Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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Die Kämpfe
戦うのなら


 突然強烈な嫌悪感にベアトリスは襲われる。

内に秘めている魂が嫌悪感と共鳴しあい、吐き気をもよおす気持ち悪さを感じる。

 新しいスワスチカが開かれた……?

 ベアトリスにとって最悪の結果であり、ヴァレリアにとっては予想通りの結果なのだろう。

あの神父はそういう人だ。では、どちらが死んだ……? どちらの魂が贄となった。

 街灯から離れた場所でベアトリスは壁にもたれかかった。

どちらが死んだとしても悲しむことができないのはわかっていた。

 

「ベアトリス」

 

「カイン……」

 

 やっぱり来たのね……

 櫻井は名前を呼ぶとゆっくりとベアトリスへ歩いて行った。

周りには当然というべきか、人の姿も気配もない。

やがて櫻井はベアトリスへ数歩というところで止まると悲しそうな表情を浮かべた。

 櫻井がベアトリスの前に現れるのは予測していた。

問題は何をしに来たか、そちらのほうが大事だった。

 カインとは何があって闘いたくない。

 その気持ちはお互いに持っていると信じている。

だが、時として気持ちに関係なく動かなくてはいけないことがあるのはベアトリスも桜井も承知していた。だとしても……

 

「戻るんだ。君はこれ以上先に進んではいけない」

 

「どいて。私はいかないといけないの」

 

「だめだ、あそこには聖餐杯がいる。今行けば……」

 

「カインは私に協力してくれるの?」

 

 ただ止めに来たわけではないことにベアトリスは混乱した。

今の言い方ではまるでヴァレリアがいるから行くな、という意味にしか取れない。

 だが、櫻井は首を静かに横へ振った。

その顔には必死さがある。

 

「違う。前も言ったはずだろう? 僕は君に傷ついてほしくない。だから、もうやめるんだ」

 

「カインの気持ちはすごくうれしいよ。だけど、私も前に言ったよね。死人でできた道は照らしたくないって。その意味、カインならわかるよね」

 

「わかってるはいる。だけど僕は……」

 

 沈黙が流れる。

 櫻井とベアトリスの関係は、最初こそただの監視者であり監視対象だった。

それでもいつの日からか別の感情をお互いに抱くようになっていた。

しかし、その思いを公言することはしなかった。できなかった。

 

「シャルロットと衛宮くん、どちらが負けたの?」

 

「それは……」

 

「……シャルロットだ。だけど士郎が悪いわけじゃない。闘わなければいけなかったんだ。シャルロットもそれを承知だったから」

 

「いいよ。わかってる、彼を恨むのは筋違いだってことも理解してる」

 

 シャルロットの笑顔が頭の中から消えた気がした。

どうして、などと無意味なことを聞くまでもないのは理解している。

出来ることなら最後まで逃げ続けてほしかったという気持ちがあることも理解している。

相反する思いがベアトリスの中で渦巻き、悲しみと哀れみともとれないマイナスの気持ちが出来上がっていた。

 

「士郎も創造ができるようになった」

 

「そうなんだ……」

 

 さすがね。

心の中で小さくつぶやく。

始めて戦った時から感じていた。彼は強いと。

別の世界から来たという話は本当なのだろう。この短時間で第三位階までの能力を使えるのなら、本当に首領閣下を倒せるかもしれない……

 そう計算してしまう自分にベアトリスは顔をしかめた。

痛みを感じなくなると、心の痛みにすら鈍感になると有名な学者が言ってる。

それは事実だ、とベアトリスは思った。

 

「カイン。私はやっぱりいくよ。シャルロットも終わることを望んでいたから。駄目だよ、今生きている人を巻き込むなんて。私たちは……幕引きするべきだよ。今の時代の主役はカインや蛍だから」

 

「……それは本心なんだね?」

 

 今までとうってかわって穏やかな口調で櫻井が言った。

その言葉にベアトリスは首を振るしかなかった。

これが最後なのだろう。何かを感じた。

 

「これが最後通告だったんだ。次会うときは……」

 

「次が来る前に終わらせる」

 

「ベアトリス……いつでも考え直してくれ」

 

 櫻井はそういうとベアトリスに背を向け歩き始めた。

彼が振り返ることはなかった。生暖かい風はいちじん吹きベアトリスの髪を揺らした。

ソッと手で触り髪形を整える。

 ベアトリスにとっては蛍を巻き込み、そして敬愛する上官を巻き込んだ大元を断つことこそが心の中で固く決意したことでだった。

数十年間変わらずに思ってきた。その結果、たとえ愛する人と闘うことになるというのならば……

 

「受け入れるべきなのでしょうね。本当、おもしろくないわ」

 

 


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