Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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目覚めと再戦

 ヴァレリアは一人、元は教会があった土地、第5のスワスチカで待っていた。

彼らがくることは了承済みだ。

 もうじくいらっしゃるでしょうね……

 小さなつぶやきが消えるかけるやいなや、突然の大きな爆発と閃光が大地を揺らした。黒煙の中に2つの影が見えた。ヴァレリアは影の持ち主に深々と頭を下げる。

 

「お久しぶりです、ザミエル卿。シュライバー卿」

  

 ザミエルとシュライバー。

2人の大隊長はまるで興味がないように、一人は葉巻をふかしもう一人はおかしそうに笑っていた。

それでもヴァレリアはそれを咎めようとはしなかった。

はむかえば勝てぬことを彼はよくわかっていた。

 

「はははは! やっと現世(こっち)にこれたよ! あぁ、早く生きた血が欲しいなぁ……60年も死人ばかり相手にしてたんだもん。飽きちゃったよ」

 

「黙れシュライバー。その身は誰のためにあると心得ている、すべてはハイドリヒ卿のため。勘違いするな獣が」

 

「うるさいなぁ……ザミエルは小言ばっかり。あんまりうるさいと……殺しちゃうよ?」

 

「貴様に殺されるほど、やわな鍛え方はしていない。それでも()りあうというのなら良いだろうシュライバー」

 

「大隊長殿、その辺にしておいていただけないでしょうか」

 

 今にも殺し合いを始めようとしている2人にヴァレリアはゆったりとした口調でたしなめた。

仮に2人が本気でやりあえば、ベルリンが壊滅するのは目に見えていた。

ゆえに、なにがあっても止めなくてはいけないかった。

まだ、開くべきスワスチカは3つもあるのだから。

 

「それはさておき、マキナ卿のお姿が見えませんが」

 

「マキナならまだ来てないよー?」

 

「はて……なぜでしょうか?」

 

「僕が知るわけないじゃんー。一人で仲良くなってるんでしょ?」

 

「私も知らんな。まったく、嘆かわしい。仮にもマキナも軍人のはしくれであろうに」

 

「マキナ卿にも何かお考えがあるのでしょう。では、まず大隊長殿に現状をお伝えします」

 

 ヴァレリアは殺された団員。明確な敵、裏切り者の存在を包み隠さず話した。

それが無意味だということはわかっていた。大隊長はすでに全てを理解したうえで召喚されている。

だが、この過程を省くとザミエルが烈火のごとく怒り始める。

 これだから、根っからの軍人が扱いずらいですね。

 ヴァレリアは小さく、心の中でため息をついた。

 

「もういい。それだけでわかればいい。要約するならば、その衛宮とバカ娘を討てばいいのだろう」

 

「その通りです」

 

「ふん、造作もない。そんなものはベイとマレウスに任せればいい」

 

「ベイかぁ、久しぶりに会いたいな。今度こそグチョグチョのトマトみたいに潰したいなぁ」

 

「貴様、まだ戯言を言うか」

 

 2人の終わりのない言い合いをヴァレリアは茫然と聞き続けた。

 さてはて、これからどうなることやら。配役が増えるのはいいですが、演出する私としては忙しくなるばかりです。ですが……

 

「これもまた至高ですかね」

 

 ヴァレリアは小さく笑うと再び2人の仲裁に入った。

 

●○●○●

 

 あの日と同じく月は綺麗な満月を迎えていた。

 こんな夜だからこそ士郎は彼と会えるという確信を持っていた。

 人気のない公園と歩みを進める。

やがて体中にヒリヒリとした痛みが走り始めた。

 

「来たか、サル」

 

「ヴィルヘルム!」

 

「私もいるよー!」

 

 ヴィルヘルムはベンチに腰掛け士郎を待っていた。

その隣では、妖艶な笑みを浮かべたままルサルカが士郎を見つめている。

 

「決着をつけに来たぞ」

 

「ははは、決着ね。お話になる程度にはパワーアップでもしたか?」

 

「もう、前の俺とは違う」

 

 士郎は拳を固め、自分の右胸に手を当てる。

 感じる。セイバーの鼓動を。俺と戦ってきた英雄たちの鼓動を。模造で贋作であろうとも、その経験は本物だ。だから、俺は彼らの力を最大限に使い、いかす

 士郎から放たれる殺気に気が付くと、ヴィルヘルムは立ち上がりサングラスを外した。

赤い目からは、面白そうなおもちゃが来たというヴィルヘルムの好奇心が感じられる。

 

「いいねいいねいいね! そうだよ、それでこそ黒円卓(おれたち)に歯向かう者の目だよ」

 

「いつまでもヘラヘラとしていられると思うな」

 

「ねぇねぇ、私も混ぜてくれないの?」

 

「マレウスはあとでいいだろ。まずは俺だ。俺を滾らせてくれよ?ガキ」

 

「ここで決着をつける」

 

 ルサルカは何か言いたそうに口を開くも黙ってしまった。

戦闘態勢に入った2人には何を言っても無駄と判断したのだろう。

頬を膨らませたままそっぽを向いてしまった。

 

「ピンチになったら、いつでも呼んでいいからね」

 

「バカにしてんのか。俺がピンチになる? ありえない話だ」

 

「そう? どうみても衛宮君は……かなり力をつけたみたいに見えるけど?」

 

「わかってるよ。いいから黙ってみてろ、お前は俺の保護者か」

 

「はいはい、わかりましたよー」

 

 一通りルサルカに文句を言うと、ヴィルヘルムは改めて士郎と対峙する。

 

「悪かったな、くだらない会話を聞かせて」

 

「いいさ。お互い、未練なくいかなくちゃいけないだろ」

 

「口も達者になったじゃねぇか。本当に悪くないぜ、大きく出る奴を叩きのめすってのは気分がいい」

 

「叩きのめせればな」

 

「そうだな、それじゃあ……いくぜ、おらぁ!」

 

 ヴィルヘルムと士郎の戦いの火ぶたが切って落とされた。


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