「「やしなって」」   作:風邪薬力

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比企谷八幡は魔法使いになった

俺は酷く焦っていた。

 

「こちらが今回紹介するアイドルの資料です」

目の前にいるスーツの役員に資料を見せる。

そこには担当である双葉杏の資料が書かれていた。

「ま、まずお話しなければいけないのは、彼女がEランクのアイドルであるということです」

その資料を見た時に眉をしかめたのを見て、まずいと思った。

「ですがひと目見れば彼女の凄さに気づくでしょう。彼女は今のアイドルにはない特別なものを持っています。それは在り来りなものじゃありません。新しいものが世間を熱狂させると思うのです。彼女はー」

俺は怖くなり一気にまくし立てる。

彼女の魅力を伝えればいいんだ。

「あのねぇ」

「ーえ?」

俺の言葉を遮ったのは酷くどうでもいいような目をした大人だった。

「君の気持ちはわかる。プロデューサーとしてアイドルを売り込まないといけない。それが君の仕事だからねぇ」

腕を組み、椅子にもたれ掛かるこいつはなんの勘違いをしているのかそんなことを言い始めた。

「ち、違います。そういう事じゃなくて俺は彼女のアイドルとしての力を!」

「ああ、うん。わかるよ。でもね?君が言った今までのアイドルって言うのは実績を残しているんだよ。かもしれない、行けるはずだ、そんな曖昧な言葉ではなく」

ああ、わかる。言ってることはわかる。

でもそうじゃないだろ?

なんでわからないんだ。

「そうだね、例えば竜宮小町が出れば数字が取れる。これは確定事項なんだよ。君のいう双葉杏と違ってね」

くそこいつ嫌いだわ。

「…竜宮だって最初があったはずです。それでもあそこまで売れた。今は先行投資が必要なのです。先を見る目がないと売れるものも売れないと思いませんか?」

「…君はどうにもプロデューサーに向いてないと思うね。そんな様子じゃ売れるものも売れないだろう。自覚をするべきだ、君のアイドルの為にもね」

彼は席を立つ。

「ま、待ってください!まだ話はー」

「終わりだよ。私が席を立ったんだ。話は終わりだ」

そして彼が部屋から出ていき

扉が閉じた。

 

 

 

「うるせえ、向いてないことくらいわかってんだよ…」

俺はマッ缶を飲みながらいじけていた。

なんでこんなに伝わらないんだ。

見てから決めろよくそが。

だいたい見てないものを駄目だなんて決めつけるのはあまりにも幼稚だろ。

竜宮が数字持ってんのなんて知ってんだよ。なんで数字を持ってるかが大事なんだろうがよ。

そこまで考えないからその程度なんだよ。

 

…頭を冷やす。

駄目だ。こんな調子じゃ売れない。

それでいいのか?良くないだろ。

俺は双葉の良さを知ってる。

双葉の凄さを知ってる。

あいつを見た時足が竦んだんだ。

まるで絶対に勝てないものに出会ったように。

それは俺だけの物に出来る事じゃない。

皆に見てもらうのが1番いいんだ。

違うか?

…自慢したいだけかもしれない。

双葉杏を。

まるで子供が自分の宝物を自慢したいみたいに。

 

…俺は子供か。

まだ子供なのかもな。

それじゃ駄目だろうな。

俺だけじゃ駄目だ。

俺にはなんの力もない。

あの野郎に言われた通り向いてないしな。

自分がそう言われるのはいい。でも、なんでこんなにムカつくかって、

 

双葉杏がアイドルとして未熟だと言われたからだ。

 

思い出したらまたムカついてきた。

俺一人じゃ出来ない。

なら、先輩に甘えてしまおう。

今はまだ出来ないけど、いつか必ず俺だけでも魅力を伝えられるように。

あいつマジで覚えてろよ。いつか必ず後悔させてやる。

 

 

 

「武内先輩」

「…比企谷君、珍しいですね。なにか御用ですか?」

「コネを貸してください」

「…は?」

「コネを貸してください」

「私にそのようなものはありませんが…」

「番組のプロデューサーを紹介してください。出来れば346が良くお世話になってる人で」

「…いるにはいますが、コネと言うには弱いです。彼はその、ちょっと変わっている人で。ですがプロデューサーという観点から見れば優秀だと思っています」

「紹介してください!お願いします!」

「わかりました。ですがコネは通用しないと思ってください」

「はい」

 

 

