戦闘描写ってやっぱり難しい……。
《追記》
またしても段落下げを忘れるという……。
なんで投稿して一秒で気付く癖に、投稿する前まで気付かないんですかねぇ……?
「織斑……」
「大丈夫。言わなくても何が言いたいか分かるから」
初日にオルコットさんとの対戦が決まって数日が経ち、翌日にその対戦を控えた今日。織斑は終ぞ僕のもとを尋ねて来なかった。
そのかわりに、毎日会うたびに絆創膏や湿布が増えていった。一体何があったんだろう………。
「箒、あ、篠ノ之箒な、同じクラスの。幼馴染みなんだけど、何故か同じ部屋にされてな。あのときは間が悪かったんだよ。色々見ちゃってさ……」
「ああ、うん。察したよ」
「てかなんで翔と同じ部屋じゃないの?」
「一人部屋を申請したら通ったけど」
「そんなの聞いてないぞ俺!」
そんなこと僕に言ったってしょうがないだろ……。
話によると、昔からの幼馴染となんの不満もなく再開できた織斑は、篠ノ之さんに「腑抜けてるじゃないか!鍛え直してやる!」と言われて、この一週間近くずっと剣術の鍛練をしていたらしい。
本人に言わせると、拷問を受けていた、そうだ。
傷が毎日増えるんだから、あながち間違っていないのかもしれない。
そして今日、なんとか言ってISの基礎訓練を実行しようとした矢先、練習用ISの申請枠は既に埋まっていた。
つまり、もうISを使っての練習は出来ないことが決定した。
「俺さ、箒に文句言ってもいいよね?」
「それは全部終わってからにしなよ。そんなことより、今はすることがあるでしょ」
織斑を俺の部屋に上げている今、明日に向けて必要なことをする。作戦会議だ。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずってことだよ」
「敵は知れても己を知れないんじゃ」
「…………」
「なんでもございません」
この様子を見るに拷問だと言いつつも、ISの実機訓練を忘れた織斑にも責任の半分はあるんだろうなこれ。
織斑のすっとぼけ具合には少し呆れてしまう。
そうため息を吐きながらPCを立ち上げて、公開されているオルコットさんのISの情報を集めた資料を見せる。
「オルコットさんの所持しているISはブルー・ティアーズ。イメージ・インターフェースの代表格であるBT兵器を用いたオールレンジ攻撃と、高火力な遠中距離射撃武装、レーザーライフルのスターライトmkⅢ。これらを使って相手のアウトレンジから一方的に攻撃するのが得意戦術だね」
イギリス政府が公開している戦闘動画と合わせて説明した。基本的にこのブルー・ティアーズはBT兵器試験用のために、情報が開示され軍用や競技用とは一線引かれている。
開発技術の公開による国力の誇示と言えば良いのだろう。
織斑はウンウンと唸りながら、何度も動画を戻しては再生してまた戻すのを繰り返している。
「何か動きに引っ掛かりがあるんだけど……。駄目だ、思い浮かばない」
「少なくとも近距離での戦闘を完全に拒否しているから、インファイトに持ち込んめれば織斑持ち前の剣術で勝ち目が見えてくる」
「そうじゃなきゃ勝てないみたい言い方だな」
「当たり前じゃないか。一朝一夕で勝てるなら、国家の代表候補なんて存在に意味はないでしょ」
「そりゃそうだよなぁ……」
僕の言葉に弱音を吐く織斑。
そもそも今回のこの件はやっぱり無謀としか言えない。
でも、僕の目からすれば勝ちの目はいくらでもあると思う。
「僕から出来るアドバイスはいくつかあるよ」
「なんだ!教えてくれ!」
弱音は吐いても勝ちには拘る、それが織斑なのだろう。
目の色を変えて食いついてきた。
「まず第一、こっちは向こうの情報を持っている。向こうは何の情報もない。これはとても有利に働くよ」
ある程度行動の予測が付けば、自分がとるべき行動や戦術は分かる。逆に相手のを嵌めることも出来る。
でも向こうはこっちの情報がないのだから、いわゆる初見殺しが可能になる。
「次に、オルコットさんは典型的な女尊男卑主義者で代表候補生。つまり、油断や慢心する要素が十二分に揃っているからそこを突ければベストだね」
恐らくはこれが一番重要な要因だと思う。
彼女の様子を察するに、確実に慢心を持っている。けれど長期戦になればその慢心は消えるだろうから、如何に早く決着を着けるかが勝利の鍵だ。
