イチャラブ書きたい……。
感想、評価、ご意見などどしどしお寄せ下さい。
散歩をして私は少し冷静になれた。
別にどれが自分に合ってるとか、そんなことは今決めることじゃなくて、自分が使っていていいなと思うものを使えばいいんだ。
データパックも一緒に送られてくるはずだから、ローテーションしながら使って見てもいいと思う。
寮周辺のビオトープをぐるっと巡り、三十分ほど歩いてこの結論に行き着いた。
ケータイを開けてメールを打った。
『特にどれとかはまだ決められません。取り敢えずAから順番に使って見て、自分にどれが合ってるかを判断します。ですからAを換装して他プランデータも一緒に送ってください』
『分かりました。明日の放課後にはそちらへ運び込めるように手配します』
「わっ、返信速い」
三島さんに宛てたメールはほんの数十秒で返信が帰って来た。ずっと待機してたのかな……?
この返信が本当なら、明日の放課後は練習が出来る。それが待ち遠しい。
誰か練習に付き合ってくれる相手を探さないと、と考えながら軽い足取りで部屋に帰った。
そうして鼻唄混じりに私が部屋に帰ってくると、鍵が空いていた。
「あ、あれ?おかしいなぁ~?」
鍵は今私の手の中にあるし、ルームメイトはいない。
寮母さんから部屋の点検か何かがあれば、一報連絡があって返信を送らなければこういうことにはならない。
そういうものは一切無い。
ならば強盗………。って考えてみても、IS学園のセキュリティからしてそんなことはあり得ない。
じゃあなんだろう?
気になるけど危険なことは無いだろうから、何の警戒もなく扉を開ける。
「あっ!」
開けた先には見たことのある人がいた。
昔と変わらない背とツインテールで、キリッと釣り上がった目が猫を思わせる。
「鈴ちゃんっ!」
「久しぶりね、明菜……」
私の親友がそこにいた。
私は衝動的に鈴ちゃんに抱き着いてしまった。
「会いたかったよ鈴ちゃん!来るなら来るって連絡してくれればよかったのに!」
「したわよ。何回も」
私よりも拳一つ分くらい背が低い友人の顔はこうやって抱き着いてるから見えないけど、今何を考えてどんな顔をしているかは手に取るように分かった。
鈴ちゃんは織斑君のこと以外、みんな直情的で分かり易いから。
私の顔から血の気がサーッと引くのが良く分かった。
今、鈴ちゃんの顔を見たくない……。
「えっと……、怒ってる……?」
「なんでそう思うの?思い当たる節でも?」
きっと阿修羅みたいな顔をしてるであろう親友は、抱き着いた私の背中に手を回してガッチリと極めた。
「あんたに何っ回連絡入れたと思ってるのよ!このお惚け純情バカ娘が!」
「痛だだだだだだだ!!痛い痛い!軋んでる!背骨とあばらぁあだだだだ!!」
「鼻唄混じりに帰って来て何なの!?どれだけこっちが心配したと思ってるのよこのぉ!」
散々鈴ちゃんに締め上げられた末に私は解放された。
あちこちの関節が今もなお悲鳴を上げている。
「鈴ちゃん酷い……」
「メール来てるの無視したり返信忘れるあんたが悪い。三週間も音沙汰なしとか信じらんない!」
「それは本当にごめんねって謝ったじゃん」
「はいはいそーでしたねー」
すごい見下してくるこの視線……。
私に一方的に非があるから何も言い返せない。
ベッドでこういったやり取りをしているとふと解せないことが思いついた。
「鈴ちゃんこっちに来るって聞いてたけど、いつ来るとか私のルームメイトになるとか全く聞いてないんだけど」
「あーそれね。あんたがアメリカに行ってる間に全部決まって連絡も回されたのよ。明菜に回ってないの、あたしも今知ったわよ」
「えー、何それ……」
一個理解できたけどまた解せないことが。IS学園ってそんなに連絡伝達緩いの……?
