あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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おかしい……書いてたのってさがみんSSだったっけ……?






日記10ページ目 あたしとうちの、非 友達Diary

 

 

 

 ──気付いてるでしょ。……実は自分が、本当は比企谷に救われてたんだって……って?

 

 馬鹿にしないでよ、気付かないわけ無いじゃない。……ただ、うちは気付きたく無かっただけ。

 

 だってそれに気付いてしまったら、それを認めてしまったら、うちはどうすればいいの……? どうすれば良かったの……?

 さんざん比企谷を生け贄にして自尊心を守ってきたのに、その生け贄にしてた奴に実は救われていました! って……?

 なんなのよ、それ……ひとっつも笑えないっつうの……

 

 

 だからうちは、その考えが浮かんでしまったその瞬間から、考えることをやめたのだ。

 

 

× × ×

 

 

 初めは……ただ本当にムカついていた。

 あんな奴に……クラス内でも存在してるのかしてないのかも分かんないような低ランクの奴に偉そうに罵られて泣かされて、それなのに何も言い返せなかった自分にもムカついてた。

 あまりのムカつきに、自分がしでかしてしまったことを棚に上げてしまうほどに。

 

 とにかくうちの中での比企谷は最低最悪の人間。

 スローガン決めの時の悪態も、単に自分に仕事が回ってきて苦労するのが嫌だったってだけの無能。屋上での出来事も、ただ単に苛々をうちにぶつけたかったってだけ。

 

 つまり比企谷とかいうクズは自分が可愛いだけ。自己保身が何よりも大事なだけのしょうもない奴。

 そして苦労したくないだけの、どうしようない無能野郎。

 うちの中で完成した比企谷像はそれ。そしてそのイメージのまま悪評をバラ撒いてやった。

 

 

 

 初めに感じた違和感は、まさにそんな悪評をバラ撒き始めた辺りから。

 

 最初はあまりにも比企谷が嫌い過ぎて深く考えてなかったけど、よくよく考えたら、そう言えばあいつってうちを捜しに来たんだよね……? そう言えばうちって責任を放棄して逃げたんじゃなかったっけ……?

 

 だったらさ、あいつはうち等が悪評バラ撒いてる時に、周りにそのこと言えばよくない? 仕事放り出してサボってた相模に説教しただけだけど? ってみんなに言えばよくない? ……って思ったのが最初の違和感。

 

 今あいつはクラスどころか学年、学校で嫌われてるけど、元々はうちの責任だって釈明すれば、ぼっちのあいつの言うことを何人が聞き入れるかは分からないけど、それでも今みたいな事態は回避出来たはず。それなのに……

 

 その時点で、ただ自分が可愛いだけの自己保身野郎っていううちの比企谷像が崩れた。

 

 

 

 そして次の違和感はこの体育祭で。

 初めはホント意味分かんなかった。なんでまた委員長をうちにやらせようとするのか。

 だって、お世辞にもうちが文実委員長として役に立ってたなんて思えないし、そんなうちになんでそこまでしてやらせたいのかが全然分かんなかった。

 

 それだけでも意味が分からなかったのに、さらなる本当の違和感は、またそのメンバーの中に比企谷が居たこと。

 ……普通考えられる? 現在進行形で自分を学校一の嫌われ者に仕立ててる中心人物であるうちと関わろうとするなんて。

 

 うちは比企谷が死ぬほど大嫌いだ。だからうちの方から比企谷なんかには絶対に関わりたくない。

 でもそれを言ったらその逆もまたしかりで、比企谷だってうちのことが死ぬほど大嫌いなはずなのに……。いくら仕事だからって、うちをまた委員長に仕立ててフォローまでするなんて有り得ない。

 

 そしてそこで目の当たりにした比企谷の有能さ。

 

 文実の時は単なる庶務担当だから気が付かなかったけど、いざ首脳部側に回ったあいつは本当に有能だった。

 うちが初日から槍玉に上げられてしまった為に、文実以上にヤバい空気になってしまった運営委員会でのあいつの頼りになりようは……ムカつくけど認めざるを得ないものだった。

 嫌なのに、悔しいのに、何度もあいつに頼りかけてしまったうちがそこには居た。ギリギリでなんとか踏みとどまってるけど。

 

 あいつは文実のときと同じように、かったるそうに面倒くさそうに嫌々仕事をしてるのに、それなのに自ら進んで、また一番面倒くさい場に身を置いている。

 

 そこでまたうちの中の比企谷像、苦労したくないだけの無能野郎ってのも脆くも崩れ去った。

 

 

 ──そして気が付いてしまった。うちの中の比企谷像が全部崩れた以上、うちが比企谷に抱いていた感情って、全部間違いなんじゃないの? って。

 

 自分が可愛いわけでも自己保身が強いわけでも、苦労したくないだけでも無能でもない比企谷。

 だったら比企谷はなんであんな酷いことをうちにしたの……? 比企谷なら、あの場面であんな真似をしたら、このあと自分がどんな目に合うのか分かりそうなものじゃないの……?

