あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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今回で15話目ですね(・ω・;)

私いままで長編書いても大体15話前後でひとまず完結してたんですけど、これはまだ終わんないんですよね(汗)まさかこんなに長くなるとは……
もうちっとだけ続くんじゃ。





日記15ページ目 待望の初デートも、やはり二人は変わらない

 

 

 

 かたや元気に手を振り、かたやなんとなく気まずそうな表情で駆けてきた二人組の女子高生。

 ふむ、同じ女子高生なのにえらい違いだな。さすがは折本。なんの反省もない素晴らしい笑顔だ。

 

「ごめんお待たせー」

 

「おう……まぁ普通に待ったわ」

 

「そこは普通「気にすんな。俺もいま来たとこだ」じゃん。ホント比企谷って残念だよねー」

 

「いやお前反省してたから謝りながら走ってきたんじゃねぇの? 反省ゼロじゃねぇか」

 

「ウケる!」

 

「……いやウケないから」

 

 こいつのっけからフリーダムすぎだろ……。ついさっきこいつの笑顔は心地好いなんて思っちゃった俺の純情返せよ。

 

「あの……ごめんね、比企谷くん。えと……久しぶり」

 

 折本のあまりの自由さですっかり忘れてたけど、仲町さんも申し訳なさそうにペコリと頭を下げてきた。

 あらやだ常識人!

 

「え、あ……お、お気になさらずに……」

 

 それに対してコミュ障気味な俺は慌てちゃうという悲しさ。

 だ、だって仕方ないじゃない! 仲町さんとはほぼ初めて会話するんですから!

 

「ぶぅぅ〜ッッ! お、お気になさらずにだって! あっはははは! ひ、比企谷がお気になさらずに、だって〜! お、面白過ぎて死ぬっ……! 比企谷マジでコミュ障みたいでウケる!」

 

「……うるせーよ」

 

 みたいじゃなくて本物ですし。

 

「……ちょっとかおり、わたし達遅れちゃったから謝ってんだかんね……?」

 

 そんな常識的なこと言いながらも、仲町さんもなんかぷるぷるしてるんですけども。なんだよこいつもやっぱり折本の友達だよ。

 

「……って、と! ところで!……あの、比企谷くん、しょ、紹介を……お願いしたいな、と……」

 

 ……あ、すっかり忘れてた。本日のメインを完全に放置しちゃってたわ。仲町さんが俺の横にチラッチラ視線を向けて急にもじもじしはじめたのを見て、ようやく思い出した。

 すっかり忘れていたメインに視線をやると、なんかこいつ微笑ましそうに俺と折本のアホ丸出しのやりとりを見ていた。見せもんじゃねーよ金とんぞ。

 つーか紹介ってなに? 俺が葉山を君たちに紹介すんの? なにそれリア充共のお友達紹介みたい。

 

「……いや、別に俺から紹介なんて要らないでしょ……」

 

 そうは言われても残念ながら俺と葉山は友達ではない。俺は葉山に勝手に自己紹介してくれと視線で促す。

 

「はじめまして、総武高校の葉山隼人です。今日はお招き頂きありがとう」

 

 おうふ……さすが葉山さん。俺とは違い過ぎるご対応だ。なんだよ初対面にしてその爽やかさ。ムカつく。

 

「えと……! はじめまして、海浜総合の仲町千佳です! 今日は来てくれてありがとう! すっごい楽しみにしてたんだっ」

 

「同じく海浜の折本かおりです! はじめまし、て……? だよね。あたしも楽しみにしてたんだー。わざわざ来てもらってありがとー」

 

 はじめましてかどうかで疑問符を付けてたのは、折本は屋上で葉山をばっちり見たからなのだろう。あの様子を目撃すれば、そりゃインパクトありすぎて初めましてって感じはしないんだろうな。てかこいつなら下手したら相模でも普通に話し掛けちゃいそう。

 

 しかしやはりリア充同士だなこいつら。葉山も折本も仲町さんも、すでになんの抵抗も無く和気あいあいとしてやがる。

 やだすでに疎外感! 俺このメンツで浮きすぎだろ。

 

「まずはどこに行くのかな。俺まだ何も聞いてなくて」

 

「あ、だよねー、最初は映画でも行こうかって話になってるんだー」

 

