インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
箒の作戦が成功し、ヴィクターが爆発に包まれる。今のは躱せなかったのか、爆煙の中からヴィクターが出てくる様子がない。
「あれは確実に入ったな。致命的とはいかなくとも、だいぶダメージが伝わっているだろう」
ラウラが冷静に分析を行う。
少し煙が風に流され、ヴィクターの様子が確認できた。頭を押さえるように蹲っている。距離をとっていた箒もそれを確認したらしく、ヴィクターに向かっていく。対するヴィクターは変わらずに蹲ったままだ。あのスピードなら、今迎撃が可能な状態になったとしても箒の攻撃が先に届くだろう。
「貰ったーーー!!」
箒の振り下ろしの一撃が決まった。黄金獅子は今の一撃で地面に崩れ落ち…、
「待って!ヴィクターは!?ヴィクターがいない!」
シャルがそう叫んだ。
それと同時に、箒の背後から刃が首に添えられる。
「65点、といったところですね。先ほどの不意討ちは見事ですが、詰めが甘い。貴方が取るべき行動は、あの射撃だった。それならば、相手の状態がブラフだったとしても安全にとどめを刺せた」
そこには、黄金獅子を纏っていないヴィクターの姿があった。いや、違う。正確には纏っている。しかし先ほどまでのアーマーではなく、急所を保護するような必要最低限のものであった。
「リアクティブアーマーか」
箒が声を発する。
「その通りです。しかし貴方の射撃では発動させていませんよ」
「あの刀だね」
シャルがそう言うと、ヴィクターはこちらに振り向きながら答える。
「ご名答。あの射撃がきた時、刀を爆破してそれを掻き消した。それと同時に爆破の衝撃をアーマーに与え、アーマーをパージした。貴女方の見た爆煙はその煙です。その後私は、パージしたアーマーを組み上げて隠れていたのです。あたかもダメージを負って蹲っているようにね」
それを聞いて箒は、納得したというように両手を上げた。
「成る程、私もまだまだだな。貴方の隙の無さは打ち合いで理解している。この状態からでは勝ち目はない。降参だ」
箒が自分から敗北を認める。
「篠ノ之さんの宣言により、ここまでとします。勝者、ヴィクターさん!」
山田先生の宣言によって、ヴィクターの勝利で模擬戦が終わる。
「申し訳ない!」
2人が控え室に戻ってきたところで、ヴィクターが箒に対して土下座をしている。
「いくら模擬戦とはいえ、あんな殺す気満々でやってしまって本当に申し訳ない!」
箒はどうしたらよいかと、あたふたしている。
「そう言うな、ヴィクター。本気でやれと言ったのは私だ。文句を言われるなら私の方だ」
そう言って登場したのは千冬姉だった。
「あの、どういうことでしょうか?」
セシリアが千冬姉に質問する。
「最初の模擬戦、あの時ヴィクターは本気では無かった。そしてあの結果だ。ならば逆にヴィクターが本気だった時、お前達はどこまでできるのか?それを今回検証した訳だ」
そういう事だったのか。あの時のプレッシャーはこっちにまでくる勢いだった。下手したら自分はプレッシャーに呑まれて、すぐに勝負が決まっていただろう。
その事実を受けて、箒が声を出す。
「顔をあげてください、ヴィクター。状況もわかりましたし、今回は学ぶ事も多かった。謝られるどころか、こちらが礼を言いたいぐらいです」
「そう言ってもらえると助かる。本当にすまなかった」
そう言ってヴィクターは、箒が差し出した手を握り返した。