Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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消え去った街

「どこにいるんだ?」

 

 士郎はかつて教会だったものを見ながらつぶやいた。

 街の一角が突然崩壊するという、謎の現象はテレビでもかなり大きく取り上げられていた。

 だからこそ士郎もヴァレリアの安否を確かめるため、わざわざ足を運んだのだが……

 

「それにしても……」

 

 誰に問いかけるわけでもなく士郎はさらにつぶやく。

 どうして誰もいないんだ?野次馬とかって日本だけなのか?

 仮にも謎の崩壊現象があったというのに、マスコミはおろか野次馬さえその場にはいなかった。

 まるで見えない力によって人払いされているようだ。

 心なしか士郎の中で何かが蠢きはじめ、言いようのない不快感に襲われた。

 その気持ち悪さに思わず壁にもたれかかる。

 

「どうかされましたか?」

 

「ヴァレリア神父……!」

 

 士郎の肩を抱きながら、心配そうにヴァレリアは士郎を見ていた。

 その目はその表情はいつもと全く変わらず、穏やかで人を安心させるものだ。

 士郎は大丈夫です、と言うとヴァレリアに向き直った。

 

「大丈夫だったんですか?」

 

「大丈夫だったとは?」

 

「だって……教会が」

 

「あぁ……」

 

 ヴァレリアは大げさに肩をすくめてみせた。

 

「昨晩はたまたま隣町の教会に、全員で行っていましてね。幸いにも誰もケガ等がしていません。もっとも、帰る場所を失くしてしまいましたが」

 

「そうだったんですか、それはよかったです」

 

「もしや、わざわざ心配なさってくれたのですか?」

 

「気になりましたから」

 

「それはありがとうございます。ですが、せっかく来ていただけなのですが瓦礫の山から色々と探し物がありまして……」

 

「手伝いましょうか?」

 

「いえ、こればかりは私の手でやりたいと思っています」

 

「そうですか。それじゃあ、俺は帰ります」

 

「はい、お気をつけてくださいね」

 

 士郎は歩き始めた。

 だがその顔に笑顔はなかった。

 後ろではいまだにヴァレリアが士郎を見つめていた。

 それが異様なほど不愉快だった。まるで全身をくまなく嘗め回されているような。悪寒がはしるとはよく言ったものだ。

 それに何だか都合が良すぎないか? たまたまいなかったなんて……

 ヴァレリアに対して不信感を抱いていることに、一番驚いているのは士郎自身だった。

 それでも彼には何かがある。何か人には言えない隠し事がある。

 そう士郎の直感が告げていた。

 

 

●○●○●

 

「さて……何か気が付いたようですね」

 

 ヴァレリアは笑みを一切崩さぬまま独り言を続ける。

 

「残念ながらスワスチカにはならぬようでしたが、なに問題はない。早ければ今夜にでも5番目のスワスチカが開かれるでしょう」

 

 5番目のスワスチカの開放。

 即ち、大隊長出陣の時。

 首領閣下と共に復活の時を待つ彼らが現世に来れば、おそらく衛宮さんであろうと倒すことはできないでしょう。

 

「あと一歩でしたね」

 

「なーに独り言とか言っちゃてるのかな?」

 

「おや、マレウス。終わりましたか?」

 

「私にかかれば、たかが半世紀生きた小娘の自我を壊すことなんて簡単に決まってるでしょ?」

 

「そうでした」

 

 ルサルカは、まるで玩具の自慢をする子供のように後ろに控えていた虚ろな目の少女を差し出した。

 その姿を驚き半分喜び半分の表情でヴァレリアは見る。

 シャルロットは、まるで何かが間近にまで迫っているのを恐れているようにあらゆる物にビクリと体を震わせていた。

 まるで子犬のようですね、シャルロット。

 素直な感想だった。

 拷問を得意とする魔女が、どのような方法でシャルロットを再び従順な犬へと調教したのか、想像することは難しくなかった。

 

「さすがはマレウスです。ですが、シャルロットは術を使えるのですか? その渇望を忘れてしまったら使えませんよ?」

 

「大丈夫。シャルロットが何を思っているのかはわからないけど、そこらへんはちょちょいっと加減しておいたから」

 

「わかりました。では、早速今夜にでも」

 

「今夜? またクリストフが舞台でも作るの?」

 

「いえ、そうでなくても彼はここへやってきますよ」

 

「どうして?」

 

「力と力は、どれだけあがこうと引き付けられるもの。衛宮さんもまた、その法則(ゲットー)の例外ではないだけです」

 

 ヴァレリアは嬉しそうにそう答えた。

 ルサルカは理解したのかしていないのか、曖昧な返事をしただけだった。

 ルサルカにとっては法則だろうが運命だろうがどうでもよかった。

 ただ、士郎に会うことができる。そして新しいシャルロット(おもちゃ)の実験ができる。

それだけで十分だった、

 

 

「ずいぶん楽しそうですね」

 

「クリストフこそ。楽しそうだよ?」

 

「私がですか? いえいえそんなことはありませんよ。役職持ちというのは、それだけで行動が制限されるのです。これ以上n裏切り者を出さぬためにも新たな案を常に考えているのですから」

 

「拷問しちゃおうよ。それが一番だよ」

 

「ははは、たしかに古今東西、拷問という行為はとても重要な役割を果たしいます。ですが、我々のような身体の持ち主には、肉体的なダメージよりも精神的なダメージを与えるべきなのです」

 

「難しい話はわかりたくないよーだ」

 

「マレウスも理解しているでしょう」

 

「べー」

 

 ルサルカは舌をチョロリと出す。

 彼女は本当につかめない人柄だ。


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