次回後、オリジナルストーリーから原作ストーリーの方に戻ります。
そして、多数のお気に入り登録ありがとうございます!おかげさまで登録数100を越えました!
しかも日間ランキング50位入りを果たすという今までにない快挙……。
若干恐怖を覚えますね……。
これからもどうぞお付き合いください。
最後にですが、毎度毎度、誤字報告本当にありがとうございます。
本当にしょうもない誤字ばかりして申し訳ないです……。
既に投稿されているものは少しずつ修正していきます。これから投稿するのもしっかりとチェックを強化していきます。
「牧瀬さんっ!大丈夫!?」
「う、うん何とか大丈夫。でも『ひこぼし』が……」
最悪だ……!
ハリケーンという視界不良の中でも、ISにはハイパーセンサーがある。
一瞬だけ見ることが出来た、小型のミサイル。だが気付いたときには既に命中が確定していた。
爆発の勢いで明菜は吹き飛ばされたが、当たりどころがよかった。『ひこぼし』にミサイルは命中し、秋桜に損傷は殆どなかった。
探査機はスペースダストにもある程度耐えられるよう頑丈に作ってあるのがよかったのかもしれない。
一番上に取り付けてあった『ひこぼし』は思い切り大破してしまったが、『ビッグディッパー』は健在だ。
けれどそんなことはどうだっていい。
「いいんだ。こんなこと中々予想できないから」
明菜が無事でよかった。
しかし、そんな悠長なことは言ってられない。一刻も早くこの空域を離脱しなければ、何が起こるか分からない。ミサイルが飛んでくるなんて、異常事態もいいところだ。
「速度を上げるよ。救難信号を送りながら全力でハリケーンの上空まで上がる。そうすれば……」
「そう簡単に上手く行くと思ってるのかぁ?」
「っっ!?」
雲間を抜けて一機のISが僕らのルートを阻むように現れた。
灰色と深緑で塗装されたISの、褐色肌の操縦者はおどけるような言葉遣いで僕らに話しかけてきた。
何者だ?
テロリストだとは予想していた。
けれどISを使ったテロだって?
そんなことがあり得てたまるか!国際IS委員会がコアの所在を完全に把握していないってことなのか!?
……いや、今は落ち着け。今考えることじゃない。
憤る感情を抑えて冷静さをアピールしなければ、それが弱味になってつけ込まれてしまうかもしれない……。
「あなたは誰ですか?所属は?何が目的なんですか?」
「1度に色々と聞かれてもなぁ……。あたしはそこまで頭がよくないんだ。一つずつしか答えられんぜぇ?」
目の前のテロリストがゲハハと笑い声とは裏腹に無邪気そうに笑う。
そして笑いながら左手をスッと上げると、二機のISが僕らの後方に現れた。
一機は灰色と黒のカラーリングに大型の砲門を携えている。もう一機は灰色と水色のカラーリングに多量の増加装甲とスラスター。
完全に囲まれている。どうやらここを通ることがバレていて、待ち伏せされていたらしい……。
僕はプライベートチャンネルを開いて明菜に言った。
明菜はこの状況を理解しかねている。困惑がはっきりと顔に出ていた。
「牧瀬さん、桜花の肩にしっかり掴まって。一気に離脱する」
「うん……」
「あは、うふふふふはぁははは!甘いなぁ。ハチミツのように甘いなぁ。あたしはそういう甘いの、大好物なんだよぉ」
一体何が言いたい。
まさか僕が意図したことはもうばれている?
いや、そんなことはどうだっていい。
今は一刻も早く逃げないと、きっと殺される……!
「あたしらは亡霊。死に逝くものと世界を見て、愉悦に浸る悪霊だよ。君らももう時期にあたしらの愉悦の一部になるんだ。ああ、愛しいなぁ……!」
前に塞がるリーダー格であろう女が、自分の体を抱き締めながら演説をしてきた。
「歯を食い縛って、降りほどされないことだけを考えていて」
「わ、わかった……!」
僕はそれを無視して明菜に声をかける。
そして心の中で3、2、1とカウントダウンする。
体の中を循環するナノマシンを起動させる。
3人が一斉に銃口をこちらに向けて引き金を引く瞬間、全力でスラスターを吹かした。
「今!」
今持てる桜花のスペックをフルに生かして、
大気圏を離脱するわけでもないし、元々操縦者に非常に負荷のかかる桜花なのだ。今はリミッターがかけられている。
それに加え、元々打ち上げ能力が1トン程度である桜花に対して、今乗っている重さは400キロ近い秋桜と約5トンの『ビッグディッパー』。せいぜいマッハ2程度しか速度は出ないだろうが、既存のISでここまでの速度を有するものはないはず。
このまま一気に上昇して……。
「なぁっ!?」
「きゃっ!」
無理のない程度に、かつ急速に桜花の速度を緩めて停止する。
ナノマシンで強化されている視力と動体視力がなければどうなっていたか分からない。僕の向かった先、上空には無数の機雷が散りばめられている。
空中機雷?そんな兵器は今まで聞いたことがなかった。
「ヘヘハァ!だから言ってるだろ!そう簡単に上手く行くものかってよぉ!」
下準備もしっかりしてあるのか!
