あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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ようやくダブルデート編も佳境です。

原作では何度もあった遭遇イベントですけど、普通デート中に知り合いと遭遇するなんて事そうそう無いですよね。




日記17ページ目 嫌いと信頼と悔しさと友情と

 

 

 

「……俺は、比企谷が嫌いなんだ」

 

 バツが悪そうにそう呟いた葉山くんの苦笑いを見て、あたしはなんとなくだけど、彼が比企谷にどういう感情を秘めているのかが分かってしまったような気がする。

 

「……そっかー、嫌いなんだね」

 

「ああ、かなりね」

 

 なんていうか、とてもじゃないけど人を嫌いと言っているとは思えない表情に、あたしは思わず噴き出してしまった。

 だってさ、こんな爽やかな笑顔で人の悪口言う人なんかいなくない? ウケる!

 

「……あいつは本当に腹立たしいヤツだよ。……比企谷と関わってから、本当に色々とあったんだ。時には俺の友達が彼らに突っ掛かっていったり、時には俺自身が頼ってしまったり、時には偶然の出会いで、共に問題の解決を模索するようなこともあった」

 

 ……へぇ、比企谷のやつ、知り合いじゃないとか関係ないとか言っときながら、かなり関わり持ちまくってんじゃん。あのばーか。

 

「……でも結局、俺にはなにも出来なかった。俺のやり方では誰一人救えなかったんだ。あんな、絶対に認めたくない捻くれたやり方で、絶対に認めたくない自分を軽んじたどうしようもないやり方で、あいつは……比企谷は誰かを救う。……折本さんも見た文化祭の一件だってそうだ。俺は結局あいつに利用されただけ。比企谷の意図を手に取るように理解していながらも、俺はあいつのやり方に乗って、そしてあいつを犠牲にした」

 

 そう話す葉山くんはどこか儚げだ。恨み言のはずなのに、忌々しげとか憎々しげとかじゃなくって、そう……儚げ。

 

「俺は比企谷のやり方は絶対に認めたくない。あんなやり方は最低だ。……それなのに、目の前で自分を軽んじて誰かを救うあいつを見ていると…………なんだか自分が否定されているように思えてしまってね。お前の上辺だけのやり方じゃ誰も救えない……お前は劣っている、そう言われているみたいで…………だから」

 

 そして葉山くんはあたしの目をしっかりと見据える。

 

「……俺は、あいつが嫌いだ」

 

 

× × ×

 

 

 葉山くんの独白が終わった時あたしは思った。

 葉山くんの苦笑いを見た時に最初に感じた、比企谷に抱いてるんだろうと感じた葉山くんの感情は、やっぱり合ってるんだろうなって。

 

「……ははっ、まいったな。こんなこと人に言うのは初めてだよ」

 

「あはは、だろーね。葉山くんて、人の悪口とか絶対言わなさそうだもん。だから逆にすごいよね、比企谷って。そんな葉山くんに悪口言わせちゃうんだから」

 

「あんまり苛めないでくれよ折本さん。これでも結構腹を割って話してるんだからさ」

 

「だろうね、分かる。……でもさ、なんでそんな人生初の悪口を、今日会ったばっかのあたしに話したの?」

 

 いくらあたしから関係性を聞いたからって、別に葉山くんは正直に話す必要なんて一切ないわけだし。

 葉山くんなら、いつもの爽やかスマイルで適当に誤魔化しとけば、大抵の人なら素直にそのまま受け取るんじゃないのかな。

 

 あたしのそんな疑問に、葉山くんは顎に手を添えて少し思考する。

 

「……なんで、か。…………うん、そうだな」

 

 一瞬だけ考え込んだ後、どうやら自身の中でその疑問に対する答えが出たらしい彼は、あたしの目を見てほんの少し苦し気に微笑む。

 

「多分……誰かに愚痴りたかったのかもな、ずっと……。でも俺はそういう事を言ってもいい立場じゃないんだ。いや……違うか。立場というより、そういうキャラクターで居ることを許されない人間なんだろうな」

 

 ──ああ、そっか。葉山くんは葉山くんで苦しんでるんだね。いわゆる“持つ者”の苦労ってやつかな。

 あまりにも優秀すぎるから、周りからの期待ってのが凄いんだろう。その期待に応えなきゃいけないのが、とんでもないプレッシャーなんだろうね。

 

「そっかー。それは辛いね……」

 

 そんな気持ちを抱いてしまったあたしは、なんの迷いもなくそう肯定した。

 葉山くんはそんなあたしに少しだけ意外な顔をする。

 あ、そういう事か。

 

「そりゃまぁ葉山くんとは比べるべくもないけど、あたしもちょっとだけ似たようなとこあんだよね。……ほら、あたしってこういう性格してるから、たまーに……たまーにだけど、ちょっと弱音吐きたいときとかも、あんま周りの友達に言えないんだー。かおり“らしく”無いって笑われちゃうじゃん? それキャラ違うからー! ってね」

