから。ずっと胸に溜め込んでいた誰にも話せなかった胸の内を、比企谷の友達に打ち明けられたのだから。

 

「それで戸部、なんの話だったっけ?」

 

「やっぱ聞いてないんじゃぁん! 隼人くん酷いわー」

 

「すまんすまん」

 

 すると、嘆く戸部に成り代わって大和が口を開く。

 

「隼人くん、だから戸部の恋愛成就の話だって」

 

「それな。まさか戸部が姫菜狙いとか」

 

 そう言って笑いながら大和に続く大岡。

 そうか、俺が呆けている間に、戸部はそんなことを話していたのか。

 

「いや、確かそれは夏休みに千葉村で聞いたはずだが」

 

「ちっげーのよ隼人くん! ただ狙ってる女子の話で盛り上がってたってワケじゃなくってさー、……ほら、もうすぐ修学旅行じゃん? だから俺、そろそろキメちゃう? キメちゃってもいんじゃね? っつー話」

 

 襟足を弄りながらにこやかにサムズアップする戸部には、友達としてここではっきりと言っておいてやらないとな。

 

「戸部、悪いけど難しいと思うぞ?」

 

「即答で否定とかマジパないっしょ……! 隼人くんそれないわー」

 

 ガックリと肩を落とす戸部ではあるが、こればかりは仕方ない。

 姫菜はああ見えてかなり色々と抱えている子だ。表面上はいつも笑顔で笑っているが、たぶん……かなりの闇を抱えているんじゃないのかと思う。

 あの姫菜が、今の戸部を受け入れるとは到底思えない。いや、戸部だけではない。たとえ誰であろうとも、姫菜は受け入れないだろう。

 

 ……でもまぁ友達の頼みだしな。出来ることなら可能な範囲でなんとかしてやりたい。

 

「無理だとは思うが……まぁ人の気持ちは分からないからな。断られてもいい覚悟で臨むって言うのなら、俺も出来る限り協力するよ」

 

「っかー! やっぱ隼人くんだわ! 隼人くんが応援してくれんなら、これもう行くしかないでしょー! でも振られっとか無しの方向でオナシャス!」

 

 まったく……だから断られるのを覚悟した上でなら、と言ってるだろ?

 

 でも、たとえ断られたっていいじゃないか、戸部。

 これからも俺達はみんな一緒に高校生活を送っていくんだ。だったら、今のお前の熱い気持ちをぶつけてやれば、いつか実を結ぶ可能性だってあるんだから。

 

 だから俺は、目の前で満面の笑顔で張り切っている戸部の告白を応援しようと心に決めたのだ。

 心の奥の方で僅かに燻っているモヤモヤにはまだ気付かずに……

 

 

× × ×

 

 

「隼人くん、だ、大丈夫……?」

 

「……あ、ああ」

 

 俺は今、どんな顔をしてこの相談を聞いていたのだろうか。

 休み時間になど誰も来ないであろう特別棟の階段の踊り場。目の前では大切な友人のひとり海老名姫菜が、心配そうに俺を見つめている。

 

「あはは〜……なんかごめんね、急にこんな相談持ち掛けちゃったりして」

 

「……いや、大丈夫だよ」

 

 こんな相談。……正直驚いた。まさかこのタイミングでこんな相談が持ち掛けられるなんてな。

 いや、姫菜はいつも眼鏡の奥で深く人を観察している。その観察眼は、もしかしたら比企谷並みなのかもしれない。

 そんな姫菜のことだ。ここ最近の戸部達の態度を見て、近い内……つまりは修学旅行中になにかがあると感付いたのだろう。

 

「……で、さ、なんとか……ならない、かな。私、とべっちに告白とかされちゃうと、まずいというか……」

 

 こんな姫菜は初めてだ。いつものおちゃらけた態度など一切無く、とても静かに……ともすると深い闇のような姫菜。

 たぶん、これが本当の姫菜なんだろう。

 

「仮に戸部からの告白があったとして、姫菜がそれを受け入れない、受け入れられない……というのは分かった。でも、な。受け入れられなくても、それでいいと言うことにはならないか? 断ったとしても……またいつの日か受け入れられる時だって来るかもしれない。……だから、それまでは今まで通りでいよう、とはならないかな」

 

 ──姫菜からの相談。それは“戸部に告白させないでくれ”というものだった。

 二日前に戸部から真逆の相談を受けている、だなんて言えるわけもない俺は、戸部からの告白を“仮にあったとしたら”と濁した上で、告白を聞くだけならいいんじゃないかな? と持ち掛けてみた。

 

 そもそもがそのつもりだった。戸部が姫菜に気持ちを打ち明けても断られるであろうことは分かっていた。

 しかしそれを踏まえた上で、それからも今まで通り仲良くして、いつかその気持ちを受け入れられたなら、そのとき初めて関係を進めればいいじゃないか、というのが俺の考えだったのだから。

 

