Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

52 / 57
Unlimited Desire

「そうか、私は……私は!」

 

「ゴチャゴチャうるせぇ!」

 

「これは失礼。だが、まさか卿が私の真意を当てるとは思わなんだ……」

 

 虚空を仰ぐラインハルト。フッと笑うとポツリと呟いた。

 

「否、カールは、あえて私の言わなかったのだろう。ふふ、まぁ良い。それでも良い。今、この真なる目覚めと共に私は新たな境地を得られたのだから」

 

「境地……?」

 

 訝しながら訪ねる士郎にラインハルトは満面の笑みを浮かべる。

 笑顔であるはずなのに、そこから無限に渦巻く殺意が感じ取れるというのはラインハルトらしいと言えばそうなのであろう。

 ああ、いつも飽いていた。いつも飢えていた。生まれた場所を間違えたのだと、諦観して絶望していた。その檻を、壊してくれたのは卿だ、カール。そして今、気づかせてくれたのは目の前の正義の味方に他ならない。なるほど、確かに私は彼に救われたと言えよう。感謝するぞ、礼を言おう。

 何たる至福。何たる幸福。胸を満たす充足感に宇宙さえ弾けそうだ。 

 ゆえに、全てを(あい)そう。

 

『そうとも、それでこそ我が生涯の友』

 

「私は今、生きている!」

 

「だから……俺が(おわ)らせてやる!」

 

「あぁ、見せてくれ! 卿の夢を!」

 

 盟友の気配が遥か上空に現れたが、そんなもは些細な問題に過ぎなかった。

 目の前に立っている衛宮士郎という正義の味方を全身全霊で(あい)し尽くす。今のラインハルトの思いはただその一点のみだった。

 あの覇道は、護符の力を持っている。あらゆる理不尽から己と他人を守り、悪を切り裂く。言わば、負けることのない勧善懲悪の力。

 

「ゆえに私の覇道で塗りつぶそう。どちらが新世界のミチを開くか」

 

 ああ、胸が躍る。こうでなくてはならない。

 あなたは本気をだしていないと、かつて言われた。

 それは万能感に酔う少年の日の妄想めいて、しかし本当にそういうものであった自分は、この世界からずれたのだ。

 何をやってもつまらぬ。何を見てもくだらぬ。あらゆる開放感や達成感、人の満足というものを胸に懐いたことがない。

 

であれば、よし。我が条理を全として、破壊の君たる本分をみせよう。壊し、呑み込んで塗り替える。私が生きるべき私の世界を流れ出させ、旧秩序を一掃する。否、私が世界を統べる。壊すことでしか愛せぬのだから、壊れぬ世界を創れば良い話なだけなのだから。

 ゆえに、今この瞬間―壊す覇道と護る覇道の戦争こそが、我が全力を示す絶好の機会なのだ。

 卿らに愛を。よくぞここまで成りおおせた。

  一度言ってみたかったのだよ、相手にとって不足はない。

 

「では、いざ参らん。新たなる祝福の天地へ」

 

 まなじりを決してこちらを見上げる御敵へと……

 

「来い」

 

 最終にして最大、最高の戦をしよう。

 

Frohe Weinachten(メリー・クリスマス)

 

 私はこの時だけを求めて、無限の牢獄(ゲットー)に耐えてきたのだ。

 そう、これは正真正銘、最後の勝負だ。

 残るはラインハルトただ一人、その総軍は数百万を超える戦死者の群れ。

 

「ヴァルハラだと……」

 

 グラズヘイムだと?

 そんなに闘っていたいなら、本当の地獄でやってくれ。

 関係の無い人を巻き込むな。自分の思い通りになるとつけあがるな。

 

「俺がそれを創ってやる。護るために」

 

 瞬間、ラインハルトが鎮座する玉座への(きざはし)を士郎は上がっていった。

 そうだ、来い。私はここだ。ここにいる。

 待ちきれぬ待ちきれぬ待ちきれ待ちきれぞ……

 共に全力、共に全霊、ならば出し惜しみなどするべきではあるまい。

 回れ契約の壷中聖櫃(ハイリヒ・アルヒェ)我が総軍を流れ出させろ。

 先程までの卿とは違うのだろう? 応えずともわかる。だから……全力で……私に……打ち勝って見せよ!