 

 でも待って……? じゃあ逆にあの場面で比企谷があんな真似をしてなかったら、うちってどうなってたんだっけ……?

 そこまで来たら、うちの思考がその答えに辿り着いてしまうのはいとも容易かった。

 

 

 

  ──あ、れ……? もしかして……うちって、比企谷に救われてない……?

 

 

 でも……、でも……! それを認めることなんて出来るわけ無いじゃん……!

 だって、そしたらうちはどうすればいいの? クラスのみんなにそれを白状するの?

 比企谷は悪くないって……本当はうちが最低なんだって告白するの?

 

 そんなこと……出来るわけが無い……そんなことしたら、今度はうちの番だから。うちが学校中に蔑まれる番だから。

 

 

 ……だからうちは気付かないフリをして蓋をした。うちが今の地位で居る為には、どうしたって比企谷は最低最悪な存在でなくてはならないのだから。

 

 ──なんのことは無い。

 自分が可愛くて自己保身が強くて苦労するのが嫌などうしようもない無能は…………うちだったんだ……

 比企谷の言う通りだった。最底辺の世界の住人、それは紛れもないうち自身……

 

 

× × ×

 

 

「……やっぱ、気付いてたんだ」

 

 死んでも認めたくなかった真実を無情にもうちに認めさせたこの女は、俯いたまま震える手でスカートを握ることしか出来ないでいるうちに、そう声を掛けてきた。

 

「それに、あれか……。その様子だと、自分を誤魔化してたんだ。……実は救けられちゃってたなんてこと、自分は気付いてないって」

 

 ……なんなの? こいつ……。なんでそんなこと言うのよ。

 これじゃまるであいつと一緒じゃない……!

 

「……ムカ……つく……」

 

「え?」

 

 がんっと怒りに任せてテーブルを叩きつけて立ち上がる。

 ダメだ……抑えらんない……

 

「……ムカつくって言ったのよ! なんでよ!? なんなのよ、あんたら!? あんたも比企谷も、偉っそうに全部分かったような顔してさぁ! 何様のつもりなのよ……!」

 

 ……悔しい悔しい悔しい……! ずっと認めたくなかったのに……! ずっと見ないフリしてたのに……! あんな奴に救けられてしまっていたことも、最底辺な自分自身も……

 

 一度気付いてしまえば……一度認めてしまえば……あとは気持ちが勝手に瓦解してくだけ。

 うちはうちに認めさせてしまった折本さんに醜い心をぶつけまくる。店内だとか周りに人が居るとか、もうそんなのどうでも良くなってしまった。

 

「あんたらだけじゃない! 遥たちだって、委員会の連中だって……どいつもこいつもなんだってのよ!? うちだってうちなりに頑張ってんじゃん! 今度はちゃんとやろうと……頑張ろうとしてんじゃん!」

 

 ……気付いてしまったから……認めてしまったから、ホントは分かってる。

 別に誰が悪いワケでもない。悪いのはうちだけ。

 うちなりに頑張ってる? バカじゃないの? うちがなにを頑張ってんの? うちはただ、雪ノ下さんが……あいつがなんとかしてくれるのを黙って見てるだけじゃん……無責任に流れに身を任せてるだけじゃん……

 

「遥たちにだってちゃんと謝ったじゃん……なんで許してくんないの……? もううちどうすればいいのよ……うち……どうしたら……いい、のよ……?」

 

 ……アレを謝ったなんて言ったら、謝罪って行為に失礼だ。

 うちは謝りたかったわけじゃなくて、ただ場を収めたかっただけだから。それにみんなの前で謝るのは恥ずかしいし屈辱だからって、みんなの居ないところに連れ出そうとしたうちの浅ましい考えなんか見透かされまくってて、そんなんで謝ったって、そりゃ許してもらえるわけ無いっての。解れよ、うち……

 本当は全部理解してるのに、激情に任せて吐き出すのはこの期に及んで醜い涙と醜い自己保身ばかり。

 

 

 ああ……うち、なんでこんな話してんだっけ……? 折本さんに聞かれたのは比企谷の話だけじゃん……。なんで全然関係無いことギャーギャー喚いちゃってんの?

