Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
「どいてくれ、士郎」
櫻井が偽槍を構える。
その姿を士郎は悲しげな目で見た。
櫻井は、そんな目で見ないでくれと言わんばかりに首を振った。
「どうしてなんだ。どうして邪魔をするんだ!」
「戒、お前こそどうしてベアトリスと闘ってるんだ」
「こうするしかないんだ。こうするしか僕は……僕の大切な人達は守れないんだ」
「戒……」
「おかしいだろう? 守るべきものを僕が壊している。何よりも守りたいと渇望しているのに、この手で壊そうとしている。僕は自己中なんだよ。腐っているんだよ!」
「どこがだよ! 誰かを守りたいっていう気持ちのどこが腐ってるんだよ!」
「それは……」
「カインお願い……こんなことはもうやめよう」
ベアトリスが剣を収める。
無防備なベアトリスを見ても、カインは攻撃しようとはしない。
それなら、どうすれば守れるんだよ! 教えてくれよ士郎。
声にならない叫び声をあげる。
叶えたい夢がある。夢を叶えるために最善の方法を選んだつもりだった。
しかし、それを否定された今、櫻井は次に何をすべきかを決めかねていた。
「だったら……」
静かに士郎が話しかける。
「お前もベアトリスに協力しろよ」
「協力……?」
「一緒に倒せばいいだろう」
「それは無理だ」
不可能だ。櫻井は言葉をつづける。
あのハイドリヒ卿を倒す? 爪牙でしかない僕たちが? 不可能だ。
疑似黄金のヴァレリアにすら勝てないというのに、いったいぜんたいどうしたら勝てるなんて自信を持てるんだ。
「教えてくれベアトリス」
「なんでも答えるわ」
「君はどして……恐れていないんだ。自信が持てるんだ」
しばらくの沈黙。
櫻井の魂の質問にベアトリスは答え始めた。
「私だって怖いよ。すごく怖いし、自信なんかない」
「だったらどうして」
「それでもやらなきゃいけないことがあるなら、逃げちゃいけないと思う。それにさ……」
ベアトリスは笑みを浮かべる。
先ほどまで死をかけた闘いをしていた相手にベアトリスは微笑む。
戦場の女神。
その姿に思わず士郎も見とれる。
「2人なら……士郎をいれた3人なら必ずできるよ。だって、一人じゃないんだよ? 強さも弱さも、心強さも面白さも三倍になれるんだよ? ハイドリヒ卿は結局は一人だよ? 3人なら勝てるって思えてもおかしくないでしょ?」
「それは……」
「だから、私と一緒に行こうよカイン」
「僕は……」
目に見えて櫻井の心が揺れていた。
忠誠か愛か。恐怖か優しさか。
どちらをとるべきかはわかっている。心の中ではすでに決まっている。
それでもそれを口に出すことは躊躇われた。
士郎はそっと櫻井の手を取った。
櫻井が士郎を見返す。偽槍はどこかに消えていた。
「こうやって手を取れば良いんだ。簡単なことなんだよ。だから、戒」
「……僕は君を守りたい」
「私もあなたを守りたいわ」
櫻井とベアトリスが手を取る。
真の大反抗が始まろうとしていた。