「でもわたし達が勝手に決めたことだから、葉山くんはそれでもいいかな?」

 

「ああ、構わないよ」

 

 葉山の了承が得られたところで「それじゃ時間もったいないし、早速映画館行こっか」「それあるー」などとかしましく盛り上がる女子グループは、映画館方面へと足を向けながらも、「やばーい……超カッコいい……!」「ねー」なんて小声で騒いでいる。楽しそうでなによりです。

 

 ……うん。ま、俺の了承とかどうでもいいよね。添え物に定評のあるどうも俺です。

 

 

 優秀な添え物たれ、と事前に決意を固めていた俺は、三人が楽しげに歩き始めるのをしっかりと確認してから、三歩ほど離れて歩き始める。将来の目標が専業主夫たる俺は、今のうちから奥ゆかしい大和撫子スタイルを確立しておくことに余念はないのである。

 さすが一流の専業主夫志望の俺、なんてグッドなポジショニング。なんなら三つ指ついて玄関でお出迎えしちゃうレベル。

 お帰りなさいませご主人様。主夫じゃなくてメイドになっちゃった。

 

 そんな大和撫子な俺には目もくれず、リア充グループは笑いながら先を行く……と思ったのだが。

 

「あれ? 比企谷ー? なんでひとりでそんな後ろ歩いてんの? ウケる」

 

 人が奥ゆかしさを全力発揮して邪魔にならないようにしてたのに、折本は相変わらず無遠慮に俺のステルスを突破し、わざわざスピードを緩めてするすると俺のポジションまで下がってきやがった。

 

「いや、別に……。おまけがあんま出しゃばるのもアレだろ。邪魔にならないようにしてるだけだから気にすんな」

 

 まぁいくら俺が頑張って出しゃばったって、そもそも存在感ないから気付かれないんですけどね。

 

「はぁ? おまけ? バッカじゃないの? 全然ウケないんだけど」

 

 なん……だと? 折本的にはそこはウケるとこじゃないのん? オマケ! ウケる! ってからから笑うと思ってたんだけど……

 

「……なんで比企谷がおまけなわけ……?」

 

 それなのにウケるどころか若干不機嫌気味なのはどうしてなんすかね。ワケが分からないよ。

 そんな折本に困惑していると、不意に左手が柔らかく温かいなにかに優しく包まれた。いや、決して優しくはないな。なんかグイッと引っ張られる感じだ。

 

「たく、比企谷ってそういうとこホントバカだよねー。ほら、いつまでもそんなバカなこと言ってないで早く行こ」

 

「……え、お、おいちょっと?」

 

 僅かな不機嫌さを残しつつも、折本は俺の手を引っ張って先を急ごうとする。

 ……なんで俺は折本と手を繋いでいるん?

 

「わ、分かった! 分かったからこれ離せって……」

 

 やばいやばい……あまりにも不意過ぎてなんの抵抗も取れなかったが、女子と手を繋いで街を歩くとか、それなんて市中引き回し? このあと処刑されちゃうの? いや、すでに公開処刑中まである。ソースは前を行く葉山と仲町さんの微笑ましい笑顔。

 

「なんで? ……あ」

 

 どうやら不機嫌さからくる本能だけで手を繋いでしまったらしい折本は、強引に引っ張っている俺の手と繋がった自分の右手を見て顔を赤くする。

 

「あ、あはは〜……」

 

 左手の人差し指でほんのり赤く染まった頬をぽりぽり掻くと、こいつは己のミスをこう誤魔化しやがった。

 

「ま、まぁいいじゃん。友達なんだから手くらい繋ぐでしょ」

 

「繋がねーよ……それは女子同士の話だろうが」

 

 てか女の子ってなんで友達同士で普通に手を繋いだりするんですかね。百合かと思っちゃうんで出来れば控えて欲しいよね、あれ。 男同士で手を繋いで歩いてたら完全にキマシタワールド炸裂なのに、なんで女の子は許されるん?

