Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
「せいァぁぁぁ!」
「ふははは! いいぞ! 舞え! 舞い続けろ!」
士郎の干将莫耶を軽く受け止めると、お返しと言わんばかりにラインハルトは、
どちらが先に折れるか。ラインハルトのロンギヌスか? それとも士郎の心か? 否、どちらも折れることなど無い。ゆえに、この戦いは終わらない。
「卿と別の形で出会えていたとしたら……今頃は、私の右腕となっていたであろうに」
「冗談じゃない! 誰がお前なんかの!」
別の形で出会っていたら俺を部下にしていた? ふざけるな! 人の命を奪ってまで叶えたい夢なんてあってたまるか! そんなもので叶えてたまるか!
「世界平和。所詮は、弱者が現実から目を逸らすために作った言い訳ではないか? 口では平和と言いつつも、殺すのだろう?」
「あぁ、そうだ。お前の言っている矛盾点はわかる! それでも! 誰かが笑顔になるために必要なことだとしたら、俺はやり続ける! 正義の味方なんて褒められたものじゃないさ。だけど、俺は褒められるためになりたいんじゃない!」
士郎の攻撃を受け、初めてラインハルトがよろけた。だが、追撃する隙は一切無く、すぐに態勢を立て直すとラインハルトは渾身の突きを繰り出した。
剣の丘の空に浮かぶ雲が異常な速さで流れていく。相変わらず、髑髏の軍勢と英雄たちの戦いは続いていた。この戦いは終わらない。どちらかが、死ぬまでは。
どうすればいい。
士郎は今ある手段で、どう対抗するを考えた。
速さは互角。だが、
だが……次の剣を拾うための時間が僅かなタイムロスとなっていることも、また事実であった。
ならば、折れない剣を……だめだ。ラインハルトはロンギヌスを極限まで極めている。そんな槍の攻撃に耐えられる物を俺は投影できない。
ならば、自分に与えられたアドバンテージは何か? 数だけが取り柄だと言うのか?
「違う。そうじゃない……俺は!」
ラインハルトへの攻撃をかわすと士郎は彼の背後へ飛んだ。もちろん、ラインハルトは即座に反応し攻撃の隙など与えなかった。
だが、士郎の狙いはそこにはなかった。コンマ数秒。その間で士郎がしたかったこと、それは……
「美しい剣だ」
「あぁ、これが俺も持ち得る最高の剣だからな」
士郎の手に刃が黄金に輝き柄には青色で装飾が施された一振りの宝具が握られていた。
その名は……
「エクスカリバー……!」
士郎が静かに告げると、沈黙を守り続けていた女騎士が士郎の隣へ降り立った。
その時を待っていたかのように可憐な騎士は、鋭い視線をラインハルトへ向ける。彼女自身がまさに刃そのものだった。研ぎ澄まされた感覚は、全てを捉えその技術であらゆるものを斬る。完璧過ぎる騎士。それが彼女だった。
「セイバー……力を貸してくれ。一度で良い、一度だけでいいから……!」
『わかりました。士郎、あなたは私の鞘です。そして私はあなたの剣。あなたと私は一心同体、必ず……!』
「あぁ、信じてるぜ、セイバー」
士郎に与えられた最大のアドバンテージ。
圧倒的な物量作戦ではなく、真なる騎士を投影する力。
ラインハルトと言えども、ベースが人である以上腕は2本しかない。
あの槍が片手で扱えるようなものではないことは、先程までの剣技で判明していた。
ならば、士郎とセイバー。どちらを受けても破壊的な一撃となる二人が同時に攻撃した場合、ラインハルトは選択しなくてはいけなくなる。どちらを避け、どちらを受けるべきか。
士郎の策略を察したのか、ラインハルトが声高々に笑い始めた。
「はは、はっはっはっはっは!」
「どうした。ビビッておかしくなったか?」
「あぁ、恐ろしい。確かに、卿の思う通り私とて人の子。一撃必殺を同時に受け止めることなど不可能。いいや、そうではない。私もあの時から肩書さえ外してしまえば、一市民に変わりないのだよ」
ゲシュタポ長官。その恐るべき地位に達しても、ラインハルトは満足することができなかった。あの時は、全力を出せないが故と思っていたが今は違う。
無意識に人を遠ざけ続け、社会的地位や肩書がさらに人を遠ざけた。
誰かを愛したいと思うが、愛せば壊してしまう。我ながら、とんだ矛盾だと笑えて来る。
そう、私は神ではない。たった一つ、自分の気持ちすら理解できない哀れな小市民なのだ。
だからこそ、願い渇望し魔道へ手を染めた。簡単に口車に乗せられた。
しかし、後悔など一度もしたことはない。
どこへ堕ちたとしても、私は私であるのだから。今、こうして真なる願いを向き合い、そして楽しいと思える遊戯に励めているのだから。
「私は幸福だ。そうとも、私は幸福だっ! ゆえに、卿の一撃受け止めて見せよう! その攻撃、私は受け止めそして、こう言おうとも」
「奇遇だな、俺もお前に言いたいことがあったんだ」
「「その渇望は間違っている」」
奇しくも重なった二人の台詞。悪魔と正義の味方という、相反する二人が持った願いは違えど思いはまったく同じであり、そのおかしさからか二人は笑みを浮かべた。
「言ってやるさ! 受け止めさせない!」
「勝つのは私だ!」