3機が連携を取りながら僕らに銃弾を打ち込んでくる。
全力で回避運動をとりながら、3人の包囲網脱出を試みる。
このままでは本当に危険だ……!
「そらそら!当たっちゃうぞぉ?」
回り込みながら急降下して、すれ違うように銃弾のをかわす。その回り込んだ勢いのまま一気に離脱を試みるが、ここでまた急停止する。
その瞬間、そのまま進んでいれば僕がいたであろう場所を荷電粒子砲の弾が通過する。
「なかなか鋭い感を持ってるッスね、コイツ」
「フォグ、そうじゃなきゃ面白かねぇだろ?」
あの粒子弾は異常なまでの熱量を持っていた。
本当に殺しに来ている……のか?
「捕縛するのが任務だって。だから殺しちゃダメだって」
「ヘイル、その割に楽しそうじゃねぇか」
「ガスト、楽しいものは楽しい!」
「フゥへッハハハ!違いねぇや!」
話しぶりからじゃ、殺しには来ていない。捕縛だ。
違う。操縦者の命はどうだっていいんだ。
狙いはやっぱり桜花のデータと技術!そして俺が男であることが原因だろう。
クソ!一体どうすればいい?
とりあえず止まっているわけにはいかない。動いて撹乱しないことにはやられる!
手を緩めるつもりのない攻撃をかわしながら、ISDA施設との交信を図る。
が、一向に応答が返ってこない。
「なんで通じないんだろうなぁ?お留守番サービスにも繋がんねーか?」
「もっとメーデーメーデー叫ばなきゃ届かないんじゃないッスか?」
「E・M・G!E・M・G!」
桜花のリミッターが解除できれば、きっと現状は打開できる。けれど解除コードは父さんとロウズ長官しか知らないから、今は外せない。許可を貰おうにも交信が出来ない。
完全にコイツら3人が原因だ。
「このままエネルギーが切れるまで遊ぶんだって!」
ヘイルと呼ばれるテロリストの灰色と水色のISから、数十発もの小型ミサイルが発射される。
最初のミサイルもコイツか……!
全力で振り切ろうとしても、ミサイルが異常な機動で襲い掛かってきた。
「ぐぁっっ!」
「翔くん!」
意味が分からないで混乱したまま数発被弾する。
ミサイルが直角に曲がって来るなんて想像できるものか!
「大丈夫、大丈夫だから……!」
「でも!」
「いいから!」
明菜にそう言いながら自分にも言い聞かせる。
大丈夫だ。何とかなる。何とかして見せる。何とかしないでどうする!?
根拠のない言葉で自分を勇気づけて、何とかこの窮地を脱して見せたかった。
「ふへへへへへぇ!武装も持ってないのかい!?そんなISで三人に勝てるわけないだろぉ!?」
けれども状況は悪くなるばかりだ。
僕の進路を阻むように無数に散りばめられた機雷は動き出し、こちらの動きが止まればミサイルと粒子弾が飛んでくる。それらを掻い潜った先には、ガストと呼ばれたテロリストが大型のブレードを振振りかぶってくる。
その繰り返しが数十分も続いた。
やっぱり、こうなってしまった。
僕のせいで明菜をテロに巻き込んでしまった。
僕にこの状況を打開する力はあるだろうか?
無事に帰ることはできるのか?
