Dies irae ~Unlimited desire~ 作:ROGOSS
狂人が集う聖槍騎士団黒円卓のメンバーも何かしらの理想があり、渇望があった。
愛されたい、大切なものを取り戻したい、忠を認めてもらいたい。
それは騎士団員が個々に持つものであり、互いに知ることはなかった。
ベアトリスは一人、夕暮れのカフェのテラスで人を待っていた。
大勢がいる日中には、さすがにあの軍服は目立ちすぎる。
今、来ているのはドイツ国内で多く出回っている対象生産された産物の一つだ。
だが、ベアトリスという人物はなかなかどうしてかなり美人の分類に属していた。
異性からの熱い視線を感じながら、ベアトリスは一人ため息をついた。
目の前に置かれているコーヒーは既に冷え切っていた。
「こんな所まで出てくるなんて珍しいじゃないか」
「私だって、たまには人前にでることくらいあるよ。他の人が一目を避けすぎているだけ。まぁ、ベイ少尉はちょっと特殊だけど。」
遅いよカイン、と言いながらベアトリスは微笑んだ。
「用事があったんだ」
「そうなんだ……」
櫻井はそう言いながらベアトリスの向かいの席へ腰を下ろした。
ベアトリスは「それで?」と不機嫌そうに話を促した。
その姿に櫻井は思わず苦笑を浮かべる。
「真面目な話だ」
「私はいつでも真面目だよ」
「君は面白いことにしか興味がない。そうだろう?」
「大きなお世話だよ」
「今、何をしようとしているんだ?」
「何も?」
「とぼけないでくれ。君がシャルロットと士郎と手を組んでいることは、薄々聖餐杯にも気付かれているんだぞ!」
櫻井の声が思わず大きくなった。
周りの客は何事かとコソコソと話しているが、当のベアトリスは何も気にしていないようだ。
今もコーヒーをかき混ぜながら遊んでいた。
「聞いているのか、ベアトリス。」
「カインはさ。それは忠告のつもり?」
「なっ……」
「どうなの?」
ベアトリスが上目遣いに櫻井にを見た。
普通なら色っぽくなるその仕草には、殺気が混ざっていた。
その時点で櫻井はすべてを察した。
察したうえで悩んだ。
愛している彼女をどうするべきなのか、と。
「そうじゃない。これだって……僕が独断でやっていることだ」
「そうなんだ。まだ聖餐杯は完全に把握できていないんだね」
「そうだと……思うが」
「だったら、カインもこの話は忘れて。なかったことにしよう?」
「ベアトリスッ!」
「私はね」
ベアトリスが真面目な顔をして櫻井を見た。
普段見せないような表情に櫻井は思わずたじろぐ。
「死人で出来た道なんか照らしたくない。どうせなら、ここに生きている人を守りたいの。それはね……カイン、あなたも蛍のことも。守りたいの」
「ベアトリス……」
「少佐を助けたかった。だけど、そうするには原点を断つしかないの。原点を立てれば皆、しがらみから解放されるの。だから、邪魔はしないで」
そういうとベアトリスは去っていった。
追いかけようとするも、櫻井の足はなぜか追うことを拒み続けた。
僕は余計なことをしてしまったというのか……!
自問自答を繰り返す。幾度も繰り返した。
だが、ベアトリスがいうしがらみから皆を解放の中に、彼女自身が入っていないことを櫻井はわかっていた。わかっていたからこそ止めたかった。
君が死ねば、僕も蛍も悲しむ。だからやめてくれ。
そう叫びたかった。
悔しさのあまり思わず机を殴った。
もはや痛みも感じなくなっている体に、櫻井は改めて嫌悪する。
「クソッ! どうしても穢してしまうのか! 汚れるのも腐るのも全部僕が引き受ければいいのに……!」