Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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軍勢

 エイヴィヒカイトの最終位階である流出。

 己が願いによって全世界を塗りつぶす力。創造位階の能力によって作り上げられた“異界”と法則を永続的に流れ出させ、世界を塗り替える異能。流れ出した法則は最終的に全世界を覆いつくし、既存の世界法則を一掃して新たな世界法則と化す。世界法則を定めるものを神と呼ぶのであれば、流出とは新たな神の誕生であり、また新たな神が旧神を打ち倒してその座を奪うこと、即ち神の交代劇でもある。

 ゆえに、世界に神が1人しかいないように流出も一色しか必要とされない。二色が同時に展開されたとなれば、どちらかが果てるまで戦いが終わらないということでもあった。

 無限の剣の丘に黄金の獣と右手だけが異様に褐色の正義の味方が立っていた。

 お互いの後ろのいるのは、彼らが率いる軍勢。

 ラインハルトの後ろには、武装した黄金の髑髏の軍勢と数人が抜けてい入るが、黒円卓の騎士達が立っていた。髑髏の中には、戦車や戦闘機、戦艦といった兵器まであった。

 すべてを飲み込む不死者の軍勢は、永遠に闘い続けていたことにより、例え昔はただの一兵士であろうとも、今ではラインハルトと同等の強さを持っていた。

 対して、士郎の後ろにいるのは、士郎が正義の味方と認め英雄と尊敬する者たちがいた。

 ベアトリスや戒、シャルロットそしてマキナはもちろんのこと、長い槍を持った青髪の男や巨躯を持つ黒の巨人、仮面をつけた黒の集団、赤い服の男、魔術師のような姿の者など様々だ。そして、士郎の隣には甲冑をまとった女騎士が静かに戦いの時を待っていた。

 数は同数、強さも同等。

 軍勢同士の戦いでは勝負はつかない。ならば、この勝負、どう決着をつけるべきか……

 最大魔術を展開してでも同じとなるならば、最終的には術者同士の力量がモノをいうというのが世の常である。

 ラインハルトはその事実に気づき思わずため息をついた。しかし、笑みは止まらない。これほど楽しいと思えることは、今までなかったと断言できる。

 

「面白い。素晴らしい!」

 

「戦いに素晴らしいなんてことがあるかよ! 何度でも言ってやるよ、これで終わりだと」

 

「ふふ、ふはははは!」

 

 壊れたかのようにラインハルトは笑い出す。彼に髑髏達も同じように、ケタケタと音を立てはじめた。

 

「おお、身が震える。魂が叫ぶ。これが歓喜か、これが恐怖か! 私は今、生き ているッ!!」

 

「さっきも聞いたよ、獣!」

 

「卿の流出。なるほど、恐ろしい。怖い、だが生きていると自覚させられる。英雄を召喚する能力。なるほど、護符の力として英雄ほど頼れる(つわもの)などいない。では……私も」

 

 ラインハルトの手に一本の槍が握られる。

 数分前士郎を貫いた破壊の槍。ラインハルトの聖遺物。

 愛おしそうにその槍を撫でると、ラインハルトは高らかに告げる。

 

「第九――SS装甲師団(ホーエンシュタウフェン)、第三六――SS擲弾兵士団(ディルレワンガー)、第十――SS装甲師団(フルンツベルク)Gladsheimr(至高天)Longinus∴Dreizehn∴Orden(ロンギヌス・ドライツェーン・オルデーン)!」

 

「なっ!」

 

 ある部隊は戦車へ、ある部隊はパンツァーファウストへ、ある部隊は銃剣へ地雷へ、そして黒円卓の騎士達は立ち上がると士郎へ突撃を始めた。

 咄嗟に剣を握るもすべてを捌くのは不可能だった。徐々に押され始め、士郎の体が傷つき始める。

 だが……

 

『おらぁ! 俺だっているんだぜ!』

 

『ふふふ…皆殺しよ』

 

投影(トレース)開始(オン)

 

『ぐがァぁぁ!』

 

 英雄たちは士郎の前へ出ると髑髏の軍勢へと攻撃を仕掛ける。

 いかに髑髏の軍勢が強かろうとも、相手は歴史に名を遺す英雄たちだ。相手にとって不足なし。そのまま乱戦へと発展していった。そしてさらに……

 

『衛宮君先へ進んで!』

 

『行くんだ士郎!』

 

『大丈夫ッスよ!』

 

『見せてみろ!』

 

 かつての仇敵達も髑髏の軍勢へと攻撃を始める。士郎は隣の女騎士……セイバーと目配せをするとラインハルトへ攻撃を開始する。

 聖槍(ロンギヌス)は固く、士郎の紛い物の剣では簡単に折れてしまう。だが、あらかじめ用意してある士郎もまた遅れをとることはない。折れたならば次のものを、更に次を。

尽きるとことのないラインハルトと士郎の剣舞の中、ラインハルトは笑みを零した。

 

「あぁ、これだ。これを私は欲していた!」

 

「不死者の軍勢。こんなものを作ってまでお前はっ!」

 

「『死を想え』。座右の銘でな。人はいつか死ぬということを忘れてはならない。死は、重い」

 

 その口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

 士郎はそう呟き、ラインハルトと距離をとる。お互いが光速で動いている戦いにおいて、距離をとるという表現はおかしいのかもしれない。だが、2人は攻撃をピタリとやめた。

 

「私は死を軽く思ったことなどない。ゆえに、死んだものを生き返らせる、死ぬことを回避しようとする者の気持ちは理解できぬこともない」

 

「それでも! それは世界の理を外れている!」

 

「外れているゆえの……奇跡では?」

 

「それは……」

 

「だが、今も守るという卿には理解できるであろう。未来を恐れ、過去を恐れた者達など。皮肉なことよ、まさか私の爪牙もそちらにいるとは」

 

 かつての黒騎士達の姿を見ると、ラインハルトは笑う。

 納得してはいけない。アイツは結局、今を捨てようとしている。だから、この瞬間の命を軽く考えている。未来を? 過去を? そんなもの、どうとなれ! 生きているのは今だ!

 

 

「俺はお前をっ!」

 

「わかっているとも! さぁ…来いっ!」

 


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