「そんなことこの際どーだっていいのよ。あんた、上手くいってないんでしょ」
「な、何のこと?」
「何のことじゃないわよ。わかってるわよ。あんなに嬉しそうに電話してたあんたが、全く連絡つかなくなるなんて、そうとしか考えられないもの」
虚を突かれた。
意識の外へ外へと追いやった事実をこうして面とぶつけて来るのは、きっと私の周りにはこの親友しかいない。
知りたいことは知りたい、物事ははっきりと言う。例外を一つ置いておくと、ここまで真っ直ぐな言葉を言える鈴ちゃんに会えばきっとこうなるだろうとは分かっていた。だから私は鈴ちゃんだけにはこのことについて言いたくなかった。
でもこうして会ってしまうと、嫌でも心の底を見抜かれるような気がしてしまう。実際にそうなんだろう。
「話して御覧なさい」
「嫌」
「話しなさい。私が何とかしてあげるわ」
「織斑くんのことも何にもできてない鈴ちゃんに、どうにかできることじゃないもん」
「……へぇ、言うじゃない」
「嫌なの」
ここは譲れなかった。
翔くんは私との繋がりを無かったことにしようとしている。私はそれを認めたくはなかった。でも、どうしてそうしたいのかを理解してしまったし、同じ立場なら私もきっと繋がりを絶とうとする。
一番傷ついて欲しくない人だから。巻き込んでしまいたくない人だから。
だから、私は翔くんに追いつくまでこのことを隠しておきたい。翔くんに不安な思いをして欲しくないから。
鈴りゃんはきっと睨み付ける様な表情を解いて、無機質な表情を見せた。
「……ハワイ東北東沖ハリケーンの中でのIS事故、あれは事故なんかじゃない」
「!?」
何で、それを知ってるの?
「原因不明の爆発で、二人の搭乗者に負傷を負わせた事故。一人は大火傷、一人は意識不明。そこまでなら謎の事故で終わりだわ。でもそれで終わってないのよ」
「えっ?それってどういう……」
「中国じゃ事件があったとしか報道されてないわ。それも新聞の端っこに本当に小さく」
鈴ちゃんが一体何を言いたいのか私には全く理解できなかった。
「あんた全くニュースを見てないのね。日本じゃもう事故についての報道はないわ。今は日本の外務大臣秘書が企業に口利きしたことが発覚して、そのニュースで持ち切りよ」
「意味、分かんない」
「アメリカじゃ野党上院議員が麻薬ブローカーであることが発覚。イギリスやフランスじゃ議員の汚職事件。ドイツとロシアじゃデモ隊と警察が衝突してそれどころじゃない。中国でも国家主席の側近が脱税して粛清されたから報道されても小さいのよ。この意味分かるでしょ?」
「…………」
世界中であの事故から目を反らさせるようなことが起きている……?
「あの時あの場所で起きたことを話しなさい。ここまで来てただの事故でしたっていうのは虚しい嘘でしかないのよ」
「…………」
私は、素直に話すしかなかった。
「ISを使ったテロ、ね」
「うん……」
「それで、その左腕の包帯は火傷跡を隠すために巻いてるのね」
「うん、そうだよ」
「色々辛かったのね」
「うん……」
鈴ちゃんが私の肩を抱きながら声をかけた。
私はこの三週間半に私の周りで起きたことを全て話した。
翔くんが私のことを拒絶したこと。専用のISを手に入れたこと。ISを使ったテロに遭ったこと。そして翔くんが考えているであろうことを。
話していて辛かった。涙が少し浮かん来そうになったし、この左腕にあの時の痛みが蘇ったような錯覚にも陥りかけた。
でも、鈴ちゃんが寄り添っていてくれるお陰で幾分楽だった。
「何よ。その渡良瀬翔ってやつ、いい奴じゃない。ただ振ったって言うんだったらぶん殴ってやるつもりだったのに」
「え、だめだよ!そんなことしたら許さないよ!?」
「だから殴らないって言ってるでしょ!そいつなりにあんたに危ないことがないようにしてるのね」
「ふふん。だって翔くん優しいもん」
「すっごいムカつく笑顔ね……」
翔くんが褒められて、認められて嬉しくない訳ないよ。
きっと鈴ちゃんだって織斑くんが褒められてたりしたら嬉しいはずだ。
「好きな人が他の人にも認められるのって嬉しいと思わない?織斑くんだってほら、確か同じクラスのイギリス代表候補生の人に引き分けたんだって。しかも剣一本で」
「ふん!どうせまぐれかその候補生が雑魚なだけよ。だってあのバカのことだもの」
鈴ちゃんは織斑くんのことになると、持ち前の直情さがへそを曲げて素直じゃなくなってしまう。恥ずかしいというかそういう気持ちが強いのか、織斑くんにだけ特別に素直じゃなくなる。私はそれがとても不思議だけど、きっとそれだけ鈴ちゃんの中で織斑くんは特別なんだろう。
「…………!?あ、ああああのバカのことは今はいいの!あんたはそれで諦めるの?どうするの?」
鈴ちゃんは段々顔を赤くしていくと必死になって話題を反らすように叫んだ。
私の返答は決まっている。
「諦めるわけ、ないでしょ。だって私、翔くんのこと大好きだもん。こんなことで諦められるほど私のこの気持ちは弱くない!」
腰をかけていたベッドから立ち上がってそう宣言した。
そうだ。絶対に翔くんに追いついて見せるんだ。そのために強くなるんだ!