 なんか、折本さんには悪いことしちゃったな。周りの客にも超見られてんだろうし、意味分かんなくてドン引きだよね。

 

 

 そしてうちは椅子へと静かに崩れ落ちた。

 ……もう帰ってくんない……?

 

「……ねぇ、相模さん」

 

 そういや折本さんはさっき、うちが下らないとか、うちに興醒めしたとか言ってたっけ。

 てことは、うちに最後に呆れ果てた捨て台詞を投げ付けて、ようやく帰ってくれるのかな……

 

 

「あたしさっきさ、比企谷の為になんか出来ないかな? とか言ってたじゃん? で、比企谷の代わりに相模さんに文句言ってやろうかと思ったって。……でもそれは別に比企谷の為でもなんでも無かった。単にあたしがスッキリしたいだけだったっぽい。……あたし今解ったわ。あたしに今なにが出来んのか」

 

 ……なに言ってんの? この人……。帰ってくれるんじゃないの……?

 

「……ねぇ、相模さん。蓄まってる事あんなら、吐き出したい事あんなら、あたしで良かったら話してみない?」

 

「……ひぁ……?」

 

 

 呆れてとっとと帰ると思ってた折本さんから出た意味分かんない申し出に、涙まみれのうちから出た「は?」は、なんかキモかった。

 

 

× × ×

 

 

「ほいっ」

 

「……」

 

 うちと折本さんは、うちのせいで目立ち過ぎてしまったドーナツ屋をあとにして、人気の無い公園へと移動してきていた。

 折本さんは先にうちを店から出して、残ったドーナツとカフェオレをテイクアウトに替えてもらったらしく──というか、折本さんはどっちも一口も口を付けられなかったんだけど──、店を出てから適当な公園のベンチに座るまでのあいだ俯いたままでいたうちに、カフェオレを渡してくれた。

 

「……ねぇ、なんのつもり? なにがしたいの……?」

 

 言われるがままに付いてきてしまったうちだけど、なんでこうなったのかは未だ分からないまま。

 だからうちは素直な気持ちを口にする。

 

「へ? だからさっき言ったじゃん。蓄まった気持ち、吐き出してみ? って」

 

「だ、だからなんであんたにそんなこと言わなきゃなんないの!? っつってんのよ!」

 

 大体うちは初対面のあんたの前でとんでもない醜態曝しちゃって、こう見えて結構気まずいんですけど……

 

「んー……、ほら、あんま知り合いとか友達には話せないこととか話したくないこととかってあるじゃん? なんか相模さんメチャクチャ蓄まってそうだったからさ、知り合いでも友達でもない、完全無関係のあたしに蓄まったもんブチ撒けたら、ちょっとはスッキリするかな〜って。……他人だからこそ話せるってこともあんじゃん」

 

 

 ……は? なんなのこの人……? 想像してたよりも遥かに意味が分からないんだけど……

 

「む、無関係って、折本さんは比企谷の友達なんでしょ……? そんなあんたに話せるわけないじゃん……!」

 

「いやだって、そりゃあたしは比企谷の友達だけど、相模さんとは友達じゃないじゃん。初めて会話したのもついさっきだから特に知り合いってほどでもないし、それって無関係じゃない?」

 

 ……どんな理論なのよそれ……もう関係しちゃってんじゃない、あんたとうち……

 

 

「……い、意味分かんないし……! それにあんた比企谷の為がどうこうとか言ってたのに、なんでこういう展開になんの? 折本さんにしてみたら敵でしかないうちをスッキリさせてどうすんの? 比企谷の為だって言うんなら、むしろうちを罵るとこじゃないの? こんなの全然比企谷の為ってとこに繋がんないじゃん……」

 

 すると折本さんは、腕を組んでうーんと考えこむと、ポリポリと頬を掻きながら苦笑いで答える。

 

「やー、だからさ……相模さんに文句言いたかったのは、あくまでもあたし個人のストレスの捌け口でしかなくて、そんなん比企谷は求めてないと思うんだよねー。むしろ「なに勝手なことしてんだよ」とかってグチグチと文句いいそうじゃん? あいつ。……じゃああたしになにが出来るかな? って考えたらさ、思い浮かんだんだよね」

 

 そして折本さんはニコッと笑ってウインクすると、ぐっと親指を立てた。

 

「だったら比企谷を苦しめてる相模さんの苦しみを少しでも軽くしてあげられたら、巡り巡って比企谷の為になんじゃね? ってねっ」

 

 ……マジでなんなの……? 意味分かんないよ、この人……

 

「だ、だって! 折本さんてうちのこと嫌いなんじゃないの……?」

 

 あんたはうちをつまらないって言ったんだよ? 比企谷の代わりにうちを罵ろうとしたんだよ?