いや、違う。そうじゃない
絶対に生きて帰る。そう強く誓った。
僕が無理でも、明菜だけでも必ず無事に帰す……。
◇
こうして背中に掴まっているだけで私はこの数十分、何も出来ないでいた。
そうじゃない。怖くて動けなかった。
初めて自分が死ぬことを意識している。実感を持ってそう言える。
腰が抜けていて、思考もまるで滅茶苦茶。だからこうやって、翔くんの背中に縋ることしか出来ていない。
私を守りながら、私の分まで戦って傷ついている。
そんな翔くんが、こうやって背中にくっついているのにとても遠い存在のように感じる。
独りで戦って、こうしている間にも私から離れていくような、どんどん遠くへ飛んでしまっているような気がする。
違う。
もう遠くへ飛んで行ってしまっているんだ。
そして気が付いた。
「翔くん……」
チャンネルを閉じて呟いたこの声が聞こえることはないだろう。
でも、声に出してしまいたかった。胸の内に溜め込んでいたくなかった。
「私のことを守りたくて……、私のことを拒絶したんだね……」
私のために孤独を選んで、独りで戦う道を選んだんだね。
翔くんに立ちはだかる障害は余りにも大きくて、私がいると戦えない。だから、巻き込みたくないから、初めから拒絶したんだ。
そんなことを露程も知らず、知ろうともせずに、私は擦り寄って彼を不安にさせて。
何も考慮していない浅はかな人間だ。
その結果がこの現状に繋がっているのでは?
翔くん一人なら何の問題もなく逃げ出して、こんな命の危険に遭うことはなかっんだろう。
私がこの事態を招いたんだ……。
私は居ても立ってもいられなかった。
この事態を解決するのは、自分の責任を果たすことなんだ。そう感じてしまって。
自分が蒔いた種を自分で回収しなきゃダメなんだ。
そう自分に強く言い聞かせた。
「翔くん!」
「大丈夫、絶対大丈夫だから」
「違うの。聞いて」
「僕が必ず無事に帰らせるから!」
「聞いて!私が今から離れるから。そうしたら私は出来るだけ時間を稼ぐ。だから、そのうちに救援を呼んで来て!桜花の速さなら大丈夫!」
「!?無茶だ!確かにそうかもしれないけど、失敗したらきっと殺されるんだよ!?そんなことを……!」
「大丈夫。きっと3人を分断できる。それで一人だけこっちに来るだけなら、私は大丈夫だよ。信じて!」
「でも……!」
「このままじゃ何の解決も出来ないの。だから、私にもやらせて。二人ならきっと出来る!」
「そんなこと……!」
私は翔くんの言葉を最後まで聞かずに背中から手を離した。
「ありがとね、翔くん」
「明菜っ!!」
翔くんが見せた顔は悲痛に歪んでいた。とても悲しそうな顔。
だけど私の心は揺るがない。
何とかして見せる。ここで何とかして見せて、乗り越えて見せて。そして必ず翔くんの隣に戻ってくるから。
翔くんのお荷物なんかじゃない、一緒に進んで行ける人になって見せるから。
◇
明菜は手を離して行ってしまった。
確かに明菜が残した言葉と作戦、大博打だが今あるものでの勝機はそれしかないかもしれない。
でも、僕はこれまでにない程の不安と絶望を感じていた。
明菜が死ぬ?誰のせいだ。
僕が世界で二人しかいない男でISが使える存在だから?桜花を操るパイロットだから?
僕のせいで明菜が死ぬのか?
死ぬのか?
死んでしまうのか……?
「面白れぇことしてくれたなあの和製ビッチ!おめぇらビッチはビッチ同士で遊んでやれ!」
「ズリーッスなぁガストだけ」
「男を選んどいて誰がビッチだって!」
読みは完全に外れて、ガスト以外の二人が明菜の方へ向かって行った。
こんな絶望的な状況……!
僕の心臓が高鳴る。警鐘をこれでもかと打ち鳴らす。全身の筋肉が強張って仕方がない。
明菜……!
「色男、その顔だ!その顔が見たかったんだ!愉快だ!愉悦だ!最高だ!もっと見してくれ!私に活力をくれぇ!!」
やるしかないんだ!
一刻も早く援護を呼ばなくてはならない。明菜のことは信じるしかないんだ!
だから、今は全速力で逃げ出す。
重量が軽くなったから速度もさっきの比ではない。瞬間的にマッハ5まで出ている。
「ガスト様とこの『
無数の機雷が僕の目の前に出て迫りくる。
そして背後からブレードを振り下ろさんと距離を詰めてくるガスト。
機雷はこのISの操作によるものだったのか!
けれども何の問題もない。
「おおおおおおっ!!」
「んなぁっ!?無茶苦茶をぉ!」
全身の筋肉、骨が軋み、目と鼻からは血が漏れ出してくる。
僕がやったこと、それは初速マッハ5での
そして、この何時間にも感じる一瞬が終わり、ハリケーンを抜け出した。
『こちらハワイ観測所!応答を願う!』
交信が入った!
これで助かったと安堵の息が漏れる。
『こちら桜花!EMG!テロリズムにあった!なおも交戦中、秋桜は交信妨害で不通!』
『了解!現在当空域に米軍IS部隊を向かわせている。座標より計算し、あと10分程度で安全は確保される。それまでの辛抱を!」
それも本当に束の間だった。
10分?その間に明菜はどうなる!?秋桜の性能ではそんなに耐えてなんかいられない!
