インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
人が変わったように冷酷な言動のヴィクター。今の一撃を見ただけでも、専用機持ちの中で一番強い楯無さんをも圧倒するという気がする。これがヴィクター本来の強さということか。
「ひとつ、種明かしをしましょう。この刀には黄金獅子の動力回路に流れている余剰エネルギーを流し込んでいる。そのエネルギーを振動により活性化させ高熱を発生させている。この熱量と太刀本来の切れ味により、『切断』ではなく『溶断』を行う。これがこの太刀の仕組みです」
構えをときながらヴィクターが話す。構えをといたといっても、先程の全身に突き刺さるようなプレッシャーは変わらずに放たれている。
「ここまで言えば、対抗策は思いつくでしょうか?」
「無論だ。仕組みさえ解ればどうにかなる」
「では…」
「いざ!」
再び2人が打ち合いを始める。先程よりも速く、鋭く、熾烈な剣戟である。
そして何故か、ISの装甲すら切断するヴィクターの太刀を、箒は雨月と空裂の2振りで防ぎきっている。
「ふむ、なかなかやるな、箒も」
シュヴァルツェア・レーゲンを部分展開し、ハイパーセンサーでモニタリングしていたラウラが呟いた。
それにシャルが質問する。
「どういうこと?ラウラ」
「ああ、戦闘をスローで見たときに、箒が受け止めているのがヴィクターの太刀の先端部分だった。他の各種センサーを併用したところ、その先端部分は他の部分と比べて温度が低かった」
それを聞いた鈴も、頷きながら話す。
「成る程ね。熱源のエネルギーは黄金獅子本体から供給されている。それはヴィクターが握っている柄の部分から供給されて、熱を発している。となると、必然的に剣先と刃の根元ではどうしても温度差が生じるもんね。
それに映像を見ると、紅椿の装甲を斬ってたのは刃の根元から中間の間。てことは、その部分でしか装甲を切断するほどの熱量を出せないわけ。
でもそれにしたって、あの速さで太刀の先端だけに当てて攻撃を弾くって…」
それに俺が答える。
「いや、状況が解れば納得だ。千冬姉から教わったことなんだが、刃渡りさえ正確に解れば意外と難しいことじゃないんだ。実際、刃の軌道は手元の動きの延長線でしかない。その上剣の切っ先は速さはあるけど一番力が掛かってないんだ。さっきの話を含めても刃の中間、つまりヴィクターを中心に半径1メートル以内に入らなければ、まともに食らう可能性は少ないだろう」
ギャリィィン!!!
そこまで言った時に一際大きな音がする。箒とヴィクターが鍔迫り合っているのだ。
体格差と膂力の違いで箒が押し切られると思われたその時、
ドオォォォン!!
ヴィクターが爆発に巻き込まれる。その原因はすぐにわかった。
箒が射撃武装『穿千』を発射待機状態で背面に隠していた。それを食らわせたのだ。