Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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「起きてー!ねぇ、起きてってばー!」

 

「ん……セイバー?」

 

「あー、まだ寝ぼけてやがんのか?めんどくせぇな!」

 

「うぐっ!」

 

 腹部に走った衝撃で士郎は目を覚ました。

目の前には赤髪の幼い少女と白髪で肌も白い男が立っていた。

陽はすでに落ちており、そらは黒く染まっていた。

星の光も月明りもなく、街灯の光すら当たらないそこはまさしく街中の黒箱(ブラックボックス)だった。

 その闇よりも深い黒を放つ2人に見覚えはなかった。

それよりも、異国のような雰囲気を放つここがどこなのかを確かめるほうが先だと士郎は判断をする。

 

「ここは……?」

 

「えぇ……知らないで来たの?」

 

「来た?」

 

「ここは私たちの祖国、ベルリンだよー?」

 

「ベルリン」

 

 なるほど。

それならばレンガ調の外壁や道があるのも納得ができる。

白髪の男は突然士郎へ顔を近づけると、顔をしかめた。

 

「本当にこいつがあのメルクリウス(クソやろう)の言ってた奴なのか?」

 

「間違いないと思うよ?それよりも、衛宮くん。君はどうしてここに呼ばれたか覚えてる?」

 

「黄金錬成を完成させて……それで……!」

 

「ほぉ。黄色猿のわりには物覚えは良い方ってか」

 

「もう!すぐベイはそうやって人種差別するんだから」

 

「はっ。これは性分だ。どうしようもできねぇよ」

 

「なぁ、どうして俺の名前を知ってるんだ?」

 

 2人の会話に割り込むように士郎が疑問を口にする。

赤髪の少女は可笑しそうに笑うと、士郎への質問に答えた。

 

「当たり前でしょ?あなたを連れて来いって言われたのだもの。連れてくる相手の名前くらいしっていなきゃ」

 

「そうなのか……」

 

「うふふ・・・衛宮君、かわいいね」

 

「・・・もう一つ聞かせてくれ。黄金錬成って何をするんだ」

 

 勢いにまかせて士郎は、本命の質問をぶつけた。

それを聞くと、2人はまるで人を小ばかにするように笑い始めた。

やがて笑いは狂気となり殺気を放ちはじめる。

 

「おめぇはよ、願いを叶えるためにはどうしたら良いと思う」

 

「……協力しあえばいい。」

 

「はん、平和主義者(パシフィズム)の答えは聞いてるだけで気持ち悪くなるぜ。いいか?願いってのを叶えるためにはよ、誰かを犠牲にすればいいんだよ」

 

「なんだって……?」

 

「黄金錬成はね、人の魂を使ってやるんだよぉ?だから、これから人狩りに行きましょ?」

 

「……。」

 

「おいおい、返事はどうした?おめぇも何かしら叶えたいものがあるから来たんだろ?」

 

「あぁ、俺には願いがあった」

 

 願いはある。

もう一度聖杯戦争をやり直したいという願いが。

だが、そのために人を殺していいのか?

あまつさえ死を迎えた人間の魂を弄んでいいのか?

答えは決まっていた。

そして士郎は思い出した。

過去を変えるなどばかばかしいと。

大切なことを忘れていた自分に改めて喝を入れる。

黄金錬成の正体は分かった。

それならば次にとる行動も決まっていた。

 士郎の雰囲気が変わったことに気が付いたのか、2人は後ろへ飛びのくと薄ら笑いを浮かべ始めた。

 

 

「どうしたよサル!」

 

「そうだ。やりなおしなんか、できない。 死者は蘇らない。起きた事は戻せない。 そんなおかしな望みなんて、持てない」

 

「あん?何を一人でゴチャゴチャ言ってんだよ」

 

「俺は置き去りにしてきた物の為にも、自分を曲げる事なんて、出来ない!」

 

「サル。お前願いを叶えないつもりか」

 

 まるで士郎の心を読んだかのように白髪の男が言い放つ。

願いを叶えられない、聖杯戦争をやり直すことができないとなれば、自分のいた世界が 崩壊するかもしれないことは承知していた。

それでも過ぎ去ったことに固執するあまり、今を守れないというのは士郎の生き方に反 していた。

故に士郎は唱える。

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

「へぇ・・・それは形成とは違うみたいだけど、すごいね」

 

「俺を()るつもりか?」

 

「目が覚めたんだよ」

 

「ふは……ふははははは!」

 

 白髪の笑いが爆発する。

それにつられるかのように、赤髪の少女も笑い始めた。

馬鹿にされようと関係なかった。

 今、このベルリンという地に飛ばされ、そこが戦場になるというのならば止めなくてはいけない。

士郎はそう決意すると、戦闘態勢をとる。

その姿を見て笑いを収めると、白髪の男も構えをとった。

 

「いいぜいいぜ!戦いは嫌いじゃねぇ!楽しませてくれよ!」

 

「お前たちに誰かを殺させないっ!」

 

「へっ、笑わせるじゃねぇかよ愚か者(ヒーロー)!」

 

正義の味方(ヒーロー)を夢見て何がおかしい」

 

「いいや、いいぜ。だがな、戦いの作法ってのを教えてやるよ」

 

 白髪男の殺気がさらに濃くなる。

その勢いに思わず、アゾット剣を握っている手に力が入った。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第四位ヴィルヘルム・エーレンブルク。吸い殺してやるよ」

 

「衛宮士郎。お前を倒すっ!」


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