Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
「どうしたどうしたっ!
「うるさいっ!」
「ちょっとベイー? 頭だけは残しておいてよ? そうじゃないと、さすがの私も蘇生できないよ?」
「さぁなっ! このサルがおとなしくしていりゃ、頭くらいは残せるかもなっ!」
「ぐっ!
戦いが始まってから、まだ数分しか経っていなかった。
その呪文を唱えるのは既に10数回目となっていた。
不思議と魔力切れになる心配はないという思いがあった。
現に、倦怠感や体の不調はいまだに出てきていなかった。
それでも目の前で不敵に笑うヴィルヘルムや赤髪の少女に勝てる
そもそもこの2人に魔術が効くのかさえ怪しいものがあった。
「どうした。いい加減、ほかの芸をだせよ。黄色ザルは昔から手先が器用なんだろ?」
「うるさいっ!」
「もう、怒らせちゃだめだよ」
「……お前も敵なんだろ!」
「ふふ、そうだよ? 聖槍十三騎士団黒円卓第八位ルサルカ・シュヴェーゲリンだよ。」
「そんなにすぐに……」
「今、こいつは何者なんだって言ったじゃない。だから教えてあげる。特別だよっ?」
ウインクをするルサルカを見ながら、士郎は思わず後ろに下がった。
まるで心を読んだかのようにルサルカは正確に士郎の心中を当てたのだ。
予知能力系統の魔術に優れているのか。
いいや、そうじゃない。
この2人から感じるのは、もっと凶悪で狂乱な何か。
俺がいた世界の魔術と比べることすら馬鹿馬鹿しくなる強大な力だ。
アゾット剣を構える。
ヴィルヘルムはサングラスの奥の目を細めると嬉しそうに笑った。
「いいぜいいぜ!諦めない精神っつうのは大切だ」
「そうかよ。そのまま倒されても文句はないんだろ?」
「倒せるならな?」
ヴィルヘルムは目にも止まらぬ速さで接近すると、士郎へ強烈な突きを喰らわす。
アゾット剣で直撃は避けるも、剣は粉々に砕かれた。
後ろへ下がろうとする士郎にヴィルヘルムの追撃がくだされる。
強烈な回転蹴りをもろに受けた士郎は、数メートル飛ばされると壁に激突する。
意識が飛びそうになるのをこらえながら、士郎は考える。
その出で立ちや言動から彼らの正体は薄々感ずいてはいた。
少ない知識からでも、どういう種類の
特徴的な黒い軍服。
鍵十字こそ書いていないものの、魔法陣の書かれた腕章。
強烈なまでの
そう彼らは……
「やっと誰を相手にしてるのかわかったのかなぁ?」
「あぁ、とてもじゃないけれど信じられないけどな」
「そうだよねー? だけど、それは事実だよ。私たちは確かに第二次世界大戦の時ドイツを支配していた総統閣下の右腕である、武装親衛隊の生き残りだよ?生きてるって言っていいのかは微妙なところだけどね」
「わかったかサル。おめぇが相手にしてんのは
「……そうだな。」
それでも、士郎は立ち上がり再び唱える。
ルサルカは呆れたような目で見つめ、ヴィルヘルムは馬鹿にした笑みを浮かべていた。
情けなかった。
倒すと言っておきながら、一太刀もいれられていないのだから。
惨めだろう。
勝てないと内心では悟りながらも、立ち続けるのは。
「情けなくても惨めでも、ここで退いたら
「そうかい。だったら……下らないプライドと一緒に死ねよ、こらぁ!」
「そこまでです!」
ヴィルヘルムの突撃を遮るようにして、人影が突然空から舞い降りた。
ヴィルヘルムは立ち止まると、忌々しそうに彼女をみる。
同じように黒い軍服を身に纏い、軍帽を目深にかぶっている彼女は正面切ってヴィルヘルムと対峙していた。
「どういうことだ、シャルロット。俺の狩りの邪魔をしようってか」
「そういうわけではありませんよ、少尉。ですが、聖餐杯猊下からのご命令はあくまでも彼を連れてくることを。殺すことではありません。」
「言うこときかねぇんだ。仕方ねぇだろ」
「それでしたら、猊下に直接お聞きになってください。殺してもいいか、と」
「ちっ」
「ベイ? クリストフから直接ストップがかかったんだし、そろそろ幕引きじゃない?」
「……わかったよ。チッ、
ヴィルヘルムはそういうと、歩き去っていった。
待ってよー、と言いながらルサルカも去っていく。
それでも士郎は警戒を緩めなかった。
目の前にいるのは、先ほどまで敵対していた勢力の仲間なのだ。
油断するわけにはいかない。
「初めまして、シャルロットっていうッス。それじゃぁ……」
「なっ!」
シャルロットの自己紹介に気を取られた隙に、士郎は首への強烈なまでの一撃を受け意識を失った。
倒れた士郎を見ながらシャルロットは小声でつぶやく。
「これでいいんスよね。これで……私は間違いを正せるんスよね」