予定より、あほみたいに遅れての投稿です。
非常に申し訳ない限りです。
9割方こちらの怠惰なのですが、途中から、というか残りの1割はある作品でございます。
ご存知の通り、「君の名は。」です。
なんていうか、監督に(いい意味で)ぶっちぎり裏切られた感じです。
あの映画を見てから、今までの新海作品の価値観も変わってしまいました。
この二次創作作品もこのままでいいのかと思ってしまっています。
寝ても覚めての瀧くんと三葉のことばかり考えてしまってとるもの手につかず、抱けーッ!抱けーッ!と気ぶり爺と化しています。
今回は短めの文字数での投稿です。
君の名はに引っ張られて、ノスタルジックなものから溌剌としたものに書き方が変わるかもしれません。
よろしければ、今後もお付き合いください。
なお、映画は八回見てきました。立派な三葉酸タキニウム中毒者です。
目の前の敵に集中する。
鈴が衝撃砲で牽制と本命を織り混ぜつつ相手の行動を制限し、俺が斬りかかる。その斬り損ないを鈴がカバーして斬りかかる。
ワンパターンになって読まれないように、フェイントを交えて攻撃するも、的確で寸分違わない回避運動と防御によって全て阻まれる。加えて正確なカウンターを仕掛けてくるから、こっちも回避しなくちゃならない。
そんなやりとりによって俺たち二人のイライラがどんどん積み重なっていくのを、精神がヒシヒシと軋むように感じた。
「一夏ぁ!?」
元々沸点の低い鈴が先にイライラを露にさせた。
口元が歪み、歯ぎしりでもしているのか、声が小刻みに震えて聞こえる。
「俺だって一杯一杯なんだよ!ここまでこいつが強いなんて……」
「アンタがザコなのよっ!そんなへっぴり腰で当たると思ってるわけぇ!?」
「うっせー!」
自覚はある。
俺は確かに及び腰だ。何でかってのは簡単なことだ。
今まで鈴と殺し合いのようなことをしていたんだ。そのせいで、本当に自分の剣がアイツに届いちまったとき、俺はそれを想像してしまっていた。
シールドを抜いて絶対防御に干渉するように作られた、この零落白夜が絶対防御を超えたとき。これは殆ど相手を殺すことと同義なんだという考えが、頭から離れなかった。
鈴と試合をしてたときは、興奮していたからか気に求めなかったこと。
我ながらバカとしか言えないが、今さらになってそんなことが気になって仕方がないのだ。
俺は鈴みたいに、ISを信頼することが出来ていないのだ。
「わかってるんだよ、そんなことは……」
俺と鈴は心を落ち着けるようにその場に留まって、地面からこちらを見上げてくるアイツの行動に注視した。
「…………」
「あいつはなんなのよ。ブレなく精密射撃も偏差撃ちもフェイントもこなしてこっちの不意打ちにも動揺しない。感情ってものがないのかしらね……。ロボットみたいで気持ち悪いったらありゃしない」
……ん?
なんだこの違和感は。
「鈴、今何て言った?」
「ん?気持ち悪いって言ったのよ」
「その少し前!」
「ロボットみたいって言ったのよ。それが何だって言う……」
鈴がハッとした顔をこっちに向けた。
俺の考えていたことが伝わったみたいだ。
「そ、そんなバカなことってあるわけないじゃない!」
俺もそう思っている。
ISの原則として、人間が装着することで初めて動くように作られている。だから、機械で無人なんていうことはありえないのだ。
そう、ありえないはずなんだが。
目の前のこいつを見ていると、その考えが揺らぐ。
機械的な精確な行動に、疲労や動揺のない様子。
IS自体の異様な容貌も相まって、俺の考えが固定化した。
「……機械なら、ぶっ壊しちまってもいいだろ?遠慮も要らなくなるってもんだ!」
「確かにそうだけど、でもやっぱりそんなことって……」
「それじゃあ!2回戦といこうぜ!」
「わ、わかったわよ!こうなら自棄よ!どうなっても知らないんだからね!?」
ISを機械で動かす。
俺の中でふと考えてしまうと、これが可能な人間の姿が浮かんで消えた。
今そんなことを考えても仕方がないから。
後でゆっくり考えればいい。
目の前のことに集中しなくちゃならないんだ。
コイツは人間じゃない、無人機なんだと自分に言い聞かせて、心を切り替えて対峙した。
◇
「まだ準備が出来ないんですの!?」
「そんなに焦られても……」
