Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
異様な雰囲気と押しつぶされそうな霊圧に耐えながら進んでいく。
仲間は誰もいない。それでも、自分が誰かを救えるとするならば、それで構わない。
そう思い続けた。まるで城そのものが意思を持っているかのようだった。光源が見え、暗い通路を抜ける。
「なんだこれは……」
目の前に広がっているのは、円形のスタジアムだった。
黄金の闘技場、コロシアム。そして、そこで士郎を待っていたかのようにあの男が沈黙を保ちながら仁王立ちしていた。
服の上からでもわかるほど盛り上がる筋肉。研ぎ澄まされた鋼の肉体。
「お前は……!」
士郎はまだ彼の名前を知らなかった。ただ、その姿を見たことは覚えていた。
つい数時間前、櫻井と闘っていた男。能力も強さも検討がついていない。ただ、大隊長という位についているのだ、相当の手練れであることは自ずと予測することができた。
「お前にはまだ名乗っていなかったな」
「あぁ、俺もまだ名乗っちゃいない」
「聖槍十三騎士団大隊長黒円卓第七位ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン」
「衛宮士郎っ!」
「そうか。お前がクラフトに呼ばれた男が」
マキナは何かを確かめるように、士郎を見つめた。やがて、フッと笑うと口許を緩める。
「お前が俺に死の
「何を言っている……!」
もう何度目になるかわからない言葉を叫ぶ。
黒円卓の騎士を相手にする度に、それぞれが士郎を見て何かしらの感想を言っていた。
ある者は残念がり、ある者は歓喜し、ある者は狂い。それぞれが同じ目的でいながら、別々の願いをもっているように、その反応はまちまちだった。
ゆえに、士郎は今目の前にいる男が何を考えているのかを知りたかった。
同情をするのではない。少しでも多く敵の情報を引き出すことで、戦いを有利に進めようとする根端があった。
「この
「なに……?」
「覚えているのはただ一つ。終焉か疾走を選べと言われたことのみ。俺は終焉を選び、兄弟は疾走を選んだ」
終焉。生命の終わり、死を迎えるということ。
ならば、この男の攻撃は死を与えることなのか?
「死してなお、闘い続けることを強いられている俺は終焉を望んでいる。肉体の終わりではない。魂の終わりだ。お前にそれができるというのか?」
マキナは右腕を引きながら姿勢を低くした。いつでも、相手の懐に飛び込むことができるよう準備をしているのだ。
「お前には無理だろう。俺に真の終焉を見せられるのは、兄弟のみ。ゆえに、お前には一撃で終焉を見せてやろう」
「なっ!」
闘いを重ね、研ぎ澄まされた感覚を鍛えあげた獲得した士郎から見れば、決して目で追えない速さではなかった。問題はその威力にあった。
瞬間的に距離を詰めたマキナが士郎へと拳を振るう。咄嗟に、サイドステップで回避するも地面を殴った勢いが士郎へ襲い掛かる。
「ぐあっ!」
直接攻撃を受けたわけではないが、暴力的なまでの風に吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。血を吐き蹲る士郎へ、マキナはゆっくりと近づいて行った。
「かわしたか」
「なんだよ今の攻撃……!」
もし直撃していたら、俺は木っ端微塵になっていたんじゃないのか!
先程まで士郎が立っていた地面を見て、士郎は凍り付いた。
巨大なクレーターができ、今も粉塵がモウモウと立ち上っている。
桁違いの威力に士郎は恐怖する。
「一撃。一撃だけでいい、お前に当たればそれが終焉だ」
「出鱈目なっ!」
干将莫耶を
まるで止まっている蚊でも振り払うかのように、マキナの拳が士郎へとめり込む。再び壁際まで吹き飛ばされると、士郎はさらに血を吐いた。
たった一発くらっただけで……
「ほぉ、形成位階の攻撃では殺しきれないか。さすがは、クラフトの選んだ男というわけだ」
「馬鹿言うなよ。痛すぎるだろ」
「痛い程度で済んでいるのなら、それは己の肉体が丈夫であったことを幸運と思うことだ。次は無い。俺の拳はお前の死となる」
「やってみろよ」
「面白い。その怖気つかない態度は称賛に値するだろう。だが、戦力の見誤りは死へ直結する。過信、傲慢。どれもくだらない感情だ」
マキナが両の拳を体へ引く。
次に何が来るのかを士郎は理解していた。
形成位階の上位互換にあたる創造位階。未だに士郎が使いこなせていない未知の領域。
そして士郎は悟った。
この闘いで創造を完全に習得しなくては、ラインハルトはおろかマキナにすら勝てないことを。
マキナは相変わらず拳を引いた姿勢のまま目を瞑っていた、
「俺は気が付いたらここに呼ばれていた。これ以上、くだらん事に時間を費やすつもりは無い。闘いは終わりを迎える」
まるで自分自身に言い聞かせるようにマキナはつぶやくと、目を見開いた。
明らかに雰囲気が変わっており、軍服が風に当たっているかのようにはためき始めた。
そして厳かに口にするのは死への願望と尊敬。
「