 しかし俺のその意見は、暗い海の底のような目に、一瞬にして打ち破られてしまった。

 

「……そんなの、無理だよ。友達に告白されて断って、そのあと今まで通り仲良くなんて、出来るわけない。……最初だけ表面上仲良くを装ってたって、たぶんすぐにどこかから崩れちゃうよ、私もとべっちも。……そんなの、隼人くんが一番良く分かってるでしょ……? だって……もしいま隼人くんに優美……」

 

 と、そこまで言って姫菜はハッとして口をつぐむ。

 姫菜の言わんとしたことは、姫菜の言う通り俺が一番良く分かっている。分かっていたはずなのに、俺は“友達からの相談”というベールに隠れてしまっていたその事実を、すっかり見落としてしまっていたのだ。

 その事実は俺の心臓を強く握り潰さんばかりに締め付けてきて、俺は言葉を発することが出来ない。

 

 なにが断られたってまた仲良く過ごせばいい、だ。

 ……ああ、そうか。戸部からの相談に答えたときの、心の奥で燻っていたモヤモヤの正体はこれだったのか……

 

「ごめんね隼人くん……今のは失言だったね、忘れて」

 

「……ああ」

 

「……とにかく、ね。私は今の関係が、今の居場所が結構好きなの。……だから、この居場所は…………出来れば無くしたくないなぁ。……だから、無理を言っちゃって申し訳ないんだけど、もし……もし出来れば……とべっちに告白しないように、言ってもらえるかな」

 

「……分かった。出来る範囲でなんとかしてみよう」

 

 俺は先に戸部の相談を受けてしまった。俺が応援すると言ったから、戸部はあんなにも嬉しそうに張り切って、告白する事を決意してしまったのだ。

 あんなにも嬉しそうに笑っていた戸部を、俺は諦めさせることが出来るのか……? 俺は、どうしたらいい……

 せめて……この相談の順番が逆であったのなら……!

 

「出来る……範囲、か」

 

 不毛なタラレバの思考にとらわれていた俺の耳に、僅かに響いた姫菜の弱々しいその呟きが、俺の胸をさらに締め付けるのだった。

 

 

× × ×

 

 

 翌日、俺は戸部達を呼び出して、やんわりと告白を思いとどまるように呼び掛けた。

 

「隼人くーん……応援してくれるって言ったっしょ……」

 

「いや、応援はしているんだ。……だけどな、戸部。お前は断られることを良しとしないんだろ? 正直俺には、姫菜が今はまだ恋愛事に興味があるようには見えないんだよ。だから断られる可能性だって大いにあるんだ。……だから今はまだ機が早いと思う。どうだろう、もう少しだけ待ってみないか……?」

 

「……だ、だよなー」

 

 応援すると言ったばかりの俺からの反対意見に、目に見えてしょげる戸部。

 すまん……本当に心苦しい……

 

 だけどな、俺は姫菜から相談された内容を漏らすわけにはいかないんだ。

 確かに姫菜から『今は誰とも付き合う気がない』と相談されたと言えば、告白を諦めさせるのは簡単かもしれない。

 しかし、俺がこのタイミングで姫菜からそんな相談を受けたなどと知られれば、それはイコール姫菜が戸部の気持ちを知っていて相談してきたと言っているようなものだ。

 それでは戸部が告白しようとしまいと、結果的に同じ事になってしまう。

 姫菜の守りたいこの居場所は崩壊してしまうのだ。

 

 だから俺は、戸部に姫菜の想いを伝えるわけにはいかない。姫菜の言葉を伝えずに、なんとか告白を踏みとどまらせるしかないんだ。

 

「……そっか、あんま隼人くんに迷惑も掛けたくないし、隼人くんがそこまで言うなら、今回はやめとくか〜……」

 

 

 ──良かった。なんとか踏みとどまらせることが出来たみたいだ。

 肩を落としてしょげる戸部には本当に申し訳ないが、今回は許して欲しい。その強い想いがあれば、いつか叶う日も来るだろう。

 だから俺は、それまでは約束通りにお前を応援するからな。

 

 

「あ、おい戸部、だったらあそこに依頼? してみりゃいんじゃね?」

 

 そんな時、不意に大岡が思い出したかのように発言する。

 

「ん? あそこ?」

 

「そうそう。えっと、確か奉仕部とか言ったっけか、結衣んとこのやつ」

 

 奉仕、部……まさか、ここで奉仕部が出てくるとは……

 

「ああ! なんか悩み事を解決してくれる部活っつってたっけ! 結衣が「相談あったら来てね」とか言ってたっけな」

 

 大岡の意見に乗った大和もそう言って奉仕部の存在を思い出す。

 

「それな。しかもあれっしょ? 奉仕部ってヒキタニくんも居るとか言ってなかったっけか。ヒキタニくんなら、なにかしら捻くれた方法で戸部助けてくれっかもよ? 部活の依頼なら隼人くんにも迷惑かけないで済むし」

 