「あとは天命に任せよう」
「最後は運かよ!」
そういうしかないじゃないか。
一つの判断ミスで取り返しのつかない差が生まれる。そうでなくても元々実力差があるのだから。
「四方八方から飛んでくるレーザーを避けながら近づいてインファイト。でも確実にインファイト対策の何らかの物を隠し持ってるはずだ。情報公開は全てをさらけ出すものじゃないからね」
能ある鷹は爪隠すってわけじゃないけど、全ての情報を公開するほどバカではないのだから、隠し兵装をいくつか所持していてもおかしくない。
「それに勝負は時の運っていうけど、その運っていうのは最後まで勝ちを目指す者に味方するんだ。オルコットさんは勝ちは当たり前のものだけど、織斑の勝ちは目指すものだ」
「そうか、うん!そうだな!絶対勝ってやる」
僕の言葉に励まされたのか、拳を高く突き上げて高らかに叫んだ。
この時、織斑ならなにかやってくれるんじゃないか、と思えた。それは僕が織斑に感じたコンプレックス故なのだろうか。
当日、織斑先生と山田先生に連れられて織斑と篠ノ之さんと僕でアリーナの選手控え室に行くと、そこには真っ白なISが鎮座していた。
これが織斑の専用機、『白式』だ。
世界にただ二人の男のIS操縦者なのだから、専用機が配布されないわけがなかったし、それについては前々から用意されると織斑には伝えてあったようだった。
織斑はこの『白式』の姿に立ち尽くしている。
なにか思うところがあるのだろうか、少なくとも自分が対面したときにはあった。
「直ぐに装着しろ。最適化する時間はないが、戦闘中に自動で行う。ぶっつけ本番だがいけるな?」
織斑先生が声を低くして尋ねる。
織斑は無言で頷き、黙々と装着していく。
装着は直ぐに済み、足を動かしたり手を握ったり広げたり、体を捻ったりして具合を確かめる。
「なにか気分が悪かったりするなら直ぐ言ってほしいが、その様子なら問題ないな。行ってこい。一夏」
「ああ、行ってくるよ千冬姉。俺は今、望んでこの場にいるよ」
姉弟の絆がそこにあった。
前に言われた言葉に対する織斑の反骨心が、ただの嫌みではなく自ずから出した答えなんだと思う。何故なら織斑の目は鋭い力強さと自信に溢れていたから。
「箒、翔、俺は勝ってくるよ」
「ああ、行ってこい!」
「今の織斑なら勝てるよ。諦めるなよ」
僕らが送り出すのに多くの言葉は必要なかった。
ISを操縦するのはこれで二回目のドが付くほどの素人のはずなのに強い説得力を感じるその姿は、僕にとっての羨望を年を抱く存在だった。
「織斑先生、あの『白式』ですけどもしかしなくても所持武装って……」
「そうだな。現役時代を思い出す」
やっぱりそうなるのか。
もう戦闘を開始してから20分近く経っているが、織斑はオルコットさんに苦戦を強いられていた。というのも、右手に握られている刀型の近接武装。それを振り回しながら逃げ回るオルコットさんを追い回しているからだ。
BT兵器とレーザーライフルの段幕を回避運動しながら近づいていくが、どうしても何発か被弾してじりじりてシールドエネルギーは消耗していっていた。
所々が非常に粗っぽいが、その戦闘スタイルはブリュンヒルデ、かつて日本代表だった織斑先生と同じだ。
「やっぱり射撃武装はないんですね」
「そうみたいだな。何の問題もない。寄らば切る、寄って切る。下手に戦術を扱えないあいつにとってこれほど分かりやすい戦術もあるまい」
全くその通りだ。その通りだけど、その理屈は貴女だから言えるのではないだろうか?
これでは初見殺しも出来ない。例えば瞬時加速を使えれば話しは別だ。初見殺しとして絶大な効果を誇っただろう。だけど搭乗回数二回の織斑にそれは無理だ。
せめて、当てることは出来なくても威嚇牽制の射撃が出来れば近づくことが出来るはずだ。それさえも出来ないこの状況でなんてそれこそ不可能に近い。
それに相手は完成されたインファイト拒否を実行し得る実力者で、相性は絶望的だ。
どうすれば織斑は勝てるのだろうか。僕はそう頭を抱えた。
「どうした渡良瀬。何故お前が頭を抱えている?」
「え、あ……」
織斑先生に唐突に尋ねられた。
咄嗟に返事が出来なかった。
なんで僕は織斑が勝つことに拘っているのだろう。同じISが使える男としてのシンパシー?それとも厚い友情を感じている?