 それなのに、なんでそんなことすんの……!?

 

 するとやっぱり折本さんは、さも当たり前のようにあっけらかんとこう言い放つのだ。

 

「……ま、もちろん好きなタイプじゃないし、友達になろうとも思わないけどさー、でもあたしの為じゃなくて比企谷の為にって考えてる今は、そんなの関係なくない?」

 

 

 ……ホントはっきり言ってくれんね、あんた。ある意味スッキリする。

 でも、だからって……

 

「……でもやっぱ折本さんは比企谷の味方なわけじゃん。だったらさ、折本さんが言ってたみたいな……誰にも話したくないことなんて言えるわけないでしょ。……だって、それがいつあいつの耳に入るのかも分かんないんだから」

 

 正直ね? ちょっとだけ心が動いちゃったことは認める。……ああ、誰でもいいから色々ぶっちゃけてスッキリしたいかも……って。

 でも普通に考えたら、そんなの折本さんに話せるわけないでしょ……?

 

「……あー」

 

 するとうちの言葉に得心がいったらしき折本さんは、なるほどっと手をぽんと叩くと胸を張って言う。

 

「大丈夫! あたしこう見えて結構口固いんだー? あ、いや、結構軽いかも……。でも安心して? 今から聞く話も、ここで相模さんに会ったことだって、比企谷にも誰にも言わないから」

 

「なんで自分が口固いかどうか疑問形なのよ! しかも軽いかもって言っちゃってるし! どこにも安心する要素が無いじゃん!」

 

「ウケる」

 

「ウケないわよ!」

 

 マジでなんなのこの女!? 危うく全部喋っちゃうとこだったじゃん!

 

 うちが引きつった顔で冷めた視線を送ると、折本さんはたははと苦笑いしたあと、少しだけ寂しそうに笑った。

 

「……うん。でもホント大丈夫。絶対に誰にも言わない。……なんか色々偉そうに言ってきちゃったけど、実はあたしもさ、深く物事を考えないこの口の軽さで、昔だれかさんを傷つけちゃったことがあるって、つい最近自覚したばっかなんだよね……。だからもう、言っちゃダメだってことはちゃんと考えてちゃんと判断しようって決めてんの。……だから安心していーよ」

 

 ……なんかホントよく分かんない女だけど、今のこの寂しそうな笑顔を見たうちには、漠然とだけど折本さんを信じることが出来た。

 この人なら大丈夫だ。うちの全部を吐き出しちゃっても、たぶんこの人なら「あんたバッカじゃないの?」で済ませてくれる気がする。

 

 

「……うちさ……」

 

 だからうちは話すことにした。

 

「……そもそもがさ、うちの前に三浦さんなんかが現れたのがいけないのよ……だから結衣ちゃんが……」

 

 うちがこんなんなっちゃった原因から始まり、

 

「……ずっとイライラしてたとこに、急にあの底辺野郎が偉そうにしゃしゃり出てきて……」

 

 段々と落ちていったうちの地位と学校生活。

 

「……ホントあいつムカつく。なんでもかんでも解ってるみたいな顔してさ……」

 

 でも、さっきの怒りに任せた表向きの身勝手な言い分だけじゃない。

 

「……ずっと見下してきたヤツに急に見下されて……」

 

 思いの丈を正直に。

 

「……でもホントは解ってた。あいつはうちなんかよりもずっと上で……」

 

 本音を語りながらもやっぱり悔しかったけど、

 

「……バチが当たったのか、結局今じゃうちが委員会で一番嫌われてて……」

 

 それでも語り続けた。

 

「……ホントは不安でしょうがないよ……このまま体育祭がうちの責任でダメになっちゃったらどうしようとか……」

 

 相変わらずの身勝手な言い分から、心の奥底に隠した不安や反省、

 

