Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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Finalrunde
水銀は語り


 家主が二度と戻ることの無い家で士郎は待ち続けた。

 誰も待っているのか? と問われたところで答えることはできない。しかし、野性的な直感が訪問者がいることを告げていた。

 第八のスワスチカが解放されたのかを士郎は理解していない。

 元々、それほど水銀(メルクリウス)の魔術について、詳しく聞かされたわけではなかったのでわからないことを責めれる者は誰もいなかった。

 ただ、シャルロット、ベアトリスそして櫻井。共に手を取り合い、ふざけた渇望を押し付けようとする悪を倒す仲間はいなくなっていた。

 

「結局は最後に残ったのは俺だけか……」

 

 場所は違えど、時代は違えど「守れなかった」という事実がまた出来てしまったことが許せなかった。今というかけがえのないものを守る、誰も傷つかない、涙を流すことの無い世界を作る。その理想を果たしだけなのにどうして……

 

『ならば、望むか?』

 

 脳内へ直接語りかけられた。食虫植物のように、甘い言葉を餌として士郎を釣ろうとしていた。

 

『私なら死者蘇生も、君の願いも叶えることができる。あとは、どう選択するかの問題だ。さぁ、どうする』

 

「俺は……」

 

 会ったことは無い。それでも、おぼろげながらも誘惑の詩を謳う水銀(メルクリウス)の姿が想像できた。

 手をこちらへ差し伸ばし催促する。

 俺は……俺は……!

 

「俺は別に死んだ奴と会いたいなんて思っていない! 昔の奴に取りつかれて今を見失うなんて間違ってる!」

 

『ほぉ、ではどうすると?』

 

「待ってろメルクリウス! お前を今から倒す! ふざけた理想も渇望も俺が終わらせてやる!」

 

『ふふ、ふははははは!』

 

 狂笑が響き渡る。何かを喜んでいるかのように、士郎を馬鹿にしているかのように、本当にできるのか? と挑戦するように。ただ、純粋なまでの悪意を帯びた笑い声が士郎の脳内でリピートされた。

 笑えよ。そうやって馬鹿にしているような奴が自分の願いなんて叶えられるかよ。

 

『なるほど、それは結構。君のように勇敢な魂は実に素晴らしい贄に値する。ここから先も、その気持ちを腐らせぬよう……奮闘したまえ』

 

「言われずとも!」

 

 圧倒的な圧力が士郎を押さえつける。

 体の中から内臓が飛び出しそうな感覚になる。

 

「なんだこれは……」

 

 うめき声を漏らしながら、呼吸を整えようとする。

 目の前に何かが下りてきたような気配がする。顔を上げると、そこには黄金に輝く骸へ続く階段が鎮座していた。

 指示などないが、上ってここまで来いという城の意思が感じられた。

 

「そういうことか……そこが最後の戦いってわけだな……!」

 

 よろよろと立ち上がる。

 セイバー。これで最後だ。これが終われば……何百も何千もの命を守れるんだ。すごいじゃないか、俺が臨んでいたヒーローじゃないか。だから……

 一段、また一段と登っていくたびに押し潰されそうになる。

 

「やれるものならやってみろ! 俺は逃げも隠れもしない!」

 

 歯を食いしばり再び上り始める。

 どれだけの敵がいようと、勝てる見込みがなかろうと、この心臓が動く限り俺はぜったに諦めない。

 いい覚悟だ、誰かの笑い声が聞こえた気がした。


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