「焦らずにいられる状況になくってよ!?」
オルコットさんが私を急かす。
私と翔くんはアリーナの観客席とを隔てる障壁の薄い場所を探していた。
今はバリアシールドに加えてシャッターまで降りているから、ちょっとやそっとじゃビクともしない。
だから、少しでも薄いところを探す。
「ダメだ……」
ISの計算用コンソールを動かしていた翔くんが手を止めて呟いた。
「火力がどうしても足りない。シャッターの脆い部分はバリアシールドのエネルギー量も多くして補っているし、衝撃を受けた場所は一瞬にしてエネルギー量を最大にして防御力を高めてる……」
「流石IS同士の戦闘を内部でさせるだけあって、恐ろしく堅牢なんだね。どうしよう……」
「逆にこれだけのシールドを破って入ったあのIS、相当危険だと認識を今一度する必要がありますわ。それにシールドの復元能力やエネルギー集約よりも速く、一撃で破る以外に何かを早く思い付かなければなりません」
どうすればいいか、頭を必死になって回転させる。
どうやってこのシールドを破るのか……。
バジュンッ!と、何かを溶かすような、高く響く音と蒸発するような音が入り交じった、耳障りな金属音が響く。
ハッとなって顔を上げれば、私たちのところに丁度、あのISの流れ弾が当たったのだった。
思わず私はヒッ!と声を上擦ったが、ある発見をした。
衝撃が加えられたことでシールドのエネルギーが発行して、厚みのようなものを見ることが出来たのだと思う。
当たった瞬間は分からなかったけど、そのあとエネルギーが当たった場所に流れていくのが見えたし、その僅か一瞬だけ周りの光が薄くなった。
必要な場所にエネルギーを回すために、周辺のエネルギーが一瞬だけ少なくなるってこと、なのかな?
「あっ」
翔くんとオルコットさんがその後を忌々しげに見ているなか、自然と私は声を漏らした。
ーーーーーーーーーいい考えがあるよ。
と。
◇
明菜が提示した案は、ごく単純だった。
秋桜が持つ吸着地雷を円形に貼り付け、一斉に爆破させる。エネルギーは円を描くように集約し、その円の中心はその分薄くなる。その薄くなったところに、オルコットさんのスターライトMkⅡと僕のビームガンで一気に穴を開けて突入する。
あの流れ弾からほんの僅かな時間でここまで考えつくのだから、やっぱり明菜は頭の回転が速いのだろう。
「二人とも、準備はいいね?」
「大丈夫でしてよ」
「うん。いつでも」
明菜の呼びかけに応えると、明菜は遠く、爆風の届かないであろう場所まで退避した。そこで手を振り上げ、ISの通信機能で合図をする。
—―――――3、——————2、——————1。
轟音とともに吸着地雷は炸裂し、円形に爆風と爆煙を巻き上げる。
そして、その円の中心のエネルギーが限りなく薄くなるのを目視した。
今!
先にオルコットさんからの光線弾が当たり、さらに薄くなったシールドを僕のビームガンが貫いて大穴を開けた。
僕とオルコットさんはエネルギーが回復して閉じてしまう前に、競技場の中に飛び込んだ。
「織斑!鳳さん!」
『遅かったじゃねぇか二人とも!』
『行きますわよ翔さん!一夏さんたちは下がって休息を!』
二人が引くのを確認して、オルコットさんが牽制射撃を始めた。そして僕もナノマシンを起動させ、身体の活動限界領域を向上させた。
ここまで来たんだ。嫌だ嫌だと逃げ出すことは出来ない。
「オルコットさん、連携をあんまり考えないでBTをフル活用して。僕は大丈夫だから」
『……その言葉、信用に足りますわ』
一瞬戸惑ったけれども、不敵な笑みを浮かべたオルコットさんはBTを全て射出してオールレンジ攻撃を敢行した。
僕は開き直ったというか、居直ったとも言うべきか。相手の攻撃もオルコットさんの攻撃も全て避ける選択をした。当たらなければどうということは無いし、フレンドリーファイアにもならない。
オルコットさんの猛攻が始まった。
全方向から人間的思考の不規則に飛んでくる攻撃に打って変わって多く被弾し始める黒いIS。どこか戸惑っているようにさえ見えるその姿は痛まし気だけど、今回は思わず笑みがこぼれそうになる。
僕は強引にオルコットさんの攻撃を躱しながら肉薄し、ビームガンを袖口から射出し、荷電粒子の刃を形成する。
そしてすれ違い様に袈裟切りにする。
「!?」
このIS……!
