インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
ある男の夢を見た。どこかの戦場か、はたまた焼け落ちていく街の中か、あたりは炎に囲まれていた。男は炎の中心で、微動だにせず立っている。その片手には一振りの刀が握られ、近くには幾重にも積み重なった死体の山がある。ふと、男がこちらに振り返る。幽鬼の如き表情であったが、その顔はどこか見覚えのある顔だった。
瞬きをすると、一瞬で風景が変わった。炎に囲まれているのは変わらないが、どこかの研究室の中のようだ。そして死体の山と刀も無くなって、代わりに1人の女性が男に抱き抱えられていた。女性の目は閉じられており、男は女性を抱き抱えたまま泣いていた。先ほどとはまるで別人のように、男は泣いていた。
目覚まし時計の音に起こされる。一夏はまだ寝ぼけ気味の頭で、さっきの夢を思い出す。あの男の顔は、確かにどこかで見た覚えがある。しかし思い出せる範囲の男の知人には、該当する人物はいない。別にテレビで見た有名人という訳でもない。一体誰だったのだろうか?
「おはよう、一夏。朝食の準備ならもう出来ているよ」
自分が起きたことに気付いたヴィクターが声を掛ける。見ると白米、味噌汁、鯵の開きと日本的な朝食が準備されている。傍らでは、味噌汁の出汁に使ったであろう煮干しをフランが嬉しそうに噛んでいる。
「おはよう、ヴィクター。それお前が作ったのか?」
「ああ、ここに来てから色々と世話になっているから。簡単なものだが、そのお礼にな。ちょうど出来たところだから、冷めないうちに食べてくれ」
「それじゃあありがたく…」
そう言って、鯵を一口食べる。程よい焼き加減でとても美味い。味噌汁も豆腐・ワカメとシンプルな具だが、その分出汁の風味が強く出ている。
「おお、滅茶苦茶美味いぞ!」
「それは良かった。久々にまともな料理をしたから少し不安だったが、喜んでもらえてなによりだ」
「ん?今まで飯はどうしてたんだ?」
するとヴィクターは苦笑いしながら答えた。
「前の世界ではずっと野宿だったからな。食料も野生動物や魚を獲ったり食べられる野草を採取して、調理方法も焼くしかなくてな」
「お前、ほんと凄い人生を送ってきたんだな」
「言うな。思い出したら自分でも虚しくなってきた…」
そんな話をしているとヴィクターの足元にフランが寄り添ってくる。
「そういえば、お前は楽しそうにしてたっけな。よくウサギとか狩って持ってきてたし」
え?フランってそんなに好戦的なの?フランを見つめると、何事かと首を傾げてくる。全然攻撃的には見えない。
「おっと、そろそろ出ないと待ち合わせに遅れそうだ。女性を待たせると後が怖いからな、一夏も急いだほうがいい」
「うわっ、ヤバイ!」
ささやかな疑問を放置し、俺は急いで準備を済ませたのだった。