 まぁ俺は部室でコアなゆるゆりを毎日見せ付けられてるから若干の耐性はあるんだけど。

 

 

「だよねー、ウケる」

 

「ウケないから……」

 

「……で、でもアレじゃん? 今のは比企谷が悪いわけだし、まぁ致し方なくない?」

 

 だから俺のどこに非があるのかがいまいち解らないんだけど。

 

「知らねーよ……てか離せ」

 

 なんで未だに握ってんだよ……まず指摘した時点で離せよ……すでに俺の手びしょびしょなんじゃねーの……? 友達に気持ち悪いと思われるのは流石に傷ついちゃうかもしんないから、ホント離してくださいお願いします。

 

「……じゃあしゃーないから離してあげよっかな。でもまたさっきみたいなしょーもないこと言ったら、今日は一日中引っ張ってくかんね」

 

 折本はなぜかちょっと残念そうに繋いだ手を一瞥すると、ようやく手を離してくれた。……ったくよ、そんなに顔赤くするくらいならもっと早く離せよ……俺の心臓が保たないだろうが……

 

「……わぁったよ、悪かったな」

 

 にしても……一日中引っ張ってくかんね、か。じゃあもう離れて歩けないじゃねーかよ。

 まったく……これじゃ大和撫子修行もままならないわ。

 

 

 ……しかし折本の手、すげぇ柔らかかったしあったかかったな〜、なんて思いがついつい過ってしまう変な熱を持ってしまった頭を、早く冷まそうと手をうちわ替わりにぱたぱたしていると、そんな俺の様子を見た折本が悪戯な笑顔を浮かべて、お得意のからかいでさらに俺を暑くさせてやろうと画策してきやがった。

 

「あ! でも比企谷が実はまた繋いで欲しいんなら、その時はわざとしょーもないこと言えば繋いであげっかんねー」

 

 こいつマジでなんなの? そんなことよく恥ずかしげもなく言えんな……、と思ったら、「ひひっ、なにこれちょっと恥ずいんだけど」とか言って思いのほか照れてやんの。

 これ俺じゃ無かったら絶対勘違いしちゃうからね?

 

「……ぜってー言わん……なんなら今日はもう口を開かないまである」

 

「ウケる」

 

 ホントもう勘弁してください折本さん、どこまで俺を追い込むつもりなんですかね……

 

 ダブルデート(笑)開始直後に早くも帰りたくなりながらも、俺はほんの少しだけ歩く速度を上げて、前を行くリア充グループの中に交ざっていくのだった。

 

 

× × ×

 

 

 映画館に到着すると、どうやらすでに観るものは決まっていたらしく、とっととチケットを購入して劇場内へと流れこんでいく。

 もちろん俺にはどの映画を観るかなんて選択権があるわけもなかったのだが、ちょうど観たいと思っていた映画だったのは素直に嬉しかった。

 ふはははは、俺の幸運もまだまだ捨てたもんじゃないな。

 

 

 まだ明るい劇場内を席へと向かいながらふと考える。そういやこういう時って席順てどうすんだろ。

 そもそも他人と映画なんか観に来たこともない俺は、このあとどうなるのかがまったく分からない。 「ごめーん! 四連の席が取れなくってさー、比企谷だけあっちだから」とか言われちゃったら泣いちゃうかもしんない。

 え、映画なんて一人で観た方が楽しめるんだから! 別にそれでもいいんだからね!? と一人で強がっていると……

 

「あ、ここだここだ。んじゃ比企谷はここね」

 

 と、相変わらず一切の選択権も無しに一方的に座らされた俺。

 じゃーねー、とか言って違う席に行っちゃうのかなー……? なんて涙ながらに見ていると、折本は当たり前のように俺の席の隣に陣取った。

 

 ……う、うん。まぁ実は密かにそうなるのかな〜……? なんてちょっとだけ思ってはいたものの、こうも当然のように隣に座られると、またもや顔が熱くなってしまう。

 

「ん? どしたの比企谷」

 

「ん、あー、別に……」

 

「そ?」

 

 ……まぁ折本の隣に葉山が座り、その反対側に仲町さんが座ったところを見ると、女性陣はただ葉山を挟んで座りたかっただけなのだろう。折本が俺の隣に座っても、特にそこに意味を見いだせるわけではないのだ。

 

 