オルコットさんの攻撃を回避することを諦めたのか、違う。僕の斬撃回避を優先して避けたのか!
けれども、その回避の仕方は余りに異様だとしか言えなかった。その事実に僕は顔を歪める。
肩肘があるであろう関節部分がぐるっと一回転した。それはあまりに強引な回避方法で、普通の人間には出来ない関節の動きを平然としたのだ。
こいつは、人間じゃない!
ナノマシンで増幅された反射神経でそれを見て取った僕は、強引に体を捻じ曲げて何とか手首にビームソードを当てることが出来た。
高圧の荷電粒子の刃はそのまま、熱した包丁でバターに刃を入れるように左手首を切り落とした。
バジジッっと切り口から漏電した電気がスパークする。こいつはそれをさも他人事の様に一瞥すらせずにいる。
幸いだったのが、左手首近くにあったこいつのエネルギー弾を出す銃口を潰すことが出来たことだ。
これで攻撃の手は緩くなるはずだ。
僕は一気に勝負を決めにかかる。
この黒いISにタックルするように掴みかかり、アリーナの高さの限界まで上昇する。この時残っている右腕の銃口も制してこちらを撃て無いようにした。
そのまま頭を下にして一気に瞬間加速をする。初速マッハ5の瞬間加速だ。
ほんの一瞬の出来事だ。全力で回転を加えながら頭からこいつを地面に叩き付ける……!
地面に激突するほんの僅か一瞬で、下に投げつけながら自分は真横に離脱する。
強烈なGに襲われるとともに、轟音とともに地面は抉られた。
「な、なにをしてんだよ翔!」
「確実にこいつを潰すには強引な戦い方の方が確実だし、全身装甲に加えて絶対防御があればこれでは死なない」
「そうかもしれねぇけど、お前まで巻き込まれてたらどうするんだよ」
「今の僕はいたって冷静そのものだよ。出来る、可能、効率的。全部合理的だったんだ」
「そ、そうかもしれないけど…」
一夏が僕に色々と言葉を投げるが、そこに意味は無かった。
僕の身を案じているのだろうが、投薬とナノマシンの活用をしている僕にとってはいらないことだ。
いや違う、一夏は僕のこのやり方が気に食わなかったのかもしれない。
確かに常識を逸脱した戦い方で、一歩間違えれば僕が死ぬ、相手を殺す。そういう、色々な意味で危険な戦い方だ。
数分前の僕は戦い云々に僕には無理だと拒絶の姿勢を見せた。だって誰だってそうだ。命のやり取りを進んでやる人間なんて、中世の武人かキチガイくらいしかいない。死の感覚に触れること、近づくことがどれだけ自分の神経を摩耗させるかなんてことは、一度の事故と一度のテロでイヤというほど理解できた。僕は神経の摩耗を快楽として受け止められるような
バチバチと漏電する音が轟音の次に、砂煙の中から聞こえて来た。
四肢のばらけた黒いISに人間のいる面影はなく、無人機であることが判明した。
「……これが人だったら、確実に死んでいたな」
「そうだね、死んでいただろうね。生きていたとしても、きっと二度と自分の足で立つことは出来ないし、何かを持つことも……」
「テメェ!」
一夏が僕に掴みかかって来た。
襲い掛かって来たのは一夏だけじゃない。僕の心自身も襲い掛かって来た。
怒気を孕んだ一夏の目と、冷徹な言葉を言い放ちすまして見せる自分を責める僕の良心と呼ぶべきもの。
今まで出ていた自分の冷徹な心は引き込んで、そこに残ったのはいつも通りの臆病な僕だった。
ああ、なんてことを言ってしまったんだ。
顔の血の気が引いていくのを感じた。きっと真っ青な顔を見せているに違いない。なんて情けなくて無様なんだ。惨めなんだ。
「そうだ、僕は人を殺し掛けたんだ。結果的に人じゃなかっただけで、僕は人を……」
殺しているのと、変わらないじゃないか。
もう擦り切れ切らしたと思っていた僕の心にも、いまだに擦り切れる余地はあったみたいだ。
吐き気がこみ上げてくる。
感情の起伏が不安定になる、自分の中の灰色の感情をコントロールできなくなっている。心臓が心臓を突き刺すような激しく不規則な動悸が呼吸を妨げる。
あっ、あっ……。
バチンと電撃が走ったような感覚に遭ったのちに、僕は意識を手放した。