「よく言ったわ!あたしはこれからも明菜のことを応援するわ。一緒に頑張っていきましょ!」
「うん!織斑くんは別の意味で大変だもんね!」
「そういう余計なことはいいのよ!」
「わぷっ!?」
同調する鈴ちゃんに声をかけて上げると、声の代わりに枕が顔に帰って来た。
◇
朝、いつものように起床して洗面台に向かうと、呼び鈴が鳴った。
取り付けられた手すりに体重を預けながらのたのたと玄関へ向かう。
玄関を開けると織斑が立っていた。
「おはよう翔」
「おはよう織斑。こんな朝に何か用かい?」
「寝起きですぐだよな、悪いな」
「いいよ構わない」
僕の頭の見てそう思ったのだろう。若白髪と黒髪が混ざって灰色に見える僕の髪はまさしく爆発している。
「いやさ、そうやって不自由な体だと助けが欲しい時って多いだろ?だから手伝えないかと思ってさ」
「なるほど、それは助かるよ。男は二人しかいないからな」
何でもかんでもこの体でこなすには正直辛いところがあった。だから織斑からの申し出を快諾した。
そうして織斑を部屋に上げた。
「お邪魔しますっと。来て早々だけど、何かして欲しいことってあるか?」
「そうだなぁ……。じゃあ、朝食を作って欲しいかな。冷蔵庫のものはなんでも使っていいよ」
「了解したぜ」
織斑はそのまま真っ直ぐ進んだところにあるキッチンに向かい、僕は洗面台に戻る。
お湯を張った洗面桶に頭を突っ込んで寝癖を直していると、キッチンから叫び声が聞こえた。
「おい翔!この冷蔵庫、ハムと栄養ドリンクと携帯食しか入ってないじゃないか!いつも何食ってるんだ!?」
あ。アメリカへ行くのに在庫を使い切って余ったのしかなかったか
と言っても、僕が作る朝食なんて目玉焼きとシリアル、焼いたハムだけだったな。
頭を吹いてドライヤーで軽く乾かしながらキッチンに向かう。
「アメリカ行くから空にしてたの忘れてたよ。そもそも僕朝食そこにシリアルと目玉焼きが加わるだけだったよ」
「よくこの朝食で体が持つな……。不健康だぞ。もっとちゃんとしたもの食わなきゃ」
「だって料理できないしさ。シリアル好きなんだよね。……楽で」
「最後に何かぼそっと言ったよな?」
そんな漫才じみたことをしながら、たどたどしい動きで制服に着替えて車椅子に腰を掛け息を吐く。
朝起きて洗面台に向かって着替える。たったこれしきりの行動で僕の膝は半笑いしている。全く自分が情けない。
「まあ今日はいいよ。着替えも終わったし、食堂で朝食にしよう」
「なんか納得いかねー」
「じゃあ食堂まで頼むよ働き屋さん」
「おっしゃ」
疲れてしまった僕の代わりに織斑が車椅子を動かして食堂まで運んでくれた。
食堂では好奇な目に当てられながらシリアルを口に運ぶ。
トレーの端にはキャベツとリンゴのヨーグルトサラダが乗っていた。織斑が勝手に乗せたのだ。
別にこのサラダが嫌いとかこういう行動が嫌いとか、そういうんじゃないけれど、行動が一々女の子よりも女らしい。
本人はこれを自覚してるんだろうか?
「織斑ってなんか、母さんみたいなことするな」
「サラダのことか?バランスのいい食事した方が体の治りも速いだろうと思ってさ。男ならつべこべ言わないで平らげろよな」
「そういう意味じゃないんだけどさ」
ふと織斑の皿に目を向けると、そこには信じられないほどの量の米とおかずがあった。僕だったら確実に胃もたれしている量だ。
「よく食べられるね、そんな量」
「いや、男子だったら普通じゃないか?むしろ翔の方は絶対足りないだろ」
「朝は弱くてね。昼は倍くらい食べるかも」
「そうか?」
「そんな心配そうな顔をしないでくれよ」
僕がトレーのものを全て食べ終わった頃に、同じくして織斑も食べ終わった。
早食いの方が体に毒なんじゃないのか?