 席に着いたはいいものの、もちろんすぐに映画が始まるわけではない。この時間って結構手持ちぶさたになるんだよね。

 まぁ手持ちぶさたなのは広い劇場内でもキングオブぼっちの俺だけのようで、他の客たちはそこかしこで好きにお喋りをしているようだ。

 もちろん俺の右隣も例外ではない。待ち合わせ場所からここまで、元々お目当てであった葉山とのお喋りタイムをほとんど取れなかったからか、俺を除いた三人は改めて自己紹介なり雑談なりで盛り上がっている様子である。楽しそうですね。

 

 

 やがて劇場の照明が落ち、折本達も他の客たちも一斉に口をつぐむ。

 うん。映画館の醍醐味はここだよね。照明が落ちてスクリーンに変な泥棒がにょろにょろと映し出されると、いやが上にも気持ちが盛り上がり始める。

 

 

 早く始まんねーかなぁとスクリーンを眺めていると、不意に右腕をちょいちょいと突つかれた。

 なんだ? と思って右方向にちらと視線を送ると、折本が楽しそうに小さな声で語り掛けてきた。てか近い近い! 甘い吐息が当たってますよ折本さん!

 

「比企谷と映画とか、マジ中学の友達聞いたら絶対ビビるよねー?」

 

 と、なんかニヤニヤしてやがる。真っ暗な劇場内、スクリーンの明かりだけで照らされるその笑顔は、なんだかいつもと違ってまた魅力的に感じてしまった。

 

「……アホか、今更だろ。お前、こないだ一人で俺の部屋に入ってんだからな?」

 

「そりゃそうだけどさー、やっぱそれとこれとはまた別物じゃん? だってデートだよデート」

 

「……デートじゃねぇよ……。ま、あれだ。確かに折本と俺が映画行ったとか聞いたら、うん……ビビるだろうな」

 

「だよねっ」

 

 笑いを噛み殺しながらうんうん頷く折本。

 まぁ中学の同級生がビビるかどうかは俺を覚えてるかどうか次第なんだけどね。

 でもあんまり変なこと言うとまた手を繋がれちゃうからいいませんけども。

 

 

 

 ──折本と映画、か。

 ホントまさかあの折本とこうして肩を並べて映画を観る日がくるなんて、あの頃は夢にも思って無かった。

 ビビるビビらないの話で言えば、当時の俺が一番ビビるんじゃなかろうか。ビビり過ぎてチビッちゃうまである。

 

 一度は告白までしながらも、たかだか映画観るってだけでビビってチビるってのもどうかと思うが、当時の俺と折本の間にはそれほどの距離感が厳然と存在していたのだ。……あの頃の俺、よく折本に告白したよね。

 

 だけれど、今のこいつと俺の距離感ってのはどんなもんなのだろうか。

 家に押し掛けてくるわ毎日のように電話もメールもするわ、二人きりではないとは言えこうして肩並べて映画観るわ。

 友達なんか居たことが無いからよく分かんねーけど、俺はちゃんと折本と友達やれてんのかな? あの頃は永遠に縮まることなんて無いのだろうと思っていたあの距離感が、こうしてあまりにも一気に縮まってしまうと、なんだかよく分からなくなる。

 常人なら分かる事でも俺には分からない。こういった経験値が無さすぎるからたまに不安にもなる。

 ……不安になるってことはやっぱり大切なんだろうな、折本との関係が。

 

 

 だが、未だ楽しそうに笑いを噛み殺している折本の横顔を見ていると、もしかしたら結構上手く行ってんのかもな、なんて、俺もついつい笑顔になってしまうのだった。

 

 

× × ×

 

 

「ていうかあの爆発派手じゃなかった? 比企谷とか爆発のとき超きょどってんの! マジウケる! 動きキモくてマジ笑ったんだけどー!」

 

 映画も無事に幕を下ろすと、デートイベントは映画観賞から映画観賞後の恒例行事“批評会”へと移り変わる。

 恒例行事ってのは一般論であって、俺はしたことないけど。なにせいつも一人だから(ドヤァ)

 そんななにもかもが初めての嬉し恥ずかし初体験で、俺はいま折本からえらいディスりを受けています。

 ふぅ、秋の夜風がいい感じで頬を冷やしてくれるぜ。

 

「いや、思ってたより音が大きかったから……」

 

 てかそりゃビビるでしょ。映画館って音でかすぎじゃないかしら? ねぇ、葉山さん。

 

「ああ、でもちょっと驚いたな」

 

 どうやら葉山も同調してくれたようだが、ただしイケメンに限るらしい。

 

「でも葉山くん超落ち着いてなかった?」

 

「あ、それ思った! あたしもちょっとビクッてして、でも葉山くん全然普通だったよね〜。でっも、比、企谷の動、き……っ!」

 

 

 ふっ、我が見事な道化っぷり、楽しんでいただけたようでなによりです(白目)

 ……いや、楽しみすぎだからね、君たち。箸が転がっても笑っちゃうお年頃なのん?

