Dies irae ~Unlimited desire~   作:ROGOSS

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Heilig
認める


 夢の中で何が起きているか、何が起きたかを覚えている人は多くはないだろう。

 目の前には現か幻なのか、どちらなのかと疑いたくなるほどの一面の花畑が広がっていた。

 鼻孔をくすぐるその香りは、どこか妖艶を秘めていながらも香り高い。その花畑に一人、たたずむ少女を士郎は知っていた。

 彼女を守りたいと思い聖杯戦争を戦い続け、そして今では彼女が(ちから)の根源となっていることを。

 ゆえに、士郎はどう声をかけるべきか迷った。だが、その前に少女が士郎の気づくと声をかけた。

 

「士郎」

 

「セイバー……どうしてここに?」

 

「何を言っているんですか? 私が貴方の中にいつでもいましたよ」

 

「そうだったな……」

 

 空白が花畑を過ぎていった。

 どちらが何と言うわけではない。

 それでも感じられた。彼女が何かに苦しみ続けていると。

 彼女が信じ続けていたそれをしていくということは、同じだけの罪を作り続けているということを。

 それでも士郎は直接聞かずにはいられなかった。

 まだどこかで、認めたくないという気持ちが心にあった。

 

「セイバー……何を苦しんでいるんだ」

 

「……私はブリテンの王でした。ブリテンを守るため、ブリテンを繁栄させるため尽力しました。ですが、信頼していた騎士たちに裏切られ追い詰められた私が、あの湖で後ろを振り返った時何が見えたと思いますか?」

 

「……わからない」

 

「死ですよ。戦い続けてきた私を支えていたのは多くの死です。これは私が積み重ねてきた全ての()を知るものです」

 

 セイバーはそう言うと一振りの剣を取り出した。

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)全て遠き理想郷(アヴァロン)

 魔剣と味方からは称され、敵から恐れられた崇高なる聖遺物。

 石から引き抜いた者を王としての崇めさせる運命の聖遺物。

 そして、多くの血肉で染まった呪われた聖遺物。

 あぁ、そういうことだったのかセイバー。

 俺がしっかりとこれを受け継がなければいけないんだな。これがセイバーの罪であるのなら。セイバーを好きだというのなら全てを愛しまなければいけないんだな。

 どうして今まで気付かなかったのだろう。逃げようと避けようとしてきたのだろうか。

 士郎のそんな決意を感じたのか、セイバーが一人微笑んだ。

 楽園へと向かったその先でも苦しみ続けていた宿命(のろい)から解放された彼女は、ようやく心からの笑みを浮かべられた。

 士郎もセイバーへ笑みをかける。

 真実(アネモネ)が咲き乱れているその花畑で、全ての呪いが祝福に変えられようとしていた。

 

「俺はそれでも、みんなを守りたい」

 

「わかっていますよ。士郎、貴方が真実道を進んでんください。私は貴方が負けぬよう、貴方がその誇り高い理想を叶えるために力を貸します」

 

「見ていてくれセイバー。俺たちが積み上げてきた(もの)が無駄じゃないと証明して見せる」

 

「はい、期待していますよ」

 

 そう言うとセイバーは一人歩き始めた。

 どこまでもどこまでも。士郎は彼女が見え続けている限りその背中を見つめた。


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