戻らなきゃ……!明菜を助けないとダメだ!
そんな折に、一通のメールが届いた。
差出人は父さんだ。
交信妨害で受信できなかったらしい。
『リミッター解除コードが書かれたファイルが入っている。それを入力して1分だけ待てば解除される』
簡素だが非常にわかりやすい内容だった。
「…………ありがとう、父さん!」
僕は迷うことなく100文字近いコードを入力して、解除を承認した。
「随分と驚かせて貰ったぜぇ色男。さあ!これから死合おう!命のやり取りという愉悦を分かち合いたい!」
ガストが追い付いて来た。
どこで補給したのか機雷の数は増えていて、完全に球体の牢のように自分と僕を囲んだ。
多段瞬時加速をしようとも、当たらずに抜けることは不可能なように並んでいる。
けれども今の僕にとっては、そんなの些細な問題ですらない。
「この檻から無事に抜け出せるかなぁ?ほら、ほらほらほらほらほらっ!」
「……30秒だ」
「はあ?」
残り40秒でリミッターが外れる。
ガストに挑発するように宣言する。
「30以内にお前を倒す。確実に」
「ふざけたことをほざきやがるジャップッ!」
あと30秒。
確実に倒し、明菜を助け出すまでの時間だ。
ガストは瞬時加速で肉薄し、ブレードを何度も振りかざす。
僕はナノマシンの効力を最大にして動体視力と肉体の俊敏性を限界まで引き出し、そのすべてを紙一重の最小限の動きで避ける。
避け切ったところで、ガストの腹部に全力で拳を叩き込む。
その衝撃で後ずさったガストはディアブロ・ウルカーンの腹部から荷電粒子砲から拡散弾が飛び出してくる。いわゆる隠し武装だ。
範囲攻撃は避け辛いという強みがあるが、桜花の速さの前には意味をなさない。多段瞬時加速で避けながら背後をとる。
「まだまだ楽しもうぜぇ!30秒なんてつれないなぁ!」
あと20秒。
背後に回ることは読まれていた。ガストは振り向き様にブレードを振って切りかかる。
切りかかりながら機雷を僕の予測進路に配置して動きを封じる。
それが見えていたから、ディアブロ・ウルカーンの手首をがっちりと掴み、そのまま体を捻って僕を狙っていた機雷にぶつけてやる。
「ぐうぅううううッッッ!!まだだぁ!まだ終わらんぞぉ!このまま終われるかよぉ!」
あと10秒。
ガストはブレードを離して手首を返し、そのまま腕拉ぎのように関節を取りに来る。
けれどもそれは無駄な足掻きだ。元々1トンの積載量を誇る桜花が関節を極められたところで、他のISでは簡単に振りほどける。
同じように、ディアブロ・ウルカーンも簡単に振りほどいて蹴飛ばしてやった。
ガストは僕を指差して叫んだ。
「覚えた!テメェの顔は完全に覚えたぞクソ野郎!お前だけは絶対にあたしがぶち殺してやるからな!これは始まりなんだ!一時間でも寝られる日が来ると思うなよビチグソ野郎がぁ!!」
0。
リミッターが解除され、背中についていた5枚の花弁のような形をしたジェネレーターは立つようにして中央により、さらに大型のものが何重にも重なって現れる。一見すると、それは八重咲きの桜のようだ。
ジェネレーターの名前は『ヤエ』。見た目通りの名前だ。
僕はヤエの持てる出力全てを出し切って加速した。
秒速8キロメートルの瞬間加速。
自分にかかる負荷なんて考えず、これが今の僕が使える最大火力の攻撃だ。
その勢いを使い、張り手を打ち込んだままガストの顔面を捕らえた。
そのままガストを叩き付けるようにして機雷の牢を壊し、一目散に明菜がまだ戦っているだろうハリケーンの中に飛び込んだ。
そして僕は秋桜とのチャンネルを開いて大きく叫んだ。
「明菜!返事をしてくれ!頼む!聞こえていたら返事をしてくれ!明菜ッ!!」
焦る気持ちを抑えきれない。
返事は一向に帰ってこない。
ハイパーセンサーをフルに活用して、可能な限り最大速度を出して探す。
「見付けたッ!」
そして宙に浮く人影を見つけ出した。
きっと秋桜だ!きっと大丈夫だ!これで助かったんだ!さあ、ここから抜け出そう!
僕が手を伸ばしながら近づいた影は。
秋桜は――――――。
下へ下へと落ちていった。