 

Dies irae,(怒りの日)

dies illa solvet saeclum in favilla.(終末の時 天地万物は灰燼と化し)

Teste David cum Sybilla.(ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る )

 

 せいぜい健気な抵抗を試みるがいい。

 もはや遅い、間に合わん。遍く総て、私の色に染まるがいい。ここは私の城なのだから。

 

 いいや違うぞ。まだ始まってもいない。

 ここはお前の城なんかじゃない。

 お前に染められるわけがない。

 ここは……俺のよく知っている……

 

Körper besteht aus Schwerter(体は剣で出来ている)

Blut ist Eisen mit Glas Herz(血潮は鉄で心は硝子)

Es ist ein Sieg des Ostens ungeschlagen. (幾たびの戦場を超えて不敗)

Ohne die einmalige rout (ただの一度の敗走もなく)

Es gibt keine gewann nur einmal (ただの一度の勝利もなし)

 

Quantus tremor est futurus,(たとえどれほどの戦慄が)

Quando judex est venturus,(待ち受けようとも 審判者が来たり)

Cuncta stricte (激しく糾され)

discussurus.(一つ余さず燃え去り消える)

 

 壊したことがないものを見つけるまで……否、愛せぬ者がいなくなるまで。

 森羅万象、三千大千世界の悉くを。

 

So sind sie nicht in die Unterwelt gefegt(二度と冥府に侵されぬよう)

Sie sind also dampfenden im Dunkeln(二度と暗黒に飲まれぬよう)

 

 護り抜くんだ、何処までも

 一緒に戦った者の思いを願いを心を、誰かに奪わせはしない。今、この時でも感じているのだから……

 

『衛宮君、勝ってね』

 

 あぁ、ベアトリスも。

 

『頼んだスよ! 衛宮さんなら大丈夫ッス!』

 

 わかってるよ、シャルロット。

 

『頼んだぞ士郎。あとは……任せる』

 

 任せろ、戒の意思は俺が継ぐから。

 

『見せてみろ。お前の終焉を』

 

 まだ言ってるのか。マキナ、お前も開放を望んでいた一人だったな。

 

『理想を抱いたまま溺死せぬよう、足掻くのだな』

 

 言ってろ。お前の出来なかったことを俺はやる。

 

 今、思いは一つだ。だから……

 

Herr, sind wir für Sie gedacht.(この身を捧げよう。崇高なる理想と共に)

Sie erhalten für ihre Seelen.(全ての魂を救い続けるために)

 

Tuba, mirum spargens sonum(我が総軍に響き渡れ)

Per sepulcra regionum,(妙なる調べ 開戦の号砲よ)

Coget omnes ante thronum.(皆すべからく 玉座に下に集うべし)

 

 集え、集え、満ちて溢れよ戦鬼の海(ヴェルトール)

 

Lacrimosa dies illa,(彼の日 涙と罪の裁きを)

Qua resurget ex favilla(卿ら 灰より蘇らん)

Judicandus homo (されば天主よ)

reus Huic ergo parce, Deus.(その時彼らを許したまえ)

 

『士郎、あなたはどこへ行っても気高い戦士ですね』

 

 違うんだセイバー。なんでもない、ただの子供に過ぎなかった俺を……それはそれで幸せだったのだろうけど……けど、セイバーが変えてくれてたんだ。たくさんの人が変えてくれたんだ。

 こんなにも、強く思える気持ちなんて知らなかったと断言できる。

 

Wenn keine Reue in meinem Leben.(ならば我が生涯に意味はいらず)

Dieser Körper ist (この体は)

 

『好きです、士郎。私は貴方を……王としてではく……』

 

 わかってる。そうだ、俺もセイバーが大好きなのだから。

 

Denn es bestehen aus Wünsche(願いで出来ているのだから)

 

 今度こそ、皆でラインハルトを打倒しよう。

 

Verdammt in alle Ewigkeit mit dir(永劫の場所へ君と共に)

 

Pie Jesu Domine,(慈悲深き者よ)

dona eis requiem. Amen.(今永遠の死を与える エイメン)

 

 では一つ、皆様私の歌劇を御観覧あれ。

 

Atziluth――(流出)

 

 その筋書きは、ありきたりだが。

 

Du-sollst(混沌より溢れよ)

 

 役者が良い。至高と信ずる。

 

Glorreiche(輝かしき)

 

 ゆえに面白くなると思うよ。

 

Dies irae(怒りの日)

 

Unbegrenzte Wunsch(無限の願い)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。