「本日は無理を聞いていただきありがとうございます」

指定された場所は料亭だった。

いかにも高そうな場所で、お代官様とかが使っていそうだ。

「気にしないでいいよ。僕は346さんの無理は聞くようにしてるんだ。面白いからね」

目の前にいるのは敏腕プロデューサー。いくつかの番組を持つ業界では有名な人らしい。

「ありがとうございます。こちらが紹介したいアイドルの資料です」

「うん、見させてもらうよ」

彼は資料を見ていく。

今回は落ち着いていこう前回の反省を活かしてもっと慎重に。

伝えるべき事をちゃんと伝える。

落ち着くんだ。

「それで?」

「はい、えっと」

「聞き方が悪いね。こんなアイドルを売り込んでどうしたいんだい?僕的には何も引っかからないけど」

…落ち着け。落ち着けよ比企谷八幡。

ここで激情したら前と一緒だ。

「双葉杏の魅力は書面では伝わりません。まずは彼女のステージを見ていただいて、そのあとー」

「ステージ?どこで見られるんだい?」

こいつ、わかって煽って来てる。

「…今はまだ。ですが私はそのステージを用意して頂きたいと思ってます。どんなものでも構いません。彼女が日の目に当たればすぐにみんなが理解出来るはずなんです」

聞くと腕を組み、うーんと考える。

押し足りない。

まだここじゃ終わったら駄目だ。

「私は双葉杏を見た時に足が竦んでしまいました。彼女には普通じゃない何かがある。そしてそれはステージに立つべきものなんです」

そこでふうっとため息が聞こえた。

またこの反応か…!

「聞いてた話と違うね。ちょっと残念だよ」

「はい?」

武内さんか?

「前に聞いたんだよ。双葉杏っていうアイドルを売り込んできたプロデューサーの話。彼とは付き合いがあってね。まあ僕は嫌いだけど」

あいつか。

業界は狭いらしいしこういう事もあるのか。

「…少し反省しまして。アイドルを売るために気持ちを切り替えました」

 

「つまらない」

 

「は?」

「今日は面白そうだから来たんだ。彼の言うような男の話なら聞いてみたいと思ってね」

だからなんなんだ。俺の答えは不正解だったのか?

よく分からない言葉で濁さないでくれ!

「君は自分がアイドルと向かい合った時に売れると思ったんだろう?足が竦んでそう思ったんだろう?」

そうだ。

でもその気持ちだけじゃ売れないことも理解した。だからこうやって

「僕はそいつと違う。もちろんそういう売り方だったら売れる可能性もあるだろう。例えばあいつだったらもっと話は聞いてくれたかもね」

「…そうです。だから色々考えて」

「相手によって売り方を変えるんだよ。人それぞれ伝え方が違うなんて仕事じゃなくても人間なら当たり前の話だと思うよ」

うるせえ、ぼっちだからわかんねえよ!

「じゃあ改めて聞こう。君の気持ちを。君が感じているそのままを言ってくれていい。むしろそれが聞きたい」

…言ってやるよ。

気持ち悪いと言われようが、やってやるよ。

 

「…双葉杏は今までのアイドルとは違う。彼女はまさに舞踏会に立つべき女の子だ。誰もがその存在に光を見る。同年代の女の子はその存在に憧れ、男は神聖な何かを見る。その姿は本物の偶像(アイドル)だ。誰もが心酔できる。普段の姿は等身大で、舞踏会に立てばシンデレラ。その姿こそが人の心に突き刺さるんだ」

 

「なるほど。ところでもし今出演を決めるとなるとゴールデンの歌番組、ああもちろん知ってるよね?そこしかないけど…どうする?」

「是非。最高の舞台だ」

「ははははは!良いよ、決定だ。覚悟を決めなよ?そこはアイドルにとっても君にとっても戦場なんだから」

「…最悪うちの会社が責任を取りますよ」

「その時は君も、だけどねえ?」

 

 

決まった。

よし!

明日双葉に教えてやろう!

これでやっと、プロデューサーとして歩ける気がする。

まだ30歳でもないけど魔法を使えるようになった。

シンデレラのために。

 

 

 






3日目!

最近デレステのアニメを見返してフェスの回最高だと思った。(小学生並み)
最初が酷いけど…

のぶはすさん誤字報告ありがとうございます!いつもすみません…

ランキング乗ってるらしいですね。
私は感想とかあまり貰えないのでそんな感じしませんけど笑
だからこそいつも感想くれる方の名前は覚えております!
皆さんありがとう!そのおかげで頑張れる!

でわーやみのま!


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