Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
「来たわね……」
静かに私はつぶやいた。
闇に息をひそめ続けて、すでに数時間は経過していた。
彼女が連れてくるまでの間と耐え続けていたが、仲間からの捜索を逃れながらというのは中々に難儀なことだった。
特に魔女の捜索方法などは、まるで体中をゆっくり嘗め回すかのように陰湿で不快なものだった。
ここまでの行為は、裏切りとはされていないらしかった。
現に、体に刻み込まれている
たとえ数時間だとしても耐えたんだもの。あなたにそれだけの価値があると願っているわ。
手に力がこもる。
彼は彼女に連れられやってきた。
「ここに誰かいるのか」
「そうッスよ」
警鐘が鳴り響いていた。
世界的にも名高いベルリンの地に、まだこのような場所があるのかと疑いたくなるほど、そこは闇が濃かった。
歴史の取り残された地。
第二世界大戦の死者たちの多くの魂が、昇華することがかなわずとどまりつづけているようだった。
士郎は吐き気を覚えながらも。あたりを見回した。
人影も気配も感じることができなかった。
「衛宮さん。まだ気づきませんか?もうあなたの近くにいますよ」
「なにっ!」
士郎が振り返るやいなや、強烈な拳が士郎の体にめり込んだ。
数メートル吹き飛ばされながらも、士郎はなんとか態勢を立て直す。
嵌められたのか!
そう考えていると、闇の中からおぼろげながらも人が姿を現し始めた。
ヴィルヘルムやルサルカではないものの、その出で立ちから彼女が何者かであるかを予想するのに時間はかからなかった。
「聖槍十三騎士団……!」
「シャルロット、ありがとう」
「これくらい余裕ッスよ」
「嵌めたのかっ!」
「嫌だなぁ」
シャルロットがいたずらっぽく笑いながら士郎を見る。
まるで士郎がそう言ってくるのを待っていたかのようだった。
「私は何も敵に会わせない、何て言ってないッスよ」
「クソ」
浅はかだった。
こいつらはあのナチス親衛隊なのだ。
狡猾で陰湿で強欲。
そんな奴らの言葉をまともに信じたほうが馬鹿なのだ。
「
「それは形成……? ううん、違う。わからないけど……戦うなら名乗らなきゃね。」
「どうせ俺の名前は知っているんだろう」
「もちろんだよ、衛宮くん」
彼女はそういと小さな声で「
巨大な雷鳴が響き渡る。
一瞬目を離したその瞬間に、彼女の手には稲妻をまとった剣が握られていた。
士郎もアゾット剣を構えなおす。
「聖槍十三騎士団黒円卓第五位ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン」
「どうしても戦うのかっ!」
「何を言っているの」
「あんた……」
士郎の中で妙な違和感が走っていた。
こんな感情を今、目のまで臨戦態勢をとっている相手に抱くのはおかしな話だった。
それでも確かめられずにはいなかった。
本当に敵なのか否か、それは士郎にとって重大な問題だった。
「本当に敵なのか……?」
「何をいまさら」
「感じられないんだよ」
「感じられない?」
「あぁ、上手く言えないけど本物の殺気を」
「そう。だったら……これでどうかしら!」
まさに稲妻のごとき速度でベアトリスは士郎へ迫ってきた。
互いの剣が打ち付けあう。
数度の打ち合いでアゾット剣は壊れてしまったが、士郎は何度でも詠唱をした。
これといった突破口を見つけられないまま、戦いはこう着状態へと入ったと思われた。
だが、ベアトリスが再び剣を振りかぶった瞬間、士郎に稲妻が落ちた。
「あぐ……!」
体の神経が焼き切られたかのように動かなくなる。
そこへベアトリスの凶刃が襲い掛かった。
急所は避けられたものの、右肩がパックリと避けた。
だが、士郎には稲妻よりも驚くべきことがあった。
痛くないのだ。
昨日のヴィルヘルムの同じような攻撃に対しては、あれほどの激痛が走ったはずなのに 今の攻撃に多しいて痛みなど、まったく感じられなかった。
アドレナリンの多量に分泌されているから、というだけでは説明しきれなかった。
導き出された答えは、ただ一つ。
俺の中で何かが変わっている。
士郎は大きく後ろへ下がった。
ベアトリスは追撃をするそぶりを見せなかった。
「何かあったのかしら?」
「なんでもない」
「そう。良いことを教えてあげる。あなた、このままだと私に殺されるわよ。あなたと私の魔術は根本が違いすぎる。あなたは光や夢を追いすぎよ。私みたいに・・・もっと罪を真摯にみる目をつけなさい。」
「余計なお世話だ!」
「そう。なら試してごらんなさいよ。あなたの最大魔術で。私もそのほうが面白いと思うし」
いいだろう。
だったら試してやる。
俺が俺でありつづけつための
―――忘れるな。イメージするのは常に最強の自分だ。
外敵など要らぬ。
おまえにとって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない。
未来の
あぁ、わかってるよ
俺が今できることを最大限でやる!それが俺の勝利への活路だ!
「
世界が暗転する。
一瞬の刹那。
コンマ数秒の時が過ぎた。
わずかな時の間で世界は丘へと変わる。
剣の墓、という表現がもっともふさわしいのかもしれない。
無数の剣が丘へ突き刺さり、空には太陽も青空もなく。赤い錆びた空が広がり、歯車が回っていた。
「これは……」
「行くぞ稲妻」
「……!」
「ここは俺の世界だっ!」