確かに僕は希薄ながら友情を感じていたが、それは頭を抱えるほど深いものではなかったはず。自分の中で心変わりでもあったのだろうか。僕は人と深くかかわってはいけない人なのに。
そんな自分に困惑している僕に対して織斑先生は告げた。
「お前はこれまでに自分が経験したことで老成してると思っていたが、それは理性だけだ。本質的には年相応のガキなのだな。なにがお前を掻き立てるのかは想像できなくもない。だがそんなに肩肘張っていてはいつか壊れてしまうぞ」
試合を注視しながら、優しい調子でそう告げた。
…………僕は織斑先生が考えているほど老成もしてなければ心も強くない。
それならば僕はどうすることが正しいのか。
それを聞く勇気さえない僕には、こうしていることが一番未来に不安を覚えずにいることが出来る。
これが精一杯の僕にとっても、他人にとっても最大防御なんだ。関わった人がテロに巻き込まれたら、僕はきっとその重責に耐えられない。
織斑もこれから3年間は普通に過ごせるだろう。
けれども卒業してしまえば、きっと僕と同じ道を辿ることになる。
やっぱり、織斑に感じているのはシンパシーなのだと結論付けることで、僕は逃げようとした。
「あいつ、油断しているな」
「油断?」
「ああ。左手を握ったり開いたりしているだろ。あれがあいつの癖でな。勝利を確信した、油断しきっている証拠だ」
だが、織斑先生はそれ以上深く追求してこなかった。それどころか、目はしっかりとこの試合を事細かく見ていた。
織斑先生の言う通りに左手に注目すれば、実際にそうしている。
それが本当ならば、自分が油断をしてどうするんだ織斑!
◇
操縦感覚にも慣れて来た。
こうしてセシリアの射撃を避け続けて10分、もう結構削られているが、翔に見せてもらった映像の違和感が分かった。
あいつ、BTを使ってるときはそっちに集中して動けない。それに的確すぎる射撃のせいで、俺の集中が一番行かないであろう場所、人の死角になってるところに必ず打ち込んで来る。
それさえ把握できれば、避けるのは簡単だ。
ライフルを構えれば銃口に注目して、動きが止まれば死角に備えて回避運動してやればいい。それどころか、わざと隙を作ってやればそこに必ず正確に飛び込んで来る。
「アンタの弱点、完全に見切った!」
「ふん!この圧倒的な差に遂に妄想に捕らわれてしまいましたのね。もう踊り疲れてしまったのかしら?ではフィナーレにして差し上げますわ、哀れな極東のお猿さん!」
戦闘中で通信がオープンチャンネルになっているのを確認して挑発する。
イメージしていた方向とは違うが、挑発に乗って一気に攻めて来た。
これはチャンスだ!
全周囲360度の視界を取ることが出来るISのハイパーセンサーは優秀だが、人間が扱うからどうしても真上や背後の見えているはずの視界に意識が行かない。何度も自分で確認するように、セシリアはそこを突いてくると反芻する。
だったらこうだ!
――――――ボンッ!!
「なぁっ!?」
真上と真後ろに意識を向けてやれば、丁度真上に飛び込んで来たBTを見つけた。そのBTにむって捩じり込む機動を取りながらブレードを叩き込んだ。見事にBTは爆散し、セシリアはその光景に驚愕していた。
「――――――あと3機!」
「こんなことッ!」
セシリアはライフルで牽制して俺から大きく距離を取る。勿論そんなこと俺が許すはずもなく、全力で距離を詰める。
距離を取ったセシリアはさらに3発、本命と牽制を交えたライフルを打ち込み、それを回避する俺にBTを向かわせた。
「そこまでは俺も読めてるぞ!」
ライフルを回避する勢いで、背後に回り込んだBTに向かう。頭上にも意識を向けていたが、あそこに向かったBTは牽制用だ。全く照準が定まっていないのが丸分かりだ。
BTの照準を下へずらすように突っ込み、ブレードで叩き切る。
「これで残り2機……!」
「あ、ありえませんわ!こんなことって!」
「ありえるんだよ代表候補生ぃッ!」
狼狽するセシリアに向かってまたフェイントを交えながら飛び掛かり距離を詰めていく。
この調子で行けば、行ける!
その調子が続いて、残りの2機も順調に破壊する。
自分が考えていたよりもあっさり終わり、少し拍子抜けしてしまう。
「どうした代表候補生!これでもうオールレンジ攻撃は出来ないぞ!」
「こ、こんなことってありますのぉ!無茶苦茶ですわ!」
ここからはもうこっちのものだ!