 なんなら箸が微動だにしなくても爆笑しちゃいそうだけどね折本って。「は、箸がっ、箸が微動だに、しない、んだけどっ……やばい死ぬ!」とか言ってね。

 

 

 そんな(俺以外が)楽しく贅沢な時間を楽しみながら、次はもう少しで閉館しちゃう千葉パルコへと向かうらしい。パルコ閉まっちゃうとか、ILOVE千葉を自負する俺からしたらちょっと寂しくなっちゃうよね。

 

 

 目的地に到着しエスカレーターで上階へ。雑貨屋インテリアショップファッションショップと、各店舗を回ってはお買い物を楽しむ折本たちそっちのけで感慨深くパルコ内を眺め回していると、

 

「葉山くん、これどうかなー?」

 

「あ、こっちは?」

 

 どうやら折本と仲町さんは葉山相手にファッションショーを始めているようだ。女子の買い物に付き合うのって疲れちゃうよね。 だがしかしそこはさすが葉山さん。相手にするのに忙しいながらも、その爽やかな笑顔は崩さない。

 

 さすがです頑張ってくださいと心の中だけで精一杯応援しながら、店員に怪しまれないように店内をうろうろしていると、不意にグイッと袖を引っ張られた。

 

「ねー比企谷比企谷ー! これとかどう?」

 

 何事かと思ったら、葉山相手にモデルになってんのかと思ってた折本が、ニットカーディガンとスリムジーンズ姿を見せ付けてきたのだ。

 

 

 そういや折本の私服姿って初めてじゃなかろうか? 再会してから常に制服姿しか見てなかったからな。まぁ試着してるだけだから厳密には私服姿じゃないんだけど。

 

 うん。なんていうか……新鮮だな。まぁ可愛……悪くないんじゃなかろうか。

 ……こいつやっぱ引き締まった綺麗なスタイルしてんな。こういうピタッとしたパンツスタイルだと、綺麗なヒップラインがすげー映える。

 

「……? 比企谷? どしたの?」

 

「……あ、いや」

 

 やっべ……つい見惚れちゃってたわ。

 やっぱ制服姿しか知らない女子の私服姿って興奮しちゃうよね。

 

「あー! もしかしてあたしに見惚れてた? ウケる!」

 

「……んなわけねーだろ」

 

「ひひっ、どうだかー。……で?」

 

「……で、とは……?」

 

「だからー、似合うか似合わないか聞いてんじゃん」

 

 そう言ってヒップラインを強調するようなポーズを取る折本。

 ぐ、ぐぬぬ……

 

「……ま、まぁ悪くは無いんじゃねーの……? 知らんけど」

 

 つうかかなり可愛くて困ります……やばいまた顔が赤くなっちゃう!

 

「ぷっ、マジ素直じゃないよねー。でもまぁ小町ちゃんが言うところの捻デレ比企谷が赤い顔でそう言うってことは、超似合ってるって解釈しちゃっていーんだよねっ」

 

 ……勝手に解釈すんなよ。まぁ概ね正解だけど。……にしてもやっぱ赤くなっちゃってんのね。

 てか小町ちゃん? その謎の造語を広めるのはやめなさい?

 

 嬉しそうに笑う折本と目を合わせていられずふいっとそっぽを向くと、折本は誰にも聞かれないよう耳元でそっと囁く。ちょっと? ぷっくりと艶めいた唇が耳に触れちゃいそうな近さだよ?

 

「これなら比企谷に覗かれる心配も無いしねー。ま、比企谷的には見られなくて残念かも知んないけどー?」

 

 やだホントしつこいわねこの子ったら! いつまでこのネタで弄られちゃうのかしら!

