Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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一人嗤い

「クリストフッ! 貴様余計なことを」

 

「余計なこと……?」

 

 ヴァレリアは何を言っているのかわからないといった表情で首を傾げた。その姿がエレオノーレに更に火を注ぐ事態となった。

 

「人の戦場に無断で立ち入るなど言語道断! 貴様のような無礼な輩は、ここで処理するにかぎる」

 

「それは、あなたがた軍人の理屈ではないのですか? ザミエル卿」

 

「なに……?」

 

「私は神父です。軍人ではない。目の前の敵が倒れたのなら、新たなる敵へ。1には倍の数をもって当たる。不意打ち、奇襲、姑息と言われて結構。ようは、勝てば良いのではないですか?」

 

「クリストフ……!」

 

「ザミエル卿。あなたらしくもない。たかが、裏切り者が一人消えただけです。何故烈火のごとくお怒りになるのか私には理解できない。ハイドリヒ卿は、誰が誰を殺そうとも気にはとめませんよ」

 

 ヴァレリアは静かに笑う。

 あなたがキルヒアイゼン卿を直接殺したかがっていたことはわかっていました。私としても、あそこでキルヒアイゼン卿が盾となるのは予想外でしたが……私に八つ当たりするのは筋違いではないのですかな?

 ラインハルトの名が出たからなのか、エレオノーレは押し黙る。彼女としても、何故これほど怒りに震えているのか理解できていなかった。

 

「俺は城へ帰る。あとは、お前らで好きにやれ」

 

「かしこまりました、マキナ卿」

 

 マキナの姿が消えていく。

 ベアトリスがいなくなった今でも目の前では、櫻井が泣いていた。そこへ満身創痍の士郎が駆け寄っていった。

 

「ザミエル卿。あの2人を始末しなくてはなりませんね」

 

「わかっている。クリストフ、お前はカインを()れ」

 

「承知いたしました」

 

 その時だった。士郎の咆哮が響いたのは。

 

●○●○●

 

 目の前で泣き崩れている櫻井に士郎は声をかけられなかった。

 俺が神父をもっと引き付けられていれば……俺がもっとしっかりしていれば……

 ベアトリスと櫻井が最後にどんな会話を交わしたかはわからない。それでも、彼女たちの姿を見ていれば、公言しないもののどのような感情をお互いに抱いていたかは一目瞭然だった。

 ゆえに士郎は、慰めの言葉をかけない。

 

「戒」

 

「士郎……すまない、僕はもう……」

 

「守るべき者はまだいるんだろ」

 

「それでも……守りたい人を一人失った」

 

「まだいるんだろ!」

 

 士郎の言葉に櫻井はビクリと肩を震わせた。

 

「まだ目の前に守りたい人がいるんだろ! だったらまだ立ち上がれよ! 膝をついて負けましたって降伏するには早いだろ! お前が守らないで……誰が守るっていうんだよ!」

 

 櫻井の脳裏に浮かんだのは幼い少女の顔だった。

 櫻井の一族であるならば、どのような運命をたどるかは決まっていた。その運命に歯向かうために立ちあがった。断ち切るためには根源を倒す必要があると悟った。

 少女は眩しい笑顔を浮かべていた。まだ何も知らない無垢な少女を守りたいとベアトリスと語りあった日々を思い出す。

 

「そうだったな。すまない、僕はまだ……!」

 

 櫻井の周囲の空気が再び腐り始める。どれだけ心をかき乱されようとも、彼は創造位階を解いてはいなかった。

 櫻井はヴァレリアを士郎はエレオノーレと対峙する。

 

「倒せるのか戒?」

 

「倒すんだよ士郎」

 

「そうだったな。この世界では無敵でも……俺の世界でもとは限らないよな」

 

「どういうことだ?」

 

「俺に任せてくれないか」

 

「……頼んだぞ」

 

 士郎は大きく頷く。それが見えているか見えていないなど関係ない。一種の決意を決めるための儀式のようなものだった。

 セイバー……

 心の中に語り掛ける。

 ヴァレリアには創造は使えないと言われた。この今という世界を守ろうとする士郎の願いでは、世界を否定する創造は使えないと。

 

「それでも……!」

 

 それでも一度使えたのだから……!

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword )

Steel is my body,and fire is my blood (血潮は鉄で心は硝子。 )

 

 自然と口から洩れていた理想への言葉。

 ベアトリスと初めて戦った時から、この技は通じないことはわかっていた。しかし、士郎はやめない。彼が今使いこなせる最大の戦力を展開しようと続ける。

 

I have created over a thousand blades (幾たびの戦場を超えて不敗。)

Unaware of loss (ただの一度の敗走もなく、)

Nor aware of gain (ただの一度の勝利もなし。)

Withstood pain to create weapons (担い手はここに独り。)

waiting for one′s arrival (剣の丘で鉄を鍛つ。)

 

 教会の空間が陽炎のように揺らめき始める。その現象を誰もが呆然と見たまま、動けないでいた。

 

I have no regrets This is the only path (ならば我が生涯に意味は不要ず。)

My whole life was (この体は、)

"Unlimited Blade Works" (無限の剣で出来ていた。)




大隊長戦もいよいよ佳境

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