インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
黄金獅子から音声がしたと思ったら、一振りの刀が握られていた。これに対し、最初に口を開いたのはセシリアだった。
「何ですの、あれは?一夏さんの白式が持つ雪羅と似ていますが」
そう、あの大太刀の取り出し方が自分達の知るものとは違っているのだ。単に別の武器を出したのではない。かといって白式の雪羅とも違う。雪羅はエネルギーの形状を変化させて様々な武装に変化するが、基礎となる部分は変形しない。しかし黄金獅子の場合、元からあった爪が完全に別の武器に変化している。
「これが、黄金獅子の能力、『極限進化』です。貴女方のISにおけるワンオフ・アビリティーのようなものですね。この能力は文字通り進化する能力、戦闘状況に適した武装を生み出すものです」
感触を確かめるように、軽く刀を振りながらヴィクターが説明をする。
つまり、さっきの打ち合いで箒への対抗策を構築したということか。
対する箒は、隙を見せず構えをとっている。
「では再開しましょうか」
そう言うとヴィクターは腰を落とし、刀を肩に担ぐような構えをとった。意図の読めない構えに次の攻撃を予測しようとした瞬間、その一撃がきた。
瞬きの間に箒の眼前まで迫るヴィクター。その速さは、今までの速度が本人からすればスキップ程度とでもいうような、瞬間移動にも思えるものだった。その勢いのまま、ヴィクターは上段からの振り下ろしを放つ。
あまりの速さに箒は迎撃も防御も間に合わず、脚部のスラスターを吹かし地面を転がるように回避する。
装甲の一部を擦りながら、すんでのところで躱しきりヴィクターの一撃は空振りとなった。
「おい、地面を見てみろ」
ラウラのその一言で、その声が聞こえた生徒は地面を注視する。ヴィクターが大太刀を振り下ろしたアリーナの地面。そこには、あまりにも深い切断跡がある。
そこで、専用機持ち全員がその結果が示す事を理解した。
「なんて切れ味なのよ。あんなのまともにくらったら絶対防御があってもヤバイじゃない…!」
箒もその切れ味に驚愕していた。紅椿を見ると、さっき擦ったと思われる箇所に、ひび割れ無く切断跡がついていた。それを見てヴィクターが口を開く。
「偶然といった感じですが、刀で受けなくてよかったですね。もし迎撃しようとしてたら、武装ごと斬っていたでしょうから」
平然と物騒なことを言うヴィクター。その瞳は普段見ていた穏やかなものではなく、破壊の権化とでもいうような戦士の目をしていた。