「おお! それナイスアイデア! ヒキタニくんマジ良い奴だし、相談乗ってくれっかも! これキタわー」

 

 ……なんて事だ……まさか、ここにきて一番最悪の流れになってしまうなんて……

 

 

 ──比企谷がうちのクラスで嫌われていたのは、すでにしばらく前の話だ。

 体育祭が終わる頃には、そんな比企谷のクラス内の評価は真逆のものとなっていた。

 

 原因は間違いなく相模さんだ。比企谷の悪い噂の根源であったはずの相模さんが、体育祭のあと友人に真実を打ち明けたのだ。

 

 ──あの文化祭で悪かったのは自分。比企谷はただ、仕事をサボッてた自分をたしなめただけ。それなのに、自分に悪意が向かないように一人で悪者になってた比企谷は本当はいい奴なんだ──

 

 と。

 それ以来、うちのクラスでは比企谷が悪く言われるようなことは無くなった。それどころか、捻くれものの良い奴という、実に比企谷に相応しい評価に変わっていた。

 まぁあいつ自身はいい迷惑そうな感じだが。

 

 あいつに劣っていると感じる俺としては、この変化は心から喜ばしいものだった。

 俺は比企谷に劣っている部分がある。それなのに比企谷がクラスで見下されているという事実は、まるで俺自身までもが見下されているかのような錯覚を覚えてしまうから。

 我ながらなんとも身勝手で利己的な感情なのだろうと思う。それは分かっていても、それでも俺にとっては心から喜ばしい変化だった。

 

 しかしそれが、まさかこういう形で作用してしまうとは……

 

「あ、あのなぁ……いくら悩み事を解決してくれる部活と言ったって、この相談はどうなんだ? いくらなんでも恋愛事はないだろう」

 

 ……ダメだ。ここで奉仕部に、あいつに頼ってしまってはいけない。

 

 もしかしたら、あいつはこんな事態でもなんとかしてしまうかもしれない。

 でもそれはダメなんだ。

 

 

『出来る……範囲、か』

 

 

 あの時の姫菜の諦めたような表情が脳裏に蘇る。

 姫菜は、俺がなにも出来ないであろう事を知っている。で、あるならば、もしかしたら姫菜も戸部と同じように奉仕部に依頼しかねない。そして俺にはそれを止める手段も資格もない。

 そして、こんな相反する依頼を受けてしまえば、比企谷はなにをしでかすか分からない。あいつはまた、自分を傷つけてでも仕事を遂行してしまうだろう。

 

「でもさー隼人くん。前に結衣が自慢気に言ってたけど、どんな依頼もどんとこいっつう話じゃん? とりあえず聞いてもらうだけでもアリじゃね? 野球部は野球やっしラグビー部はラグビーやっし、俺らサッカー部はサッカーやんじゃん? だったら、奉仕部ってのは悩み事を解決するのが部活動なんだしさー」

 

「……それは、そうだが」

 

 俺には姫菜を止める手段も資格もない。しかし、それは戸部に対しても同じこと。

 戸部が自らの意志で奉仕部に依頼したいという選択をしてしまうのなら、それは俺には止められない。

 

 ……いや、これはまた詭弁なのかもしれない。あいつならなんとかしてくれるかもしれない……なんとかして欲しい……と、俺は頼りたくないと思っているはずのあいつに、心のどこかで頼ろうとしてしまっているのかもな……

 

「おっし、じゃあ早速行っちゃいますか!? 善は急げっつーのはこの事っしょ!」

 

「おう」

 

「それな」

 

 

 あの教室へと歩き始めた戸部達の背中を見ながら思う。いや、俺の目に写っているのは、戸部達の背中ではなくあの日の光景か。

 

 

『……少しだけ、ほんのちょっとでいいから、お手柔らかにお願いします。……あいつ、ホントにバカでアホで……不器用なやつだから』

 

 

 ──すまない折本さん。

 君は俺の声を、俺の話を聞いてくれたのに、俺には君の声を、話を聞いてやれそうにもない。

 俺は、君の頼みを聞くどころか、やはり君の大切な友達を巻き込んでしまった。

 

 ……せめて、戸部が本当に告白してしまう前までに、俺は俺の出来る範囲で、やれることをやろう。

 君の大切な友達が……俺が勝手に友達と思っているあいつが、自分を傷つけてしまわぬように……

 

 

 

 

続く

 





ご無沙汰でしたがありがとうございました!

かなり不穏なスタート回でしたが、今回はまさかの葉山視点でお贈りしました(笑)
ぶっちゃけ誰も期待もしてなきゃ待ってもいない、どうでもいいお話だったことでしょう(苦笑)


この展開は今後必要でしたし、あのダブルデートを経た上での原作通りの修学旅行突入だと、とんでもないクソ野郎になってしまいそうだったんで、今回は葉山の苦悩をテーマに書いてみました。


ではではまた次回お会いいたしましょう(^^)/

(ちなみに葉山の出番はもう無いでしょうw)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。