「……謝りたいけど、謝っちゃったらみんなにも本当のことバレそうで恐いし、それにやっぱどうしてもムカついてしょうがないのよ……あいつも遥もゆっこも……」

 

 ホントに色々ぶちまけちゃったけど、折本さんは黙って聞いていてくれた。

 

「……そして、うち自身も……」

 

 

 

 そして気が付いたら、情けないことに……格好悪いことに、うちがずっと抱えてきた不満から不安から何から何まで……全部語ってしまっていた。

 

 マジで信じらんない。今日初めて会ったばっかの完全な他人に、こんなに全部話しちゃうなんて……

 

 ──他人だからこそ話せるってあんじゃん? か。ホントそうかも。

 あ〜あ……悔しいけど、ほんっとにスッキリしちゃった。ずっと言えない胸の内を聞いてもらえるのって、こんなにも気が楽になるもんなんだなぁ……

 

 

× × ×

 

 

 自分語りを終えたうちは、なんとも言えない悔しさと照れ臭さ、そして晴れ晴れとした気持ちで深く深く息を吐き出す。

 

 くっそ……もしこいつがこれをネタにゆすって来たら、もううち逆らえないじゃん。

 そんなことを思いながらも、なぜだか今のうちは顔の強ばりがすっかり取れている気がする。

 

 いつぶりだろ? 人前で顔に力を入れないで居られるのって。

 

 場も弁えずに清々しい気持ちで居るうちに、折本さんが声を掛けてきた。

 

「あれだよねー。上とか下とか、やっぱ相模さんってさ、超卑屈で超ちっちゃいヤツだよねー」

 

「ちょっと!? あんたが話せば? っつったから嫌々話したのに、話し終わったらいきなり辛辣な悪口なの!?」

 

 マジでなんなのこいつ!? ありえないんだけど!

 愕然となって抗議したうちの顔を見るなり、このふざけた女は不敵ににひっと笑う。

 

「でもさ、さっきまでよりずっといい顔してんじゃん。……ど? 吐き出せてスッキリしたんじゃない?」

 

 

「……チッ」

 

「舌打ちされちゃった、ウケる!」

 

 だからウケないっての……なんか掌の上で躍らされてる気分になってくんなぁ……

 

「……なんかさ、折本さんと話してたら、今まで悩んできたことが馬鹿馬鹿しくなってきちゃった」

 

「でっしょお? それは今までの相模さんの考え方がちっちゃかったからだって」

 

「あんたに呆れてんのよ!」

 

 もうやだ、頭痛い……やっぱこいつ無理……

 

「……ま、あたしに呆れようと馬鹿馬鹿しくなろうと、そんなのどうだっていいじゃない? 要は気持ちが晴れたかどうかじゃん? ひひっ、ま、それだけスッキリした顔してるんなら、もうこれ以上比企谷に迷惑かけないでいてくれっかもねー」

 

「……うっさい」

 

 ……別にあいつに迷惑とか、そんなんうちにはどうでもいいっての。あいつが嫌いなことには変わらないんだし……

 でもまぁ、ほんの少しくらいは考えてやるわよ……

 そう思っていると、折本さんはふっと遠くを見る。

 

「あいつもさ」

 

 そして、つい今しがたまでの適当さ加減が嘘のように、とても真剣な表情で語り出す。

 

「あいつも、超卑屈で超ちっちゃいヤツなんだよね。……ま、相模さんとは違うタイプだけど」

 

「……」

 

「リア充は社会のゴミだの爆発しろだの、下らない卑屈でちっちゃいことばっか言って他人を見下してるくせにさ、いざとなると、その見下してる他人の為に自分を投げ出しちゃうんだよね」

 

 ……自分を投げ出す。あの日の文化祭、うちを救けたあの酷いやり方。

 

「それが効率がいいとかなんとか言ってるけどさ、あいつあの日、あたしがなんで自分を犠牲にしてまでこんなことすんの? って聞いたらなんて言ったと思う?」

 

 はぁ……と深く溜め息を吐いた折本さんは、ちょっと比企谷の物真似でもしてるか、目付きを悪くしてダルそうに言う。

 

「『……犠牲? ふざけんな。当たり前のことなんだよ、俺にとっては。何か解決しなきゃいけないことがあって、それが出来るのは俺しかいない。なら普通に考えてやるだろ。だから周囲がどうとか関係ねぇんだよ。俺の目の前で起きることはいつだってなんだって俺の出来事でしかない。勘違いして割り込んでくんな』ってね。……ぷっ、バカでしょあいつ。犠牲じゃない、効率がいいだけだとか偉そうに言ってるクセに、その主張はどう聞いたって犠牲そのものだっての。自己矛盾起きちゃってることにも気付いてないんだもん」

 

 ……あいつが、あんな奴が、そんなことを……?

