Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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戻らざる者

 いつからだっただろうか。

正義の味方になりたいと本気で考えていた。

憧れの切嗣と同じように、みんなを守りたいと考えていた。

自分に課せられた使命のように感じた。

誰も傷つけさせない。

それだけを考えて聖杯戦争に参加した。

犠牲者を増やさないため、悲しみを背負うも者を増やさないため必死にもがいた。

それなのに……

 

俺は今何をしているんだ。

士郎は痛みに耐えながら顔を上げる。

目の前には、黄金に輝く甲冑を身に着けている英雄王の姿とその下で満身創痍の状態で倒れているセイバーの姿があった。

 

「負けたのか……?」

 

 思わず出た嘆きに、隣にいた遠坂凛が首を振りながら答えた。

 

「勝ったとか負けたじゃないわ、士郎。最初から勝負にすらなっていなかったの。アイツにとっては、遊びの一環だったのかもしれない」

 

「馬鹿な……!」

 

「動いちゃダメ! あんた自分の状況みなさいよ!」

 

 見ずとも自分が今、どのような状態なのかは士郎が一番わかっていた。

腹部からの出血は止まらず、右肩は半分以上が抉られており体半分の感覚が無かった。

それでも立ち止まるわけにはいかなかった。

ここで逃げることはほかでもない士郎自身が許すことができなかた。

そして、騎士として最後まで戦い抜いた彼女セイバーに対しての裏切りにほかならなかった。

 

「俺はまだ……戦える!」

 

「ほぉ……まだ立ち上がるか雑種」

 

 今にも外れそうな右肩を抑えながら士郎は立ち上がる。

その様子をまるで、虫けらでもみるかのようなつまらなさそな視線を向けながら英雄王は笑っていた。

 

「言ってろ。俺はまだお前を殺すことを諦めていない」

 

「ふん、言うことだけは立派だと誉めてやろう。実現できるほどの実力者なのか……あるいはただの大バカ者か。どちらにせよ、これで終わりだ」

 

 ギルガメッシュの背後に無数の光の円が浮かび上がる。

その中からは多種多様の武器が姿を現していた。

 

「士郎!!」

 

凛の叫び声が聞こえた。

かつてギルガメッシュが集めた、すべての宝具の元祖ともいえるそれらは士郎を襲い始めた。

 

「終わりだ、雑種!」

 

 そして唐突に訪れた既知感。デジャヴ。

 俺は一度この敗北を経験している……?

 確証はどこにもない。それでも、今この場で感じている空気、プレッシャー、恐怖、そして倒れているセイバーと目の前で立っている黄金の英雄王。

 間違いない……俺は一度……!

 それは一種の閃きのようなものだった。

 すべてを悟った。俺は戻ってきたのだ。

 どういう理屈かは知れない。同じ黄金と戦っていた。

 士郎はゆっくりと立ち上がった。今にでも、英雄王の宝具は射出されようとしていた。

 どこかに魂の欠如を感じた。自分が自分ではないような疑心。

 しかし、ここで負け分けるわけにはいかないと言うならば……!

 

「俺はっ!」

 

Foul demons of the earth and air,(その万象に棲む巨悪を)

From this their wonted haunt exiled(この眼に写る光をもって消し続ける)

Unbekannt zum Tode (彼にただの一度も敗走はなく)

Nomen nominandum Zum Tode (ただの一度も理解されない)

 

 口から出てきたの魂の謳だった。

 魂そのものが足りない、などと感じているはずなのに魂を歌うなど馬鹿な話だ。

 自虐的な笑いを浮かべながらも士郎は謳うのをやめない。

 時が止まっているようだった。

 だれも士郎を止めることはできない。

 

Schmerz zu viele Waffen erstellen(その剣の丘で独り)

Beneath Thy guidance reconciled,(その時まで運命と歩もう)

Verdammt in alle Ewigkeit mit dir(永劫の場所へ君と共に)

Briah――(創造)

Unendliche(永遠への)Marschierende Lied(運命歌)!」

 

 呆気ないほど勝負は一瞬で決まっていた。

 

「あ……雑種……貴様は一体……何者なのだ……」

 

「俺は……黒円卓……」

 

 その先を聞き、ギルガメッシュは笑い始めた。

 その身に無数の剣を受けながらも、彼は笑うのをやめない。

 なんとバカな、なんと馬鹿馬鹿しい話だ。黒円卓? 聞いたことないぞ。まるで、貴様のサーバントが従えていた円卓の真逆の存在ではないか。

 

「さては……雑種……魂を売ったな……?」

 

「……願いなんてものは叶わない。理想なんてものは弱者の戯言だ」

 

 士郎の言葉を最後まで聞き遂げることなく、ギルガメッシュは粒子となり消えていった。

 体が重い……。

 そう感じた。何かが完全に消えていくような気がした。

 

『さて、君はそこまでやれば満足なのだろう? さぁ、こちらへ来るがいい。死を撒く者(ウリエル)

 

 その甘い言葉に吸い寄せられるように士郎は近づいていった。

 反抗する力など微塵も残ってなどいない。

 

『私が呪い(しゅくふく)を与えよう。誰も守れない、という祝福を』

 

 




第一部完です

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