 

 そう困ったような苦笑いで告げると、葉山くんは「そうか」と首肯する。

 ……ま、そんな弱音をちゃんと聞いてくれたのがあの日の比企谷なんだよね。

 あの日比企谷にあんな風に言ってもらえたあとは、千佳だけじゃなくて、他の友達にもちゃんと話すようにしたし。

 

「うん、まぁね。……ああそっか、だから葉山くんはなんの関係もないあたしについつい愚痴ってみたくなったんだ。無関係の人間なら、しがらみとか気にせず話を聞いてもらえるから気が楽になるもんね」

 

 それはこないだの相模さんとの邂逅で実証済み。

 誰にも話せない弱音とか本音ってのは、本当に心から信頼出来る友達でも居ない限りは、まったくの他人の方がよっぽど話しやすいもんね。

 ……つまり悲しいことに、葉山くんにはそういう友達が居ないってことなんだろう。あたしは比企谷には包み隠さず弱音を吐いてくつもりだし、あたしも比企谷には包み隠さずに弱音を吐いてもらえるよう頑張るけど。

 

「ああ。なんだかすまないな、俺に話があったはずなのに、逆に都合よく利用するみたいになってしまって」

 

「あー、気にしないでいーよ。あたしつい最近もこんなようなことあったばっかだし、それに比企谷の為にもなるしで全然問題ないよ。……でもさ、そんな簡単にあたしに本音を打ち明けちゃっても良かったの? 誰かに喋っちゃうかもよ? 例えば比企谷とかに」

 

「……いや、それはないだろう。あの捻くれ者がこんなにも信頼しているんだ。だから俺も折本さんを信用しているよ」

 

 ……ったく、この人っていい人そうに見えて結構ズルいんじゃない? その言い方、絶対に言いづらくする為のズルい言い回しでしょ。

 

「あはは、葉山くんて思ってたよりずっとウケるよね。言い回しは結構ズルいし、言ってることも超支離滅裂ー」

 

「そうかな」

 

 なにこの人。ズルいとか支離滅裂とか言われてんのに、全然笑顔崩さないでやんの。

 もう、あたしに気持ちがバレてんの、実は悟ってんでしょ。

 

「うん。だって、比企谷のこと嫌いだ認めないだ言ってるくせに、超信用してんじゃん。比企谷が信頼してるからあたしを信用するとか、どんだけなのよ? ってくらい信用してるよねー。言ってることメチャクチャだっての。……ひひっ、葉山くんてさ」

 

 そしてあたしは言ってやる。この澄ましたイケメンくんに、あたしが彼に対して感じていた思いを。

 

 

 

 

「……嫌いだ嫌いだとか言いながら、実は悔しいんでしょっ?」

 

 

 

 

 そう。たぶん葉山くんは悔しいんだと思う。

 自分の信念とは違うやり方で自分が出来ないことを当たり前のようにやってのける比企谷という存在が。

 悔しくて嫉妬して、だから嫌いなのだ。

 

「あはは、どうかな」

 

 ぷっ、どうかなもなにも、あなたのその笑顔が雄弁に語ってるっての。

 そしてもしかしたらだけど、葉山くんはその悔しさを与えてくる敵であるはずの比企谷と、ホントは本音で言い合える友達になりたいのかも、ね。

 

「葉山くんてさ、あんまそういう風には見えないけど、実はプライドとかちょー高いでしょ? ま、いつも爽やか笑顔で居るより嫌いじゃないけど」

 

「プライドくらい強く持っていないと、上手く生きられない難儀な人生を送っているもんでね」

 

「ウケる!」

 

 ……今はまだそのプライドが邪魔しちゃって無理かもしんないけど、いつかお互いに大人になれたとき、その時は比企谷と友達になれたらいいね。なんか愚痴りあってお酒を酌み交わす未来とか超想像できるし、ウケる。

 

 それにしてもこの人って、比企谷とはまた別のベクトルの面倒くささだなぁ。でも、比企谷といい葉山くんといい、そういう面倒くさい方が意外と好きかもって思っちゃえるあたしも、なかなかに面倒くさいのかもしんない。ホントウケる。

 

 僅かな時間二人してけたけたと笑い合う。ひとしきり笑ったあと、不意に葉山くんは真剣な表情を向けてきた。

 

「……だからすまない折本さん。さっき君が言っていたお願いには応えられない。今後また比企谷が自分を軽んじるような行動を取ってしまったとしても、たぶん俺にはどうすることも出来ない。それどころか、こちらからあいつを巻き込んでしまうことだってあるかもしれない」

 

「ん? だからそれはお願いじゃなくて単なるあたしのワガママだから気にしないでよ。もしそれでまたおかしなことしでかしちゃってあのアホが凹むようなら、それを叱って元気付けてやるのが、友達としてのあたしの役目だしねー」