そんなことはどうでもいいことだな。
トレーなどを返却場所に戻して教室へ向かう。途中、オルコットさんと篠ノ之さんが合流してきた。二人とも部活の朝練に出ていたらしい。
朝に会って早々、オルコットさんと篠ノ之さんで織斑を取り合い修羅場と化す。
背後でこういうことを行われるのは、正直な話居心地が悪いというレベルではない……。
織斑は相変わらず僕の車椅子を押しながら、つまり僕はこの空間に入り込めないままクラスの前までやって来た。
するとそこには明菜とツインテールの女の子がいた。
明菜は僕に向けてどこか困ったように笑いかけた。
「久しぶりね、一夏」
「おお!鈴か久しぶりだな!何時こっちに来たんだ?おばさんは元気か?」
「あーもう一度に色々聞かないでよこのおバカ!」
「いやー、懐かしくってさ。それに鈴と明菜はいつも一緒にいたしなぁ。これに弾と数馬が加わればいつものメンバーだな!」
明奈が小学校の頃、織斑と一緒にいじめから助けてくれた女の子っていうのはこの子のことなのか。
名前と会話からきっとそうなんだと思うし、人見知りな明奈が自然体で一緒にいるのが物珍しく見えた。
僕が知っているのは、いつもの僕の隣にいて、色んなところに引っ張って行ってくれた明菜だから。
そんな明菜の隣にいられる彼女に嫉妬してしまった。
「一夏!この二人は誰なんだ!?幼馴染は私じゃないのか!?」
「どなたですの!?このお二方は!納得のいく説明を求めますのよ!」
「どうどう落ち着け二人とも。や、本当に落ち着いてくれ。鈴は箒が引っ越して入れ違いで越してきて、明菜はその一年後に越してきたんだ。鈴とは中一まで、明菜とは今までの付き合いだ」
「付き合いだとぉ!?どういうことだ!」
「こここここんなこと落ち着いていられません!」
そうか、織斑とはそのくらい長い付き合いなのか、明菜は。織斑が羨ましい。
何の気もなく明菜と一緒にいられたのだろう。楽しい学校生活を送っていたのだろう。
そしてこうやって幼馴染と普通に再開している。聞けば篠ノ之さんも織斑とは幼馴染だって言うじゃないか。
なんで織斑は普通に再会できているんだ?
瞬間、僕の中に暗い影が差した。
なんだろう、この感覚……。
いや違う。今のではっきりと理解していた。僕が今まで織斑に感じていたチクチクとした感覚その答えだ。
織斑に対する嫉妬だ。
この上なく下劣な考えを僕はしてしまった。
なんで織斑は旧知の仲の人と易々と再開して、昔の通りに過ごせているんだ?僕はこんなに苦しい思いをしてるというのに。
僕は二回もテロにあった。そのうち一度は、絶対に巻き込みたくない人を巻き込んで、一生ものの怪我を負わせてしまった。
織斑はどうだ?そんなこと全くないじゃないか!
どうしてこんなに差が出るんだ!等しくないんだ!
いっそのこと、織斑も――――――。
「おいどうした翔?具合でも悪いのか?」
「あ、いや。なんでもない……」
しまった。
周りへの意識が疎かになってしまった。
ブルブルと頭を振って醜い心を追いやる。一呼吸して自分の感情を何とか押さえ込む。
大丈夫だ。僕は大丈夫。
そうやって俯いていると、鈴と呼ばれた女の子が僕の前に立った。
「あんたが渡良瀬翔ね。あたしは凰鈴音よ」
「合ってるよファンさん。これからよろしくね」
「ええ。よろしく!」
そういうとファンさんは手を差し出して握手を求めた。
僕もその握手に応じて手を取る。
「事故、大変だったわね。あんたもそんなになっちゃってさ。でも、あたしの親友を助けてくれてありがとね」
「咄嗟に体が動いたんだ。例を言われることじゃないよ」
「そう。それでも感謝の言葉を言いたかったの」
「いや、こちらこそありがとうね」
「問題はこっから先よ」
えっ――――――。
僕は繋いだ手を引かれ、車椅子から無理矢理立たされた。
パシンと乾いた音が廊下に響いた