 悪戯成功! って表情で、寄せすぎた顔を耳元から離した折本の顔はほんのりと朱に染まってる。なんだよ、やっぱお前だって近すぎたんじゃねぇか……

 

「ねーねー千佳ー、比企谷が超似合うってさー」

 

「マジで? 比企谷くんやるー!」

 

 おい、風評被害広めんな。思ってはいても一言も言ってねーだろ。

 ててっと小走りで仲町さんのもとへと駆け寄ると、あーでもないこーでもないとまた二人で服を見たり試着室に入ったり。

 

 はぁ、と溜め息を吐いてそんな様子をうんざりと眺めていたら、くくっと笑う葉山の姿が視界に入った。

 

「……なに笑ってんだよ」

 

「あ、いや、すまない。ついな」

 

 ついってなんだよ。ムカつく爽やか王を恨めしげに睨めつけてやると、こいつはまたも笑いやがった。

 

「いや本当にすまない。……ただ、今日は本当に来て良かったと思ってね」

 

「あ?」

 

「君が女性相手にあんな顔をするところなんてなかなか見られないからな。それが見られただけでも来た甲斐があったよ」

 

 なんなのこいつ。馬鹿にしてんの?

 

「……折本さんか。本当に真っ直ぐで気持ちのいい子だな。ははっ、捻くれている比企谷とはとてもじゃないが仲が良くなりそうなタイプには見えないのに、二人で居るところを見るとなかなかどうして、長年連れ添った良いコンビにも見えてくる。……いや、むしろああいうタイプだからこそ君が気を許せるのかもな」

 

「……余計なお世話だ」

 

「だな、すまん」

 

 すまんと言いながらも、未だ葉山は満足気に笑う。

 なにがそんなに楽しいんだよこの野郎。

 

 

「ちょっと比企谷と葉山くーん、いつまで二人でいい雰囲気になってんのー? こっちも見てみてよー」

 

 いい雰囲気言うな。腐の波動を感じちゃうだろうが。なんかさっきからこの場所でヤツと遭遇しちゃいそうな気をビシバシ感じてるんだからさぁ……

 

「……へいへい」

 

「ああ。いま行くよ」

 

 やれやれ、折本が居るとおちおち険悪な雰囲気にもなれねぇな。空気クラッシャーかよ。

 

 

 そんなこんなで、このあとも自由気ままな女性陣のお買い物に男性陣は振り回されつつ、閉店間際まで目一杯楽しんだ一向がパルコを退店する頃には、すでに外は完全なる夜へと変わっていた。

 さらば千葉パルコ!

 

 

× × ×

 

 

 時刻は八時半。平素であればリビングのソファーでこれでもかというくらいゴロゴロしている時間。

 そんな時間だというのに、俺はまだ愛しい我が家に帰れずに街を彷徨っている。もう帰ろうよぅ……

 

 そんな俺の熱い思いを察したのか、葉山が時計を確認してから折本たちに声をかけた。

 

「ちょっとお腹減らない?」

 

 全然察してなかった。なんなら察した上での嫌がらせなんじゃないかと疑うレベルで察してない。

 てかまだ帰んないの? ぼく門限過ぎるとママに怒られちゃうんですけど。

 

「減った!」

 

 葉山からの問い掛けに元気に答える折本。

 どうやら門限は過ぎちゃうみたいです。まぁ門限どころか「早く帰ってくんな」って空気を小町から感じてましたけどね!

 

 しかしさすがは折本だ。葉山の前でさえ決して己を崩さない強さがある。

 普通あんなイケメンに「お腹減らない?」なんて聞かれたら「え〜? わたし少食だからそんなことも無いけどぉ、葉山くんが空いたんならわたしも一緒に付き合おっかなぁ?」って言うところだろ。

 ほら、葉山さんが苦笑しちゃってるじゃん。

 

 しかしそこはやはり葉山。苦笑を一瞬で素敵スマイルに変えて、折本達にこう問う。

 

「じゃあなに食べる?」

 

 その問いに仲町さんがひと思案した後、遠慮気味にお約束な悪魔の答えを返す。

 

「なんでもいいよ」

 

 出った! これってアレでしょ? なんでもよくないヤツでしょ? なんでもいいとか言いながら、返ってきた答えがご不満だったら一笑に付すヤツでしょ?

