インフィニット・ストラトス ワールド・オブ・イフ 作:ラ・ピュセル
開始の合図が出されると同時、両者は激突した。あまりの勢いに、2人を中心に半径1メートル程に衝撃波が走る。
それからは速さの勝負となった。箒は刀のリーチによる間合いの広さ、ヴィクターは武装の軽さによる手数の多さで優位性を確保し、激しい連擊が繰り広げられている。
「む?おい、前回と構えが違わないか?」
ラウラの言葉を聞き、ヴィクターを注視する。確かに、前回のような荒々しさが無い。前回は野生の獣のような動きをしていたが、今の彼の動きは純粋な人間の格闘術だった。
「ほう。どうやら全力ではないらしいが、本気を出しているようだな」
近くで見ていた千冬姉が呟いた。
「ある物事を競うとき、どれだけ強いかを仮に『未熟』『通常』『達人』と3つにランク分けしよう。達人レベルの者が戦うとき、確実に勝利するにはどうするか。未熟・通常レベル相手なら、予想しにくい奇策を用いて有利に立ち回ればいい。だがこれが、達人同士の場合どうなると思う?」
その問いにシャルが答える。
「真っ向勝負、ですか?」
「ああ、達人というのはあらゆる状況を考慮し、対策を立てられるものだ。達人同士となると、お互いどんな策が来るかということを考えている為、策を講じて失敗し隙をつくるよりも、正攻法で隙をつくらないほうが合理的という訳だ」
千冬姉が説明をしている間にも、2人の戦いは苛烈さを増している。
しかし、ここで気付いたことがある。ヴィクターが押され始めているのだ。いくら手数が上回っていても、相手がリーチの点で優位なら攻撃を当てるのは難しいだろう。その上、箒がヴィクターの動作をある程度予測出来るようになったらしく、的確な動きでヴィクターを寄せ付けず追い詰めている。
ギィン!
一際大きな音と同時、両者は距離をとる。見たところ、疲労の度合いはほぼ同じ。お互い肩で息をしている。
「なかなかの腕前ですね。まさか押されるとは思いませんでした」
「いや、そちらこそ。あの衝撃波を使わずともかなり手強いです」
そう、今回ヴィクターは『轟獣烈破』を使っていない。先ほどの話の通り、真っ向勝負をしているのだ。
「ですが、ここから巻き返させていただきますよ」
ヴィクターの言葉と同時に、電子的な音声が鳴る。
『マテリアルシフト・スタート』
途端に、黄金獅子の腕に付いていた爪が、粒子となって形状を崩していく。その粒子はヴィクターの手元に集まって、爪ではない別の形状を形作ってゆく。
光が収まり、ヴィクターの手に握られた物を見る。それは、金色に輝く刃渡り2メートルの大太刀だった。