 

 そりゃ葉山くんが味方になってくれたら安心はするけども、でもやっぱ葉山くんの生き方考え方にあたしが口を出すのもおかしな話だもんね。

 葉山くんは葉山くんの役目を、比企谷は比企谷の役目を。そしてあたしはあたしの役目をしてけばいいだけの話だ。

 ……でも、

 

「……でも、さ」

 

 それでもあたしはやっぱり不安に襲われる。

 あの日あの屋上で、傷付いた比企谷の顔を見てしまったから。

 自分が傷付いた顔をしてることに気付いていない比企谷の顔を見てしまったから。

 

「……少しだけ、ほんのちょっとでいいから、お手柔らかにお願いします。……あいつ、ホントにバカでアホで……不器用なやつだから」

 

「……ああ、善処する」

 

 

× × ×

 

 

 ようやくあたしが言いたかったこと聞きたかったことも片付いて、気が付けばすっかり話し込んでしまっていた。もう十分以上は話しちゃってんじゃない?

 

「……やっば、ちょっと話しすぎじゃない? 比企谷と千佳残してんの忘れてたー……!」

 

「……あ」

 

 思い出したかのように言うと、葉山くんも我に返って苦笑い。どうやらあたしと葉山くん不在の食事の席を思い浮かべたようだ。

 千佳は社交性があるからまだいいとして、比企谷とかマジでヤバい。

 あたしが居たからまだあの場に居れたものの、慣れてない千佳と二人っきりとか間が保つわけがないじゃん。

 

「そろそろ行こっか。あたし比企谷に怒られちゃうよ」

 

「下手したらあいつ勝手に帰ってるかもな」

 

「ウケる」

 

 ホント有り得そうで恐いんですけど。

 んで、これを機に着拒とかされちゃったらかなり笑えない。

 

 

 心の中で謝りながら慌てて席へと戻ると……

 

「あれ?」

 

 なんか予想外にいい雰囲気。

 やー、別に会話とかしてるわけじゃないんだけど、なんか思ってたみたいな悪い空気では無かった。なんか……ほっこりしてるんですけど。

 な、なにがあったの……?

 

「ごめーん! 遅くなっちった」

 

「おっそ! 遅いよ二人とも! なんかあったの!?」

 

「や、やー……」

 

 あれ、これなんて答えればいーんだろ。あんな真面目な話してたとか言えないしなぁ……

 

「ああ、すまない。ちょうどトイレの出口で一緒になって、ついつい比企谷の悪口で盛り上がってしまってね。な、折本さん」

 

 ウケる! まぁ八割方ホントだけど、まさか葉山くんからこんな軽口を叩かれるとは思わなかったよ。

 

「そうそう! ちょー盛り上がっちゃってさー! やっぱさすがに本人の前で悪口とか言えないじゃん?」

 

「おい……それを本人の前で言っちゃったら意味なくない?」

 

「ウケる」

 

「ウケねぇから……」

 

 とまぁ葉山くんからの意外な協力により、こんな感じでなんとか誤魔化せた。

 誤魔化してる最中、比企谷の目がドヨッとしたのがまたウケたし、比企谷と千佳もなんだかんだ上手くいってたみたいだし、ま、結果オーライってことでいいよねー?

 

 比企谷の心底嫌っそうな横顔にまた顔をほころばせつつ、にししっと比企谷の隣に陣取るあたし。

 

「おい、近けーよ……」

 

 確かに葉山くんとの会話は有意義ではあったものの、葉山くんには申し訳ないけど、せっかくの比企谷との貴重なお出掛けタイムを無駄にしちゃったのもまた事実。

 だからあたしはそのたった十分程度の貴重な時間を取り戻す為に、さっきまでよりもぐぐっとずずいと、肩と肩が、腕と腕が触れ合ってしまいそうなほど比企谷との距離を詰めて座ってやったのだが………………

 

 

 

 

 

 

「……あら、あなたは一体こんなところでなにをしているのかしら…………サボり谷嘘八百幡くん……」

 

「ヒ、ヒッキー!? え? なにこれ!? なにしてんの!?」

 

 

 

 店員に席に案内されてきたらしき女子高生二人組が、片や氷のような冷え冷えとした殺気を、片やめちゃくちゃ動揺を隠せないって空気を全身に纏いながら比企谷に声をかけてきたのだった。

 

 

 なにこれ、まさかの修羅場? ウケる!

 

 

 

続く

 





残念ながら、やらないか葉山はキマセンデシター
いや、でもこれは近い将来キチャウカモw


今回はちょっと短かったかもですね。
なにせ、実は前話でここまでやる予定だったもので(^皿^;)
なぜ長くなってしまうのか……



デート編は次回かその次でようやく終了ですかね〜。
ではまた次回(^^)/




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