Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
見ず知らずの街というのは恐ろしい。
今まで慣れ親しんできた自国の慣習、言葉、行動。
その全てがまったく異なり適応するのに時間を有するからだ。
ゆえに士郎は見知らぬ街で迷っていた。
迷ったからといって、言葉が通じない限り誰かに聞くこともできず、看板を見ても何が書いてあるのかサッパリだった。
こんなことだったら戒にもっと詳しく家の場所を聞いておけば良かった、そう後悔していると見たことにある背中が目に飛び込んできた。
危険は承知のうえだった。
士郎はその背中の後を追いはじめた。
昨日の戦いから丸半日以上寝ていたせいか、すでに時刻は黄昏時となっていた。
オレンジ色の淡い光が、ベルリンの街を包み込んでいる。
士郎が後をつけているのを気付いているのかいないのか、背中の主は路地裏へと入っていった。
さらに奥へ進んでいくと、曲がり角を曲がっていった。
士郎もついていこうと角を曲がる……と背中の持ち主は士郎のほうへ向いたまま仁王立ちしていた。
「Wie heißen Sie?」
「え……?」
「Fassen Sie mich nicht an!」
突然の大声に士郎は思わずたじろぐ。
帽子を目深に被った彼女は、間違いなく昨日現れた人物に間違いなかった。
「Sprechen Sie Japanisch?」
「あ……えーと……」
「何スか。何の用スか」
ドイツ語でまくしたてていた彼女から突然飛び出した流ちょうな日本語に士郎は驚いた。
最初から日本で心になかで突っ込みを入れながら彼女をまじまじと見る。
帽子をかぶっているため正確な歳を計ることは難しいが、歳はまだ15歳といったところだろうと士郎は予想する。
「昨日、あそこにいただろ」
「へぇ……いちお覚えてはいるんスね。」
少女はいたずらっぽく笑うと、突然殺気を放ちはじめた。
その勢いに思わず目を背ける。
「だったら、どうして後をつけてきたんスか? 私も、あなたを殺そうとしている組織の一員なんですよ」
「そうは思えなかったからだ。今日もまるで、自分から姿を見せたみたいだったしな」
「なるほど……そこまでキレる方だとは思いませんでした。意外と周りを見る余裕を持っていたんでスね。こちらの誤算ッス」
「何の用なんだ。どうして俺を襲ってきた。お前たちは何者なんだ」
「まずは自己紹介といきましょう。聖槍十三騎士団黒円卓第6位代理アンネ・リーゼロッテッス。よろしく、衛宮さん」
「……よろしく」
リーゼロッテはそこまで言うと、帽子を少しあげた。
中からわずかに見える顔は、美少女と形容するにふさわしいものだった。
思わず見とれていると、リーゼロッテは再び帽子をかぶりなおす。
「さて、衛宮さん。こちらへ付いてきてください」
「どこへ行くんだ」
「秘密です」
「なんでさ……」
「知りたいんスよね? 私たちのこと。そして……黄金錬成のことを」
「……!」
「あなたも気づいているんじゃないんスか。内なるもう一つの力に」
心臓が跳ね上がる感覚に襲われる。
悪寒や嫌悪に似たそれを彼女たちは本当に知っているのだろうか。
罠の可能性も十分あり得た。
もし、昨日のようにヴィルヘルムやルサルカが襲ってきたら、おそらく今度こそ士郎は負けるだろう。
それでも全てを知るためには、シャルロットの言葉を信じるしかなかった。
「わかった、付いていけばいいんだろう」