 

「……ああいう行為が『俺にとっての当たり前』って本気で思っちゃってんのよ、あのバカ。……つまりさ、自分のことは二の次にしちゃうのが当たり前だって、効率がいいんだって、本気で思ってんのよね。どんだけ自分を軽く見てんだっての。卑屈過ぎでしょ」

 

「……」

 

「そのくせさー、自分が溜め込んでることは言わないんだよね。“相模さんのせいで”学校一の嫌われものになってんでしょ? それなのに『特に変わらん』しか言わないのよ?」

 

「ぐっ……」

 

 わざわざ相模さんのせいでを強調して言われたうちは、頭を鈍器で殴られたみたいな呻き声を出す。

 うう、胸が痛い……

 

「……でも比企谷は他人には絶対に弱音は吐かない。相模さんみたいに吐き出せないのよ。それが格好良いと思ってんだか、弱音を吐くのが格好悪いと思ってんだか知らないけどさー。……だからさ、今のあたしの目標は、まずは比企谷が気兼ねなく弱音を吐ける相手になること」

 

 でもね……と、真剣な顔でうちを真っ直ぐに見つめて言葉を紡ぐ。

 

「残念ながら今はまだ無理なのよ。……だからさ、相模さん。今はまだあんまりあたしの友達を苦しめないであげてくんない?」

 

「……っ」

 

「相模さんが比企谷を嫌いなのは理解できる。だからこの先、相模さんが比企谷に謝ろうが今まで通り比企谷を嫌おうが、それは相模さんの自由。相模さんがしたいようにすればいいって思う。……それでも、これはあいつの友達としてのお願い」

 

 

 

 ──あたしに出来ること──

 

 折本さんはうちの悩みを聞いてうちをスッキリさせることをそう言っていた。

 これが、そういうことなんだ。

 

 ったく、比企谷のクソ野郎……あんたどんだけ友達に愛されてんのよ……

 ……羨ましいよ……

 

「んー、でも……まっ」

 

 んしょ! っと、なんにも言えないでいるうちの隣から立ち上がる折本さん。

 またなんかワケ分かんないことでも言いだすのかと思って視線を寄越すと、まーたこの女はにひひっと笑ってうちを見つめてる。

 

 

「こないだの屋上で見た時とかさっきミスドで見た時のどんよりした感じだとちょっとアレだけど、今の相模さんなら、もう大丈夫かもねー」

 

「……は?」

 

 ホントこいつはずけずけと言ってくんな。なによ……どんよりした感じだとちょっとアレって……

 

「だって、今の卑屈でちっちゃい本心ブチ撒けられる相模さんならちょっと友達になりたいかもって思えるし、もう比企谷に余計な迷惑はかけないで済むかもねー」

 

 ヒクッと顔が歪む。マジでこの女ぁっ……!

 

「ざっけんな! あんたいい加減失礼過ぎだから! だれがあんたなんかと友達になれるかっつーの! こっちから願い下げよ! このデリカシー0女!」

 

「ひひっ、そりゃざーんねん! ま、いいけどねー。じゃねっ」

 

 

 言うだけ言って折本さんはとっとと帰っていく。振り返りもせずに手をひらひらさせながら。

 そんな折本さんの背中にドーナツでも投げ付けてやりたい衝動に駆られながらも、なんだか口元が緩んでるな……ってことだけは自己分析出来てしまってる。

 うちカッコ悪〜。

 

 

 

 

 ──あたしに出来ること……か……。じゃあ、うちに出来ることってなんだろ。

 

 

 

 

 ……うちは……

 

 

 

続く

 





ありがとうございました!さがみんSSの第10話目でした(^^)/オイッ



ようやくさがみんがブチ撒けました。
やっぱジトッとしためんどくさい女を立ち直らせるには、こういうからっとしたフリーダムっぷりが強さを発揮しますよね☆
なにせツッコまずにはいられなくなりますから(笑)

なんだかんだ言ってこの折本とさがみんだったら、いつか友達になっちゃう気がします。凸凹コンビですけどねw


ではではまた次回です!

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