セシリアはもう後退しながら俺にライフルを打つことしか出来ない。こっちと同じく攻撃の選択が一択しかないなら、勝敗はイーブンのところにあるはずだ。
向こうはまだまだシールドエネルギーが残っているが、こっちはあと3回エネルギーシールドを貫通されたら負けるだろう。
だから、寄れば俺の勝ち。寄れなければセシリアの勝ち。
「ならばぁっ!」
寄って斬る!
その時、アラートが鳴った。
でも攻撃を受けたときのようなアラートや警告音でもない。一体何なのかと思っていると、コンソールパネルに文字が表示された。
『最適化が完了しました。確認しますか?』
セシリアに飛びかかりながら、俺は迷わず確認をする。
するとISが眩しい光を放って俺を包み込んだ。
光に包まれた後、この『白式』を動かしやすくなった感覚を得て、自分の体を確認すると所々無骨だった外装が洗練されている。なんというか、ただ洗練されているんじゃなくて俺に合わせて姿を変えただけのようだ。
これでようやく、こいつは本当の意味で俺専用となった。
「あ、あなたまさか今まで初期設定のままでしたの!?」
「そうだ!やっとこっからが俺の本番だ!」
「有り得ませんわ!私がこのような姿を見せるなどと!」
「有り得なくないんだよ!」
懐に飛び込むことに成功し、一次移行してから形の変わった野太刀のようなブレードで横凪ぎにする。
それはかわされたが、ここで終わらせるほど俺は諦易くなんかない!
更に追撃を仕掛ける俺に、セシリアが勝ち誇った笑みを見せた。
「掛かりましたわね!」
そう言うとブルー・ティアーズの腰部なら脚部にかかる大型のスラスターが分離してこちらに向かって飛んでくる。
「ブルー・ティアーズは4機じゃなくってよ!これでフィナーレでしてよ!」
急速に近づく俺と、猛スピードで突っ込んでくる2つのミサイル。それによる総合的な接近速度はバカみたいに速い。けれどもそれは、
「それは読んでいたぞぉ!」
そう。
翔が隠し武装を確実に用意しているであろうと教えてくれた。だから、最初からミサイルみたいな形をしているあのスラスターはそうなんじゃないかと当たりをつけていた。
それが見事に的中した。
体をミサイルの軌道上部へねじり混み、その回転の勢いのまま横に一閃抜き胴のようにミサイル2本を真っ二つに切り、それによる爆発でさらに『白式』を加速させてセシリアへ肉薄する。
ふと表示されたブレードの名前に目がいった。
銘は『雪片弐型』だ。
千冬姉が日本代表の時、武装は刀型近接ブレードのみで覇者へと登り詰めた。その時のブレードの銘が『雪片』だった。
そう。これは千冬姉の正当な後継なのだ。
まさか、男の自分が憧れだった姉の後継者になれるとは思わなかった。特に、このIS完成については無理だと決めつけていた。
だが、今こうしてなれている。
あの千冬姉を継いでいるのだ。
「翔は勝つために情報と知識をくれた!箒は体の動かし方を思い出させてくれた!俺は一人じゃない、3人でこの場に立ってるも同然だ。それが一人で戦ってるやつに負けるはずがない!」
「何を訳の分からないことをごちゃごちゃと!」
「そして!この一刀で俺は千冬姉を継ぐ!継いでみせる!」
完全にセシリアの懐に潜り込んだ!
今度は逃げられないように切り抜ける勢いで突進しつつ全力で雪片弐型で袈裟斬りにする。
「そのためにも、お前にはここで負けてもらうぜ!」
「ああん、もうっ!インターセプター!」
逃げ切れないと判断したのか、セシリアも近接武装を取り出して見せた。それを持って俺に刺突してくるが、射撃攻撃の精度と比べると格段になっていない。
翔の言った通り、インファイトは不得意のようだ。
俺は完全に勝ちを確信した!
「ぜぃあああああぁぁぁぁ!!!」
雪片弐型の刀身が割けるように開き、そこから荷電粒子?で出来たであろうビームの刀身が伸びる。
一振り目は刺突の勢いのままかわされるが、それは布石だ。避けられるとは思っていたから、あえてフェイントとしての袈裟斬りだ。
本命はこっち、避けられた後の横一閃だ!
ーーーーーーギンッ!
独特の接触音が鳴り響いて、俺の剣撃は確実にセシリアの胴体を捉えた。
シールドバリアを貫通し、操縦者の生命の安全を確保する絶対防御に届いた。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
そしてこの一撃で俺は…………!
ーーーーーー両者、シールドエネルギー0!よって引き分け!
勝つことは出来なかった…………。