インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
完全にライオンの姿となったヴィクターが、一夏を背に乗せ空を駆けていく。その速さは箒との模擬戦で見せたスピードと同等だが瞬間的な速さではなく、一気に無人機達に肉薄する。それも一直線にではなく、まるで動きが読めないスーパーボールのように不規則な軌道を描いて飛んでいく。
無人機達も急な変化に対応できずに、射撃も牽制の意味を成していない。ヴィクターは1体の無人機の後ろに回り込み突進していく。それに合わせ一夏も零落白夜を起動し、すれ違いざまに両断する。先程までの苦戦が嘘のように、あっさりと撃墜される無人機。もはやヴィクターへの対応で手一杯になっている。
「いったい、何であの速さであんな動きができるんだ。あんな動きをすればGが掛かりすぎてすぐに内臓破裂を引き起こすぞ。防護機能でそれを免れたとしても、機体の方がもたないだろう」
通信越しにラウラの疑問に感じる声が聞こえてきた。その答えはヴィクターの背に乗っていて理由がわかった。ヴィクターは黄金獅子の進路上に『轟獣烈波』で生み出した壁を足場のように展開している。しかしそれだけではない。生み出した板状の足場に対し緩い角度で突入しているのだ。ボールに例えれば床に対して垂直にではなく、平行に近い角度で跳ねているようなものだ。こうなると方向を変えた時に発生するGの負担がほとんど軽減される。
オマケにその際足場を蹴っている分、加速が入り方向転換時の減速がプラスマイナス0になるどころか、次第に加速していっている。短いスパンで行えば、文字通り目にも留まらぬ速さとなるだろう。更に言えば今の黄金獅子は完全な獅子の姿で四脚である。負担は更に軽減され、加速も数段飛ばしの加速度だろう。
しかし、今の俺には別の疑問が頭に浮かんでいるのだ。こうしてヴィクターと連携して無人機を撃墜していっているのだが、あまりにも息が合いすぎている。まるで生まれてからずっと一緒に過ごしてきた双子の兄弟のように、一瞬のズレもなくタイミングが合っている。同じ剣術を学んだ箒とでさえ、目配せや何かしらの合図を出さなければここまでの連携はできない。それをヴィクターはこちらの反応を認知せずに、まるで無意識で次のタイミングがわかっているかのように動いている。
「一夏、ラスト一機だ。仕留めるぞ!」
いつの間にか、無人機は残り一機となっていた。先程までの疑問は捨て、目の前の無人機に集中する。無人機も抵抗を見せるが、ヴィクターは相手の頭上をとる。無人機からは、太陽を背にした金色の獅子と純白の騎士が見えていただろう。
「うおおおお!!!」
乾坤一擲。最後の無人機が縦に一刀両断にされ、戦闘は幕を閉じた。