 

 やだわぁ、女の子って怖いわぁ。

 

 ……ま、葉山が答えりゃなんでもいいんだろうけど。やはりただしイケメンに限る世界なのか……。というわけでちゃっちゃと答えちゃってつかーさい、葉山さん。

 

 が、しかし世界はそんなには優しく出来てはいなかった。ただし八幡に限る。

 

「なに食べよっか」

 

 折本が振り返り、あろうことか俺に訊ねてきたのだ。

 なにその腹立つ表情。絶対に面白がってんだろこいつ。

 

 うっわ……超答えたくねぇ〜……どうせなに言ったって平和的な解決はしないんでしょ……?

 とはいえ折本は一度言いだしたら答えるまでは頑として応じないだろう。やだホントめんどくさい子ねぇ。

 

 それに、なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情け! とかって昔の偉人さん(武蔵と小次郎)も言ってた事だし、ここはまぁ答えてやろうじゃないか。千葉県民のオアシスの名を!

 

「サイゼ、とかな」

 

「……えー」

 

 はい終了〜。なんでもいいよはもちろんダウトでしたー。

 折本に至っては……

 

「サイゼっ……サイゼって……サ、イ、ゼ……」

 

 と、腹を抱えて爆笑してるし。

 

 ……あ〜、早く帰りたいなー。愛する我が家でマイエンジェル小町のごはん食べたいなー、なんて、あまりの大笑いっぷりに遠くを見て現実逃避していると、ひーひーと指で涙を拭いながらも、この女はようやく落ち着いたようだ。

 

 

「ひ、比企谷反則! 初めてのデートのごはんでサイゼは無いでしょウケる!」

 

「……だからデートじゃねぇっ…」

 

「あはは、いーよ、サイゼね。まぁ確かにムードもへったくれも無いけど、そこら辺が比企谷クオリティだし、比企谷がサイゼがいいんならサイゼにしよっか。美味しいし財布にも優しいしねー」

 

 いやいいのかよ。だったらそこまで笑わないでくんない? サイゼが嫌いなのかと思っちゃうじゃん。

 

「……別に無理に合わせなくてもいいっての。サイゼが嫌なら他にすりゃいいだろ」

 

「なんでー? あたしサイゼ好きだし全然嫌じゃないけど? ただここでサイゼって答える辺りがやっぱ比企谷だなーってウケただけ。なんかカッコ付けないってか飾らないってか、我が道を行く! って感じが超比企谷じゃん?」

 

 なんだよ超比企谷って。純粋な怒りで変身でもすればいいのん? 俺が金髪になってもキモいだけじゃない?

 

 ワケ分からん……と呆れ果てた寒々しい目でを見ていると、折本はにひひ笑顔から一転、優しい微笑みへとその表情を変える。

 

「へへっ、今日は比企谷のおかげでこうして楽しく遊べたわけだし、比企谷のリクエスト通りサイゼにしようぜー。千佳も葉山くんもそれでいいかな」

 

「うん、いいよー」

 

「俺ももちろん構わないよ」

 

 

 ……んだよこいつ。さんざん笑って馬鹿にしやがったくせに、最後だけいいとこ持って行きやがったよ……マジでこいつの笑顔は七変化し過ぎだろ。

 ま、どんな笑顔であれ、悪い気分はしないけれど。

 

 

「……あとで文句言っても知んねぇからな」

 

「おっけー」

 

 

 

 折本のウインク&サムズアップも綺麗に決まり、こうして折本曰く初めてのデートのディナーとやらは、めでたく千葉県民のオアシスに決まったのだった。

 

 

 

続く

 

 






ありがとうございました!
蓄めに蓄めたダブルデートは、遭遇イベントを除けばシチュエーションからセリフまでまさかの原作通りな内容でした!

いや別に手を抜いたわけじゃないんですよ。
原作では八幡と読者のライフをゴリゴリ削った嫌な空気感に包まれたダブルデートでしたが、折本達に対する八幡と葉山の受け取り方が違えば、同じシチュエーション・同じセリフでもここまで印象違うんだぜ?ってトコを表現したかったからなのでありますよ(・ω・)



てなわけで次回は原作では否定されたままだったサイゼでのお食事会へと移り変わります☆


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